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36.父と妹だった者の末路
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「あなたはノリス伯爵家の血を引いていないでしょう。どうして、伯爵になれると思っていたのか不思議ですわ」
ヘスティアの言葉に、周囲の人々も頷く。
中には嘲笑まで浮かべている者もいた。
「なっ……! そんな馬鹿な……! あの女、騙したのか……!」
父は愕然としている様子だったが、デボラもそれどころではない。
自分の人生が足元から崩れていくような感覚に襲われていた。
そんな時、不意に声が聞こえた。
「何やら騒がしいようだな」
それは低く、それでいてよく通る声だった。
周囲の貴族たちが、一斉に膝を折る。
「国王陛下……」
父が驚いたように呟く。デボラも慌てて頭を下げた。
おそるおそる顔を上げると、そこには壮年の男性が佇んでいた。
厳格そうな顔立ちで、その眼差しからは威厳が感じられる。
間違いなくこの国で一番偉い人物だろうと思われた。
「あ、あの……これは……」
父がしどろもどろになっているのを見て、デボラは心の中でほくそ笑んだ。
今こそ逆転の時であると確信したからだ。
この国で最も偉い人物に訴えれば、今の状況をひっくり返せるだろう。
しかし、そんな期待はすぐに裏切られることになる。
国王はデボラには目もくれず、真っ直ぐヘスティアとレイモンドに向かって歩いていった。
「息災そうで何よりだ、オースティン辺境伯。それに、ヘスティア嬢。いや、今ではノリス伯爵と呼ぶべきであったな」
国王は優しげな声で語りかけると、笑みを浮かべた。
それに対して、レイモンドは深く頭を下げる。ヘスティアもまた同じように頭を下げた。
「陛下におかれましてもご健勝のご様子、何よりのことにございます」
「うむ、楽にしてくれ。今日は格式張ったことを嫌うそなたのため、こうした気取らないパーティーにしてあるからな。さあ、存分に楽しんでくれ」
国王の言葉に、レイモンドは再び頭を下げた。ヘスティアもそれに続く。
そんな二人に向かって、国王はさらに続けた。
「それと……おめでとうと言っておこうかの。そなたらの婚礼を心待ちにしておるぞ」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます」
レイモンドが応えると、国王は満足そうな表情を浮かべた。
そして、今度はデボラの方へ視線を向ける。
「ところで……」
国王の目がすっと細められた。
その眼光に射貫かれ、デボラは思わず身を竦める。
「……この者は?」
国王が尋ねると、レイモンドは困ったような表情を浮かべた。
「この者はデボラ・ロウリー男爵令嬢。ヘスティア嬢の元妹です」
「……ほう?」
国王の眼光がさらに鋭くなる。
デボラは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。まるで金縛りにあったかのように指先すら動かないのだ。
そんなデボラの様子を見て、国王は深いため息をついた。
「愚かなものだな……」
その言葉が自分に向けられたものだと理解した時、デボラは怒りを覚えた。
しかし、それでも身体が動かないことに変わりはない。まるで全身が石になったかのようだった。
すると、国王はデボラの側にいる父に視線を向けた。
「では、そなたがロウリー男爵か?」
「は、はい! さようでございます!」
父は慌てて返事をすると、深く頭を下げた。
「そなたはヘスティア嬢が精霊の愛し子であることを隠蔽し、虐待していたと聞く。相違ないか?」
「そ、それは……」
父は言葉を詰まらせるが、その表情を見れば図星だということはすぐにわかった。
「どうやら間違いないようだな」
国王はそう呟くと、冷たい目で父を見下ろした。
「愚かなことを……もっと早くに精霊の愛し子の存在を知っていれば、王子の婚約者にすることもできただろうに……」
国王は深いため息をつくと、父を睨みつける。その迫力は凄まじく、父はすっかり萎縮してしまったようだった。
「も、申し訳ありません……! 精霊の愛し子だとは知らなかったのです……! わかっていれば、すぐに……」
父は必死に言い訳をしようとするが、国王はそれを遮った。
「今更遅いわ……それに、精霊の愛し子はオースティン辺境伯と結ばれる。二人を見ていれば、愛し合っているのは一目瞭然だろう。今さら割り込むことなどできぬ」
国王は淡々と告げる。その言葉に、父は絶望したような表情になった。
「そ、そんな……私はただ……」
「黙れ」
父の言葉を遮り、国王は再び深いため息をついた。
そして、今度はデボラに視線を向ける。
「そなたの婚約者は、ディゴリー子爵令息であったな。仲は良かったか?」
国王の問いに、デボラはどう答えるべきか悩んだ。
実際のところは、タイロンとの婚約など破棄しようと思っていた。だが、この場でそれを言うのはまずい気がする。
むしろ、仲睦まじいと答えたほうが、良い印象を与えるのではないだろうか。
そう判断したデボラは、笑顔を浮かべて答えた。
「はい、とても良い関係でしたわ。何でも相談できる間柄ですの」
「そうか……」
国王は呟くと、再びため息をついた。
そして、顎髭を触りながら何事かを考える素振りを見せる。その態度からは何を考えているのか読み取れず、デボラは不安を覚えた。
しばらくすると、国王は再び口を開いた。
「ならば、そなたも他国と通じておるのか? ディゴリー子爵令息は他国と通じた売国奴であったが、そなたも関与しているのか?」
突然飛び出した予想外の言葉に、デボラは一瞬頭が真っ白になった。だがすぐに我に返ると、慌てて弁解する。
「ち、違います! 私は何も……!」
「何でも相談できる間柄だったのだろう? つまり、そなたはディゴリー子爵令息の悪事を知っていたのではないか?」
国王の言葉に、デボラは絶句してしまった。
本当に知らないのだ。タイロンが隣国と通じていたなど、今初めて知った。
それなのに、先ほど良かれと思って答えたことが仇になってしまった。
「ち、違うんです! 本当に何も知らなかったのです! そもそも、あんな男とは早く婚約を破棄しようと思っていたほどで……!」
デボラは必死に弁明するが、国王はそれを冷ややかな目で見ていた。
「ではなぜ先程はそう答えなかったのだ?」
「そ、それは……」
デボラは言葉に詰まる。どう答えても墓穴を掘りそうな気がしたからだ。
すると、国王が深いため息をついた。
「そなたはもうよい」
国王のその言葉を聞いた瞬間、デボラは自分の命運が尽きたことを悟った。
同時に、怒りと悔しさがこみ上げてくる。
どうして美しく大切にされるべき自分がこのような目にあっているのに、役立たずのクズ女は平然と立っているのか。
「……お姉さま! 助けて! 助けなさいよ! 役立たずのあんたが私を助けるのは当然でしょう!」
デボラは大声で叫んだ。
「そ、そうだ、ヘスティア! 私たちを助けてくれ! 家族を見捨てるつもりか!」
父もデボラに同調する。しかし、ヘスティアは無表情のまま二人を見つめるだけだった。
「見捨てる? 私が?」
ヘスティアは静かに呟くと、父を一瞥した。
「私を捨てたのは、あなたでしょう? 今更何を言っているの?」
ヘスティアは冷たく言い放つと、今度はデボラに視線を移した。その目はどこまでも冷たい光を放っている。
「あなたもよ、デボラ」
「な、何よっ!」
デボラは思わず後ずさった。
しかし、それでもなおヘスティアの視線は彼女を射抜いている。まるで蛇に睨まれた蛙のように、動くことができないのだ。
「あなたは私を虐げてきたわ。そして今も……自分のことしか考えていない」
ヘスティアの言葉に、デボラは動揺した。
確かに虐げてきた自覚はあるが、それは役立たずへの躾という正当なものだったはずだ。
「し、躾よ! 生意気な態度を取るお姉さまが悪いのよ!」
デボラの言葉にも動じず、ヘスティアは淡々と言葉を続ける。
「……お姉さまなどと呼ばないでちょうだい。もう、あなたたちと私は、赤の他人なの。二度と私の前に現れないで」
ヘスティアの言葉に、デボラは何も言い返せなかった。
そんな彼女を一瞥してから、国王は父に視線を移した。
「ロウリー男爵、そなたから爵位を剥奪する。財産も没収し、王都から追放する。二度と王都に入ることは許さん」
国王の言葉に父は絶望の表情を浮かべた。
「そ、そんな! どうかお慈悲を……!」
必死に懇願する父だったが、国王は聞く耳を持たないようだった。それどころか、さらに追い打ちをかけるような言葉を発する。
「そなたの娘も同罪だ」
国王がそう言うと同時に、衛兵たちが動いた。彼らはデボラの腕を掴むと、そのまま引きずっていく。
「いやぁっ! 離してっ!」
デボラは抵抗したが、屈強な兵士の力には敵わなかった。そのまま引きずられていき、大広間の外へと連れ出されてしまう。
「お姉さまっ!」
デボラは最後にヘスティアに向かって叫んだが、彼女はこちらを一瞥すらしなかった。
ヘスティアの言葉に、周囲の人々も頷く。
中には嘲笑まで浮かべている者もいた。
「なっ……! そんな馬鹿な……! あの女、騙したのか……!」
父は愕然としている様子だったが、デボラもそれどころではない。
自分の人生が足元から崩れていくような感覚に襲われていた。
そんな時、不意に声が聞こえた。
「何やら騒がしいようだな」
それは低く、それでいてよく通る声だった。
周囲の貴族たちが、一斉に膝を折る。
「国王陛下……」
父が驚いたように呟く。デボラも慌てて頭を下げた。
おそるおそる顔を上げると、そこには壮年の男性が佇んでいた。
厳格そうな顔立ちで、その眼差しからは威厳が感じられる。
間違いなくこの国で一番偉い人物だろうと思われた。
「あ、あの……これは……」
父がしどろもどろになっているのを見て、デボラは心の中でほくそ笑んだ。
今こそ逆転の時であると確信したからだ。
この国で最も偉い人物に訴えれば、今の状況をひっくり返せるだろう。
しかし、そんな期待はすぐに裏切られることになる。
国王はデボラには目もくれず、真っ直ぐヘスティアとレイモンドに向かって歩いていった。
「息災そうで何よりだ、オースティン辺境伯。それに、ヘスティア嬢。いや、今ではノリス伯爵と呼ぶべきであったな」
国王は優しげな声で語りかけると、笑みを浮かべた。
それに対して、レイモンドは深く頭を下げる。ヘスティアもまた同じように頭を下げた。
「陛下におかれましてもご健勝のご様子、何よりのことにございます」
「うむ、楽にしてくれ。今日は格式張ったことを嫌うそなたのため、こうした気取らないパーティーにしてあるからな。さあ、存分に楽しんでくれ」
国王の言葉に、レイモンドは再び頭を下げた。ヘスティアもそれに続く。
そんな二人に向かって、国王はさらに続けた。
「それと……おめでとうと言っておこうかの。そなたらの婚礼を心待ちにしておるぞ」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます」
レイモンドが応えると、国王は満足そうな表情を浮かべた。
そして、今度はデボラの方へ視線を向ける。
「ところで……」
国王の目がすっと細められた。
その眼光に射貫かれ、デボラは思わず身を竦める。
「……この者は?」
国王が尋ねると、レイモンドは困ったような表情を浮かべた。
「この者はデボラ・ロウリー男爵令嬢。ヘスティア嬢の元妹です」
「……ほう?」
国王の眼光がさらに鋭くなる。
デボラは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。まるで金縛りにあったかのように指先すら動かないのだ。
そんなデボラの様子を見て、国王は深いため息をついた。
「愚かなものだな……」
その言葉が自分に向けられたものだと理解した時、デボラは怒りを覚えた。
しかし、それでも身体が動かないことに変わりはない。まるで全身が石になったかのようだった。
すると、国王はデボラの側にいる父に視線を向けた。
「では、そなたがロウリー男爵か?」
「は、はい! さようでございます!」
父は慌てて返事をすると、深く頭を下げた。
「そなたはヘスティア嬢が精霊の愛し子であることを隠蔽し、虐待していたと聞く。相違ないか?」
「そ、それは……」
父は言葉を詰まらせるが、その表情を見れば図星だということはすぐにわかった。
「どうやら間違いないようだな」
国王はそう呟くと、冷たい目で父を見下ろした。
「愚かなことを……もっと早くに精霊の愛し子の存在を知っていれば、王子の婚約者にすることもできただろうに……」
国王は深いため息をつくと、父を睨みつける。その迫力は凄まじく、父はすっかり萎縮してしまったようだった。
「も、申し訳ありません……! 精霊の愛し子だとは知らなかったのです……! わかっていれば、すぐに……」
父は必死に言い訳をしようとするが、国王はそれを遮った。
「今更遅いわ……それに、精霊の愛し子はオースティン辺境伯と結ばれる。二人を見ていれば、愛し合っているのは一目瞭然だろう。今さら割り込むことなどできぬ」
国王は淡々と告げる。その言葉に、父は絶望したような表情になった。
「そ、そんな……私はただ……」
「黙れ」
父の言葉を遮り、国王は再び深いため息をついた。
そして、今度はデボラに視線を向ける。
「そなたの婚約者は、ディゴリー子爵令息であったな。仲は良かったか?」
国王の問いに、デボラはどう答えるべきか悩んだ。
実際のところは、タイロンとの婚約など破棄しようと思っていた。だが、この場でそれを言うのはまずい気がする。
むしろ、仲睦まじいと答えたほうが、良い印象を与えるのではないだろうか。
そう判断したデボラは、笑顔を浮かべて答えた。
「はい、とても良い関係でしたわ。何でも相談できる間柄ですの」
「そうか……」
国王は呟くと、再びため息をついた。
そして、顎髭を触りながら何事かを考える素振りを見せる。その態度からは何を考えているのか読み取れず、デボラは不安を覚えた。
しばらくすると、国王は再び口を開いた。
「ならば、そなたも他国と通じておるのか? ディゴリー子爵令息は他国と通じた売国奴であったが、そなたも関与しているのか?」
突然飛び出した予想外の言葉に、デボラは一瞬頭が真っ白になった。だがすぐに我に返ると、慌てて弁解する。
「ち、違います! 私は何も……!」
「何でも相談できる間柄だったのだろう? つまり、そなたはディゴリー子爵令息の悪事を知っていたのではないか?」
国王の言葉に、デボラは絶句してしまった。
本当に知らないのだ。タイロンが隣国と通じていたなど、今初めて知った。
それなのに、先ほど良かれと思って答えたことが仇になってしまった。
「ち、違うんです! 本当に何も知らなかったのです! そもそも、あんな男とは早く婚約を破棄しようと思っていたほどで……!」
デボラは必死に弁明するが、国王はそれを冷ややかな目で見ていた。
「ではなぜ先程はそう答えなかったのだ?」
「そ、それは……」
デボラは言葉に詰まる。どう答えても墓穴を掘りそうな気がしたからだ。
すると、国王が深いため息をついた。
「そなたはもうよい」
国王のその言葉を聞いた瞬間、デボラは自分の命運が尽きたことを悟った。
同時に、怒りと悔しさがこみ上げてくる。
どうして美しく大切にされるべき自分がこのような目にあっているのに、役立たずのクズ女は平然と立っているのか。
「……お姉さま! 助けて! 助けなさいよ! 役立たずのあんたが私を助けるのは当然でしょう!」
デボラは大声で叫んだ。
「そ、そうだ、ヘスティア! 私たちを助けてくれ! 家族を見捨てるつもりか!」
父もデボラに同調する。しかし、ヘスティアは無表情のまま二人を見つめるだけだった。
「見捨てる? 私が?」
ヘスティアは静かに呟くと、父を一瞥した。
「私を捨てたのは、あなたでしょう? 今更何を言っているの?」
ヘスティアは冷たく言い放つと、今度はデボラに視線を移した。その目はどこまでも冷たい光を放っている。
「あなたもよ、デボラ」
「な、何よっ!」
デボラは思わず後ずさった。
しかし、それでもなおヘスティアの視線は彼女を射抜いている。まるで蛇に睨まれた蛙のように、動くことができないのだ。
「あなたは私を虐げてきたわ。そして今も……自分のことしか考えていない」
ヘスティアの言葉に、デボラは動揺した。
確かに虐げてきた自覚はあるが、それは役立たずへの躾という正当なものだったはずだ。
「し、躾よ! 生意気な態度を取るお姉さまが悪いのよ!」
デボラの言葉にも動じず、ヘスティアは淡々と言葉を続ける。
「……お姉さまなどと呼ばないでちょうだい。もう、あなたたちと私は、赤の他人なの。二度と私の前に現れないで」
ヘスティアの言葉に、デボラは何も言い返せなかった。
そんな彼女を一瞥してから、国王は父に視線を移した。
「ロウリー男爵、そなたから爵位を剥奪する。財産も没収し、王都から追放する。二度と王都に入ることは許さん」
国王の言葉に父は絶望の表情を浮かべた。
「そ、そんな! どうかお慈悲を……!」
必死に懇願する父だったが、国王は聞く耳を持たないようだった。それどころか、さらに追い打ちをかけるような言葉を発する。
「そなたの娘も同罪だ」
国王がそう言うと同時に、衛兵たちが動いた。彼らはデボラの腕を掴むと、そのまま引きずっていく。
「いやぁっ! 離してっ!」
デボラは抵抗したが、屈強な兵士の力には敵わなかった。そのまま引きずられていき、大広間の外へと連れ出されてしまう。
「お姉さまっ!」
デボラは最後にヘスティアに向かって叫んだが、彼女はこちらを一瞥すらしなかった。
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