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06.抜け殻のような日々
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自宅に帰ると、ミレーヌの腫れた頬を見て、両親が焦りながらどうしたのかと問いかけてきた。
そこで、ミレーヌはアベルの所業を二人に話す。これまでの仕打ちや、婚約破棄を持ち出して脅してきた事も、全て語る。
「……まさか、彼がそのような奴だったとは……見る目がなかった……いや、薄々気付いていたのかもしれない……目をそらしていて、すまなかった……」
「あなたにばかり我慢を強いてごめんなさい……女性に手を上げるような殿方など、結婚したところで幸せになどなれないわ。後のことは心配しないで」
すると、両親はミレーヌの言い分を全て信じて、受け入れてくれたのだ。
どうせ言っても無駄だと諦めていたが、それは思い込みでしかなかったらしい。ミレーヌの瞳から、涙がこぼれる。
家のことなど考えずに婚約破棄を承諾してしまったが、それも両親は責めることなく、当然のことだと頷いた。
ミレーヌは学園を退学することとなった。
もともと淑女科は、結婚と共に退学していくのが当たり前だ。結婚ではなく、婚約破棄だが、もう通う必要はない。
ただ一つの心残りは、シアンともう会えなくなることだ。それも、理由を告げることもなく姿を消したので、心配させてしまうだろうかと心苦しい。
「……手紙を書けば、届くかしら」
魔術科の三年生ということはわかっているのだから、手紙を書けば届く可能性は高い。
だが、ミレーヌはなかなか手紙を書く気になれなかった。
アベルが暴力を振るって婚約破棄を言い渡したことにより、婚約そのものは無事に解消された。しかし、当然のことながら家への支援は絶たれたのだ。
家は少しずつ持ち直してきているものの、まだ心許ない。
ミレーヌは支援してくれるような、裕福な嫁入り先を探してくれるよう、両親に頼んでいた。たとえ四十歳離れた成金の後妻でもよいから、と。
趣味で薬草を育てることを許してくれるのなら、他に何も望むことはない。どうせ相手がシアンではないのなら、誰でも同じだと投げやりな気持ちもあった。
今、シアンとの繋がりを持ってしまうと、心が揺らいでしまうかもしれない。
手紙を出すのなら、全てが決まってから別れを告げる手紙にしようと、ミレーヌは決める。
そうして、抜け殻のような日々が過ぎていった。
「ラスペード公爵令息がお見えになったが……どういうことだ?」
あるとき、ラスペード公爵令息がミレーヌを訪ねてきたという。
ラスペード公爵家は王家の血を引く名家である。名前だけは知っているが、雲の上の存在だ。
問いかけてきた父と同じように、ミレーヌも戸惑う。
しかし、会わないわけにもいかない。緊張しながら、ミレーヌは応接室に向かう。
すると、そこには短い金色の髪を綺麗に整え、仕立ての良い服を纏った一人の男性が待っていた。その姿を見て、ミレーヌは言葉を失う。
そこで、ミレーヌはアベルの所業を二人に話す。これまでの仕打ちや、婚約破棄を持ち出して脅してきた事も、全て語る。
「……まさか、彼がそのような奴だったとは……見る目がなかった……いや、薄々気付いていたのかもしれない……目をそらしていて、すまなかった……」
「あなたにばかり我慢を強いてごめんなさい……女性に手を上げるような殿方など、結婚したところで幸せになどなれないわ。後のことは心配しないで」
すると、両親はミレーヌの言い分を全て信じて、受け入れてくれたのだ。
どうせ言っても無駄だと諦めていたが、それは思い込みでしかなかったらしい。ミレーヌの瞳から、涙がこぼれる。
家のことなど考えずに婚約破棄を承諾してしまったが、それも両親は責めることなく、当然のことだと頷いた。
ミレーヌは学園を退学することとなった。
もともと淑女科は、結婚と共に退学していくのが当たり前だ。結婚ではなく、婚約破棄だが、もう通う必要はない。
ただ一つの心残りは、シアンともう会えなくなることだ。それも、理由を告げることもなく姿を消したので、心配させてしまうだろうかと心苦しい。
「……手紙を書けば、届くかしら」
魔術科の三年生ということはわかっているのだから、手紙を書けば届く可能性は高い。
だが、ミレーヌはなかなか手紙を書く気になれなかった。
アベルが暴力を振るって婚約破棄を言い渡したことにより、婚約そのものは無事に解消された。しかし、当然のことながら家への支援は絶たれたのだ。
家は少しずつ持ち直してきているものの、まだ心許ない。
ミレーヌは支援してくれるような、裕福な嫁入り先を探してくれるよう、両親に頼んでいた。たとえ四十歳離れた成金の後妻でもよいから、と。
趣味で薬草を育てることを許してくれるのなら、他に何も望むことはない。どうせ相手がシアンではないのなら、誰でも同じだと投げやりな気持ちもあった。
今、シアンとの繋がりを持ってしまうと、心が揺らいでしまうかもしれない。
手紙を出すのなら、全てが決まってから別れを告げる手紙にしようと、ミレーヌは決める。
そうして、抜け殻のような日々が過ぎていった。
「ラスペード公爵令息がお見えになったが……どういうことだ?」
あるとき、ラスペード公爵令息がミレーヌを訪ねてきたという。
ラスペード公爵家は王家の血を引く名家である。名前だけは知っているが、雲の上の存在だ。
問いかけてきた父と同じように、ミレーヌも戸惑う。
しかし、会わないわけにもいかない。緊張しながら、ミレーヌは応接室に向かう。
すると、そこには短い金色の髪を綺麗に整え、仕立ての良い服を纏った一人の男性が待っていた。その姿を見て、ミレーヌは言葉を失う。
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