婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ

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06.知らない令嬢と婚約者

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「お姉さま、ジェレミーさまと順調そうね。こんなに効果があるなんて思わなかったわ」

 そう言って、妹であるマノンは嬉しそうな顔をした。

「ええ……」

 ポリーヌは複雑な気持ちで相槌を打った。
 マノンは満足そうに頷いている。

 妹の入れ知恵のおかげで、ジェレミーと恋人同士になることができた。
 しかし、彼を騙して彼の気持ちを手に入れたような気がして、ポリーヌは罪悪感が拭えなかった。

「どうしたの? 浮かない顔をして」

 マノンが不思議そうに尋ねてくる。

「……本当にこれでいいのかしら。私は、ジェレミーさまを騙してるのよ」

 ポリーヌがそう言うと、マノンは呆れたようにため息をついた。

「何言ってるの? 惚れ薬なんていっても、おまじない程度のものよ。お姉さまが気に病む必要なんてないわ」

「でも……」

「それに、もう何日経っていると思ってるの? 効果なんてとっくに切れているわよ。それでも、ジェレミーさまはお姉さまを好きだって言っているのよ。それでいいじゃない」

「そうかしら……」

 マノンの言葉にも、まだ不安が残る。
 すると、マノンはまた大きなため息をついて言った。

「じゃあ、こうしましょう。惚れ薬を売っていたお店に行って、惚れ薬の効果を消す薬をもらってくるの。そうすれば、お姉さまが罪悪感を感じる必要はなくなるわ」

「え……?」

 ポリーヌは驚いて妹を見た。
 マノンは真剣な顔で続ける。

「お姉さまが気に病んでいるなら、私も協力するわ。二人でジェレミーさまに謝って、惚れ薬の効果を消せばそれでいいじゃない」

「マノン……」

 妹の言葉に、ポリーヌは心が軽くなるのを感じた。

「……そうね。そうしましょう」

 ポリーヌは笑顔で頷いた。
 そして早速、二人は惚れ薬の店へと向かうことにした。
 まじない小路と呼ばれる、王都のはずれにある通りだ。占いの店やお守りを売る店などが軒を連ねている。
 ポリーヌは、妹に先導されてまじない小路に入った。

「こっちよ」

 妹は迷いのない足取りで進んで行く。ポリーヌは慌ててその後を追った。
 しばらく歩いていったところで、マノンが突然足を止める。慌てたように、妹はポリーヌの腕を掴んで物陰へと引き込んだ。

「どうしたの?」

「……あれ、まさかジェレミーさま? どうしてこんなところに……」

 マノンが小声で呟く。
 視線の先には、ジェレミーといつか王宮の中庭で見た金髪の令嬢の姿があった。

「……っ」

 ポリーヌは思わず息を呑んだ。
 令嬢は、親しげな様子でジェレミーに話しかけている。
 ジェレミーはぼんやりと頷いていた。
 そして二人は、そのまま店の中へと入って行く。

「……っ!」

 胸が締め付けられるように痛む。息が苦しい。
 ポリーヌは思わず胸を押さえた。
 すると、マノンが心配そうに声をかけてきた。

「お姉さま?」

「……大丈夫よ」

 そう言って微笑むものの、ポリーヌの顔からはすっかり血の気が引いていた。
 きっと惚れ薬の効果が切れて、ジェレミーは本来の姿に戻ったのだろう。
 ポリーヌは、自分がジェレミーの本当の気持ちを踏みにじってしまったことを悟った。

「私……なんてことを……」

 ポリーヌは俯きながら呆然と呟いた。
 マノンはそんな姉の様子を見つめていたが、やがて意を決したように口を開いた。

「お姉さま、乗り込んでやりましょう」
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