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第1章 アリシアの諜報活動
15 行き先
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アリシアはハルシュタイン将軍が指し示した店へ視線を向ける。
「・・・えーと・・・あのアパレル店、ですか?」
店が並んでいる中、ハルシュタイン将軍の指とその先を何度も確認する。何故服屋なのか。しかも女性向けの。
何度も視線を往復させるアリシアを見て、ハルシュタイン将軍は小さく笑う。
「行けば分かる」
「・・・はい」
確認に対して、やはりハルシュタイン将軍は先程と同じ言葉を返してくる。
とにかく言葉通り行けば分かるのだろう。アリシアはハルシュタイン将軍に付いて、共に店の中へと入った。
ハルシュタイン将軍は女性物の服には目もくれず、誰かを探しながら店内を突っ切っていく。奥のカウンターにいる20歳台の女性に目を留めると、真っ直ぐにそちらへと向かった。
「こんにちは。クラウス=ハルシュタインと申します」
「あら!こんにちは。奥へどうぞ。ご案内致します」
その女性は名前を聞いた瞬間驚いた表情をしたが、すぐに笑みを浮かべると片手を上げて奥を指した。女性はアリシアにも笑顔を向けてから、店奥の壁側へと向かう。ハルシュタイン将軍もその後に続きながら、アリシアに視線を向けて付いてくるように促してくる。アリシアは小さく頷いて、静かに付いていく。
女性は壁まで来ると、そこに設えてある扉を開けて更に進んだ。
アリシアはここに来て確信を得た。
(さっきから場所を明言しない。店に入ってハルシュタイン将軍が名乗っただけで奥へ通される。そもそも今日は話があるって呼び出しておきながら、それらしき話は一切しない。つまり何かを警戒している。・・・・・・ハルシュタイン将軍に監視でもついてるのかしら)
もし監視が付いているのなら、それはどんな立場の人だろう、と考えながら扉を抜ける。そこは服の在庫置き場だった。沢山のハンガーラックと、それにかかっている服。服や装飾品が入っているだろう箱が溢れている。
通路として確保された道を進んでいくと、その先の壁にいくつかの扉が見えた。
「こちらへ」
女性はそう言うと、その中の一つの扉を開く。ハルシュタイン将軍とアリシアが入りやすいように、扉を押さえて待っていてくれた。
ハルシュタイン将軍が何も言わずに室内に入っていくので、アリシアも後に続いて入り、さっと室内を見渡す。
ローテーブルを挟んで、居心地の良さそうな3人掛けのソファが2つ置いてある。どうやら応接室の様だ。
「どうぞおかけください。すぐにお茶をお持ちします」
「ああ、申し訳ない。お願いしよう」
部屋の外に立ったまま、女性はハルシュタイン将軍に笑みで返事をすると、静かに扉を閉じた。
扉が閉められるのを確認した後、ハルシュタイン将軍はソファの真ん中に座る。アリシアもそれに合わせて対面のソファの同じ辺りに座った。
向かいに座ったハルシュタイン将軍を見ると、彼は口元に人差し指を当てた。どうやら『声を出すな』『静かに』と伝えたいようだ。
アリシアは先程の予想はほぼ当たっているのだろうと考えながら、静かに頷いた。
アリシアの反応を見たハルシュタイン将軍は、すぐに小さく呪文を紡ぐ。唱え終わるとアリシアたちが座るソファーとローテーブルを囲うように、見えない壁が張られたのが分かった。
「何の説明もなく、ここまで連れてきて悪かったな。先回りされると面倒だったんだ。今、盗聴透視防止の結界を張った。結界の外の音は聞こえるが、こちらの音は結界外に聞こえない。もう好きに話していいぞ」
「やはり・・・誰かに尾行されていたんですね」
「ああ。私を追いかけてくる気配があった。ま、今日に限らずここ最近はずっとなんだが」
そう言って肩をすくめるハルシュタイン将軍に、アリシアは嫌な予感がした。
「・・・もしかして、その尾行と今日のお話には関連があるのでしょうか」
「察しが良いな」
ニヤリと笑うハルシュタイン将軍に、アリシアはガックリと項垂れた。
(ああ・・・やっぱり・・・。物凄く聞きたくないわ)
諜報員として、出来る限りこの国の面倒事には巻き込まれたくない。ただでさえ己の言動に注意し、周りの反応の裏を考え、細かい情報すらも拾い、状況を見誤らないようにと、常に警戒しているのだ。面倒事があったとしても、安全圏からそれらを眺めつつ報告するのが理想的だ。
しかし将軍が尾行を警戒しつつ持ち込んでくる話が、果たして安全だろうか。
(でもリズの『危険が及ばない確約』があるわけだから・・・それほど危険な話じゃないってこと?)
聞きたくはないが、聞かない事には判断が出来ない。アリシアは俯けていた顔をやや上げて、視線をハルシュタイン将軍へと向けた。
「そのお話は聞きたくないと言っても、もう遅いのですよね・・・?」
「そうだなぁ。断るにしても、話だけでも聞いてもらわないと、ここまで準備した甲斐がなくなるな」
「準備・・・・・・あの噂も、準備の一環ですか」
力なく聞くアリシアに、再びハルシュタイン将軍はニヤリと笑う。明言せずとも、ハルシュタイン将軍にはどの噂か分かったのだろう。楽しそうにニヤニヤしている。
「そこは好きに受け取ってもらって構わないぞ」
「・・・・・・」
その発言が女性達にどう聞こえるのか、この将軍は分かっているのだろうか。
アリシアは思わず呆れ顔でハルシュタイン将軍を見てしまう。
(そんな発言をするから、色恋沙汰に巻き込まれるんじゃないの?)
大きなため息をつきたくなったが、さすがに将軍相手にそれは出来ない。アリシアは気分を切り替えようと、一度だけ深呼吸をした。
「・・・それで、そのお話とは?」
「ああ・・・・・・いや、少し待て」
アリシアの反応を楽しそうに眺めていたハルシュタイン将軍は、どう説明しようかと考える素振りをした。が、すぐに緊張した面持ちに変えて扉の方へ視線を向ける。
つられてアリシアも扉へと視線を向けると、そこでドアがノックされた。
(なるほど・・・さすが将軍。そう言えば父さんと兄さんも同じ事してたわね)
軍での訓練や実際の戦場に行くと気配に敏感になるらしく、二人とも部屋の外の気配は難なく気付けると言っていた。
ハルシュタイン将軍は伝達魔術で「どうぞ」と声をかける。ちゃんと聞こえたようで、「失礼します」という声と共に現れたのは先程の女性だった。手にティーセットを持っている。
「お話のところ失礼致します。お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
女性は真っ直ぐテーブルまで来るとティーセットを並べていく。一通り並べ終えると、女性はハルシュタイン将軍へ視線を向けた。
「伝達魔術をご利用という事は、このテーブル周りには結界が?」
「ああ。盗聴透視防止だな」
「ではお話しても大丈夫ですね。いつも兄がお世話になっております。兄が遊びに来ると、いつもハルシュタイン将軍の事を話すので、どんな方だろうと一度お会いしたく思っておりました」
ニコニコと挨拶する女性に、ハルシュタイン将軍は苦笑した。
「一体何を話しているんだか・・・こちらこそクレンゲルにはいつも助けられている。今日はすまなかったな。急に裏を使わせてもらう事になったが、不都合はなかったか?」
「ええ。今日は応接室を使う予定はありませんから。お時間は気にせず、ごゆっくりどうぞ」
アリシアへもニコリとして、その女性・・・クレンゲルは退室した。
「ま、そういう訳だ。私の部下のクレンゲルの妹が店をやっているという話を思い出してな。女性アパレルなら尾行も店内までは入ってこないだろ?入ってきたとしても、男が用もないのに店内をウロウロしてたら通報される。今日は君とのデートという形をとっているから、女性アパレル店なら君と入店してもあちらは不審に思わないだろう」
「なるほど」
先程の女性はハルシュタイン将軍が伝達魔術で返事をしたので、結界があることを察したのだろう。兄が軍人なら納得だ。
そしてさすが将軍。色々と考えての行動だったのか、とアリシアは感心した。
女性の買い物、特に服に関しては時間が掛かってもなんら不思議ではない。その点も考慮されているのだろう。
先程は噂について「好きに受け取れ」なんて言っていたが、実際はこうした実益あってこそ流したのなら。
(さっきは呆れた顔をしてしまって、失礼だったかな)
少し申し訳ない気持ちでハルシュタイン将軍を見るが、彼は特に気にしている様子もない。そもそもアリシアが呆れ顔をしていた時もハルシュタイン将軍は楽しげにアリシアを眺めていた。
(・・・気にしても無駄な気がしてきた)
ハルシュタイン将軍は普段から人を食ったような性格だ。その分柔和な思考の持ち主でもあるし、気分を害してはいないだろう。
「まずは今の状況から説明しようか」
アリシアが自分の態度を気にしている間に、ハルシュタイン将軍は説明内容について考えていたようだ。
「お願いします」
アリシアは内心慌てて、しかし表には出さずに頭の中を切り替えて返事をした。
そうして語られた内容は重大事件だった。
「・・・えーと・・・あのアパレル店、ですか?」
店が並んでいる中、ハルシュタイン将軍の指とその先を何度も確認する。何故服屋なのか。しかも女性向けの。
何度も視線を往復させるアリシアを見て、ハルシュタイン将軍は小さく笑う。
「行けば分かる」
「・・・はい」
確認に対して、やはりハルシュタイン将軍は先程と同じ言葉を返してくる。
とにかく言葉通り行けば分かるのだろう。アリシアはハルシュタイン将軍に付いて、共に店の中へと入った。
ハルシュタイン将軍は女性物の服には目もくれず、誰かを探しながら店内を突っ切っていく。奥のカウンターにいる20歳台の女性に目を留めると、真っ直ぐにそちらへと向かった。
「こんにちは。クラウス=ハルシュタインと申します」
「あら!こんにちは。奥へどうぞ。ご案内致します」
その女性は名前を聞いた瞬間驚いた表情をしたが、すぐに笑みを浮かべると片手を上げて奥を指した。女性はアリシアにも笑顔を向けてから、店奥の壁側へと向かう。ハルシュタイン将軍もその後に続きながら、アリシアに視線を向けて付いてくるように促してくる。アリシアは小さく頷いて、静かに付いていく。
女性は壁まで来ると、そこに設えてある扉を開けて更に進んだ。
アリシアはここに来て確信を得た。
(さっきから場所を明言しない。店に入ってハルシュタイン将軍が名乗っただけで奥へ通される。そもそも今日は話があるって呼び出しておきながら、それらしき話は一切しない。つまり何かを警戒している。・・・・・・ハルシュタイン将軍に監視でもついてるのかしら)
もし監視が付いているのなら、それはどんな立場の人だろう、と考えながら扉を抜ける。そこは服の在庫置き場だった。沢山のハンガーラックと、それにかかっている服。服や装飾品が入っているだろう箱が溢れている。
通路として確保された道を進んでいくと、その先の壁にいくつかの扉が見えた。
「こちらへ」
女性はそう言うと、その中の一つの扉を開く。ハルシュタイン将軍とアリシアが入りやすいように、扉を押さえて待っていてくれた。
ハルシュタイン将軍が何も言わずに室内に入っていくので、アリシアも後に続いて入り、さっと室内を見渡す。
ローテーブルを挟んで、居心地の良さそうな3人掛けのソファが2つ置いてある。どうやら応接室の様だ。
「どうぞおかけください。すぐにお茶をお持ちします」
「ああ、申し訳ない。お願いしよう」
部屋の外に立ったまま、女性はハルシュタイン将軍に笑みで返事をすると、静かに扉を閉じた。
扉が閉められるのを確認した後、ハルシュタイン将軍はソファの真ん中に座る。アリシアもそれに合わせて対面のソファの同じ辺りに座った。
向かいに座ったハルシュタイン将軍を見ると、彼は口元に人差し指を当てた。どうやら『声を出すな』『静かに』と伝えたいようだ。
アリシアは先程の予想はほぼ当たっているのだろうと考えながら、静かに頷いた。
アリシアの反応を見たハルシュタイン将軍は、すぐに小さく呪文を紡ぐ。唱え終わるとアリシアたちが座るソファーとローテーブルを囲うように、見えない壁が張られたのが分かった。
「何の説明もなく、ここまで連れてきて悪かったな。先回りされると面倒だったんだ。今、盗聴透視防止の結界を張った。結界の外の音は聞こえるが、こちらの音は結界外に聞こえない。もう好きに話していいぞ」
「やはり・・・誰かに尾行されていたんですね」
「ああ。私を追いかけてくる気配があった。ま、今日に限らずここ最近はずっとなんだが」
そう言って肩をすくめるハルシュタイン将軍に、アリシアは嫌な予感がした。
「・・・もしかして、その尾行と今日のお話には関連があるのでしょうか」
「察しが良いな」
ニヤリと笑うハルシュタイン将軍に、アリシアはガックリと項垂れた。
(ああ・・・やっぱり・・・。物凄く聞きたくないわ)
諜報員として、出来る限りこの国の面倒事には巻き込まれたくない。ただでさえ己の言動に注意し、周りの反応の裏を考え、細かい情報すらも拾い、状況を見誤らないようにと、常に警戒しているのだ。面倒事があったとしても、安全圏からそれらを眺めつつ報告するのが理想的だ。
しかし将軍が尾行を警戒しつつ持ち込んでくる話が、果たして安全だろうか。
(でもリズの『危険が及ばない確約』があるわけだから・・・それほど危険な話じゃないってこと?)
聞きたくはないが、聞かない事には判断が出来ない。アリシアは俯けていた顔をやや上げて、視線をハルシュタイン将軍へと向けた。
「そのお話は聞きたくないと言っても、もう遅いのですよね・・・?」
「そうだなぁ。断るにしても、話だけでも聞いてもらわないと、ここまで準備した甲斐がなくなるな」
「準備・・・・・・あの噂も、準備の一環ですか」
力なく聞くアリシアに、再びハルシュタイン将軍はニヤリと笑う。明言せずとも、ハルシュタイン将軍にはどの噂か分かったのだろう。楽しそうにニヤニヤしている。
「そこは好きに受け取ってもらって構わないぞ」
「・・・・・・」
その発言が女性達にどう聞こえるのか、この将軍は分かっているのだろうか。
アリシアは思わず呆れ顔でハルシュタイン将軍を見てしまう。
(そんな発言をするから、色恋沙汰に巻き込まれるんじゃないの?)
大きなため息をつきたくなったが、さすがに将軍相手にそれは出来ない。アリシアは気分を切り替えようと、一度だけ深呼吸をした。
「・・・それで、そのお話とは?」
「ああ・・・・・・いや、少し待て」
アリシアの反応を楽しそうに眺めていたハルシュタイン将軍は、どう説明しようかと考える素振りをした。が、すぐに緊張した面持ちに変えて扉の方へ視線を向ける。
つられてアリシアも扉へと視線を向けると、そこでドアがノックされた。
(なるほど・・・さすが将軍。そう言えば父さんと兄さんも同じ事してたわね)
軍での訓練や実際の戦場に行くと気配に敏感になるらしく、二人とも部屋の外の気配は難なく気付けると言っていた。
ハルシュタイン将軍は伝達魔術で「どうぞ」と声をかける。ちゃんと聞こえたようで、「失礼します」という声と共に現れたのは先程の女性だった。手にティーセットを持っている。
「お話のところ失礼致します。お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
女性は真っ直ぐテーブルまで来るとティーセットを並べていく。一通り並べ終えると、女性はハルシュタイン将軍へ視線を向けた。
「伝達魔術をご利用という事は、このテーブル周りには結界が?」
「ああ。盗聴透視防止だな」
「ではお話しても大丈夫ですね。いつも兄がお世話になっております。兄が遊びに来ると、いつもハルシュタイン将軍の事を話すので、どんな方だろうと一度お会いしたく思っておりました」
ニコニコと挨拶する女性に、ハルシュタイン将軍は苦笑した。
「一体何を話しているんだか・・・こちらこそクレンゲルにはいつも助けられている。今日はすまなかったな。急に裏を使わせてもらう事になったが、不都合はなかったか?」
「ええ。今日は応接室を使う予定はありませんから。お時間は気にせず、ごゆっくりどうぞ」
アリシアへもニコリとして、その女性・・・クレンゲルは退室した。
「ま、そういう訳だ。私の部下のクレンゲルの妹が店をやっているという話を思い出してな。女性アパレルなら尾行も店内までは入ってこないだろ?入ってきたとしても、男が用もないのに店内をウロウロしてたら通報される。今日は君とのデートという形をとっているから、女性アパレル店なら君と入店してもあちらは不審に思わないだろう」
「なるほど」
先程の女性はハルシュタイン将軍が伝達魔術で返事をしたので、結界があることを察したのだろう。兄が軍人なら納得だ。
そしてさすが将軍。色々と考えての行動だったのか、とアリシアは感心した。
女性の買い物、特に服に関しては時間が掛かってもなんら不思議ではない。その点も考慮されているのだろう。
先程は噂について「好きに受け取れ」なんて言っていたが、実際はこうした実益あってこそ流したのなら。
(さっきは呆れた顔をしてしまって、失礼だったかな)
少し申し訳ない気持ちでハルシュタイン将軍を見るが、彼は特に気にしている様子もない。そもそもアリシアが呆れ顔をしていた時もハルシュタイン将軍は楽しげにアリシアを眺めていた。
(・・・気にしても無駄な気がしてきた)
ハルシュタイン将軍は普段から人を食ったような性格だ。その分柔和な思考の持ち主でもあるし、気分を害してはいないだろう。
「まずは今の状況から説明しようか」
アリシアが自分の態度を気にしている間に、ハルシュタイン将軍は説明内容について考えていたようだ。
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アリシアは内心慌てて、しかし表には出さずに頭の中を切り替えて返事をした。
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