婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ

文字の大きさ
上 下
9 / 9

09.真実

しおりを挟む
 その後、令嬢とその実家は、違法薬物の売買と使用で取り締まられた。
 ジェレミーは調査のため令嬢に近付いていたのだ。
 すると、令嬢はジェレミーを自分の運命の相手だと思い込み、薬を使って彼を自分のものにしようと画策していたらしい。
 それを聞いたポリーヌは、令嬢に対して怒りを覚えると同時に、自分も同じようなことをしていたと胸が痛くなる。

「ジェレミーさま、申し訳ございません。実は私、あなたに惚れ薬を……」

「知っているよ」

 ジェレミーの言葉に、ポリーヌは驚いた。
 すると、彼はくすりと笑う。

「あの花びらの砂糖菓子だろう? 今回の件でまじない小路の店全体も調べたからね。あれが惚れ薬として売られていたことは、すぐにわかったさ」

「そう……だったのですか」

 ポリーヌは呆然として呟いた。まさか、気づかれているとは思わなかった。

「ああ。あれが単なる、酒に漬けた花びらの砂糖菓子だっていうこともね」

「……え?」

 ポリーヌは驚いて目を見開く。
 一瞬、意味がわからなかった。あれが惚れ薬ではないと言っているのだろうか。

「ちょっとした媚薬のような効果はあるかもしれないけれどね。そもそも、特定の感情だけを都合良く変える薬なんてないよ」

「で、でも、あれからジェレミーさまの態度が変わったのは……!?」

 思わず詰め寄ると、ジェレミーは気まずそうに視線を逸らした。

「あれは……その、実は……」

 ジェレミーはもごもごと口籠もりながらも告白した。

「きみがそれを使っているところを見て、つい嬉しくなってしまってね。俺だけの一方的な想いではなく、きみもそんなものを使うくらいに俺を好きでいてくれているんだと……」

 そう言ってジェレミーは恥ずかしそうに頬を染める。
 ポリーヌは絶句した。まさかあの惚れ薬がただの砂糖菓子だったとは。そして、それをジェレミーが知っていたなんて考えもしなかった。
 呆然とするポリーヌを見て、ジェレミーは困ったように眉を下げた。

「すまない。そうやってきみを思い詰めさせてしまったのは、俺の態度が悪かったからだよな。本当にすまなかった」

 そう言って、ジェレミーはポリーヌの手を握った。

「……きみが王都にやって来たとき、すっかり大人びて綺麗になっていて驚いたよ。それで、気後れしてしまってね。どう接していいかわからず、つい素っ気ない態度を取ってしまったんだ」

 ジェレミーはポリーヌの目を真っ直ぐに見つめて言う。その瞳には熱が籠もっていた。
 ポリーヌの心臓が早鐘を打つ。

「でも、それでは駄目だと思った。だから、自分の気持ちをしっかり言葉にしていこうと決意したんだ。きみが好きだとね」

 ジェレミーの言葉に、ポリーヌは耳まで熱くなるのを感じた。
 心臓が壊れそうなほど脈打っている。きっと顔も真っ赤になっているだろう。
 そんなポリーヌを愛おしそうに見つめながら、ジェレミーは続けた。

「初めて会ったときから、ずっときみに惹かれていた。でも、きみの想いが俺と同じものなのか確信が持てなくて……そのせいで不安にさせてしまってすまない」

「そんな……」

 ポリーヌは首を横に振った。

「私も同じです……あなたが私以外の誰かを好きになってしまったらと思うと怖くて……」

 そう言って俯くと、ジェレミーは優しく微笑んだ。そして、彼女の頬に手を添える。

「大丈夫だ。俺はもうきみを不安にさせない。これからずっと一緒だ」

「……はい」

 ポリーヌは小さく頷いた。
 すると、彼はポリーヌの顎に手をかけて上を向かせる。
 そしてゆっくりと顔を近づけてきた。
 ポリーヌは目を閉じる。

 二人の唇が重なった。
 柔らかく温かい感触に、ポリーヌは頭が蕩けそうになる。
 やがて唇が離れると、ジェレミーは照れくさそうに笑った。
 そんな彼を見て、ポリーヌも自然と笑みがこぼれる。

「ふふ……なんだか夢みたいです」

「ああ、俺もだよ」

 二人は顔を見合わせて笑い合った。
 そして再び口づけを交わす。
 今度は深く長い口づけだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私の婚約者は失恋の痛手を抱えています。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
幼馴染の少女に失恋したばかりのケインと「学園卒業まで婚約していることは秘密にする」という条件で婚約したリンジー。当初は互いに恋愛感情はなかったが、一年の交際を経て二人の距離は縮まりつつあった。 予定より早いけど婚約を公表しようと言い出したケインに、失恋の傷はすっかり癒えたのだと嬉しくなったリンジーだったが、その矢先、彼の初恋の相手である幼馴染ミーナがケインの前に現れる。

もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました

柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》  最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。  そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

婚約者の姉に階段から突き落とされました。婚約破棄させていただきます。

十条沙良
恋愛
聖女の私を嫌いな婚約者の姉に階段から突き落とされました。それでも姉をかばうの?

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

婚約破棄を喜んで受け入れてみた結果

宵闇 月
恋愛
ある日婚約者に婚約破棄を告げられたリリアナ。 喜んで受け入れてみたら… ※ 八話完結で書き終えてます。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

処理中です...