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第3章 ハルシュタイン将軍とサリヴァンの娘
62 魔国ティナドランからの来訪
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魔国ティナドランから文官が到着する日になった。
アリシアは彼らを出迎える為、王宮前に立っていた。会議への参加と、ルアンキリ滞在中の魔人へサポートを行う予定だ。その挨拶をするために、ユウヤとルアンキリ王族の後方で待っていた。この日もダーマットと護衛一人と一緒だ。
「あ、姉さん。来たみたい」
ダーマットが小声でアリシアに言う。アリシアはドキドキする胸を手で押さえ、辺りをゆっくりと見渡す。ダーマットの言う通り、先導のルアンキリ兵士が、その後ろから護衛の魔人の兵士数人が馬に跨がって歩かせている。その更に後から馬車が一台。馬車の後ろにはもう一人馬に乗っている魔人が見えた。
「・・・!クラウス」
馬車を後から守るように警戒しているクラウスを見つけ、アリシアは思わず声を出した。
今回はシュヴィートのヴァネサではなく、普通の馬に乗っている。恐らく人類連合を刺激しないためだろう。
一ヶ月ぶりに見た彼は、見慣れた第1軍の将軍服ではなく、似ているが違うデザインの正装を身にまとっている。全体的に黒っぽいが、左肩から第1軍カラーの濃紺色の片マントを後に流していた。護衛のためか、腰には帯剣している。
(よく似合ってる。格好いい)
近寄ってくるクラウスに見惚れていると、あちらもアリシアに気付いたようだ。僅かに笑みを浮かべてアリシアを見つめる。
「へえ?あれがハルシュタイン将軍か。いい男じゃん。姉さん見て微笑んだな」
横からダーマットが小生意気に小さく言う。
ダーマットが軍に入った時には、魔国側の戦線担当はラングハイムとベルンシュタインに変わっていたので、見たことがないと言っていた。
「あんまルアンキリにはいないタイプだな。あれが俺の将来の義理の兄さんか」
しみじみと言うダーマットに、アリシアは動揺する。ダーマットは既に彼が家族になる事を意識しているようだ。
「俺はいいけど、兄さんは義理の弟が年上で、しかもあのハルシュタイン将軍だよ?ちょっと笑うよね」
「・・・そうね」
顔が赤くなる前に、ダーマットの言葉でアリシアは笑う。兄エンジュはクラウスと何度か対峙した事があると言っていた。エンジュも複雑ではあるだろう。しかしクラウスが義理の弟になる、という部分だけを抜き取ると、一体エンジュはどう感じているのだろうか。アリシアにはあのクラウスがエンジュの弟というイメージが全く湧かない。
(魔王様ならともかく、兄さんじゃね。クラウスの方が年齢も中身も大人だし)
クラウスを見つめながらふふっと笑う。そんなアリシアを見つめて、ん?とクラウスは僅かに首を傾げた。そんな彼が可愛くて、再度笑う。穏やかに笑うアリシアに、クラウスも笑みを深くした。
「うわ・・・信じてなかった訳じゃないけど、こういうの見ると本当なんだって実感するな。普通にカップルじゃん」
「かっぷる」
今度こそ顔が赤くなった。アリシアはクラウスから目を離して隣のダーマットへ顔を向けた。
「この後挨拶するんだから、ちょっと黙っててよ」
「ぶっ・・・姉さん真っ赤」
小さく吹き出して口元に手を当てたダーマットを睨んでから、再びクラウスへ視線を戻すと、クラウスも口元に手を当てていた。既に馬車は目前だ。クラウスの顔もよく見える。あれはニヤけそうになって、しかし人目があるので隠したのだろう。次の瞬間には手を降ろして真顔になっていた。
アリシアの横でクククと笑っているダーマットを放置して、アリシアは落ち着くように深呼吸を繰り返した。
そして馬車がルアンキリ王の前に着くと停止した。御者がドアを開くと、中から二人が降りてきた。
「ようこそおいでくださった。今日は歴史に残る日となるだろう。神聖ルアンキリ国王、グウェナエル=オータン=ルアンキリだ」
「はじめまして。魔国ティナドラン文官長、カール=エディンガーです。食糧、経済、運輸を担当しております」
「貴方が今回の代表だな。互いの国益へと繋がるよう、期待している。よろしく頼む」
「こちらこそ」
ルアンキリ王から手を差し出され、エディンガーは微笑んで握手を返している。
アリシアはエディンガーを見やる。アードラーはやや神経質そうな顔をしていたが、エディンガーは落ち着いた雰囲気だ。魔人の見た目年齢は相変わらず分からないが、人間で言うと40代だろうか。実年齢は知らない。
エディンガーの前にはフェルカーという人物が文官長を務めていたが、邪神の魅了に掛かってしまったので、その後任だと聞いている。
「お初にお目にかかる。エトヴィン=ヴァールブルク文官長代理、副官ローベルト=フレンツェンと申します。法律、教育、労働、戸籍を担当しております」
「前回の協議の宿題について、だな。よろしく頼む」
再びルアンキリ王が手を差し出す。フレンツェンも握手を返した。
「今回我らの護衛責任者も来ています。その者からも挨拶を」
エディンガーが言うと、クラウスは馬から降りて手綱を歩兵に渡す。ルアンキリ王の前まで来るとニコリと笑った。
「今回の護衛責任を任されている第1軍将軍、クラウス=ハルシュタインです。私はルアンキリ軍との交流もかねて参りました」
「君があの・・・!」
クラウスも来ることは知らされていたはずだが、それでも驚いたのだろう。ルアンキリ王は珍しく言葉を失ってクラウスを見つめた。
「そうか。君が・・・。もう一人の終戦の立役者だと聞いている。よく参られた。その知略と武術を是非、我が国の軍との交流の際に見せて欲しい。人類連合ではまだ戦争推進派や危険思想を持つ者も多い。迷惑をかけることになるかもしれんが、よろしく頼む」
「もちろんでございます」
差し出された手にクラウスが握手を返すと、ルアンキリ王は更にもう片方の手も添えてガッチリと握手した。
続いてユウヤが3人と挨拶を交わしていく。「よう!変わりなさそうだなー」と、アリシアから見ても『それでいいのか』と思えるほど軽い挨拶をしていた。
その後王太子シルヴァン=ラグラン=ルアンキリ、第二王子クロヴィス=ラグラン=ルアンキリが挨拶を交わしていく。
最後のバティストの段になって、エディンガーから「お久しぶりです」と声をかけていた。
そしてバティストとクラウスの挨拶になって、アリシアは緊張する。
(変に衝突しないといいけど)
というアリシアの心配を他所に、二人はにこやかに挨拶を終えた。今回は睨み合いもなく、険悪な雰囲気にならなかったことにアリシアは胸撫で下ろした。
「さて、こちらは既にご存知とは思うが」
ルアンキリ王がそう言うと、アリシアへ顔を向けた。アリシアは微笑んでルアンキリ王に頷くと、3人の前に移動した。
「ご挨拶申し上げます。アリシア=クロス=サリヴァンです。エディンガー様、フレンツェン様、ハルシュタイン将軍。お久しぶりです。今回も橋渡し役を務めさせていただきます」
笑みを浮かべて挨拶をする。エディンガーも微笑んで口を開いた。
「サリヴァン嬢。前回は大変世話になったな。お陰で随分と人類連合への理解を深めることが出来た。今回もよろしく頼みたい」
「はい。またお気になることがありましたら、何なりとお聞き下さい」
エディンガーは笑みを深めて頷く。続いてアリシアはフレンツェンへと声をかける。
「フレンツェン様もお変わりないようで。ヴァールブルク様はお元気でしょうか?大使としてお伺いした時にはお気遣い頂くことが多くて、とてもお世話になりました」
「ええ。相変わらずですよ。ヴァールブルクからもサリヴァン嬢によろしく伝えるようにと、言付かっております」
「そうですか」
ニコニコと互いに笑みを交わす。そして最後。
「ここでは『サリヴァン嬢』と言った方が良いんだろうな」
苦笑して言うクラウスに、アリシアはふふっと笑った。
「違和感が凄いですね。私が笑ってしまうかもしれません。いつも通りで構いませんよ」
そう言うと、クラウスもククッと笑った。
「私も違和感が凄いな。久しぶりだ、アリシア。手紙である程度は分かってはいたが、変わらないか?」
「はい。お陰様で。クラウスもお元気でしたか?」
「・・・まあな」
何故か間を置いてから応えるクラウスに、アリシアは違和感を感じた。しかし見る限りは元気そうだし、嬉しそうな笑みを浮かべている。
引っかかりを覚えつつも、今は聞くタイミンクではないだろうと、アリシアは流した。
クラウスはアリシアの後ろへ顔を向けて小さく笑う。
「あそこに居るのは君の弟か?そっくりだな」
「ダーマットですね。後で紹介します。と言うよりも、ダーマットが絶対に紹介しろってうるさくて」
アリシアがダーマットを見てため息をつくと、クラウスはクククと笑った。
「楽しみにしておこう」
そう言うと、クラウスは『挨拶はこれで充分』という意味でユウヤとルアンキリ王に顔を向けた。アリシアもそちらへ顔を向けると、ルアンキリ王はニコニコと笑みを浮かべていた。
「我が国にサリヴァン嬢が居てくれて良かったと、つくづく感じるな。魔国の方々と良い関係を築けているようだ。私も頼りにしているよ。仲立ちをよろしく頼む」
「恐れ入ります。もちろんでございます」
アリシアは右手を胸に、左手はスカートを少しだけ横に持ち礼をする。ルアンキリ女性の正式な礼だ。
ルアンキリ王は頷いて応えると、文官長達へ顔を向けた。
「長旅でお疲れだろう。案内の者が迎賓館へ案内する。まずはそこで落ち着かれよ」
そう伝えると、ルアンキリ王は案内役の先導に迎賓館へ向かう様に指示を出す。
「じゃあな。また後で」
クラウスはそう言うと、乗ってきた馬へと向かう。エディンガーとフレンツェンも馬車へと戻り、迎賓館へと向かっていった。
「我らも解散としよう」
ルアンキリ王の言葉に、アリシアは再度正式礼を取った。
ルアンキリ王、王太子、第二王子、そしてバティストが王宮へと向かうと、ユウヤとアリシアは後方に控えていたダーマットと護衛の元へ向かう。
「実際に話してる所を見ると、ハルシュタイン将軍って爽やかだな」
「・・・そう?」
ダーマットの言葉に、アリシアは首を傾げる。
(変なとこあるけど。まあ、それを充分賄えるほど格好いいのは確かね。爽やかさもあるけど、爽やかと変で比べたら、変なところの方が・・・)
そこまで考えて、アリシアは気付いた。クラウスの変な挙動はアリシアへの気持ちと、その気持ちに由来する不安から来ていたのだ。
「そっか」
魔国ティナドランで再会してからは、変な挙動は少なくなっていた。それはアリシアが度々気持ちを伝えていたのと比例している。
「そうよね」
智将と呼ばれる人物なのだ。普通にしている時はただただ格好いい将軍だ。
「何だよ。それより早く部屋戻ろうよ」
独り言を言うアリシアに、ダーマットが促す。
今回ユウヤとアリシア、ダーマットは王宮の客室を借りることになっている。
「そうね。行きましょう」
アリシアも王宮へと足を進めた。
アリシアは彼らを出迎える為、王宮前に立っていた。会議への参加と、ルアンキリ滞在中の魔人へサポートを行う予定だ。その挨拶をするために、ユウヤとルアンキリ王族の後方で待っていた。この日もダーマットと護衛一人と一緒だ。
「あ、姉さん。来たみたい」
ダーマットが小声でアリシアに言う。アリシアはドキドキする胸を手で押さえ、辺りをゆっくりと見渡す。ダーマットの言う通り、先導のルアンキリ兵士が、その後ろから護衛の魔人の兵士数人が馬に跨がって歩かせている。その更に後から馬車が一台。馬車の後ろにはもう一人馬に乗っている魔人が見えた。
「・・・!クラウス」
馬車を後から守るように警戒しているクラウスを見つけ、アリシアは思わず声を出した。
今回はシュヴィートのヴァネサではなく、普通の馬に乗っている。恐らく人類連合を刺激しないためだろう。
一ヶ月ぶりに見た彼は、見慣れた第1軍の将軍服ではなく、似ているが違うデザインの正装を身にまとっている。全体的に黒っぽいが、左肩から第1軍カラーの濃紺色の片マントを後に流していた。護衛のためか、腰には帯剣している。
(よく似合ってる。格好いい)
近寄ってくるクラウスに見惚れていると、あちらもアリシアに気付いたようだ。僅かに笑みを浮かべてアリシアを見つめる。
「へえ?あれがハルシュタイン将軍か。いい男じゃん。姉さん見て微笑んだな」
横からダーマットが小生意気に小さく言う。
ダーマットが軍に入った時には、魔国側の戦線担当はラングハイムとベルンシュタインに変わっていたので、見たことがないと言っていた。
「あんまルアンキリにはいないタイプだな。あれが俺の将来の義理の兄さんか」
しみじみと言うダーマットに、アリシアは動揺する。ダーマットは既に彼が家族になる事を意識しているようだ。
「俺はいいけど、兄さんは義理の弟が年上で、しかもあのハルシュタイン将軍だよ?ちょっと笑うよね」
「・・・そうね」
顔が赤くなる前に、ダーマットの言葉でアリシアは笑う。兄エンジュはクラウスと何度か対峙した事があると言っていた。エンジュも複雑ではあるだろう。しかしクラウスが義理の弟になる、という部分だけを抜き取ると、一体エンジュはどう感じているのだろうか。アリシアにはあのクラウスがエンジュの弟というイメージが全く湧かない。
(魔王様ならともかく、兄さんじゃね。クラウスの方が年齢も中身も大人だし)
クラウスを見つめながらふふっと笑う。そんなアリシアを見つめて、ん?とクラウスは僅かに首を傾げた。そんな彼が可愛くて、再度笑う。穏やかに笑うアリシアに、クラウスも笑みを深くした。
「うわ・・・信じてなかった訳じゃないけど、こういうの見ると本当なんだって実感するな。普通にカップルじゃん」
「かっぷる」
今度こそ顔が赤くなった。アリシアはクラウスから目を離して隣のダーマットへ顔を向けた。
「この後挨拶するんだから、ちょっと黙っててよ」
「ぶっ・・・姉さん真っ赤」
小さく吹き出して口元に手を当てたダーマットを睨んでから、再びクラウスへ視線を戻すと、クラウスも口元に手を当てていた。既に馬車は目前だ。クラウスの顔もよく見える。あれはニヤけそうになって、しかし人目があるので隠したのだろう。次の瞬間には手を降ろして真顔になっていた。
アリシアの横でクククと笑っているダーマットを放置して、アリシアは落ち着くように深呼吸を繰り返した。
そして馬車がルアンキリ王の前に着くと停止した。御者がドアを開くと、中から二人が降りてきた。
「ようこそおいでくださった。今日は歴史に残る日となるだろう。神聖ルアンキリ国王、グウェナエル=オータン=ルアンキリだ」
「はじめまして。魔国ティナドラン文官長、カール=エディンガーです。食糧、経済、運輸を担当しております」
「貴方が今回の代表だな。互いの国益へと繋がるよう、期待している。よろしく頼む」
「こちらこそ」
ルアンキリ王から手を差し出され、エディンガーは微笑んで握手を返している。
アリシアはエディンガーを見やる。アードラーはやや神経質そうな顔をしていたが、エディンガーは落ち着いた雰囲気だ。魔人の見た目年齢は相変わらず分からないが、人間で言うと40代だろうか。実年齢は知らない。
エディンガーの前にはフェルカーという人物が文官長を務めていたが、邪神の魅了に掛かってしまったので、その後任だと聞いている。
「お初にお目にかかる。エトヴィン=ヴァールブルク文官長代理、副官ローベルト=フレンツェンと申します。法律、教育、労働、戸籍を担当しております」
「前回の協議の宿題について、だな。よろしく頼む」
再びルアンキリ王が手を差し出す。フレンツェンも握手を返した。
「今回我らの護衛責任者も来ています。その者からも挨拶を」
エディンガーが言うと、クラウスは馬から降りて手綱を歩兵に渡す。ルアンキリ王の前まで来るとニコリと笑った。
「今回の護衛責任を任されている第1軍将軍、クラウス=ハルシュタインです。私はルアンキリ軍との交流もかねて参りました」
「君があの・・・!」
クラウスも来ることは知らされていたはずだが、それでも驚いたのだろう。ルアンキリ王は珍しく言葉を失ってクラウスを見つめた。
「そうか。君が・・・。もう一人の終戦の立役者だと聞いている。よく参られた。その知略と武術を是非、我が国の軍との交流の際に見せて欲しい。人類連合ではまだ戦争推進派や危険思想を持つ者も多い。迷惑をかけることになるかもしれんが、よろしく頼む」
「もちろんでございます」
差し出された手にクラウスが握手を返すと、ルアンキリ王は更にもう片方の手も添えてガッチリと握手した。
続いてユウヤが3人と挨拶を交わしていく。「よう!変わりなさそうだなー」と、アリシアから見ても『それでいいのか』と思えるほど軽い挨拶をしていた。
その後王太子シルヴァン=ラグラン=ルアンキリ、第二王子クロヴィス=ラグラン=ルアンキリが挨拶を交わしていく。
最後のバティストの段になって、エディンガーから「お久しぶりです」と声をかけていた。
そしてバティストとクラウスの挨拶になって、アリシアは緊張する。
(変に衝突しないといいけど)
というアリシアの心配を他所に、二人はにこやかに挨拶を終えた。今回は睨み合いもなく、険悪な雰囲気にならなかったことにアリシアは胸撫で下ろした。
「さて、こちらは既にご存知とは思うが」
ルアンキリ王がそう言うと、アリシアへ顔を向けた。アリシアは微笑んでルアンキリ王に頷くと、3人の前に移動した。
「ご挨拶申し上げます。アリシア=クロス=サリヴァンです。エディンガー様、フレンツェン様、ハルシュタイン将軍。お久しぶりです。今回も橋渡し役を務めさせていただきます」
笑みを浮かべて挨拶をする。エディンガーも微笑んで口を開いた。
「サリヴァン嬢。前回は大変世話になったな。お陰で随分と人類連合への理解を深めることが出来た。今回もよろしく頼みたい」
「はい。またお気になることがありましたら、何なりとお聞き下さい」
エディンガーは笑みを深めて頷く。続いてアリシアはフレンツェンへと声をかける。
「フレンツェン様もお変わりないようで。ヴァールブルク様はお元気でしょうか?大使としてお伺いした時にはお気遣い頂くことが多くて、とてもお世話になりました」
「ええ。相変わらずですよ。ヴァールブルクからもサリヴァン嬢によろしく伝えるようにと、言付かっております」
「そうですか」
ニコニコと互いに笑みを交わす。そして最後。
「ここでは『サリヴァン嬢』と言った方が良いんだろうな」
苦笑して言うクラウスに、アリシアはふふっと笑った。
「違和感が凄いですね。私が笑ってしまうかもしれません。いつも通りで構いませんよ」
そう言うと、クラウスもククッと笑った。
「私も違和感が凄いな。久しぶりだ、アリシア。手紙である程度は分かってはいたが、変わらないか?」
「はい。お陰様で。クラウスもお元気でしたか?」
「・・・まあな」
何故か間を置いてから応えるクラウスに、アリシアは違和感を感じた。しかし見る限りは元気そうだし、嬉しそうな笑みを浮かべている。
引っかかりを覚えつつも、今は聞くタイミンクではないだろうと、アリシアは流した。
クラウスはアリシアの後ろへ顔を向けて小さく笑う。
「あそこに居るのは君の弟か?そっくりだな」
「ダーマットですね。後で紹介します。と言うよりも、ダーマットが絶対に紹介しろってうるさくて」
アリシアがダーマットを見てため息をつくと、クラウスはクククと笑った。
「楽しみにしておこう」
そう言うと、クラウスは『挨拶はこれで充分』という意味でユウヤとルアンキリ王に顔を向けた。アリシアもそちらへ顔を向けると、ルアンキリ王はニコニコと笑みを浮かべていた。
「我が国にサリヴァン嬢が居てくれて良かったと、つくづく感じるな。魔国の方々と良い関係を築けているようだ。私も頼りにしているよ。仲立ちをよろしく頼む」
「恐れ入ります。もちろんでございます」
アリシアは右手を胸に、左手はスカートを少しだけ横に持ち礼をする。ルアンキリ女性の正式な礼だ。
ルアンキリ王は頷いて応えると、文官長達へ顔を向けた。
「長旅でお疲れだろう。案内の者が迎賓館へ案内する。まずはそこで落ち着かれよ」
そう伝えると、ルアンキリ王は案内役の先導に迎賓館へ向かう様に指示を出す。
「じゃあな。また後で」
クラウスはそう言うと、乗ってきた馬へと向かう。エディンガーとフレンツェンも馬車へと戻り、迎賓館へと向かっていった。
「我らも解散としよう」
ルアンキリ王の言葉に、アリシアは再度正式礼を取った。
ルアンキリ王、王太子、第二王子、そしてバティストが王宮へと向かうと、ユウヤとアリシアは後方に控えていたダーマットと護衛の元へ向かう。
「実際に話してる所を見ると、ハルシュタイン将軍って爽やかだな」
「・・・そう?」
ダーマットの言葉に、アリシアは首を傾げる。
(変なとこあるけど。まあ、それを充分賄えるほど格好いいのは確かね。爽やかさもあるけど、爽やかと変で比べたら、変なところの方が・・・)
そこまで考えて、アリシアは気付いた。クラウスの変な挙動はアリシアへの気持ちと、その気持ちに由来する不安から来ていたのだ。
「そっか」
魔国ティナドランで再会してからは、変な挙動は少なくなっていた。それはアリシアが度々気持ちを伝えていたのと比例している。
「そうよね」
智将と呼ばれる人物なのだ。普通にしている時はただただ格好いい将軍だ。
「何だよ。それより早く部屋戻ろうよ」
独り言を言うアリシアに、ダーマットが促す。
今回ユウヤとアリシア、ダーマットは王宮の客室を借りることになっている。
「そうね。行きましょう」
アリシアも王宮へと足を進めた。
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