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08.理解できない感情
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辺境の屋敷に戻ったレイモンドを待っていたのは、祖父の後添えとなる令嬢がやって来るとの知らせだった。
「レイモンド、あなたはいったい何をやらかしたのかしら?」
叔母であるアマーリアが呆れたように尋ねてくる。
彼女は父の妹で、分家の男を夫にしていた。レイモンドにとっては、もう一人の母のような存在である。
母と仲が良く、存命時は二人で辺境伯家を切り盛りしていたのだ。今は、一人で女主人としての役割を果たしている。
レイモンドの従兄となる三人の息子もいる。彼らとは兄弟のように育ち、レイモンドの大切な家族だった。
「いえ、叔母上……その、俺は……」
言い淀むレイモンドを冷たく一瞥すると、アマーリアはため息をついて告げた。
「お父さまは元気に魔物討伐に明け暮れているでしょう? なのに、おぼつかないくせに色ボケの老人だなんて……。後添えとなって甲斐甲斐しく世話してくれる令嬢はいないものか、ですって? よく言えたわね」
アマーリアの言葉に、レイモンドは俯くしかない。
「その……本当に来るとは思わなくて……つい……」
「まあ、なんて馬鹿なことをしたのかしら。それでなくても、幻獣を狙っている輩への対策で忙しいのに……」
辺境伯領にある火凰峰は、火の精霊の加護を強く受けた山だ。
そこに棲む幻獣は、今は眠りについている。そのため、眠っているうちに幻獣を捕獲してしまおうとする輩が現れるのだ。
そういった盗人には、レイモンドたちも頭を悩ませていた。
「申し訳ありません……やって来るという令嬢には、十分な慰謝料を支払ってお帰りいただいて……」
「それで済むかしらね。おぼつかないくせに色ボケの老人の後添えにやって来るのよ。そんなの、密偵か、親に無理やり送り込まれたに決まっているわ」
アマーリアの言葉に、レイモンドは頷くしかなかった。
「そうですね……申し訳ありません」
「最近は幻獣を狙っている輩が、おかしな動きをしているらしいの。この令嬢が、辺境伯家の内部を探るために送り込まれた密偵だったらどうするの?」
「それは……」
レイモンドは言葉に詰まる。
「まあ、いいわ。令嬢が帰ってくれるのなら、それでよし。そうでなければ、私の侍女として側に置きましょう。密偵ならば、近くで見張っていたほうがよいでしょうからね」
「はい……叔母上、ありがとうございます。それで……もし、令嬢が密偵ではなく、親に無理やり送り込まれただけだった場合は、どうなさいますか?」
レイモンドが問いかけると、アマーリアは痛ましそうな表情をした。
「その時は、普通に侍女として面倒を見るわ。帰る場所なんて、どうせないでしょうから」
「わかりました。ありがとうございます」
アマーリアの答えを聞いて、レイモンドはほっと胸をなで下ろす。そんなレイモンドを見て、アマーリアは困ったように笑った。
「……こんなことになるとは思っていなかったわ。あなたも恋の一つでもしておくべきだったわね」
そう言って部屋を出て行くアマーリアを見送ったあと、レイモンドは再び深いため息をつく。
「恋、か……」
辺境伯家の跡取りとして、いずれ妻を娶ることはわかっていたが、まだ実感がなかった。
早く一人前になるべく、鍛錬に明け暮れる日々だったからだ。
これまで女性に興味を持ったことはなかったが、これからはそうもいかないのだろう。
「ああ、面倒だな……」
レイモンドはぼそりと呟いた。
心惹かれる相手など、想像もつかない。しかし、いつか現れるのだろうか。
そんなことを考えながら、レイモンドは窓の外を見つめた。
祖父の後添えとしてやって来たのは、十六歳のヘスティア・ロウリーという令嬢だった。
裕福な男爵家の娘と聞いていたが、やせ細って顔色も悪い。
しかし、燃えるような赤毛が際立って美しく、レイモンドは目を見張った。
不安と緊張に震える彼女を見て、レイモンドはなるべく優しく接しようと心がける。
謝罪して、慰謝料を払うので帰って欲しいと伝えたのだが、彼女は愕然としてレイモンドの足下に跪いた。
「私は、帰る場所などありません! どうか、ここに置いていただけませんか!?」
彼女は悲痛な叫び声を上げる。
困惑するレイモンドだったが、彼女がさらに続けた言葉に衝撃を受けた。
「下働きで構いません! 身体の頑丈さには自信があります! 真冬に水をかけられて庭に放置されても、風邪を引きませんでした!」
彼女の言葉に、レイモンドは絶句した。
まさか、そんな仕打ちをされていたとは思いもよらなかった。
彼女の境遇を思い、胸が痛む。
もう断ることはできなかった。部屋の外で待機しているはずの叔母を呼ぶ。
「あなたさえよければ、私の侍女として働いてもらおうと思っておりますが、いかがでしょう?」
叔母は予定どおり、ヘスティアを侍女として受け入れた。
彼女は喜んで働き始め、その働きぶりには目を見張るものがあった。
ヘスティアは真面目に仕事をこなし、決して手を抜くことはない。
誰かが口を開く前に、いつの間にか先回りして業務を終わらせているのだ。
使用人たちも、そんな彼女の態度には感心している様子だった。
しかし、彼女にはまだ遠慮があるらしい。周囲にどう接していいか戸惑っているようだった。
レイモンドは気が付けば彼女を目で追うようになっていた。
どうしてなのか不思議に思ったが、自分の失態で彼女が後添えとしてやってきたことに負い目を感じているのだろうと納得する。
決して彼女の美しさに魅せられたわけではない。そのような邪な理由ではなく、彼女の境遇に同情しているのだ。
そう自分に言い聞かせるものの、ひたむきな姿を見れば眩しいと思ってしまう。たまに見せる笑顔が美しく、つい見惚れてしまうのだ。
「叔母上、ヘスティアは密偵だと思いますか?」
あるとき、レイモンドはアマーリアに問いかけた。
「おそらく違うでしょう。彼女の生い立ちも調べたけれど、かなり冷遇されていたようね。密偵ならもっとうまく立ち回るはずだわ」
「そうですか……それなら安心ですが……」
アマーリアの答えを聞いて、レイモンドは安堵した。
レイモンドも、ヘスティアが密偵だとは思えなかった。一生懸命に働く彼女からは、何かを企んでいるような気配はない。
それに、彼女からはどこか懐かしい感じがするのだ。彼女を見ていると、妙に心がざわついた。
「ただ、彼女自身には問題はないと思うけれど、その家族たちには注意が必要ね。彼女が後妻に出される原因となった、子爵家の次男がうさん臭いのよね」
「と、いうと?」
「その男は、元はヘスティアの婚約者だったらしいの。でも、妹に乗り換えているわ。まあ、そこは本筋ではないのだけれど……。どうやら、隣国と繋がりがあるらしいの。辺境伯家に入り込むために、ヘスティアを後添えに送り込んだ可能性もあるわ」
「それは厄介ですね」
アマーリアの言葉に、レイモンドは顔をしかめた。
「ええ、だから彼女の周辺のことは注意深く観察しておいてちょうだい。念のためよ?」
「わかりました」
アマーリアの言葉に頷きつつ、レイモンドはヘスティアのことを思い浮かべる。
屋敷にやって来た時よりも、少しふっくらと肉付きもよくなってきた。
表情も明るくなり、自然な笑みを浮かべることも増えてきたように思える。
それだけ、彼女がここでの生活に慣れてきたということだろう。
しかし、時折見せる悲しげな表情が気になってはいた。
その陰りのある表情を見るたびに、胸が締め付けられるような感覚に襲われるのだ。
理由はわからない。ただ、彼女がそのような表情をするたびに心配になり、思わず手を差し伸べたくなるのだ。
「俺は、どうかしてしまったのだろうか……」
レイモンドは自分自身の感情が理解できず、困惑した。
「レイモンド、あなたはいったい何をやらかしたのかしら?」
叔母であるアマーリアが呆れたように尋ねてくる。
彼女は父の妹で、分家の男を夫にしていた。レイモンドにとっては、もう一人の母のような存在である。
母と仲が良く、存命時は二人で辺境伯家を切り盛りしていたのだ。今は、一人で女主人としての役割を果たしている。
レイモンドの従兄となる三人の息子もいる。彼らとは兄弟のように育ち、レイモンドの大切な家族だった。
「いえ、叔母上……その、俺は……」
言い淀むレイモンドを冷たく一瞥すると、アマーリアはため息をついて告げた。
「お父さまは元気に魔物討伐に明け暮れているでしょう? なのに、おぼつかないくせに色ボケの老人だなんて……。後添えとなって甲斐甲斐しく世話してくれる令嬢はいないものか、ですって? よく言えたわね」
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「その……本当に来るとは思わなくて……つい……」
「まあ、なんて馬鹿なことをしたのかしら。それでなくても、幻獣を狙っている輩への対策で忙しいのに……」
辺境伯領にある火凰峰は、火の精霊の加護を強く受けた山だ。
そこに棲む幻獣は、今は眠りについている。そのため、眠っているうちに幻獣を捕獲してしまおうとする輩が現れるのだ。
そういった盗人には、レイモンドたちも頭を悩ませていた。
「申し訳ありません……やって来るという令嬢には、十分な慰謝料を支払ってお帰りいただいて……」
「それで済むかしらね。おぼつかないくせに色ボケの老人の後添えにやって来るのよ。そんなの、密偵か、親に無理やり送り込まれたに決まっているわ」
アマーリアの言葉に、レイモンドは頷くしかなかった。
「そうですね……申し訳ありません」
「最近は幻獣を狙っている輩が、おかしな動きをしているらしいの。この令嬢が、辺境伯家の内部を探るために送り込まれた密偵だったらどうするの?」
「それは……」
レイモンドは言葉に詰まる。
「まあ、いいわ。令嬢が帰ってくれるのなら、それでよし。そうでなければ、私の侍女として側に置きましょう。密偵ならば、近くで見張っていたほうがよいでしょうからね」
「はい……叔母上、ありがとうございます。それで……もし、令嬢が密偵ではなく、親に無理やり送り込まれただけだった場合は、どうなさいますか?」
レイモンドが問いかけると、アマーリアは痛ましそうな表情をした。
「その時は、普通に侍女として面倒を見るわ。帰る場所なんて、どうせないでしょうから」
「わかりました。ありがとうございます」
アマーリアの答えを聞いて、レイモンドはほっと胸をなで下ろす。そんなレイモンドを見て、アマーリアは困ったように笑った。
「……こんなことになるとは思っていなかったわ。あなたも恋の一つでもしておくべきだったわね」
そう言って部屋を出て行くアマーリアを見送ったあと、レイモンドは再び深いため息をつく。
「恋、か……」
辺境伯家の跡取りとして、いずれ妻を娶ることはわかっていたが、まだ実感がなかった。
早く一人前になるべく、鍛錬に明け暮れる日々だったからだ。
これまで女性に興味を持ったことはなかったが、これからはそうもいかないのだろう。
「ああ、面倒だな……」
レイモンドはぼそりと呟いた。
心惹かれる相手など、想像もつかない。しかし、いつか現れるのだろうか。
そんなことを考えながら、レイモンドは窓の外を見つめた。
祖父の後添えとしてやって来たのは、十六歳のヘスティア・ロウリーという令嬢だった。
裕福な男爵家の娘と聞いていたが、やせ細って顔色も悪い。
しかし、燃えるような赤毛が際立って美しく、レイモンドは目を見張った。
不安と緊張に震える彼女を見て、レイモンドはなるべく優しく接しようと心がける。
謝罪して、慰謝料を払うので帰って欲しいと伝えたのだが、彼女は愕然としてレイモンドの足下に跪いた。
「私は、帰る場所などありません! どうか、ここに置いていただけませんか!?」
彼女は悲痛な叫び声を上げる。
困惑するレイモンドだったが、彼女がさらに続けた言葉に衝撃を受けた。
「下働きで構いません! 身体の頑丈さには自信があります! 真冬に水をかけられて庭に放置されても、風邪を引きませんでした!」
彼女の言葉に、レイモンドは絶句した。
まさか、そんな仕打ちをされていたとは思いもよらなかった。
彼女の境遇を思い、胸が痛む。
もう断ることはできなかった。部屋の外で待機しているはずの叔母を呼ぶ。
「あなたさえよければ、私の侍女として働いてもらおうと思っておりますが、いかがでしょう?」
叔母は予定どおり、ヘスティアを侍女として受け入れた。
彼女は喜んで働き始め、その働きぶりには目を見張るものがあった。
ヘスティアは真面目に仕事をこなし、決して手を抜くことはない。
誰かが口を開く前に、いつの間にか先回りして業務を終わらせているのだ。
使用人たちも、そんな彼女の態度には感心している様子だった。
しかし、彼女にはまだ遠慮があるらしい。周囲にどう接していいか戸惑っているようだった。
レイモンドは気が付けば彼女を目で追うようになっていた。
どうしてなのか不思議に思ったが、自分の失態で彼女が後添えとしてやってきたことに負い目を感じているのだろうと納得する。
決して彼女の美しさに魅せられたわけではない。そのような邪な理由ではなく、彼女の境遇に同情しているのだ。
そう自分に言い聞かせるものの、ひたむきな姿を見れば眩しいと思ってしまう。たまに見せる笑顔が美しく、つい見惚れてしまうのだ。
「叔母上、ヘスティアは密偵だと思いますか?」
あるとき、レイモンドはアマーリアに問いかけた。
「おそらく違うでしょう。彼女の生い立ちも調べたけれど、かなり冷遇されていたようね。密偵ならもっとうまく立ち回るはずだわ」
「そうですか……それなら安心ですが……」
アマーリアの答えを聞いて、レイモンドは安堵した。
レイモンドも、ヘスティアが密偵だとは思えなかった。一生懸命に働く彼女からは、何かを企んでいるような気配はない。
それに、彼女からはどこか懐かしい感じがするのだ。彼女を見ていると、妙に心がざわついた。
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「と、いうと?」
「その男は、元はヘスティアの婚約者だったらしいの。でも、妹に乗り換えているわ。まあ、そこは本筋ではないのだけれど……。どうやら、隣国と繋がりがあるらしいの。辺境伯家に入り込むために、ヘスティアを後添えに送り込んだ可能性もあるわ」
「それは厄介ですね」
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「ええ、だから彼女の周辺のことは注意深く観察しておいてちょうだい。念のためよ?」
「わかりました」
アマーリアの言葉に頷きつつ、レイモンドはヘスティアのことを思い浮かべる。
屋敷にやって来た時よりも、少しふっくらと肉付きもよくなってきた。
表情も明るくなり、自然な笑みを浮かべることも増えてきたように思える。
それだけ、彼女がここでの生活に慣れてきたということだろう。
しかし、時折見せる悲しげな表情が気になってはいた。
その陰りのある表情を見るたびに、胸が締め付けられるような感覚に襲われるのだ。
理由はわからない。ただ、彼女がそのような表情をするたびに心配になり、思わず手を差し伸べたくなるのだ。
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