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第2章 クラウスと国家動乱
36 王宮使用人
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翌日。クラウスは王宮に着くと、真っ先にハウスキーパーであるロットナーを訪ねた。
ドアをノックすると「どうぞ」と聞こえてきたので、クラウスはドアを開けて室内へ入る。
「・・・!あら、ハルシュタイン将軍がお越しになるなんて・・・」
執務机で書類仕事をしていたロットナーは、クラウスに気付いて慌てて立ち上がった。
「そのままでいい。突然悪いな。確認しておきたい事が出来て、寄らせてもらった。話を聞いたらすぐギルベルトのところに行くから」
そう言ってクラウスはロットナーを押し止める。
ロットナーとはクラウスが幼い頃からの付き合いだ。あの頃彼女はギルベルトの母の侍女をしていた。よくギルベルトに会いに来ていたクラウスは、ロットナーとも顔を合わせていた。
一方ロットナーもクラウスの性格をよく分かっている。クラウスが構わないと言うなら、本当に気にしないということだ。ロットナーは再び執務机の椅子に腰掛けた。
「・・・もしかしてレッツェルのことでしょうか?」
「そうだ。レッツェルが昨日王宮を離れたから、こっちではどういう扱いになってるのか、聞いておきたい」
ロットナーからアリシアの話が出てきたのなら、何かしら把握しているということだ。クラウスはアリシアが黙って居なくなったのか、何か話して行ったのかを確認しておきたかった。もし何も言わずに去ったのなら、連れ戻した時を考えて、今クラウスが対応しておいた方が心象は断然良くなる。
ロットナーもクラウスの考えを察したようだ。ニコリと笑みを浮かべた。
「レッツェルは昨日、ちゃんと話に来ましたよ。辞職という扱いにしましたが、戻ってきたらまた雇うつもりでおります」
クラウスはふむ、と考える。姿を消す前に辞職していたのは、なんとも真面目なアリシアらしい。それなら今後の心配は一つなくなる。
しかし今のロットナーの発言から、クラウスもアリシアから話を聞いたと思っているようだ。クラウスはアリシアが諜報員であることを知られたから姿を消したと、真実を知っている。しかしそんな事をロットナーへ馬鹿正直に話さないだろう。アリシアが何を話していったのか、表向きの理由も知っておきたい。
「実は昨日の午前中に、レッツェルに用事があって会ってたんだ。別れた後に手紙が届いて、慌てたような文字で『王宮を出るのでしばらく会えない』としか書かれていなかった。落ち着いたら詳しく教えてくれるだろうが・・・」
「あら」
ロットナーは意外だと言いたげな顔をした。それもそうだろう。アリシアは本来きちんとしている。
少し視線を下げて考える素振りをした後、ロットナーはクラウスに懇願するような顔を向けた。
「ハルシュタイン将軍。どうかレッツェルを怒らないでやって下さい。私の所に来る前に、随分泣いたようでしたから。目が真っ赤になるほど泣くなんて、余程悲しかったのでしょう」
「・・・・・・」
クラウスは手を握りしめる。
(やはり泣いていたのか)
眉を寄せて昨日のアリシアを思い出す。
クラウスが『アリシア』と呼んだら、突然ポロポロと涙を零した。本人も何故泣いているのか分からず、始めは困惑している様子を見せていたが。
クラウスは顔を上げる。クラウスが何も言わないので、ロットナーが不安そうにこちらを見ていた。
「怒ってはいないから安心してくれ。そんなに泣いたのかと思ってな・・・」
クラウスの言葉を聞いて、ロットナーはホッとした顔をした。
「そうですね・・・優しい子ですから」
そう言うとロットナーは小さく微笑んで、昨日アリシアから聞いた話を教えてくれた。
* * *
「お茶をお持ちしました」
「入れ」
クラウスが許可を出すと、応接室のドアが開いてパーラーが入ってきた。
クラウスがパーラーへ視線を向けると、目がバッチリと合う。
「・・・!失礼しました」
律儀に謝る彼女に、クラウスは小さく笑った。
「いや、いい。レッツェルの事だろう?」
「・・・!・・・はい」
ハッとした後、しゅんとして肯定したパーラー、リーゼ=ヒュフナーに、クラウスは笑いそうになった。随分と分かりやすい反応をしてくれる。急に居なくなったアリシアとの事が気になるが、それ以前に寂しくて意気消沈してます、と態度で言っている。
「君を指名したのは、レッツェルについて少し話をしようと思ってな。だから何か言いたい事があれば、遠慮せずに言ってくれ」
クラウスの言葉に、少しの間逡巡するようにこちらを見つめた後、リーゼは下を向いて給仕を始めた。
「ハルシュタイン将軍は、昨日レッツェルから事情をお聞きになりましたか?」
「いや。手紙で『王宮を出るのでしばらく会えない』とだけ。だからここに来る前にロットナーに聞いてきた」
「・・・きっと話しにくかったんでしょうね。いつ戻ってくるか分からないと言ってましたから」
「・・・なるほど。だが私は諦めるつもりはない。時間がかかっても連れ戻す。だから戻って来た時には協力してくれないか」
クラウスの言葉に、リーゼはバッと顔を上げた。
「勿論です!レッツェルは・・・本人は自覚無しでしたが、ハルシュタイン将軍を好きでしたから」
リーゼはすぐに顔を下ろすと、給仕の支度をしながら、次第にしんみりとした口調となって話す。
クラウスはリーゼの言葉を聞いて意外に思った。
昨日アリシアはクラウスの目の前で突然涙を零した。何故突然泣き始めたのか分からず、クラウスも動揺した。しかしアリシアの言動を俯瞰して考えたらすぐに分かる事だ。リーゼが言う通り、アリシアはクラウスを好きだった。その気持ちを、あの瞬間自覚したのだと。
しかしリーゼはもっと以前から、アリシアの気持ちに気付いていた。アリシアの身近にいた彼女だ。信憑性は高い。クラウスはずっとアプローチしてきて、全く歯牙にもかけられなかったのだ。リーゼの意見はやはり気になる。
「・・・君にはそう見えたか?」
「はい。ハルシュタイン将軍もご存知とは思いますが、レッツェルは恐ろしい程のおニブさんです」
クラウスは慌てて手で口を押さえた。危うく吹き出すところだった。今は笑っていい雰囲気ではない。
「ハルシュタイン将軍とレッツェルが森林公園に行った翌日に、その時の話を聞きました。あの子、シュヴィートに乗っている時にハルシュタイン将軍に後ろから支えられたって、顔を真っ赤にしてましたから」
思ってもみなかった話題に、クラウスは意表を突かれた。
確かにあの時、ヴァネサの背で左右に揺られ、アリシアがバランスを取り続けることが出来るか心配になって、後ろから支えた。クラウスとしては、好きな女に触れる事が出来て役得と思ったくらいで、その後アリシアからも特に反応は無かった。てっきり何とも思っていないと思っていた。
「レッツェルは何とも思ってない相手なら、抱きしめられたとしても、何の反応もしないと思います。それで、後で『今の何?』って言うんです」
「クッ・・・!」
口を押さえたままで良かったと、クラウスは思った。リーゼの言葉はあまりにもその通りで、想像できてしまった。
「でもハルシュタイン将軍とは、凄くドキドキしたと言ってました。家族以外の男の人と相乗りが初めてだったからって言ってましたけど、何とも思ってなければ、あの超絶おニブさんは絶対にケロッとしてます」
「・・・君は、私を笑わせにきているのか」
リーゼの話は、本当ならもちろん嬉しいに決まっている。ずっとそれを求めていたのだから。しかしその後に続く言葉で、想像してしまいどうしても笑いがおこる。
クラウスは体を震わせながら、笑ってしまうのを誤魔化すように抗議を入れる。
「あら・・・すみません」
リーゼは給仕に集中していたのか、クラウスの反応に今気付いたようだ。口に指を当てて謝った。
「いや・・・こちらこそ悪かった」
その反応から、リーゼは真面目に言っていたのだと気付き、少しむせながらクラウスも謝った。
「しかし・・・そうか」
あの時から少しは自分を意識してくれていたのか。クラウスはふ、と僅かに笑みを浮かべた。
それに連動してクラウスの頭に森林公園に行った日が浮かぶ。あの日のアリシアも可愛かった。初めて共に食事をしたが、サンドイッチを静かに、しかしニコニコしながら食べていた。ふいに顔を上げて近くの樹の上を眺め、パンを千切って樹の根本に投げた。何かと思えば、鳥が降りてきてそのパンを啄む。その様を嬉しそうに眺めていた。
「・・・レッツェルは凄く優しい子なんです」
リーゼの声に、ハッとクラウスは現実に引き戻された。
(アリシアを思い出してニヤつくところだった)
クラウスは顔の筋肉の力を抜いて、意識的に真顔になる。リーゼに変な目で見られるところだった。いや、アリシアには既に変な目で見られていたが。
クラウスはリーゼに意識を向けて耳を傾ける。
「いつも周りを良く見てて、調子の悪い人や元気無い人にすぐ気付きます。困ってる人にも手を差し伸べて、自分の利益なんて全然考えてない。自分がやることで全体が良くなるなら、それで良いって。だからパーラーは皆レッツェルが好きなんです。勿論私もです。ですから、あのおニブさんが幸せになれるなら、私は全力で応援します」
リーゼは言いながらテーブルにお菓子を置き、流れるような手つきで紅茶をティーカップに注ぐと、クラウスの前に出した。
「そうか。レッツェルと仲の良い君の協力を得られるなら、とても心強いな」
クラウスは笑みを浮かべてそう言うと、ティーカップに口をつけた。
そんなクラウスを見つめて、リーゼは何か迷っている様子を見せている。クラウスはティーカップをテーブルに置くと、「どうかしたか?」と問いかけた。
「・・・・・・内緒にして欲しいっていう、レッツェルとの約束を破ることになりますが・・・でもハルシュタイン将軍には知っていただきたい事があります。・・・あと秘密を一人で抱えていたくないという、私の我が儘もありますが」
「・・・分かった。聞いてみないことには分からないが、なるべく口外しないと約束しよう」
リーゼは頷いて、口を開いた。
ドアをノックすると「どうぞ」と聞こえてきたので、クラウスはドアを開けて室内へ入る。
「・・・!あら、ハルシュタイン将軍がお越しになるなんて・・・」
執務机で書類仕事をしていたロットナーは、クラウスに気付いて慌てて立ち上がった。
「そのままでいい。突然悪いな。確認しておきたい事が出来て、寄らせてもらった。話を聞いたらすぐギルベルトのところに行くから」
そう言ってクラウスはロットナーを押し止める。
ロットナーとはクラウスが幼い頃からの付き合いだ。あの頃彼女はギルベルトの母の侍女をしていた。よくギルベルトに会いに来ていたクラウスは、ロットナーとも顔を合わせていた。
一方ロットナーもクラウスの性格をよく分かっている。クラウスが構わないと言うなら、本当に気にしないということだ。ロットナーは再び執務机の椅子に腰掛けた。
「・・・もしかしてレッツェルのことでしょうか?」
「そうだ。レッツェルが昨日王宮を離れたから、こっちではどういう扱いになってるのか、聞いておきたい」
ロットナーからアリシアの話が出てきたのなら、何かしら把握しているということだ。クラウスはアリシアが黙って居なくなったのか、何か話して行ったのかを確認しておきたかった。もし何も言わずに去ったのなら、連れ戻した時を考えて、今クラウスが対応しておいた方が心象は断然良くなる。
ロットナーもクラウスの考えを察したようだ。ニコリと笑みを浮かべた。
「レッツェルは昨日、ちゃんと話に来ましたよ。辞職という扱いにしましたが、戻ってきたらまた雇うつもりでおります」
クラウスはふむ、と考える。姿を消す前に辞職していたのは、なんとも真面目なアリシアらしい。それなら今後の心配は一つなくなる。
しかし今のロットナーの発言から、クラウスもアリシアから話を聞いたと思っているようだ。クラウスはアリシアが諜報員であることを知られたから姿を消したと、真実を知っている。しかしそんな事をロットナーへ馬鹿正直に話さないだろう。アリシアが何を話していったのか、表向きの理由も知っておきたい。
「実は昨日の午前中に、レッツェルに用事があって会ってたんだ。別れた後に手紙が届いて、慌てたような文字で『王宮を出るのでしばらく会えない』としか書かれていなかった。落ち着いたら詳しく教えてくれるだろうが・・・」
「あら」
ロットナーは意外だと言いたげな顔をした。それもそうだろう。アリシアは本来きちんとしている。
少し視線を下げて考える素振りをした後、ロットナーはクラウスに懇願するような顔を向けた。
「ハルシュタイン将軍。どうかレッツェルを怒らないでやって下さい。私の所に来る前に、随分泣いたようでしたから。目が真っ赤になるほど泣くなんて、余程悲しかったのでしょう」
「・・・・・・」
クラウスは手を握りしめる。
(やはり泣いていたのか)
眉を寄せて昨日のアリシアを思い出す。
クラウスが『アリシア』と呼んだら、突然ポロポロと涙を零した。本人も何故泣いているのか分からず、始めは困惑している様子を見せていたが。
クラウスは顔を上げる。クラウスが何も言わないので、ロットナーが不安そうにこちらを見ていた。
「怒ってはいないから安心してくれ。そんなに泣いたのかと思ってな・・・」
クラウスの言葉を聞いて、ロットナーはホッとした顔をした。
「そうですね・・・優しい子ですから」
そう言うとロットナーは小さく微笑んで、昨日アリシアから聞いた話を教えてくれた。
* * *
「お茶をお持ちしました」
「入れ」
クラウスが許可を出すと、応接室のドアが開いてパーラーが入ってきた。
クラウスがパーラーへ視線を向けると、目がバッチリと合う。
「・・・!失礼しました」
律儀に謝る彼女に、クラウスは小さく笑った。
「いや、いい。レッツェルの事だろう?」
「・・・!・・・はい」
ハッとした後、しゅんとして肯定したパーラー、リーゼ=ヒュフナーに、クラウスは笑いそうになった。随分と分かりやすい反応をしてくれる。急に居なくなったアリシアとの事が気になるが、それ以前に寂しくて意気消沈してます、と態度で言っている。
「君を指名したのは、レッツェルについて少し話をしようと思ってな。だから何か言いたい事があれば、遠慮せずに言ってくれ」
クラウスの言葉に、少しの間逡巡するようにこちらを見つめた後、リーゼは下を向いて給仕を始めた。
「ハルシュタイン将軍は、昨日レッツェルから事情をお聞きになりましたか?」
「いや。手紙で『王宮を出るのでしばらく会えない』とだけ。だからここに来る前にロットナーに聞いてきた」
「・・・きっと話しにくかったんでしょうね。いつ戻ってくるか分からないと言ってましたから」
「・・・なるほど。だが私は諦めるつもりはない。時間がかかっても連れ戻す。だから戻って来た時には協力してくれないか」
クラウスの言葉に、リーゼはバッと顔を上げた。
「勿論です!レッツェルは・・・本人は自覚無しでしたが、ハルシュタイン将軍を好きでしたから」
リーゼはすぐに顔を下ろすと、給仕の支度をしながら、次第にしんみりとした口調となって話す。
クラウスはリーゼの言葉を聞いて意外に思った。
昨日アリシアはクラウスの目の前で突然涙を零した。何故突然泣き始めたのか分からず、クラウスも動揺した。しかしアリシアの言動を俯瞰して考えたらすぐに分かる事だ。リーゼが言う通り、アリシアはクラウスを好きだった。その気持ちを、あの瞬間自覚したのだと。
しかしリーゼはもっと以前から、アリシアの気持ちに気付いていた。アリシアの身近にいた彼女だ。信憑性は高い。クラウスはずっとアプローチしてきて、全く歯牙にもかけられなかったのだ。リーゼの意見はやはり気になる。
「・・・君にはそう見えたか?」
「はい。ハルシュタイン将軍もご存知とは思いますが、レッツェルは恐ろしい程のおニブさんです」
クラウスは慌てて手で口を押さえた。危うく吹き出すところだった。今は笑っていい雰囲気ではない。
「ハルシュタイン将軍とレッツェルが森林公園に行った翌日に、その時の話を聞きました。あの子、シュヴィートに乗っている時にハルシュタイン将軍に後ろから支えられたって、顔を真っ赤にしてましたから」
思ってもみなかった話題に、クラウスは意表を突かれた。
確かにあの時、ヴァネサの背で左右に揺られ、アリシアがバランスを取り続けることが出来るか心配になって、後ろから支えた。クラウスとしては、好きな女に触れる事が出来て役得と思ったくらいで、その後アリシアからも特に反応は無かった。てっきり何とも思っていないと思っていた。
「レッツェルは何とも思ってない相手なら、抱きしめられたとしても、何の反応もしないと思います。それで、後で『今の何?』って言うんです」
「クッ・・・!」
口を押さえたままで良かったと、クラウスは思った。リーゼの言葉はあまりにもその通りで、想像できてしまった。
「でもハルシュタイン将軍とは、凄くドキドキしたと言ってました。家族以外の男の人と相乗りが初めてだったからって言ってましたけど、何とも思ってなければ、あの超絶おニブさんは絶対にケロッとしてます」
「・・・君は、私を笑わせにきているのか」
リーゼの話は、本当ならもちろん嬉しいに決まっている。ずっとそれを求めていたのだから。しかしその後に続く言葉で、想像してしまいどうしても笑いがおこる。
クラウスは体を震わせながら、笑ってしまうのを誤魔化すように抗議を入れる。
「あら・・・すみません」
リーゼは給仕に集中していたのか、クラウスの反応に今気付いたようだ。口に指を当てて謝った。
「いや・・・こちらこそ悪かった」
その反応から、リーゼは真面目に言っていたのだと気付き、少しむせながらクラウスも謝った。
「しかし・・・そうか」
あの時から少しは自分を意識してくれていたのか。クラウスはふ、と僅かに笑みを浮かべた。
それに連動してクラウスの頭に森林公園に行った日が浮かぶ。あの日のアリシアも可愛かった。初めて共に食事をしたが、サンドイッチを静かに、しかしニコニコしながら食べていた。ふいに顔を上げて近くの樹の上を眺め、パンを千切って樹の根本に投げた。何かと思えば、鳥が降りてきてそのパンを啄む。その様を嬉しそうに眺めていた。
「・・・レッツェルは凄く優しい子なんです」
リーゼの声に、ハッとクラウスは現実に引き戻された。
(アリシアを思い出してニヤつくところだった)
クラウスは顔の筋肉の力を抜いて、意識的に真顔になる。リーゼに変な目で見られるところだった。いや、アリシアには既に変な目で見られていたが。
クラウスはリーゼに意識を向けて耳を傾ける。
「いつも周りを良く見てて、調子の悪い人や元気無い人にすぐ気付きます。困ってる人にも手を差し伸べて、自分の利益なんて全然考えてない。自分がやることで全体が良くなるなら、それで良いって。だからパーラーは皆レッツェルが好きなんです。勿論私もです。ですから、あのおニブさんが幸せになれるなら、私は全力で応援します」
リーゼは言いながらテーブルにお菓子を置き、流れるような手つきで紅茶をティーカップに注ぐと、クラウスの前に出した。
「そうか。レッツェルと仲の良い君の協力を得られるなら、とても心強いな」
クラウスは笑みを浮かべてそう言うと、ティーカップに口をつけた。
そんなクラウスを見つめて、リーゼは何か迷っている様子を見せている。クラウスはティーカップをテーブルに置くと、「どうかしたか?」と問いかけた。
「・・・・・・内緒にして欲しいっていう、レッツェルとの約束を破ることになりますが・・・でもハルシュタイン将軍には知っていただきたい事があります。・・・あと秘密を一人で抱えていたくないという、私の我が儘もありますが」
「・・・分かった。聞いてみないことには分からないが、なるべく口外しないと約束しよう」
リーゼは頷いて、口を開いた。
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