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序章(中
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また沈黙。
怒られるのか。出て行けと言われるかもしれない。
シゥカはフフッと小さく笑った。
「お礼とか要らないよそんなの。俺が勝手に助けて、勝手に治療したんだ。
‥完治したら身内さんのところに帰そうと思ってたけど、‥居ないの?」
変な人。
「‥居ない、。ボクは、一人。」
「住んでるところは?この森の西側に村があったと思うけど‥。そこ?」
「そこから捨てられた。」
シゥカの目が大きく見開かれ、固まった。
なんとなく、ずっと合っていた目を逸らす。
窓の外で、木の葉がさわさわと謳った。
「ボクの体の傷、全部、村人たちがやった。四日間。
でも、ボクが悪いんだと思う。ボクが、人じゃないから。」
言葉を切り、ちらり、と彼を見る。
‥言葉を失っていた。
びっくりしたのだと思う。
「ボクと関わってることを知ったら、
おにーさん、殺されるかも。」
ピクリ、とシゥカの肩が小さく跳ねた。
サァッ、と木々が騒めく。
いくつかの葉が部屋の中へ舞い込んだ。
窓の外に再度目を向ける。
「‥これだから、俺は人間が嫌いなんだ。」
「?」
何か、呟いた気がした。上手く聴き取れなかった。
シゥカは溜息をつき、にこりと笑った。
彼は手を伸ばし、ボクの髪をそっと撫でた。
「なんでもないよ。
‥本当に、辛かったね。しばらくこの家でゆっくりお休み。
俺のことは心配しなくても大丈夫だから。この家、外からは人には見えないんだ。」
呆気にとられる。
理解ができない。
「なんでそこまでするの?ボクが居ると絶対、不愉快になる。ボク、人の感情が理解できない。バケモノだよ。気味悪くないの?」
「全然気味悪くないよ!人の方がよっぽどバケモノだよ。
‥俺が世話したいんだ。ゼェシィはこの家に居るの、嫌?」
‥本当にこの人は変な人だ。
ここに居るのは嫌か。‥‥少し考えて、ボクは頭を横に振った。
「よかった。じゃあ、これからよろしくね。
分からないことや聞きたいこととかあったら、遠慮なく俺に聞いていいからね。」
にこやかに嬉しそうにシゥカは微笑んだ。
なぜ笑うのだろう。
「うん‥。」
「ん、じゃあ、ゼェシィはもう少し寝てようか。久しぶりに起きて、きっと脳はもう疲れてるはずだよ。それともお腹空いてる?」
「空いてない‥。」
シゥカは立ち上がった。
「そっか!じゃあ、寝ててね。次起きたらまた話そう。今はあまり動かず、じっとして、睡眠を取らないと‥。‥眠れる?」
眠気はない。
頭を横に振る。
「えー‥。
‥‥じゃあ‥とっておきの唄を掛けてあげる。」
ニヤリと笑った。
「唄‥?」
「そう。唄。俺は魔術師でも、詠術の方のものだからね。」
「??」
「起きたら教えてあげる。ちょっとごめんね」
シゥカは布を退けて、ボクの額に右手を置いた。
「目、閉じて。」
ぱちり、と目を閉じる。
「‥『木の葉、水のせせらぎ、風の唄、火の爆ぜる音。
何が貴女を癒す。
意識の深淵。海に浮かぶ貴女は柔く引き込まれていく。緩やかに落ちていく。
奥へ、奥へ‥。
疲れただろう。暫しの休息。誰も踏み込めない貴女だけの空白。眠りの旅に旅立っておいで』」
シゥカが一句繋ぐたびに、眠気がじわりじわりと溢れ出た。
詠術。
詠を子守唄に、ボクは深く眠りに就いた。
夢を見た。
見たことのない風景。
視界いっぱいに色とりどりの花が咲いている。
眩しいほどの青空。
「ゼェシィ」
聞き覚えのある声。
振り返る。
ボクが立っていた。
見たことのない服を着ている。髪は今より少し長い。ボクより少し成長しているボクみたいだった。
顔は微笑んでいた。
「わかるよ。」
なにが。
「感情が。」
わかんないよ。
「できるよ。」
なにが。
「たくさんの仲間が。そして愛する者が。」
‥‥そんなの、できないよ。
「ねぇ、私。
たくさん学んで。
そして、泣いて笑って怒って。‥救って。」
ボクは理解できないよ。意味がわからないよ。
「‥いろんな人に出会って。
感情を識る旅に出て。」
‥‥旅?
怒られるのか。出て行けと言われるかもしれない。
シゥカはフフッと小さく笑った。
「お礼とか要らないよそんなの。俺が勝手に助けて、勝手に治療したんだ。
‥完治したら身内さんのところに帰そうと思ってたけど、‥居ないの?」
変な人。
「‥居ない、。ボクは、一人。」
「住んでるところは?この森の西側に村があったと思うけど‥。そこ?」
「そこから捨てられた。」
シゥカの目が大きく見開かれ、固まった。
なんとなく、ずっと合っていた目を逸らす。
窓の外で、木の葉がさわさわと謳った。
「ボクの体の傷、全部、村人たちがやった。四日間。
でも、ボクが悪いんだと思う。ボクが、人じゃないから。」
言葉を切り、ちらり、と彼を見る。
‥言葉を失っていた。
びっくりしたのだと思う。
「ボクと関わってることを知ったら、
おにーさん、殺されるかも。」
ピクリ、とシゥカの肩が小さく跳ねた。
サァッ、と木々が騒めく。
いくつかの葉が部屋の中へ舞い込んだ。
窓の外に再度目を向ける。
「‥これだから、俺は人間が嫌いなんだ。」
「?」
何か、呟いた気がした。上手く聴き取れなかった。
シゥカは溜息をつき、にこりと笑った。
彼は手を伸ばし、ボクの髪をそっと撫でた。
「なんでもないよ。
‥本当に、辛かったね。しばらくこの家でゆっくりお休み。
俺のことは心配しなくても大丈夫だから。この家、外からは人には見えないんだ。」
呆気にとられる。
理解ができない。
「なんでそこまでするの?ボクが居ると絶対、不愉快になる。ボク、人の感情が理解できない。バケモノだよ。気味悪くないの?」
「全然気味悪くないよ!人の方がよっぽどバケモノだよ。
‥俺が世話したいんだ。ゼェシィはこの家に居るの、嫌?」
‥本当にこの人は変な人だ。
ここに居るのは嫌か。‥‥少し考えて、ボクは頭を横に振った。
「よかった。じゃあ、これからよろしくね。
分からないことや聞きたいこととかあったら、遠慮なく俺に聞いていいからね。」
にこやかに嬉しそうにシゥカは微笑んだ。
なぜ笑うのだろう。
「うん‥。」
「ん、じゃあ、ゼェシィはもう少し寝てようか。久しぶりに起きて、きっと脳はもう疲れてるはずだよ。それともお腹空いてる?」
「空いてない‥。」
シゥカは立ち上がった。
「そっか!じゃあ、寝ててね。次起きたらまた話そう。今はあまり動かず、じっとして、睡眠を取らないと‥。‥眠れる?」
眠気はない。
頭を横に振る。
「えー‥。
‥‥じゃあ‥とっておきの唄を掛けてあげる。」
ニヤリと笑った。
「唄‥?」
「そう。唄。俺は魔術師でも、詠術の方のものだからね。」
「??」
「起きたら教えてあげる。ちょっとごめんね」
シゥカは布を退けて、ボクの額に右手を置いた。
「目、閉じて。」
ぱちり、と目を閉じる。
「‥『木の葉、水のせせらぎ、風の唄、火の爆ぜる音。
何が貴女を癒す。
意識の深淵。海に浮かぶ貴女は柔く引き込まれていく。緩やかに落ちていく。
奥へ、奥へ‥。
疲れただろう。暫しの休息。誰も踏み込めない貴女だけの空白。眠りの旅に旅立っておいで』」
シゥカが一句繋ぐたびに、眠気がじわりじわりと溢れ出た。
詠術。
詠を子守唄に、ボクは深く眠りに就いた。
夢を見た。
見たことのない風景。
視界いっぱいに色とりどりの花が咲いている。
眩しいほどの青空。
「ゼェシィ」
聞き覚えのある声。
振り返る。
ボクが立っていた。
見たことのない服を着ている。髪は今より少し長い。ボクより少し成長しているボクみたいだった。
顔は微笑んでいた。
「わかるよ。」
なにが。
「感情が。」
わかんないよ。
「できるよ。」
なにが。
「たくさんの仲間が。そして愛する者が。」
‥‥そんなの、できないよ。
「ねぇ、私。
たくさん学んで。
そして、泣いて笑って怒って。‥救って。」
ボクは理解できないよ。意味がわからないよ。
「‥いろんな人に出会って。
感情を識る旅に出て。」
‥‥旅?
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