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第1章 アリシアの諜報活動
24 グルオル地方
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アリシアはリーゼが部屋に帰った後、いつも通りハルシュタイン将軍への手紙を書き、精霊神への報告も終え、部屋でのんびり過ごしてハンナを待っていた。
エレオノーラの事は引き続き心配しているが、既に魔王ギルベルトが対応している件なので、今はそれほど緊急性は高くない。落ち着いて待つことが出来た。
コツコツと窓が叩かれると、返信を待っていたアリシアはサッと立ち上がり、窓を開けて手紙を受け取った。いつも通りハンナに雑穀を与えると、すぐに封筒の封を切る。
カモフラージュの文章を別紙へと移し、報告の返信を読んでいく。『エレオノーラの件は了解した』までは予想通りだったのだが。
「・・・え」
続きを読んで、思わず声を上げる。そこには『近いうちにギルベルトがヴュンシュマン将軍を王宮に呼ぶ』と書かれていた。
例のホルツマン食糧管理補佐官の件で、アードラー文官長、トラウトナー文官長、ヴュンシュマン将軍が事に当たるということだ。
(ヴュンシュマン将軍が・・・?ちょっと待って。ホルツマン食糧管理補佐官の・・・グルオル地方の件って・・・)
アリシアはリーゼから以前聞いた話を思い返す。
グルオル地方はこのアリオカル大陸の南西部に位置している。このエリアは毎年3月から長雨が続く。三日程雨が続くのもザラで、最長十五日間降り続いた記録もあるとか。
そんなグルオル地方にはロイデという村がある。川沿いに発展していった豊かな農村だ。しかし二週間程前の夜、このロイデ村の川の堤防が突然決壊した。この川は今まで氾濫も決壊もなく、今年の水位も警戒する程ではなかった。日中にもそんな前兆はなかったという。そのため村人も全く警戒していなかった。皆が寝静まった夜に村に濁流が流れ込んだため、被害が大きくなった、という話だ。
この洪水で村の半分以上の人が流され、建物もほぼ倒壊。畑も濁流が運んできた泥で埋め尽くされた。村で蓄えていた食料も全て流されてしまった。畑も高台にあるものを除いてほぼ全滅。他所の村に助けを求めようにも、家畜も流されるか怪我をしている。移動手段として使っていた馬も逃げてしまった。しかし一日で徒歩で行ける場所には、村や町はない。
そこで助かったロイデ村の人の中で一番体力があり、狩猟を生業とする男が一人、最寄りの中核都市マーレンへ助けを求めることになった。道中の食糧や水を自給自足で賄いながら、4日かけて何とかマーレンに辿り着くと、すぐにマーレンの役場へと向かった。
しかしマーレンの役人達は取り合ってくれなかった。何度も事情を説明したが、門前払いを食らった。仕方なくマーレンにある、農業従事者には馴染みある大きな組織、グルオル食糧管理庁舎へ行って訴えた。その時点で洪水発生から一週間経っていた。
話を聞いたクルーゲ食糧管理長官は驚きながらも役場へ行った。しかしグルオル地方の食糧管理長官という、高い地位にいるクルーゲの言葉にも耳を傾けてくれない。仕方なくクルーゲ自身がマーレンの警備隊と話し合い、ロイデ村の被害の把握や被災者たちへの支援を行い、その副官であるホルツマンが王都に訴えに来た、という話だった。
何故こんな詳細をパーラーであるリーゼが知っていたのか。それはホルツマン食糧管理補佐官が登城した際の担当パーラーが、行政館ではなく魔王ギルベルトへの謁見で間違いないのか確認したところ、この説明を受けたそうだ。役場で門前払いを受けるなんて、何かおかしい。そのため行政館ではなく魔王ギルベルトへ直接話をしたい、とのことだった。
そしてその話をリーゼが担当パーラーから聞いてきたのだ。
(色々と変な話だとは思っていたけど・・・)
アリシアは一旦思案を止めて、手元のハルシュタイン将軍からの返信を読み進める。
『グルオル地方はアリオカル大陸の南西エリアにあり、王都から遠い。私とアレクシスは現在担当している業務が多くて王都を離れる事ができない。ギルベルトも仕方なく取った采配であり、最大級の警戒をする。ヴュンシュマン将軍が登城する日が分かれば伝える。当日の動向を可能な限り教えて欲しい。しかしそれ以前の問題として、くれぐれもレッツェルがヴュンシュマン将軍に目を付けられないように気をつけろ』と書かれている。
アリシアは手紙を机の上に置いて考える。
手紙にある通り、第一軍ハルシュタイン将軍と第三軍リーネルト将軍は対応することができない。第二軍ベルンシュタイン将軍と第四軍ラングハイム将軍は現在戦線を担当していて不在。結果、残る将軍は第五軍のヴュンシュマン将軍のみとなる。
こういった緊急時の物資と人の移動、救助活動、流れ込んだ泥の撤去や決壊した堤防の工事などは軍が対応することになっている。仕事に余裕がある軍が対応するのは、全く持っておかしな話ではない。
そして文官の方はというと、今回の川の氾濫という点を見ると、山林や土地管理、建築を担当するトラウトナー文官長の範囲だ。しかし食糧管理庁はアードラー文官長の担当であり、その食糧管理官が話を王都に持ってきた。農村の被害という点でも、アードラー文官長が担当するのは自然な流れだ。
故にこの二人の文官長が対応をする事もおかしな点はない。
しかしながら、魔王暗殺を企てているヴュンシュマン将軍とアードラー文官長をこのタイミングで指名せざるを得ない今の状況には、どうしても不穏なものを感じる。偶然と言って目を背けてしまえばそれで片は付くのだが。
(・・・もし、この洪水が偶然じゃなくて、必然的なものだとしたら?)
アリシアは背筋がゾワリとし、腕を抱え込んだ。
このすべてが魔王暗殺計画の一環だったとしたら。そうであれば、街の役場で門前払いを受けた事も説明が付く。将軍と文官長からの圧力があれば、地方の役人では従わざるを得ない。
なんの前触れもなく突然川の堤防が決壊した点も、事前に堤防に細工をされていたと考えれば説明はつく。
(嘘でしょ・・・。えーっと・・・リーネルト将軍がヴュンシュマン将軍の暗殺計画をつかんだのは・・・)
アリシアは動揺しながらも、時系列の矛盾がないかを考えてみる。
ハルシュタイン将軍から依頼の説明を受けた際、『レッツェルの部屋に忍び込んだ日の二日前』だと聞いたのを思い出す。
アリシアは机の上に置いているカレンダーを見て確認する。
(今日は3月27日・・・ホルツマン食糧管理補佐官が登城したのは21日。忍び込まれた日はしっかり覚えてる。3月8日だわ)
であれば、リーネルト将軍が暗殺計画を知ったのは3月6日。3月6日からホルツマン食糧管理補佐官が登城するまでに2週間の期間がある。
アリシアは順序立てて整理する。
ヴュンシュマン将軍達がロイデ村の川の堤防に手を加える。順調に準備が整った事で思わず言葉にした。それを潜んでいたリーネルト将軍の部下が耳にしたと仮定する。それが3月8日。
その後雨が降って堤防が決壊。クルーゲ食糧管理長官が話を聞いたのが、洪水発生から1週間後。そしてホルツマン食糧管理補佐官が王都まで来る。あのあたりだと馬で急いで3日くらいだろうと、話題に出た際にリーゼが言っていた。
(10日間程度の事だから、2週間の間に起こった出来事だと、十分説明はつく)
時系列はピタリとハマってしまった。
もしこれが人為的な災害だとしたら。アリシアは血の気が引きそうになり、頭を降った。恐ろしさから『そうであって欲しくない』という気持ちがアリシアの中に湧いてくる。しかし現に不自然な洪水は起きている。
(既に魔王暗殺計画は動いていて、人的被害が出てたってこと・・・?)
何の罪もない農村に住む人々。一体何人亡くなったのだろうか。
ふとハルシュタイン将軍から以前受け取った手紙の『その縁談を私が潰したと知ったら、ヴュンシュマン将軍は私の第一軍の陣営を攻撃してくる可能性がある』という言葉が浮かんで、アリシアはゾッとした。
(・・・人の死を何とも思っていないの?)
もしハルシュタイン将軍の第一軍に攻め入れば、ヴュンシュマン将軍の第五軍にも死者は出る。こんな事で軍人が死ぬなんて、まさに無駄死にだろう。常識で考えれば、将軍個人の問題で自国軍を攻撃などあり得ない。しかしその可能性があるとハルシュタイン将軍が判じたのならば、そういう人物なのであろう。
ヴュンシュマン将軍は自分が魔王になれるのであれば、他の事はどうでもいいのかもしれない。
改めて『魔王暗殺計画』の危険性をアリシアは理解した。危険だからこそ、ハルシュタイン将軍とリーネルト将軍は、冷静で慎重なアリシアに情報提供を願ったのだ。
嫌な鼓動が脈打つ。アリシアは胸に手を置いて、落ち着くようにと、大きく息を吸って、ゆっくりとはいた。
(ハルシュタイン将軍とリーネルト将軍なら、私より沢山の情報を持っているだろうから、この考えにはとっくにたどり着いてるはず。もう証拠を集めているかもしれない。だからきっと大丈夫。私は暗殺計画を阻止する為にも、余計なことは考えないで、王宮内の情報に集中よ。後はハルシュタイン将軍とリーネルト将軍がうまくやってくれる。あの父さんが特に認めていた将軍二人なんだから、きっと大丈夫)
そこまで考えて己を安心させて、アリシアは一息ついた。今不安になったところで、現状は何も変わらないのだ。
飲みかけの紅茶を一口飲んで、机の上に視線を巡らす。途端、アリシアは脱力した。
ハルシュタイン将軍からのカモフラージュの手紙が視界の端に入ったのだ。手紙の内容を想像し、その落差に一瞬で気が抜けた。壁を見つめて遠い目をする。
(・・・これはこれで息抜き?気分転換?ピッタリな言葉が出てこないけど・・・そういう意味では良い・・・のかな)
相変わらずハルシュタイン将軍は手紙で愛を囁いてくる。毎回躱しているアリシアに、最近は恨み言が混じるようになってきたのだ。
「・・・読みますか」
正直面倒だが、カモフラージュとして必要な事だ。
アリシアはため息をついてもう一枚の手紙を手に取った。
エレオノーラの事は引き続き心配しているが、既に魔王ギルベルトが対応している件なので、今はそれほど緊急性は高くない。落ち着いて待つことが出来た。
コツコツと窓が叩かれると、返信を待っていたアリシアはサッと立ち上がり、窓を開けて手紙を受け取った。いつも通りハンナに雑穀を与えると、すぐに封筒の封を切る。
カモフラージュの文章を別紙へと移し、報告の返信を読んでいく。『エレオノーラの件は了解した』までは予想通りだったのだが。
「・・・え」
続きを読んで、思わず声を上げる。そこには『近いうちにギルベルトがヴュンシュマン将軍を王宮に呼ぶ』と書かれていた。
例のホルツマン食糧管理補佐官の件で、アードラー文官長、トラウトナー文官長、ヴュンシュマン将軍が事に当たるということだ。
(ヴュンシュマン将軍が・・・?ちょっと待って。ホルツマン食糧管理補佐官の・・・グルオル地方の件って・・・)
アリシアはリーゼから以前聞いた話を思い返す。
グルオル地方はこのアリオカル大陸の南西部に位置している。このエリアは毎年3月から長雨が続く。三日程雨が続くのもザラで、最長十五日間降り続いた記録もあるとか。
そんなグルオル地方にはロイデという村がある。川沿いに発展していった豊かな農村だ。しかし二週間程前の夜、このロイデ村の川の堤防が突然決壊した。この川は今まで氾濫も決壊もなく、今年の水位も警戒する程ではなかった。日中にもそんな前兆はなかったという。そのため村人も全く警戒していなかった。皆が寝静まった夜に村に濁流が流れ込んだため、被害が大きくなった、という話だ。
この洪水で村の半分以上の人が流され、建物もほぼ倒壊。畑も濁流が運んできた泥で埋め尽くされた。村で蓄えていた食料も全て流されてしまった。畑も高台にあるものを除いてほぼ全滅。他所の村に助けを求めようにも、家畜も流されるか怪我をしている。移動手段として使っていた馬も逃げてしまった。しかし一日で徒歩で行ける場所には、村や町はない。
そこで助かったロイデ村の人の中で一番体力があり、狩猟を生業とする男が一人、最寄りの中核都市マーレンへ助けを求めることになった。道中の食糧や水を自給自足で賄いながら、4日かけて何とかマーレンに辿り着くと、すぐにマーレンの役場へと向かった。
しかしマーレンの役人達は取り合ってくれなかった。何度も事情を説明したが、門前払いを食らった。仕方なくマーレンにある、農業従事者には馴染みある大きな組織、グルオル食糧管理庁舎へ行って訴えた。その時点で洪水発生から一週間経っていた。
話を聞いたクルーゲ食糧管理長官は驚きながらも役場へ行った。しかしグルオル地方の食糧管理長官という、高い地位にいるクルーゲの言葉にも耳を傾けてくれない。仕方なくクルーゲ自身がマーレンの警備隊と話し合い、ロイデ村の被害の把握や被災者たちへの支援を行い、その副官であるホルツマンが王都に訴えに来た、という話だった。
何故こんな詳細をパーラーであるリーゼが知っていたのか。それはホルツマン食糧管理補佐官が登城した際の担当パーラーが、行政館ではなく魔王ギルベルトへの謁見で間違いないのか確認したところ、この説明を受けたそうだ。役場で門前払いを受けるなんて、何かおかしい。そのため行政館ではなく魔王ギルベルトへ直接話をしたい、とのことだった。
そしてその話をリーゼが担当パーラーから聞いてきたのだ。
(色々と変な話だとは思っていたけど・・・)
アリシアは一旦思案を止めて、手元のハルシュタイン将軍からの返信を読み進める。
『グルオル地方はアリオカル大陸の南西エリアにあり、王都から遠い。私とアレクシスは現在担当している業務が多くて王都を離れる事ができない。ギルベルトも仕方なく取った采配であり、最大級の警戒をする。ヴュンシュマン将軍が登城する日が分かれば伝える。当日の動向を可能な限り教えて欲しい。しかしそれ以前の問題として、くれぐれもレッツェルがヴュンシュマン将軍に目を付けられないように気をつけろ』と書かれている。
アリシアは手紙を机の上に置いて考える。
手紙にある通り、第一軍ハルシュタイン将軍と第三軍リーネルト将軍は対応することができない。第二軍ベルンシュタイン将軍と第四軍ラングハイム将軍は現在戦線を担当していて不在。結果、残る将軍は第五軍のヴュンシュマン将軍のみとなる。
こういった緊急時の物資と人の移動、救助活動、流れ込んだ泥の撤去や決壊した堤防の工事などは軍が対応することになっている。仕事に余裕がある軍が対応するのは、全く持っておかしな話ではない。
そして文官の方はというと、今回の川の氾濫という点を見ると、山林や土地管理、建築を担当するトラウトナー文官長の範囲だ。しかし食糧管理庁はアードラー文官長の担当であり、その食糧管理官が話を王都に持ってきた。農村の被害という点でも、アードラー文官長が担当するのは自然な流れだ。
故にこの二人の文官長が対応をする事もおかしな点はない。
しかしながら、魔王暗殺を企てているヴュンシュマン将軍とアードラー文官長をこのタイミングで指名せざるを得ない今の状況には、どうしても不穏なものを感じる。偶然と言って目を背けてしまえばそれで片は付くのだが。
(・・・もし、この洪水が偶然じゃなくて、必然的なものだとしたら?)
アリシアは背筋がゾワリとし、腕を抱え込んだ。
このすべてが魔王暗殺計画の一環だったとしたら。そうであれば、街の役場で門前払いを受けた事も説明が付く。将軍と文官長からの圧力があれば、地方の役人では従わざるを得ない。
なんの前触れもなく突然川の堤防が決壊した点も、事前に堤防に細工をされていたと考えれば説明はつく。
(嘘でしょ・・・。えーっと・・・リーネルト将軍がヴュンシュマン将軍の暗殺計画をつかんだのは・・・)
アリシアは動揺しながらも、時系列の矛盾がないかを考えてみる。
ハルシュタイン将軍から依頼の説明を受けた際、『レッツェルの部屋に忍び込んだ日の二日前』だと聞いたのを思い出す。
アリシアは机の上に置いているカレンダーを見て確認する。
(今日は3月27日・・・ホルツマン食糧管理補佐官が登城したのは21日。忍び込まれた日はしっかり覚えてる。3月8日だわ)
であれば、リーネルト将軍が暗殺計画を知ったのは3月6日。3月6日からホルツマン食糧管理補佐官が登城するまでに2週間の期間がある。
アリシアは順序立てて整理する。
ヴュンシュマン将軍達がロイデ村の川の堤防に手を加える。順調に準備が整った事で思わず言葉にした。それを潜んでいたリーネルト将軍の部下が耳にしたと仮定する。それが3月8日。
その後雨が降って堤防が決壊。クルーゲ食糧管理長官が話を聞いたのが、洪水発生から1週間後。そしてホルツマン食糧管理補佐官が王都まで来る。あのあたりだと馬で急いで3日くらいだろうと、話題に出た際にリーゼが言っていた。
(10日間程度の事だから、2週間の間に起こった出来事だと、十分説明はつく)
時系列はピタリとハマってしまった。
もしこれが人為的な災害だとしたら。アリシアは血の気が引きそうになり、頭を降った。恐ろしさから『そうであって欲しくない』という気持ちがアリシアの中に湧いてくる。しかし現に不自然な洪水は起きている。
(既に魔王暗殺計画は動いていて、人的被害が出てたってこと・・・?)
何の罪もない農村に住む人々。一体何人亡くなったのだろうか。
ふとハルシュタイン将軍から以前受け取った手紙の『その縁談を私が潰したと知ったら、ヴュンシュマン将軍は私の第一軍の陣営を攻撃してくる可能性がある』という言葉が浮かんで、アリシアはゾッとした。
(・・・人の死を何とも思っていないの?)
もしハルシュタイン将軍の第一軍に攻め入れば、ヴュンシュマン将軍の第五軍にも死者は出る。こんな事で軍人が死ぬなんて、まさに無駄死にだろう。常識で考えれば、将軍個人の問題で自国軍を攻撃などあり得ない。しかしその可能性があるとハルシュタイン将軍が判じたのならば、そういう人物なのであろう。
ヴュンシュマン将軍は自分が魔王になれるのであれば、他の事はどうでもいいのかもしれない。
改めて『魔王暗殺計画』の危険性をアリシアは理解した。危険だからこそ、ハルシュタイン将軍とリーネルト将軍は、冷静で慎重なアリシアに情報提供を願ったのだ。
嫌な鼓動が脈打つ。アリシアは胸に手を置いて、落ち着くようにと、大きく息を吸って、ゆっくりとはいた。
(ハルシュタイン将軍とリーネルト将軍なら、私より沢山の情報を持っているだろうから、この考えにはとっくにたどり着いてるはず。もう証拠を集めているかもしれない。だからきっと大丈夫。私は暗殺計画を阻止する為にも、余計なことは考えないで、王宮内の情報に集中よ。後はハルシュタイン将軍とリーネルト将軍がうまくやってくれる。あの父さんが特に認めていた将軍二人なんだから、きっと大丈夫)
そこまで考えて己を安心させて、アリシアは一息ついた。今不安になったところで、現状は何も変わらないのだ。
飲みかけの紅茶を一口飲んで、机の上に視線を巡らす。途端、アリシアは脱力した。
ハルシュタイン将軍からのカモフラージュの手紙が視界の端に入ったのだ。手紙の内容を想像し、その落差に一瞬で気が抜けた。壁を見つめて遠い目をする。
(・・・これはこれで息抜き?気分転換?ピッタリな言葉が出てこないけど・・・そういう意味では良い・・・のかな)
相変わらずハルシュタイン将軍は手紙で愛を囁いてくる。毎回躱しているアリシアに、最近は恨み言が混じるようになってきたのだ。
「・・・読みますか」
正直面倒だが、カモフラージュとして必要な事だ。
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