lie

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「あーあー、テステス。」 

“愛して 愛して この歌を
愛して 愛して 世界を
この世界の人々が 皆
幸せに なれなくとも”

美しい歌声が響き渡る。
彼女の歌声は誰もを魅了する歌声だ。
その場に居た誰もが彼女の歌声に魅了され、その場に留まる。

「皆さん、本日はありがとうございました!
沢山の人が私の曲を聴いてくださったこと、とても嬉しく思います!また聴きに来て下さいねっ!」

愛らしい笑顔と共にその言葉が発されると、ワッと場が盛り上がった。

「あ、自己紹介まだでしたね!
皆さん、初めましてー!初めてじゃない人もちらほら居るかな?えへへ…。
私、“ライ”って言います!シンガーソングライターになりました!まだまだ新人だけど、頑張るので応援お願いしますっ!」

長めの自己紹介が終わり、一瞬場が静まる。
その直後、各自がまるで聞こえていないかのように動き始め、場を離れていった。
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ダンッ…
大きく机を叩く音がする。

「何でよっ!何で曲しか聞いていかないの、皆…」
ライと名乗ったシンガーソングライターが呟いた。
「こら、自棄酒は辞めときなさいよ?」 

まるで母親のようなライの親友が呆れたように返し、代わりに水を持ってきた。

「あんた、いつでもそう言ってるけどね。自己紹介が長過ぎるんじゃない?話長い女は嫌われるわよー。」

「うるさい!口出さないで。」

ガチャ、という音と共にある男が入ってきた。

「よ、ライ。」

爽やかな笑顔と優しい声が風に乗ってライの耳に届く。

「███!!…?」

彼の名前を口に出せない。ライが絶望の表情を見せた時、ふと目に留まる人が居た。
…ライの親友だ。
彼女はにやりとした表情を浮かべ、彼の後ろに立っている。

「██…?」

彼女の名前も出せず、息も出来ない程喉が痛くなったライは気付いてしまった。そして_歌い始めた。
息も途切れ途切れで、何度も吐いた。近くにあったマイクを持ち、泣きながら歌った。

“愛した 愛した 世界は
私を 私を 置き去りにしていく
この世界で1人の 愛した
人が救われる のなら
もう いいや”

_これが、シンガーソングライターである“ライ”の最初で最期の曲だった。
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