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19.王妃の噂
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コーネリアスは二人の姿を目に留めると、少し驚いたような顔をした。そのまま二人のところに向かってこようとしたが、不意に足を止める。
彼の目は二人ではなく、別の方向を見ていた。その視線を追うと、侍従の一人が慌てて駆け寄ってくるところだった。
「陛下……」
侍従はコーネリアスに何かを耳打ちする。それを聞いた彼は頷くと、再び二人の方に視線を向けた。そして、口を開く。
「アイザック、少し話がある。ついてきなさい」
「はい、父上」
アイザックは緊張した面持ちで頷くと、ロゼッタに視線を向ける。
それを眺め、コーネリアスは少し表情を緩めると、ロゼッタにも声をかけた。
「ロゼッタ、先に部屋に戻っていなさい」
「はい、おとうさま」
コーネリアスに返事をしてから、ロゼッタはアイザックを見上げる。
すると彼は安心させるように微笑んでくれた。そして、コーネリアスの後に続いて歩き出す。
ロゼッタは黙ったまま、二人の背中を見送った。
「さあ、ロゼッタさま、お部屋に戻りましょう」
侍女が優しく促してくれる。ロゼッタは頷くと、彼女と一緒に歩き出す。
部屋に戻る途中、侍女がロゼッタに話しかけてきた。
「先ほどは、王太子殿下とお話しされていたのですか?」
「ええ」
ロゼッタが頷くと、侍女は微笑んだ。
「そうでしたか。お二人とも楽しい時間をお過ごしになられたようですね。王太子殿下は母君がとても厳しくて、お寂しい思いをしていらしたようですから」
「そうなのね」
ロゼッタの相槌を聞いて、侍女はさらに言葉を続ける。
「母君である王妃殿下はご自身の立場を安定させるために、王太子殿下を厳しく育てたと聞きます。王妃殿下はご自身のお立場を守ることが何よりも大事で、そのためなら手段を選ばない方だとお聞きしております」
「厳しい方なのね……」
ロゼッタは呟きながら、ブリジットの境遇ならばそれも当然のことだろうと納得する。
嫁いできた他国の王女として、王宮での立場を確固たるものにするために、彼女は精一杯努力したのだろう。
まして、同じく他国から嫁いできて処刑されてしまったニーナを見ているのだ。その二の舞にならないように気を張り続けるのも無理はない。
ただ、侍女の言い方に引っかかるものを感じる。
それが何かを考える前に、彼女が言葉を続けてきた。
「ええ、王妃殿下は厳しい方です。だからこそ、ロゼッタさまは姫でよろしゅうございました。もし王子でしたら、生き残れたかどうか」
侍女は真顔で恐ろしいことを言いながら、ロゼッタに視線を向ける。
思わずロゼッタは顔をひきつらせた。
引っかかりなど一瞬で吹き飛んでしまうほどの衝撃的な内容だ。
「……冗談でしょう?」
「いいえ、本当のことでございますよ」
侍女はきっぱり断言すると、首を横に振った。それから少し考えてから言葉を続ける。
「……どうか王妃殿下にはお気をつけてください。いくら姫とはいえ、場合によっては邪魔者になりかねないロゼッタさまを排除なさろうとするかもしれません」
侍女の言葉に、ロゼッタは息をのんだ。背筋が寒くなる。
「まさか、そんな……」
「万が一ということもあるやもしれませんので」
そう言って、侍女は頭を下げる。ちょうど部屋の前にたどり着いたところだった。
「では、私はこれで失礼いたします」
侍女は言い終えると、そそくさと歩いていく。そんな彼女の背中を見つめながら、ロゼッタは不安な気持ちに駆られた。
気をつけろと言われたところで、ロゼッタに何ができるだろう。
せいぜい気に障らないように小さくなって、おとなしくしているのが関の山だ。
しかし、前世ではそれでも周囲から疎まれていた。だから、ロゼッタにはどうすることもできないかもしれない。
考えれば考えるほど、悪い想像が膨らんでいくような気がした。
ロゼッタは気持ちを落ち着かせようと、深呼吸をする。
「大丈夫、大丈夫よ」
小さく自分に言い聞かせると、ロゼッタは部屋の中へと入っていった。
彼の目は二人ではなく、別の方向を見ていた。その視線を追うと、侍従の一人が慌てて駆け寄ってくるところだった。
「陛下……」
侍従はコーネリアスに何かを耳打ちする。それを聞いた彼は頷くと、再び二人の方に視線を向けた。そして、口を開く。
「アイザック、少し話がある。ついてきなさい」
「はい、父上」
アイザックは緊張した面持ちで頷くと、ロゼッタに視線を向ける。
それを眺め、コーネリアスは少し表情を緩めると、ロゼッタにも声をかけた。
「ロゼッタ、先に部屋に戻っていなさい」
「はい、おとうさま」
コーネリアスに返事をしてから、ロゼッタはアイザックを見上げる。
すると彼は安心させるように微笑んでくれた。そして、コーネリアスの後に続いて歩き出す。
ロゼッタは黙ったまま、二人の背中を見送った。
「さあ、ロゼッタさま、お部屋に戻りましょう」
侍女が優しく促してくれる。ロゼッタは頷くと、彼女と一緒に歩き出す。
部屋に戻る途中、侍女がロゼッタに話しかけてきた。
「先ほどは、王太子殿下とお話しされていたのですか?」
「ええ」
ロゼッタが頷くと、侍女は微笑んだ。
「そうでしたか。お二人とも楽しい時間をお過ごしになられたようですね。王太子殿下は母君がとても厳しくて、お寂しい思いをしていらしたようですから」
「そうなのね」
ロゼッタの相槌を聞いて、侍女はさらに言葉を続ける。
「母君である王妃殿下はご自身の立場を安定させるために、王太子殿下を厳しく育てたと聞きます。王妃殿下はご自身のお立場を守ることが何よりも大事で、そのためなら手段を選ばない方だとお聞きしております」
「厳しい方なのね……」
ロゼッタは呟きながら、ブリジットの境遇ならばそれも当然のことだろうと納得する。
嫁いできた他国の王女として、王宮での立場を確固たるものにするために、彼女は精一杯努力したのだろう。
まして、同じく他国から嫁いできて処刑されてしまったニーナを見ているのだ。その二の舞にならないように気を張り続けるのも無理はない。
ただ、侍女の言い方に引っかかるものを感じる。
それが何かを考える前に、彼女が言葉を続けてきた。
「ええ、王妃殿下は厳しい方です。だからこそ、ロゼッタさまは姫でよろしゅうございました。もし王子でしたら、生き残れたかどうか」
侍女は真顔で恐ろしいことを言いながら、ロゼッタに視線を向ける。
思わずロゼッタは顔をひきつらせた。
引っかかりなど一瞬で吹き飛んでしまうほどの衝撃的な内容だ。
「……冗談でしょう?」
「いいえ、本当のことでございますよ」
侍女はきっぱり断言すると、首を横に振った。それから少し考えてから言葉を続ける。
「……どうか王妃殿下にはお気をつけてください。いくら姫とはいえ、場合によっては邪魔者になりかねないロゼッタさまを排除なさろうとするかもしれません」
侍女の言葉に、ロゼッタは息をのんだ。背筋が寒くなる。
「まさか、そんな……」
「万が一ということもあるやもしれませんので」
そう言って、侍女は頭を下げる。ちょうど部屋の前にたどり着いたところだった。
「では、私はこれで失礼いたします」
侍女は言い終えると、そそくさと歩いていく。そんな彼女の背中を見つめながら、ロゼッタは不安な気持ちに駆られた。
気をつけろと言われたところで、ロゼッタに何ができるだろう。
せいぜい気に障らないように小さくなって、おとなしくしているのが関の山だ。
しかし、前世ではそれでも周囲から疎まれていた。だから、ロゼッタにはどうすることもできないかもしれない。
考えれば考えるほど、悪い想像が膨らんでいくような気がした。
ロゼッタは気持ちを落ち着かせようと、深呼吸をする。
「大丈夫、大丈夫よ」
小さく自分に言い聞かせると、ロゼッタは部屋の中へと入っていった。
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