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◆プロローグ

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ミラトレス銀河。直径330000光年に及ぶ、無数の星系から成り立つこの一大銀河は、領域の奪い合いから始まるバィアスとトリリアンの二大の軍事国家による約50年に及ぶ終わりなき星間戦争が繰り広げられていた。
人々は国の正義のためと唆されてそれを信じて便利さと幸せをもたらす科学技術が全て軍事兵器に注がれた結果、銀河系内の惑星全てを巻き込み天文学的数字の被害と犠牲者を生み出し誰も彼もが疲弊していた――。

枯渇しつつある兵力を補うために次第にクローン技術などを駆使し強力な人造人間なども億単位で生み出しては戦地に送り出し、少なくなればまた億単位で製造、と倫理観など完全に捨てた世界へと変わってしまっていた。

それはいつしか、何のために戦っているのか分からないほどに両陣営は消耗しきっていた。

……ここは銀河の中でも辺境にある有人惑星エイダ軌道上。航行中のバィアス軍の巨大輸送船にはすし詰めにされて乗り込む武装した兵士達の表情は既に疲弊しきっており辺りは相当鬱屈した雰囲気が感じられた。

「こんな辺境の、制圧してもほとんど利点のない惑星にまで駆り出されるとは……」

「全くだ、しかも原住民には何の連絡すらもしてないどころか全排除対象だろ?俺達に何の罪のない民を虐殺しろってか?ふざけるのもいい加減しろって言いたくなる」

「だがそれがお国からのご命令さ。俺達は黙って従うほかねえのさ――」

今作戦の不満や愚痴で溢れ更に雰囲気が悪化する。

「おい、知ってるか?今回の作戦にアレが投入される話だってよ」

「アレ?」

「『メルカーヴァ戦略機甲生体兵器』だよ」

「はあ!?あんなイカれたヤツを?上層部は本当に何を考えてるのやら……」

「確かに決戦兵器としての戦闘力は凄まじいけど自我が強すぎる上に闘争本能が剥き出しで味方すら平気で殺すからな……確か2ヶ月前の惑星リュージュ攻略戦でも敵はおろか味方もろとも殲滅して大問題になったばかりだろ」

「その後、開発陣がちゃんと命令通りに動くようにあいつの人格を消そうとしたら逆に返り討ちにあって全員見るも無残な死に方したって話だぜ」

「うげぇ……まじか。なんでそんな危険なヤツを一刻も早く処分しねえんだ?」

「生みの親すら平気で殺すヤツだぞ、下手に手を出したらぶちギレて飼い犬に手をかまれることになる、そうなれば全員皆殺しにされかねん。
そもそもバィアスの持てる科学技術と莫大な費用を投入して造られてるし多大な戦果を上げているのは間違いないからな。なかなか処分に踏み切れないんだろうぜ」

「思ったがヤツと今回組まされるって俺達凄くやばくねえか……?下手したらエイダの民諸とも殺されるぞ」

「幸いヤツは一人だけ俺達が担当する大陸の反対側に投入されるって話だからこっちの作戦を速攻で終わらせて巻き込まれる前にさっさと逃げるぞ。全員気合いをいれてけ!」

「おおっ!」と空元気の喚声を上げる兵士達。その数分後、バィアスの輸送船は惑星エイダへ突入していった。
にしても彼らの言う「ヤツ」とは一体何者なのだろうか――。

◆ ◆ ◆

惑星エイダ。銀河の中でも辺境の辺境も良いとこの空気環境の悪く、海もない全て陸地の砂漠の惑星で使える資源がほとんどなく、争いを好まない原住民が少ない資源を利用して地下から水を汲み取るなど細々と暮らしているのみである。
そんな惑星をわざわざなぜ襲うのか――兵士達は全員疑問を抱いている。

太陽の光が差し込んだ大陸に突然、宇宙軌道上からでも確認できる程の巨大な爆発が無数に起こった――巨大なクレーターがあちこちにできていく。

「ヒイイイイイ!!!」

「タ、タスケテェ!!」

次々に焼きつくされる原住民の街、見るも無残な死体に溢れかえる地獄絵図――そこに一人の大男がジリジリと生き残っていた原住民の男性を追い詰めていた。

「ワ、ワタシタチガアナタタチニナニカシタトイウノデスカア!?」

尻餅をついて怯える彼は必死に自分達の無実を言いはるがその男は何も答えないがほくそ笑んでいる。

「コンナムゴイコトヲシテ……ワタシタチハアナタヲゼッタイニユルサナイ……!イツカカナラズムクイヲウケルトキガクル!カナラズッッ!!」

すると男は右手を突き出す――すると腕がまるで柔らかい粘土のようにグニャリとなり形を変えて出来上がったのは金属性の四角い砲身。

「!?」

砲身内は青白いエネルギーで満たされていきプラズマが砲口からほとばしった――そして黙っていた男がついに口を開く。

「死ね!」

その言葉と同時に砲口からプラズマの塊が撃ち出されて男性の身体を貫通し悲鳴すらあげることなく一瞬にして消し飛んだのであった。

「なんでこんなことをするかって?楽しいからに決まってるからだろォ?クカカカカカ!!」

射線の遥か先まで抉られた地面を見て男は笑う。何の罪悪感もなさそうでそれどころか心底楽しそうなまさに下衆の顔であった。

「兵器が兵器らしく破壊して何が悪いかよォ!」

この男こそがバィアス軍が長きに渡る戦争を終結させるために科学の粋を集めて開発した戦略兵器にして人間と同等の人格を持つ最強の人造人間『メルカーヴァ戦略機甲生体兵器XTU‐001』。通称、ショーエイ。

彼は身体中に内蔵するブースターを駆使して大陸中を縦横無尽に飛び回り阿修羅のような顔でエイダ各地の原住民を始末していった――。

「おぅるあああ!!くたばりやがれぇぇぇっっ!!!」

プラズマ弾、核含む各種ミサイル、ブラスター、ビーム、レーザー……等身大の人間にはあるまじき数の内蔵された過剰とも言えるありとあらゆる重火器を繰り出して地上を空爆、瞬く間に周辺をもはや草も木も残らないぐらいに更地にしていく。

「消し飛べぇ!!」

滞空したまま曲げた両腕を前に覆うように出し少し前屈みになると腕のみならず両手足、腹、背中、全身の着込む銀色のタイツと一体化したアーマーから小さな発射口が現れてマッチ棒サイズのミサイルが100発ほどせり出されてるとそれらは一気に発射され亜光速まで急加速、ショーエイを取り巻く全方位が黄金の火線となって伸びていき凄まじい閃光に飲み込まれていった。

「た~~まや~~!!!!!」

……たったの1時間。ショーエイの担当区域は爆撃と放射能汚染が酷く虫一つ残らない死の大地へと変貌した。

「け、こんなの肩慣らしにもならねえ。なんでこんな雑魚しかいない惑星に俺を寄越したんだ?」

本人は満足どころか不満と愚痴を漏らしている。無理もない、決戦兵器として造られた彼は敵の大軍団、宇宙艦隊を相手するのを第一の楽しみだったのにいざ来てみれば相手は争いが嫌いな温厚な種族、
肩透かしにも程があった。

「ちっ、こうなったら一緒にエイダに来ているはずのバィアス軍を殺るか。俺を満足させられなかった腹いせだ」

兵士達の言う通りショーエイは味方であるはずのバィアス軍を味方だと思ってすらいなかった。彼は直ぐ様内蔵されたレーダーで惑星の反対側にいるはずのバィアス軍の位置を探る――が。

「あ?やつらの反応がないぞ。こんなヤツらにやられるハズもねえしもしかしてもう終わらせて帰っていったのか……?」

「チッ」と舌打ちするショーエイ。

「け、しょうもねえ。こんな惑星にいつまでいてもつまんねえし俺もさっさと帰るか」

自分の乗ってきた宇宙船に帰ろうとした時、彼の動きがなぜか止まる。

「……ん?惑星エイダ軌道上から無数の熱源反応?」

センサーが何かをキャッチした彼は直ぐ様空を見上げ、眼球をグッと遥か先を凝視する。彼の眼球は人工脳直結の超高性能モニターになっておりそのスコープ倍率は最低でも一光年先を見渡せるようになっている。

「あれは……ブラックホールミサイルだと!!?」

彼は目を疑った。その名の通り着弾地点に縮退圧によって発生させる超巨大な超重量の歪み、すなわちブラックホールを人工的に発生させる戦略兵器である。
一発だけでも惑星を超重量でねじ曲げて広範囲を壊滅させる代物を数えるだけで100発、いやそれ以上の数が惑星エイダの四方八方から凄まじい速度で迫ってきていた。

「バィアスのヤロウ、こんな惑星ごときにこんなに撃ち込んで何考えてやがる!しかももう作戦は終わったんだぞっ!」

さすがのショーエイも焦りを感じる。いくら自分でもこれだけの数の直撃を食らえば流石に無事に済まないどころか間違いなく消し飛ぶ。

(まるでこの惑星には俺しかいないことを分かった上で撃ち込んでいるみたいだ……?)

するとショーエイはとある光景が脳に浮かぶ。それは2ヶ月前の惑星リュージュ攻略戦後、敵味方諸とも虐殺したことによってこのままでは自分達にも被害が及ぶと危惧した開発陣によって人格消去しようとしてきたことに。

「試作品だったとはいえ、やはり兵器に自我を持たせたのはとんでもない間違いだった。兵器は兵器らしく人間の支配下に置くのが一番いい」と。

だが彼はそのことに当然ぶちギレた。「てめえらの勝手で造りやがったくせになんだその言い草は!俺は誰の指図も受けねえぞ!!!」と、その後は兵士の言っていた顛末と同じである。

それからは何事もなかったが小規模の戦闘に参加させられるばかりで不満が募る一方でこの事件以降は自分に対する周りの対応が明らかに変わっている。完全に自分に対して汚物を見るような視線、極力避けるような対応、それらの出来事が次第に確信へと変わるのに時間はかからなかった。

「バィアスのヤロウ、この俺を裏切りやがったなあああああああっっ!!!」

彼はこれまでにないぐらいに憤怒して鬼のような恐ろしい顔に変わった。生みの親であるはずのバィアスがショーエイというもはや手に負えない危険な兵器を全力で排除するための作戦だったことに気づく。

「やられてたまるか!」と彼はすぐさま身体中に内蔵した全ての火器を展開して凄まじい速度で地表に落ちてくるミサイルを破壊しようと試みる。

「もし無事に生き残ったら首を洗って待ってやがれバィアス!!このショーエイ様が全員八つ裂きにしてるからなあ!!!」

地上からありったけのビーム、レーザー、ミサイルの弾幕が展開されて大気圏突入するブラックホールミサイルの群れをことごとく撃ち落としていく

「うおおああああああ!!」

宇宙から見るとそれはまる大量に打ち上げられた花火を見ているようなドンパチ具合である。
内蔵された小型だが戦略兵器級の威力を持つ核ミサイル、亜光速ミサイル、腹部の超熱核ブラスター、両腕を変形させた高出力プラズマビーム砲、彼の持つ大火力兵器をフル稼働させて大量のミサイルをなぎ払っていくが、全方位から次々に撃ち込まれる大量のミサイルを流石に対処しきれず次々と地上へ落下――超重力の歪みの集中によって星そのものが削りに削れていき物凄い勢いで崩壊していく。

(お、俺はまだこんなとこで死ぬわけには……!!)

流石のショーエイも超重力の嵐に巻き込まれてなす術なく歪んだ闇の中に吸い込まれていく。次第に核まで到達してまるで掃除機のように吸い込まれていき綺麗さっぱりなくなってしまった――かくしてこの日、惑星エイダは一人の欠陥品を処分されるがためだけに原住民諸とも消滅させられることなった。


物語はここから始まる――。
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