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04.希望という幻
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それから、ミレーヌは放課後に魔術科近くの花壇を訪れるようになった。
束縛してくるアベルは幸いにして、浮気相手に夢中になっている。
放課後にアベルを待って浮気相手との仲睦まじい様子を見せ付けられた後、花壇に向かうのが日課となっていた。
「ポーションといえば液体ですよね。でも、薬草から効果を引き出すのなら、液体にこだわらなくてもよいのではないかと」
「そうですね、軟膏のようなもののほうが安定させられるかもしれません」
二人が目指すのは、薬草から新たな薬を作り出すことだ。
そのために意見を出し合い、試行錯誤を繰り返していく。その過程で、基礎的な魔術をシアンから教わることもできた。
ミレーヌにとっては、かけがえのない楽しい時間となった。
「……失敗してしまいましたわ……ごめんなさい……」
「謝る必要などありませんよ。失敗を重ねて、上達していくものです。今の失敗が成功への糧となるのですから、むしろ喜ぶべきですよ」
魔術を教わりながらミレーヌが失敗してしまっても、シアンは決して責めるようなことはしない。
これがアベルであれば、ここぞとばかりに責め立て、ミレーヌを馬鹿にしてきたはずだ。
「何となくの思い付きなのですけれど……」
「……なるほど。いつも、あなたの発想には驚かされます。その方法も後ほど試してみましょう。あなたはやはり女神の英知が宿っていますね」
どのような荒唐無稽な思い付きであっても、シアンは否定しない。
誉め言葉を惜しむことなく、ミレーヌを尊重してくれる。
彼との時間はとても心地よく、それが特別な感情に変わっていくのに、さほど時間はかからなかった。
そして、ついに試作品の薬が出来上がった。
緑色の軟膏を二人で眺め、感慨深さに浸る。
「ついに、薬ができましたね……!」
「まだまだ改良の余地はありますが、大きな一歩です。いずれ、下級ポーションくらいの効能は引き出せるでしょう。それでいて、費用が格段に少ない……これは、庶民の救世主になるかもしれませんよ」
二人は喜び合うが、ある意味ではやっとスタート地点にたどり着いたようなものだ。感動を噛みしめつつも、これからだと気を引き締める。
明日からは、さらに改良を重ねていこうと頷き合い、二人は帰路に就く。
夢に、とうとう指先が触れることができたのだ。いずれ、手につかむこともできるだろう。
ミレーヌは己の未来に希望を抱けるようになっていた。
だがそれは、道を塞ぐものから目をそらし、幻を夢見ていたのだと思い知らされることになる。
「アベルさま……」
花壇から淑女科に戻ろうと少し歩いたところ、腕を組んで怒りの形相を浮かべるアベルが立っていたのだ。
見られていたのかと、ミレーヌは血の気が引いていく。
束縛してくるアベルは幸いにして、浮気相手に夢中になっている。
放課後にアベルを待って浮気相手との仲睦まじい様子を見せ付けられた後、花壇に向かうのが日課となっていた。
「ポーションといえば液体ですよね。でも、薬草から効果を引き出すのなら、液体にこだわらなくてもよいのではないかと」
「そうですね、軟膏のようなもののほうが安定させられるかもしれません」
二人が目指すのは、薬草から新たな薬を作り出すことだ。
そのために意見を出し合い、試行錯誤を繰り返していく。その過程で、基礎的な魔術をシアンから教わることもできた。
ミレーヌにとっては、かけがえのない楽しい時間となった。
「……失敗してしまいましたわ……ごめんなさい……」
「謝る必要などありませんよ。失敗を重ねて、上達していくものです。今の失敗が成功への糧となるのですから、むしろ喜ぶべきですよ」
魔術を教わりながらミレーヌが失敗してしまっても、シアンは決して責めるようなことはしない。
これがアベルであれば、ここぞとばかりに責め立て、ミレーヌを馬鹿にしてきたはずだ。
「何となくの思い付きなのですけれど……」
「……なるほど。いつも、あなたの発想には驚かされます。その方法も後ほど試してみましょう。あなたはやはり女神の英知が宿っていますね」
どのような荒唐無稽な思い付きであっても、シアンは否定しない。
誉め言葉を惜しむことなく、ミレーヌを尊重してくれる。
彼との時間はとても心地よく、それが特別な感情に変わっていくのに、さほど時間はかからなかった。
そして、ついに試作品の薬が出来上がった。
緑色の軟膏を二人で眺め、感慨深さに浸る。
「ついに、薬ができましたね……!」
「まだまだ改良の余地はありますが、大きな一歩です。いずれ、下級ポーションくらいの効能は引き出せるでしょう。それでいて、費用が格段に少ない……これは、庶民の救世主になるかもしれませんよ」
二人は喜び合うが、ある意味ではやっとスタート地点にたどり着いたようなものだ。感動を噛みしめつつも、これからだと気を引き締める。
明日からは、さらに改良を重ねていこうと頷き合い、二人は帰路に就く。
夢に、とうとう指先が触れることができたのだ。いずれ、手につかむこともできるだろう。
ミレーヌは己の未来に希望を抱けるようになっていた。
だがそれは、道を塞ぐものから目をそらし、幻を夢見ていたのだと思い知らされることになる。
「アベルさま……」
花壇から淑女科に戻ろうと少し歩いたところ、腕を組んで怒りの形相を浮かべるアベルが立っていたのだ。
見られていたのかと、ミレーヌは血の気が引いていく。
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