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02.目覚め

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 ぼんやりとした意識が、だんだんとはっきりしてくる。
 とても生々しい夢をみていたようだ。
 首筋に当たる刃の感触も思い出せるほどに、現実味があった。

「ん……」

 ゆっくりと目を開ける。
 視界に入ってきたのは、暗い天井だった。
 まだ夜なのだろうか。部屋の中はとても暗い。

「ここ、は……」

 どこだろうか。どうしてこんなところで寝ているのだろうか。
 記憶をたどろうとすると、頭の中が軋むように痛んだ。
 無理に思い出そうとしても、ますます痛みに拍車がかかるだけで、頭を働かせることすらできない。

「いたい……」

 思わず、右手で額を押さえる。
 その途端、違和感に襲われた。

「え……なに、これ……」

 自身の手が目に飛び込んできた。そのことに違和感を抱いたのだ。
 いつも目にしていた、自分の手ではない。もっと小さな、子どものような手だ。

「なに、これ……」

 もう一度、呟きが漏れる。
 そして、気がついた。

「わたし、こえ、が……」

 発した声は高く、まるで幼い子どもの声だった。
 慌てて体を起こそうとして、そのまま毛布の上に倒れこんでしまう。小さい体には力などなく、起き上がろうとしてもなかなかうまくいかない。

「いったい、なにが……」

 自分の身に何が起きたのか、まったくわからない。記憶が混乱しているというよりは、脳が考えることを拒絶しているようだった。
 しかも、全身が痛くてたまらない。
 体が痛いことも、その原因も、何もわからないのだ。

「いったい、どうして……」

 わけがわからず、混乱している頭を振っていると、ふいに部屋の扉が開いた。

「まあ、ロゼッタ。目が覚めたのね!」

 部屋に入ってきたのは、亜麻色の髪をした女性だった。
 ロゼッタ、と確かに呼ばれた。そうだ、それが自分の名前だ。
 ならば、ニーナとしての記憶は何なのだろうか。ニーナとロゼッタ、どちらの記憶が正しいのか。
 混乱しながらも懸命に考えようとしていると、女性が近づいて覗き込んできた。
 その途端、ロゼッタの全身に寒気が走る。

「あ、あ……」

 震えが止まらない。歯の根も合わず、かちかちと音が鳴った。
 女性に対してひどく怯える自分がいることに気づいて、戸惑う。
 何故かはわからないけれど、恐ろしくてたまらなかった。この人には逆らうな、という脳の奥からの叫び声が聞こえる。

「お父さまがお見えになったのよ。あなたも嬉しいでしょう? 嬉しいわよね、ロゼッタ」

「お、とうさ、ま……?」

 オウム返しに口にすると、女性はとても嬉しそうに笑った。

「そうよ、あなたのお父さま。ボールド王国の国王陛下よ」

 耳を疑った。ニーナとして生きた自分を処刑した国、ボールド王国の国王が父親だというのか。

「あ、あ……」

 ロゼッタが怯えていることなど気にも留めずに、女性はさらに顔を近づけてくる。

「さあ、ご挨拶なさい。あなたのお父さまよ」

 ロゼッタが愕然としていると、部屋の扉の向こうから一人の男性がやって来た。 その姿を見た途端、全身の震えがさらにひどくなるのを自覚する。

「目覚めたか、ロゼッタ」

 男性は、ロゼッタの怯える様子など気にした様子もなく、声をかけた。
 薄明りに照らされたその顔は、ニーナの婚約者だったコーネリアスそのもので、ロゼッタはさらなる混乱に陥った。
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