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第1章 アリシアの諜報活動
30 事態収束
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全員顔色を変えて口を噤み、ドアの方へ視線を向ける。
「すみません、少しでいいので、出てきていただけませんか」
男性の低い声が聞こえ、再びドアをノックする音が聞こえた。
「・・・嘘でしょ」
発言中だった先輩パーラーが小さく漏らす。
「落ち着いて。絶対に出たら駄目よ」
静かに立ち上がったエルゼは、ドアへ視線を向けたまま、アリシア達に囁いた。そしてアリシア達を守るように、ドアの方へ少し出て警戒している。
(・・・まさかここに来るなんて・・・)
アリシアは動揺がそのまま心の中で言葉になったが、理性ですぐに否定した。接客担当のパーラーが必ず1階給仕準備室にいるのは、少し考えたら分かることだ。
(でもじゃあ、なんで声をかけてきたの?)
これは魔王暗殺計画だ。そうであれば魔王ギルベルトの執務室がある2階に向かうはずなのだが。
「・・・人質・・・が、欲しいとか・・・?」
魔王ギルベルトの身辺はリーネルト将軍が固めているだろう。手出しが出来ずに仕方なく1階に戻り、確実に人がいる給仕準備室で声を掛ける。そこで人質を得て、取引を持ち掛けるつもりだろうか。
「・・・あり得るわ。向こうは軍人よ。私達はいざとなったら抵抗なんて出来ないし・・・」
アリシアの呟きに、エルゼは小さく答えた。
「・・・魔力枯渇で倒れるから、これはしたくなかったけど、致し方ないわね」
続けて小さく独り言を言うと、エルゼはアリシア達へ振り返った。
「王宮じゃ私達は術を使えない。でもここに例の不審者がいる事は連絡する必要がある。万が一ドアを無理矢理こじ開けて私達が捕らえられたら、リーネルト将軍の邪魔になるわ。じゃあどうするかっていうと、これよ」
エルゼは胸元のパーラーメイド長を示すブローチを触る。
「緊急通達は上から下に流すのは容易だけど、下から上に流す仕組みはないの。もしやるとしたら、この魔道具の流れに逆らうわけだから、その分多くの魔力を使うわ。でも他に方法がない。私が倒れたら、窓際まで下がりなさい」
「・・・!分かりました」
アリシア達は息を呑みつつ、しっかりと頷いた。
アリシア達一般パーラーのブローチは受信専用だ。パーラーメイド長エルゼのブローチは一般パーラーに向けて発信ができるようになっている。そしてブローチは登録した持ち主の魔力しか受け付けない。エルゼが言う通り、ここは任せたほうが良いだろう。
エルゼは一旦座ると、集中して魔力をブローチへと集める。横で見ているアリシア達にも、その威圧を感じる程の量だ。
(こんなに必要なの・・・)
アリシアは魔術はまだまだ初心者だ。これ程の集中は出来ないだろう。
アリシア達が息を呑んで見守る中、エルゼは声を上げた。
「・・・パーラーメイド長エルゼ=ケルナーです。たった今、1階給仕準備室前に不審者が」
そこまで言うとエルゼが倒れた。全て言う前に魔力が尽きてしまったようだ。恐ろしい程の魔力を集めても、この長さしか持たないとは、とアリシアは舌を巻く。しかし今ので充分伝わっただろう。
アリシア達は倒れるエルゼを慌てて支え、ゆっくりと音を立てないように窓際へ移動する。
「すぐ来てくれるといいけど・・・」
先輩パーラーが呟くと、再びドアがノックされた。
「パーラーならいますよね?お伝えしたい事があるので、出てきてください」
「・・・まだいた」
「私達に伝えたいことって何よ」
「外にいる近衛に言えばいいじゃない」
リーゼと先輩パーラー達が囁く。本当にその通りだと、アリシアは頷いた。
(今連絡したから、捕まえる為にはここにいてくれた方がいいんだろうけど・・・出来ればどこかに行って欲しい)
扉を壊して入ってきたらどうしようと、アリシアは冷や汗をかく。さっきと比べられないほど、不安と緊張で胸が早鐘を打っている。
(もし・・・万が一無理矢理入ってきたら・・・)
アリシアは倒れたエルゼとリーゼ達を見る。
アリシアは護身術を扱えるが、魔国の軍人にどれ程通用するか分からない。一人ならなんとかなる可能性もあるが、彼女らを見捨てる事は出来ない。
(・・・死なせたくない。うん。絶対にそれは嫌。なら、腹を括るしか無い。魔術は使えないから、精霊術で対抗して、それでも駄目だったら・・・精霊神様から授かった例の術を発動させるしか)
どちらにせよ、精霊術を発動させたが最後、正体がバレてしまう。不審者を制したらすぐに帰還の術で逃げなければ。
その時の為に備え、アリシアはゆっくりと呼吸を整える。動転している間に誰かが傷つくような事は絶対に避けたい。
「万が一入ってきたら、私が対応する」
腹が決まったアリシアは、一人立ち上がり、皆の前に立った。
「ミリィ!?」
「対応って・・・」
驚くリーゼと先輩にアリシアは続ける。
「護身術だけど、この中で武術を扱えるのは私だけでしょ?時間稼ぎくらいは出来ると思うから」
「そんなの駄目よ!」
「でも全員捕まるわけにはいかないじゃない」
「それはそうだけど・・・」
「万が一だから」
安心させるように振り向いて微笑むと、心配そうに伺うリーゼだが、先輩パーラーの一人は頷いた。
「絶対に無理しちゃ駄目よ」
「うん。もちろん」
アリシアはしっかり頷くと、前を向いて警戒する。
「誰もいないのか?そんなハズは・・・」
大きい独り言が聞こえた後、ドアをドンドンドンと強く叩き始めた。
「誰かいるだろ!?聞こえないのか!」
アリシアはいよいよかと、護身術の構えを取る。精霊術もすぐに放てるように、精霊に呼びかけた。
「いたぞ!」
「捕らえろ!」
「ええ!?なんで・・・!」
数人の走ってくる足音と怒鳴り声が遠くから聞こえ、ドアのすぐ近くで戸惑う声がする。
アリシア達は警戒を解かず、息を潜めて経緯を見守る。第3軍が到着したのは分かるが、不審者がどのような手練れかも分からない。全員倒して、ドアを蹴破ってくる可能性だってあるのだ。
暫しの間喧騒が聞こえた後、再びドアがノックされた。
「第3軍バルト千人隊所属ダニエル=ヘルマンです!鍵を開けます!」
「・・・!どうぞ!」
呼び掛けにアリシアが答えると、ガチャガチャと鍵を回す音が聞こえ、すぐにドアが開いた。ドアの向こうには第3軍の紫紺色の軍服に身を包んだ人物が立っていた。アリシアはようやく安堵のため息をついて、構えを解いてお辞儀をする。
「パーラーメイド、アメリア=レッツェルです。パーラーメイド長エルゼ=ケルナーは先程緊急通達の逆使用で魔力欠乏により気を失っています」
アリシアが説明すると、後に控えていたリーゼと先輩パーラーも名乗っていく。
ヘルマンと名乗った彼の後に、紙を持った別の第3軍所属の兵士が見える。紙にチェックを入れると、「確認取れました」と報告している。
ヘルマンは頷くと、アリシア達へ視線を向ける。
「ご連絡頂いた不審者は捕らえました。念の為他にも紛れていないか、室内の捜索を行います」
「はい。お願いします」
先輩パーラーが反応すると、ドアから5人の第3軍の兵士が室内に入り、部屋の隅々まで検分していく。
それを眺めていたアリシア達にヘルマンが近寄ってきた。
「ご無事でなりよりです。確認が取れましたら、室内と外に警備として数人置いていきます」
「ありがとうございます!怖かったのでとても助かります!」
「良かった」
「エルゼさんのお陰ね」
先輩パーラーが応え、それにリーゼと別の先輩も応えている。
アリシアは開いたままのドアの外を見やる。しかしそこには不審者とされる男の姿は見当たらず、第3軍の紫紺の軍服が沢山見えるのみだった。
(魔王様はご無事。不審者も捕えて、私達も怪我はない。良かった・・・)
はー、と大きく息を吐くと、安堵のせいかクラリと目が回った。
アリシアの後ろでは、倒れたエルゼを抱え、リーゼと先輩達が床にしゃがみ込んでいる。
「ごめんなさい。安心したらちょっとフラフラして・・・悪いけど、先に座らせてもらうね」
「・・・!無理しないで。ありがとうレッツェル」
「あなたが前に出て警戒してくれて、凄く心強かったわ。こっちは気にせず休んでちょうだい」
「本当に。ありがとうミリィ」
三人から労う言葉をもらい、アリシアは笑みを浮かべて頷いた。
先輩パーラーがアリシアに「大丈夫?」と言いながら立ち上がろうとして、自分も足が震えている事に気付き、立ち上がるのを断念した。もう一人の先輩とリーゼはエルゼを支えていて立ち上がれない。
それを見ていたヘルマンは、「大丈夫ですか?」とアリシアに声をかけると、「失礼」と言ってアリシアの肩を抱いた。そして近くの椅子まで誘導してくれる。
「すみません。ありがとうございます」
「いえ」
椅子に腰掛けながら礼を言うと、ヘルマンは笑みを浮かべて応えた。
「あの、ヘルマンさん。救護室は制圧されましたか?魔力欠乏で気を失っているエルゼさんを、落ち着いた場所で寝かせてあげたいのですが」
アリシアに手を貸すヘルマンに、気さくさを感じたのだろう。先輩パーラーが尋ねると、彼は外にいる兵士に合図をして呼び寄せる。
「他の隊が制圧しているはずですので、その方は我々がお運びしましょう」
笑みを浮かべてそう言うと、呼び寄せた兵士に指示を出してエルゼを抱き上げさせる。兵士はそのままエルゼを連れて、廊下へと出ていった。
「あなた方は制圧が終わるまで、この部屋で待機をお願いします。何かあれば部屋に残した者に言いつけてください」
「はい。よろしくお願いします」
エルゼを支えていた先輩パーラーが立ち上がってお礼を言うと、廊下が少しザワついた。何だろうとアリシアがドアへ視線を向けると、廊下に濃紺が見えた。
「・・・レッツェル、無事か」
「え」
目が合ったと思ったら、アリシアが座る窓際まであっという間に歩み寄り、両肩に手を置かれた。
「ハ・・・ハルシュタイン将軍・・・?」
「怪我は?」
戸惑うアリシアを他所に、突然現れたハルシュタイン将軍は、アリシアの体をあちこち見やる。
ハルシュタイン将軍の行動に動揺しながらも、彼が纏う濃紺色の将軍服の腕や脇腹に焦げ跡やスッパリと切れている箇所がアリシアの目についた。
「ハルシュタイン将軍こそ・・・!どうしたんですかこれは・・・」
アリシアは驚いて声を上げた。血が滲んでないので、大きな怪我ではなさそうだ。しかしどう見ても、アリシアよりハルシュタイン将軍の方が酷い有様だ。
「ああ・・・」
言われて気が付いた、と言うようにハルシュタイン将軍は己の腕を見て、室内を見渡す。そしてそばに立つヘルマンに顔を向けた。
「少しの間防音結界を張る」
「はっ!」
ヘルマンの敬礼を確認すると、ハルシュタイン将軍は呪文を唱え、アリシアとハルシュタイン将軍が入る程度の小さい結界を張った。
「ギルベルトが公表するまで口外はなしだ。ここに来る前にヴュンシュマン将軍を拘束した。抵抗されたから、応戦した時に少し服をかすっただけだ。怪我はない」
「・・・そうだったんですか。では暗殺計画は片が付いたんですね」
「お陰様でな」
ホッとするアリシアのあちこちに、ハルシュタイン将軍は再び視線を巡らす。
「で、怪我は。顔色が悪いが、どこか悪いのか?」
最後はじっと見つめられ、距離の近さにアリシアは動揺する。肩にもまだ手が乗せられたままだ。
「怪我はありませんし、その・・・緊張したので、第3軍の方々が来てくださって、安心から少しふらついただけです」
「そうか」
あからさまにホッとして笑みを浮かべるハルシュタイン将軍に、アリシアは目が釘付けになった。また、あの力の抜けた笑みを浮かべている。
「ヘルマン隊長!確認完了致しました!異常ありません!」
部屋の検分終了を知らせる声に、アリシアはハッとした。慌てて周りを見渡すと、リーゼと先輩パーラー二人はアリシア達を見てニヤニヤしている。ヘルマンは報告をあげた軍人に「承知した」と応えた後、ハルシュタイン将軍を伺うように視線をこちらへ向けた。他の兵士達もアリシア達に視線を向けている。
居たたまれなさに、アリシアは慌てた。
「あの!ハルシュタイン将軍!」
「・・・ああ。全く・・・」
慌てるアリシアとは対象的に、面倒だと言いたげにアリシアの肩から手を離し、上体を起こす。サッと手を払う仕草をして、防音結界を解除した。
「五百人隊長のヘルマンだったか。私はギルベルト様とリーネルト将軍に報告がある。このまま執務室へ向かう。お前達はリーネルト将軍の指示通り、引き続き任務を頼む」
「はっ!」
ヘルマンの敬礼に合わせ、周りの兵士も声なく敬礼をする。
(・・・こういうところ見ると、やっぱりハルシュタイン将軍は将軍なのね)
別の軍ではあるが、第1軍と第3軍は少し前まで共に戦線に出ていた。将軍同士の仲も良いので、軍内部でも交流があるのだろう。
ハルシュタイン将軍は頼んだぞと言わんばかりにヘルマンの肩を軽く叩くと、室内の兵士へ視線を巡らせる。すると皆その一瞬で体を強張らせた。
「・・・?」
ハルシュタイン将軍から鋭い気が発されたように感じたが、何故このタイミングで味方軍に対して威嚇をするのだろうか。
アリシアは内心首を傾げて様子を伺うが、アリシア達に振り向いたハルシュタイン将軍はいつも通りの雰囲気に戻っていた。
「まだ完全には安全が確認されていない。指示に従って、無理をするなよ」
「はい・・・」
ハルシュタイン将軍はアリシアの目を見て言うので、取り合えず良くわからないまま頷くと、彼は素早く部屋を出ていった。
「お前達、分かっているな。余計な事はするなよ」
「はっ!」
ヘルマンがため息をついて言うと、周りの兵士達は再び敬礼した。
「では、私共は次へ参りますのでこれで失礼します」
「はい!ありがとうございました!」
戸惑うアリシアの後から、先輩パーラーが元気よく応えた。
ヘルマンは廊下に出ると指示を飛ばす。兵士が二人室内に残り、ドアが閉められた。
「・・・え?最後のは何だったの?」
先輩パーラーが室内に残った兵士二人に礼を伝えている。それを横目に、アリシアは近寄ってきたリーゼに問う。
「もー相変わらずのおニブさんなんだから」
困った子を見るような顔でリーゼは笑う。
「え・・・?おニブ・・・?」
「あれで気付かないなんてねぇ。ハルシュタイン将軍も心配でわざわざ寄られたのに、こんなの見たら気が気じゃないわね」
「え?」
もう一人の先輩パーラーはニヤニヤしながら、リーゼに続いてアリシアに近寄って小声で伝えてくる。
「全く・・・。いーい?ミリィは全く、まぁぁぁぁったく気付いてなかったと思うけど!第3軍の兵士さん達がこの部屋に入ってきた時、全員ミリィの顔を二度見して、その後もずっとチラチラ見てたのよ」
「・・・は?」
「あのヘルマンさん以外は全員ね。だからヘルマンさん、ずっとレッツェルの近くにいたでしょ?」
リーゼの言葉に先輩が補足する。それに頷いてリーゼは続ける。
「そっ!で、ハルシュタイン将軍がいらっしゃって、ミリィが噂のお相手だって気付いたんじゃない?今度は違う意味でチラチラ見てたから、ハルシュタイン将軍がカツを入れてったのよ」
「ヘルマンさんも釘刺してたじゃない」
「え!?余計なことって、私!?」
「そうよ。ミリィにちょっかい掛けるなって事。やっと分かった?」
リーゼは呆れ顔でアリシアを見ながら腕を組む。
「皆、ミリィがあんまりにも美人さんだからビックリして、任務中なのにデレデレしてたのよ」
「私も時々見惚れちゃうくらいだものねー」
先輩がニコニコしながら、アリシアの頭をナデナデする。
「・・・・・・・・・・・・」
アリシアは困ったような拗ねたような、何とも言えない微妙な顔で、リーゼと先輩の顔を交互に見やるのだった。
「すみません、少しでいいので、出てきていただけませんか」
男性の低い声が聞こえ、再びドアをノックする音が聞こえた。
「・・・嘘でしょ」
発言中だった先輩パーラーが小さく漏らす。
「落ち着いて。絶対に出たら駄目よ」
静かに立ち上がったエルゼは、ドアへ視線を向けたまま、アリシア達に囁いた。そしてアリシア達を守るように、ドアの方へ少し出て警戒している。
(・・・まさかここに来るなんて・・・)
アリシアは動揺がそのまま心の中で言葉になったが、理性ですぐに否定した。接客担当のパーラーが必ず1階給仕準備室にいるのは、少し考えたら分かることだ。
(でもじゃあ、なんで声をかけてきたの?)
これは魔王暗殺計画だ。そうであれば魔王ギルベルトの執務室がある2階に向かうはずなのだが。
「・・・人質・・・が、欲しいとか・・・?」
魔王ギルベルトの身辺はリーネルト将軍が固めているだろう。手出しが出来ずに仕方なく1階に戻り、確実に人がいる給仕準備室で声を掛ける。そこで人質を得て、取引を持ち掛けるつもりだろうか。
「・・・あり得るわ。向こうは軍人よ。私達はいざとなったら抵抗なんて出来ないし・・・」
アリシアの呟きに、エルゼは小さく答えた。
「・・・魔力枯渇で倒れるから、これはしたくなかったけど、致し方ないわね」
続けて小さく独り言を言うと、エルゼはアリシア達へ振り返った。
「王宮じゃ私達は術を使えない。でもここに例の不審者がいる事は連絡する必要がある。万が一ドアを無理矢理こじ開けて私達が捕らえられたら、リーネルト将軍の邪魔になるわ。じゃあどうするかっていうと、これよ」
エルゼは胸元のパーラーメイド長を示すブローチを触る。
「緊急通達は上から下に流すのは容易だけど、下から上に流す仕組みはないの。もしやるとしたら、この魔道具の流れに逆らうわけだから、その分多くの魔力を使うわ。でも他に方法がない。私が倒れたら、窓際まで下がりなさい」
「・・・!分かりました」
アリシア達は息を呑みつつ、しっかりと頷いた。
アリシア達一般パーラーのブローチは受信専用だ。パーラーメイド長エルゼのブローチは一般パーラーに向けて発信ができるようになっている。そしてブローチは登録した持ち主の魔力しか受け付けない。エルゼが言う通り、ここは任せたほうが良いだろう。
エルゼは一旦座ると、集中して魔力をブローチへと集める。横で見ているアリシア達にも、その威圧を感じる程の量だ。
(こんなに必要なの・・・)
アリシアは魔術はまだまだ初心者だ。これ程の集中は出来ないだろう。
アリシア達が息を呑んで見守る中、エルゼは声を上げた。
「・・・パーラーメイド長エルゼ=ケルナーです。たった今、1階給仕準備室前に不審者が」
そこまで言うとエルゼが倒れた。全て言う前に魔力が尽きてしまったようだ。恐ろしい程の魔力を集めても、この長さしか持たないとは、とアリシアは舌を巻く。しかし今ので充分伝わっただろう。
アリシア達は倒れるエルゼを慌てて支え、ゆっくりと音を立てないように窓際へ移動する。
「すぐ来てくれるといいけど・・・」
先輩パーラーが呟くと、再びドアがノックされた。
「パーラーならいますよね?お伝えしたい事があるので、出てきてください」
「・・・まだいた」
「私達に伝えたいことって何よ」
「外にいる近衛に言えばいいじゃない」
リーゼと先輩パーラー達が囁く。本当にその通りだと、アリシアは頷いた。
(今連絡したから、捕まえる為にはここにいてくれた方がいいんだろうけど・・・出来ればどこかに行って欲しい)
扉を壊して入ってきたらどうしようと、アリシアは冷や汗をかく。さっきと比べられないほど、不安と緊張で胸が早鐘を打っている。
(もし・・・万が一無理矢理入ってきたら・・・)
アリシアは倒れたエルゼとリーゼ達を見る。
アリシアは護身術を扱えるが、魔国の軍人にどれ程通用するか分からない。一人ならなんとかなる可能性もあるが、彼女らを見捨てる事は出来ない。
(・・・死なせたくない。うん。絶対にそれは嫌。なら、腹を括るしか無い。魔術は使えないから、精霊術で対抗して、それでも駄目だったら・・・精霊神様から授かった例の術を発動させるしか)
どちらにせよ、精霊術を発動させたが最後、正体がバレてしまう。不審者を制したらすぐに帰還の術で逃げなければ。
その時の為に備え、アリシアはゆっくりと呼吸を整える。動転している間に誰かが傷つくような事は絶対に避けたい。
「万が一入ってきたら、私が対応する」
腹が決まったアリシアは、一人立ち上がり、皆の前に立った。
「ミリィ!?」
「対応って・・・」
驚くリーゼと先輩にアリシアは続ける。
「護身術だけど、この中で武術を扱えるのは私だけでしょ?時間稼ぎくらいは出来ると思うから」
「そんなの駄目よ!」
「でも全員捕まるわけにはいかないじゃない」
「それはそうだけど・・・」
「万が一だから」
安心させるように振り向いて微笑むと、心配そうに伺うリーゼだが、先輩パーラーの一人は頷いた。
「絶対に無理しちゃ駄目よ」
「うん。もちろん」
アリシアはしっかり頷くと、前を向いて警戒する。
「誰もいないのか?そんなハズは・・・」
大きい独り言が聞こえた後、ドアをドンドンドンと強く叩き始めた。
「誰かいるだろ!?聞こえないのか!」
アリシアはいよいよかと、護身術の構えを取る。精霊術もすぐに放てるように、精霊に呼びかけた。
「いたぞ!」
「捕らえろ!」
「ええ!?なんで・・・!」
数人の走ってくる足音と怒鳴り声が遠くから聞こえ、ドアのすぐ近くで戸惑う声がする。
アリシア達は警戒を解かず、息を潜めて経緯を見守る。第3軍が到着したのは分かるが、不審者がどのような手練れかも分からない。全員倒して、ドアを蹴破ってくる可能性だってあるのだ。
暫しの間喧騒が聞こえた後、再びドアがノックされた。
「第3軍バルト千人隊所属ダニエル=ヘルマンです!鍵を開けます!」
「・・・!どうぞ!」
呼び掛けにアリシアが答えると、ガチャガチャと鍵を回す音が聞こえ、すぐにドアが開いた。ドアの向こうには第3軍の紫紺色の軍服に身を包んだ人物が立っていた。アリシアはようやく安堵のため息をついて、構えを解いてお辞儀をする。
「パーラーメイド、アメリア=レッツェルです。パーラーメイド長エルゼ=ケルナーは先程緊急通達の逆使用で魔力欠乏により気を失っています」
アリシアが説明すると、後に控えていたリーゼと先輩パーラーも名乗っていく。
ヘルマンと名乗った彼の後に、紙を持った別の第3軍所属の兵士が見える。紙にチェックを入れると、「確認取れました」と報告している。
ヘルマンは頷くと、アリシア達へ視線を向ける。
「ご連絡頂いた不審者は捕らえました。念の為他にも紛れていないか、室内の捜索を行います」
「はい。お願いします」
先輩パーラーが反応すると、ドアから5人の第3軍の兵士が室内に入り、部屋の隅々まで検分していく。
それを眺めていたアリシア達にヘルマンが近寄ってきた。
「ご無事でなりよりです。確認が取れましたら、室内と外に警備として数人置いていきます」
「ありがとうございます!怖かったのでとても助かります!」
「良かった」
「エルゼさんのお陰ね」
先輩パーラーが応え、それにリーゼと別の先輩も応えている。
アリシアは開いたままのドアの外を見やる。しかしそこには不審者とされる男の姿は見当たらず、第3軍の紫紺の軍服が沢山見えるのみだった。
(魔王様はご無事。不審者も捕えて、私達も怪我はない。良かった・・・)
はー、と大きく息を吐くと、安堵のせいかクラリと目が回った。
アリシアの後ろでは、倒れたエルゼを抱え、リーゼと先輩達が床にしゃがみ込んでいる。
「ごめんなさい。安心したらちょっとフラフラして・・・悪いけど、先に座らせてもらうね」
「・・・!無理しないで。ありがとうレッツェル」
「あなたが前に出て警戒してくれて、凄く心強かったわ。こっちは気にせず休んでちょうだい」
「本当に。ありがとうミリィ」
三人から労う言葉をもらい、アリシアは笑みを浮かべて頷いた。
先輩パーラーがアリシアに「大丈夫?」と言いながら立ち上がろうとして、自分も足が震えている事に気付き、立ち上がるのを断念した。もう一人の先輩とリーゼはエルゼを支えていて立ち上がれない。
それを見ていたヘルマンは、「大丈夫ですか?」とアリシアに声をかけると、「失礼」と言ってアリシアの肩を抱いた。そして近くの椅子まで誘導してくれる。
「すみません。ありがとうございます」
「いえ」
椅子に腰掛けながら礼を言うと、ヘルマンは笑みを浮かべて応えた。
「あの、ヘルマンさん。救護室は制圧されましたか?魔力欠乏で気を失っているエルゼさんを、落ち着いた場所で寝かせてあげたいのですが」
アリシアに手を貸すヘルマンに、気さくさを感じたのだろう。先輩パーラーが尋ねると、彼は外にいる兵士に合図をして呼び寄せる。
「他の隊が制圧しているはずですので、その方は我々がお運びしましょう」
笑みを浮かべてそう言うと、呼び寄せた兵士に指示を出してエルゼを抱き上げさせる。兵士はそのままエルゼを連れて、廊下へと出ていった。
「あなた方は制圧が終わるまで、この部屋で待機をお願いします。何かあれば部屋に残した者に言いつけてください」
「はい。よろしくお願いします」
エルゼを支えていた先輩パーラーが立ち上がってお礼を言うと、廊下が少しザワついた。何だろうとアリシアがドアへ視線を向けると、廊下に濃紺が見えた。
「・・・レッツェル、無事か」
「え」
目が合ったと思ったら、アリシアが座る窓際まであっという間に歩み寄り、両肩に手を置かれた。
「ハ・・・ハルシュタイン将軍・・・?」
「怪我は?」
戸惑うアリシアを他所に、突然現れたハルシュタイン将軍は、アリシアの体をあちこち見やる。
ハルシュタイン将軍の行動に動揺しながらも、彼が纏う濃紺色の将軍服の腕や脇腹に焦げ跡やスッパリと切れている箇所がアリシアの目についた。
「ハルシュタイン将軍こそ・・・!どうしたんですかこれは・・・」
アリシアは驚いて声を上げた。血が滲んでないので、大きな怪我ではなさそうだ。しかしどう見ても、アリシアよりハルシュタイン将軍の方が酷い有様だ。
「ああ・・・」
言われて気が付いた、と言うようにハルシュタイン将軍は己の腕を見て、室内を見渡す。そしてそばに立つヘルマンに顔を向けた。
「少しの間防音結界を張る」
「はっ!」
ヘルマンの敬礼を確認すると、ハルシュタイン将軍は呪文を唱え、アリシアとハルシュタイン将軍が入る程度の小さい結界を張った。
「ギルベルトが公表するまで口外はなしだ。ここに来る前にヴュンシュマン将軍を拘束した。抵抗されたから、応戦した時に少し服をかすっただけだ。怪我はない」
「・・・そうだったんですか。では暗殺計画は片が付いたんですね」
「お陰様でな」
ホッとするアリシアのあちこちに、ハルシュタイン将軍は再び視線を巡らす。
「で、怪我は。顔色が悪いが、どこか悪いのか?」
最後はじっと見つめられ、距離の近さにアリシアは動揺する。肩にもまだ手が乗せられたままだ。
「怪我はありませんし、その・・・緊張したので、第3軍の方々が来てくださって、安心から少しふらついただけです」
「そうか」
あからさまにホッとして笑みを浮かべるハルシュタイン将軍に、アリシアは目が釘付けになった。また、あの力の抜けた笑みを浮かべている。
「ヘルマン隊長!確認完了致しました!異常ありません!」
部屋の検分終了を知らせる声に、アリシアはハッとした。慌てて周りを見渡すと、リーゼと先輩パーラー二人はアリシア達を見てニヤニヤしている。ヘルマンは報告をあげた軍人に「承知した」と応えた後、ハルシュタイン将軍を伺うように視線をこちらへ向けた。他の兵士達もアリシア達に視線を向けている。
居たたまれなさに、アリシアは慌てた。
「あの!ハルシュタイン将軍!」
「・・・ああ。全く・・・」
慌てるアリシアとは対象的に、面倒だと言いたげにアリシアの肩から手を離し、上体を起こす。サッと手を払う仕草をして、防音結界を解除した。
「五百人隊長のヘルマンだったか。私はギルベルト様とリーネルト将軍に報告がある。このまま執務室へ向かう。お前達はリーネルト将軍の指示通り、引き続き任務を頼む」
「はっ!」
ヘルマンの敬礼に合わせ、周りの兵士も声なく敬礼をする。
(・・・こういうところ見ると、やっぱりハルシュタイン将軍は将軍なのね)
別の軍ではあるが、第1軍と第3軍は少し前まで共に戦線に出ていた。将軍同士の仲も良いので、軍内部でも交流があるのだろう。
ハルシュタイン将軍は頼んだぞと言わんばかりにヘルマンの肩を軽く叩くと、室内の兵士へ視線を巡らせる。すると皆その一瞬で体を強張らせた。
「・・・?」
ハルシュタイン将軍から鋭い気が発されたように感じたが、何故このタイミングで味方軍に対して威嚇をするのだろうか。
アリシアは内心首を傾げて様子を伺うが、アリシア達に振り向いたハルシュタイン将軍はいつも通りの雰囲気に戻っていた。
「まだ完全には安全が確認されていない。指示に従って、無理をするなよ」
「はい・・・」
ハルシュタイン将軍はアリシアの目を見て言うので、取り合えず良くわからないまま頷くと、彼は素早く部屋を出ていった。
「お前達、分かっているな。余計な事はするなよ」
「はっ!」
ヘルマンがため息をついて言うと、周りの兵士達は再び敬礼した。
「では、私共は次へ参りますのでこれで失礼します」
「はい!ありがとうございました!」
戸惑うアリシアの後から、先輩パーラーが元気よく応えた。
ヘルマンは廊下に出ると指示を飛ばす。兵士が二人室内に残り、ドアが閉められた。
「・・・え?最後のは何だったの?」
先輩パーラーが室内に残った兵士二人に礼を伝えている。それを横目に、アリシアは近寄ってきたリーゼに問う。
「もー相変わらずのおニブさんなんだから」
困った子を見るような顔でリーゼは笑う。
「え・・・?おニブ・・・?」
「あれで気付かないなんてねぇ。ハルシュタイン将軍も心配でわざわざ寄られたのに、こんなの見たら気が気じゃないわね」
「え?」
もう一人の先輩パーラーはニヤニヤしながら、リーゼに続いてアリシアに近寄って小声で伝えてくる。
「全く・・・。いーい?ミリィは全く、まぁぁぁぁったく気付いてなかったと思うけど!第3軍の兵士さん達がこの部屋に入ってきた時、全員ミリィの顔を二度見して、その後もずっとチラチラ見てたのよ」
「・・・は?」
「あのヘルマンさん以外は全員ね。だからヘルマンさん、ずっとレッツェルの近くにいたでしょ?」
リーゼの言葉に先輩が補足する。それに頷いてリーゼは続ける。
「そっ!で、ハルシュタイン将軍がいらっしゃって、ミリィが噂のお相手だって気付いたんじゃない?今度は違う意味でチラチラ見てたから、ハルシュタイン将軍がカツを入れてったのよ」
「ヘルマンさんも釘刺してたじゃない」
「え!?余計なことって、私!?」
「そうよ。ミリィにちょっかい掛けるなって事。やっと分かった?」
リーゼは呆れ顔でアリシアを見ながら腕を組む。
「皆、ミリィがあんまりにも美人さんだからビックリして、任務中なのにデレデレしてたのよ」
「私も時々見惚れちゃうくらいだものねー」
先輩がニコニコしながら、アリシアの頭をナデナデする。
「・・・・・・・・・・・・」
アリシアは困ったような拗ねたような、何とも言えない微妙な顔で、リーゼと先輩の顔を交互に見やるのだった。
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