婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ

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07.偽れない気持ち

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「え?」

 唐突な提案に、ポリーヌは驚いて顔を上げた。
 マノンは真剣な表情で続ける。

「ジェレミーさまはお姉さまの婚約者なのに、他の女と浮気していたのなら許せないわ。だから、乗り込んで文句を言ってやるのよ」

 マノンはそう言って、ポリーヌの腕を掴んだ。

「でも……迷惑じゃないかしら……」

 ポリーヌは不安になりながら言う。
 しかし、マノンは力強く言った。
「大丈夫! だってお姉さまは正式な婚約者なのよ? 堂々としてればいいのよ。それに……ジェレミーさまの様子、なんだか変だったわ」

「え……? そういえば、確かにぼんやりとしていたわ」

 ポリーヌは、先ほどまでのジェレミーの様子を思い返した。

「でしょう? きっとあの令嬢に何かされたのよ! だからお姉さまが助けてあげなきゃ!」

 そう言ってマノンは意気込む。
 そんな妹の姿を見ていると、不思議と気持ちが落ち着いてきた。

「……そうね。行きましょう」

 ポリーヌはそう言って頷いた。
 マノンも嬉しそうに笑って頷く。

「そう来なくちゃ!」

 そして、二人はジェレミーと令嬢が入っていった店へと乗り込んだ。
 店の中は薄暗く、怪しげな香が焚かれていた。甘ったるい香りにむせ返りそうだ。ポリーヌは思わず咳き込んだ。

「お姉さま……」

 マノンが心配そうに見上げてくる。ポリーヌは優しく微笑んで妹の頭を撫でた。

「……っ」

 その瞬間、店の奥からジェレミーと令嬢が現れた。
 彼は、虚ろな瞳でぼんやりとしているように見える。まるで薬でも飲まされているかのようだ。
 令嬢はそんなジェレミーにしなだれかかりながら笑う。

「あら、あなた……元婚約者のポリーヌさんね? ちょうど良かった」

 彼女はそう言って、妖艶な笑みを浮かべた。

「あなたは……」

 ポリーヌは警戒しながら尋ねる。
 すると、令嬢は芝居じみた口調で答えた。

「私は、ジェレミーさまの運命の相手ですの」

「……え?」

 ポリーヌは戸惑った。彼女が何を言っているのか理解できない。
 だが、令嬢はうっとりとした表情で続けた。

「ジェレミーさまは私と結ばれる運命だったのです。それをあなたが邪魔をしたのでしょう? でも、もう大丈夫。私が彼を幸せにして差し上げますから」

 そう言って令嬢はジェレミーに抱きつく。
 彼は抵抗しないどころか、令嬢をぼんやりと見ていた。

「そんな……」

 ポリーヌは呆然とした。
 確かに、惚れ薬を使ってジェレミーの心を自分に向けさせた。二人の邪魔をしてしまったのかもしれない。
 罪悪感で胸が押し潰されそうになる。

 それでも、諦めるわけにはいかなかった。
 だって、自分はジェレミーが好きなのだ。たとえ彼の心が自分の方を向いていなくても、自分の気持ちを偽ることはできない。
 ポリーヌは意を決して口を開く。

「いいえ! 彼は私の婚約者です!」

 そう言ってジェレミーの手を引いた。
 令嬢が驚いたように目を見開く。

「お姉さま……」

 マノンもハラハラとした様子で見守っている。
 だが、今は気にならなかった。

「ジェレミーさま、行きましょう?」

 ポリーヌはジェレミーに呼びかける。
 ジェレミーはぼんやりとした様子で、ポリーヌを見た。
 すると、虚ろだった瞳の中に光が宿った。そして、彼は驚いたように目を見開く。

「ポリーヌ嬢……?」
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