婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ

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02.惚れ薬

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 それから数日、ポリーヌは落ち込んでいた。

「お姉さま、どうしたの?」

 自室にこもって、ぼんやりと窓の外を見つめていると、妹のマノンがやって来た。
 マノンは一つ年下で、十六歳の愛らしい少女だ。

「マノン……」

「最近、元気ないわね。何かあったの?」

「いいえ、大したことでは……」

 ポリーヌは言い淀んだ。自分の恋の悩みなど、妹には聞かせにくい。

「……やっぱり、こんな茶色の髪と瞳の地味な女より、華やかな金髪に青い目の美人の方が、いいに決まってるわよね」

 それでもつい、弱音が口から漏れてしまう。
 ポリーヌは、自分の髪を一房つまんで、ため息をついた。

「え? お姉さま、急にどうしたの?」

 マノンは驚いて姉を見つめてくる。

「私って地味だし、美人でもないし……。ジェレミーさまもきっとそう思ってるんだわ」

 ポリーヌがまたため息をつくと、マノンは呆れたように言った。

「私も同じ色なんだけれど」

「マノンは巻き毛が可愛いし、明るくて人気者じゃない。私とは正反対」

 ポリーヌはうなだれた。

「お姉さま、ジェレミーさまが好きなの?」

「え……」

 ポリーヌは驚いて顔を上げる。
 すると、目の前の妹は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

「やっぱり、そうなのね! 政略結婚でも、好きになることはあるわよね。良かったじゃない!」

「え、ええ……」

 ポリーヌは、マノンの勢いに押されて頷いた。

「でも、ジェレミーさまは……」

 見知らぬ令嬢と一緒にいたジェレミーのことを思い出し、ポリーヌはまた落ち込んでしまう。
 マノンは、そんな姉を見てため息をついた。

「お姉さまは、ちょっと自信がなさすぎなのよ。でも、安心して! 実は、こんなものを用意したの!」

 そう言って、マノンはポリーヌに小箱を差し出した。

「これは?」

 ポリーヌは、小箱を開けてみる。
 中に入っていたのは、花びらを使った可愛らしい砂糖菓子だった。ほのかに甘い香りが漂ってくる。

「惚れ薬よ!」

 マノンは、胸を張って言った。

「惚れ薬……?」

「ええ。このお砂糖にはね、恋の魔法がかけられているの。これを食べさせれば、ジェレミーさまもお姉さまの虜よ!」

 マノンは自信満々に言う。
 ポリーヌは、じっと手の中にある砂糖菓子を見つめた。

「でも、惚れ薬なんて……禁制品じゃないの?」

「大丈夫! これは危険な薬ではなく、おまじない程度だから。それに、お姉さまがジェレミーさまに振り向いてもらえないと、私も困るのよ」

「え?」

 ポリーヌは首を傾げた。
 マノンは、姉を元気づけるように言った。

「だってお姉さまが無事に結婚してくれないと、私の縁談もこじれちゃうもの。早く幸せになってもらわないと困るわ」

「え、ええ……」

 ポリーヌは戸惑ったが、妹に励まされたことで胸が温かくなった。

「ありがとう、マノン」

 そう言って微笑んだポリーヌに、マノンも笑みを返した。
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