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ふれあい方を学ぼう
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「これくらいは?」
「もう少し強くてもいいかも」
「こう?」
「あっ、いい感じです」
想定していたよりもずっと弱い生き物だと認識したジェイドさん相手に人間とのふれあい方をレクチャーする。
最初は握手を試すも手を握っているというよりは宛がってるだけで、恐々触れようとしているのが分かって微笑ましい。脳内イメージは手の平におさまるハムスターに恐る恐る指を近づけるゴリラだ。竜人に比べると儚い命なのでその慎重さは大事にしてほしい。
「覚えるの早いですね」
「大事な番に苦痛を与えたくないからな。一度芽生えた恐怖心なんて早々消えない、だろう?」
「ばっちり聞かれてしっかり覚えられてる……」
ジェイドさん曰く、普段は竜人間の調整みたいな仕事をしているそう。
雑用係みたいなものだと笑うけど、竜人を代表してこの場にいるようなものだし本当かどうか疑わしい。
けれど人代表で来ているのは平民の掃除係なので満更嘘じゃないのかも。
畏まるような相手じゃないので普段どおりの口調でいいですよと伝えたところ、あっさりフレンドリーな態度に変わってホッとする。後々ジェイドさんがお偉いさんだと分かった時、あんな丁重に扱われたのかと思ったら生きた心地がしないんだもの。
「これぐらいの力か。なぁ、次は抱きしめても?」
「はい」
握手と抱擁じゃ感覚も違うもんな。
両腕を広げて立つジェイドさんに近づいて抱きしめれば、驚いたようにビクッと体が震えた。
何を驚くことがあるのか。
人とのふれあい方をレクチャーするのと同時に竜人について知る時間でもあるんだから有効活用しなければ。
そう思いながら回した手で背中に触れる。おぉ、割と体温が低め。獣人ほどガチムチじゃないけど筋肉の付き方がヤバいな。腰回りもがっちりしてて羨ましい。そっと胸元に耳を寄せれば、ドッドッドッとえげつない速さの鼓動が聞こえる。平常時がこれって大丈夫だろうかと心配になる鼓動にそっとジェイドさんを伺えば真顔で見つめられていた。
「……ジェイドさん?」
瞳孔が開ききってなきゃ綺麗だなって呑気に眺めていられるんだけど。
どういう心理状態だっけと思い出しながら背中にまわしていた腕をおろし、ゆっくりと距離を取ろうとしたところでジェイドさんの腕が伸ばされた。
一切触れてないから抱擁というより長い腕に囲い込まれた状況に戸惑っていれば頭上から大きなため息が聞こえた。
「悪い、怖がらせたか?」
「す、少し。何かマズイところ触りましたか?」
「いや大丈夫だ。警戒心のなさに少し、な」
「呆れました?」
「心配になった」
心配という顔じゃなかったけど。
けど不機嫌さが滲む眼差しに賢い俺は言葉を飲み込む。
「……人は、割と誰にでもこういう事をするのか?」
「誰にでもって事はないですけど、親しい相手とかならその場のノリでわりとするかも」
今頃獣人に囲まれているだろう同僚とかも嬉しい事があったり、テンションがあった時には抱き合うこともある。
そりゃ恋人同士みたいなじっくり抱擁を交わすようなものじゃないけど。
「だからこんなにも色んな匂いが纏わりついてるんだな」
言外に臭いと言われてるようで慌てて確認するも特に気になる匂いはない。
そりゃそうだ。
失礼がないようにと念入りに入浴させられたし服だって新しいものを支給されている。
不愉快にさせるような匂いがあれば出発前に何かしら対処されていただろうし、誰も何も言わなかったということは嗅覚においても人の何倍も優れているということか。
だとすれば猶更近づかない方がいいんじゃないだろうか。
そっと胸を押して距離を取ろうとすれば、ムッとした表情をされるけど臭いと言ったのはそっちだろ。
「どうして離れようとするんだ」
「いや、だって臭いっていうから」
「臭いわけじゃない。不愉快なだけだ」
「同じじゃないですか」
不愉快な匂いイコール臭い、で合ってると思うんだけど。
百歩譲って臭いわけじゃなくても不愉快なら距離は取るべきだと思う。
そう主張すれば上書きするから問題ない、とのこと。
「上書きって、ぉわッ!」
囲っていた腕がそっと背中と腰に回って引き寄せられる。
じわじわと強くなる力を受け入れながら丁度いい加減のところで背中をタップ。
苦しくないか?と心配そうに声がかかるけど、それって多分握手に比べて力が入ってるからだろう。
握手はともかく抱擁って番が相手と考えればこれくらいギュッと抱きしめられた方がいい気がする。
大丈夫と返すも相手がよわよわ人族という認識のせいでしつこく本当に?と確認するあたり本当に番大好き種族だなと思う。
「本当に大丈夫ですって。恋人……番相手ならこれくらい強く抱きしめたほうが、んー、なんていうか安心する?ずっとこうしてたいくらい心地良いです」
まぁそれもある程度好感を持たれているという前提なのだけど。
そんな言葉もとろけるような笑顔で喜ばれれば空気を読める俺は飲み込むほかない。
「……ジェイドさん?」
頭に何か摺り寄せられてるような感覚。
勢いあまってぐらりと頭が揺れた一回目を除いて、控えめに押し付けられる何か。
「あの、何して……」
「上書き」
なるほど猫ちゃん的なマーキング行為か。
嫉妬で国を滅ぼしちゃう竜人だけど猫ちゃんと思えば可愛い……いや可愛いくはないな???
離してと背中を叩いて訴えるもののまだ他の雄の匂いがすると止めてくれない。
他の雄の匂いがするのが何だ。竜人って番じゃなくても匂いにはうるさい種族なんだろうか。
新情報を心の中に書き止めた後、俺の匂いになったと満足そうに笑うジェイドさんを見てセクハラとはなんぞ、という説明をするべきか頭を悩ませた。
「もう少し強くてもいいかも」
「こう?」
「あっ、いい感じです」
想定していたよりもずっと弱い生き物だと認識したジェイドさん相手に人間とのふれあい方をレクチャーする。
最初は握手を試すも手を握っているというよりは宛がってるだけで、恐々触れようとしているのが分かって微笑ましい。脳内イメージは手の平におさまるハムスターに恐る恐る指を近づけるゴリラだ。竜人に比べると儚い命なのでその慎重さは大事にしてほしい。
「覚えるの早いですね」
「大事な番に苦痛を与えたくないからな。一度芽生えた恐怖心なんて早々消えない、だろう?」
「ばっちり聞かれてしっかり覚えられてる……」
ジェイドさん曰く、普段は竜人間の調整みたいな仕事をしているそう。
雑用係みたいなものだと笑うけど、竜人を代表してこの場にいるようなものだし本当かどうか疑わしい。
けれど人代表で来ているのは平民の掃除係なので満更嘘じゃないのかも。
畏まるような相手じゃないので普段どおりの口調でいいですよと伝えたところ、あっさりフレンドリーな態度に変わってホッとする。後々ジェイドさんがお偉いさんだと分かった時、あんな丁重に扱われたのかと思ったら生きた心地がしないんだもの。
「これぐらいの力か。なぁ、次は抱きしめても?」
「はい」
握手と抱擁じゃ感覚も違うもんな。
両腕を広げて立つジェイドさんに近づいて抱きしめれば、驚いたようにビクッと体が震えた。
何を驚くことがあるのか。
人とのふれあい方をレクチャーするのと同時に竜人について知る時間でもあるんだから有効活用しなければ。
そう思いながら回した手で背中に触れる。おぉ、割と体温が低め。獣人ほどガチムチじゃないけど筋肉の付き方がヤバいな。腰回りもがっちりしてて羨ましい。そっと胸元に耳を寄せれば、ドッドッドッとえげつない速さの鼓動が聞こえる。平常時がこれって大丈夫だろうかと心配になる鼓動にそっとジェイドさんを伺えば真顔で見つめられていた。
「……ジェイドさん?」
瞳孔が開ききってなきゃ綺麗だなって呑気に眺めていられるんだけど。
どういう心理状態だっけと思い出しながら背中にまわしていた腕をおろし、ゆっくりと距離を取ろうとしたところでジェイドさんの腕が伸ばされた。
一切触れてないから抱擁というより長い腕に囲い込まれた状況に戸惑っていれば頭上から大きなため息が聞こえた。
「悪い、怖がらせたか?」
「す、少し。何かマズイところ触りましたか?」
「いや大丈夫だ。警戒心のなさに少し、な」
「呆れました?」
「心配になった」
心配という顔じゃなかったけど。
けど不機嫌さが滲む眼差しに賢い俺は言葉を飲み込む。
「……人は、割と誰にでもこういう事をするのか?」
「誰にでもって事はないですけど、親しい相手とかならその場のノリでわりとするかも」
今頃獣人に囲まれているだろう同僚とかも嬉しい事があったり、テンションがあった時には抱き合うこともある。
そりゃ恋人同士みたいなじっくり抱擁を交わすようなものじゃないけど。
「だからこんなにも色んな匂いが纏わりついてるんだな」
言外に臭いと言われてるようで慌てて確認するも特に気になる匂いはない。
そりゃそうだ。
失礼がないようにと念入りに入浴させられたし服だって新しいものを支給されている。
不愉快にさせるような匂いがあれば出発前に何かしら対処されていただろうし、誰も何も言わなかったということは嗅覚においても人の何倍も優れているということか。
だとすれば猶更近づかない方がいいんじゃないだろうか。
そっと胸を押して距離を取ろうとすれば、ムッとした表情をされるけど臭いと言ったのはそっちだろ。
「どうして離れようとするんだ」
「いや、だって臭いっていうから」
「臭いわけじゃない。不愉快なだけだ」
「同じじゃないですか」
不愉快な匂いイコール臭い、で合ってると思うんだけど。
百歩譲って臭いわけじゃなくても不愉快なら距離は取るべきだと思う。
そう主張すれば上書きするから問題ない、とのこと。
「上書きって、ぉわッ!」
囲っていた腕がそっと背中と腰に回って引き寄せられる。
じわじわと強くなる力を受け入れながら丁度いい加減のところで背中をタップ。
苦しくないか?と心配そうに声がかかるけど、それって多分握手に比べて力が入ってるからだろう。
握手はともかく抱擁って番が相手と考えればこれくらいギュッと抱きしめられた方がいい気がする。
大丈夫と返すも相手がよわよわ人族という認識のせいでしつこく本当に?と確認するあたり本当に番大好き種族だなと思う。
「本当に大丈夫ですって。恋人……番相手ならこれくらい強く抱きしめたほうが、んー、なんていうか安心する?ずっとこうしてたいくらい心地良いです」
まぁそれもある程度好感を持たれているという前提なのだけど。
そんな言葉もとろけるような笑顔で喜ばれれば空気を読める俺は飲み込むほかない。
「……ジェイドさん?」
頭に何か摺り寄せられてるような感覚。
勢いあまってぐらりと頭が揺れた一回目を除いて、控えめに押し付けられる何か。
「あの、何して……」
「上書き」
なるほど猫ちゃん的なマーキング行為か。
嫉妬で国を滅ぼしちゃう竜人だけど猫ちゃんと思えば可愛い……いや可愛いくはないな???
離してと背中を叩いて訴えるもののまだ他の雄の匂いがすると止めてくれない。
他の雄の匂いがするのが何だ。竜人って番じゃなくても匂いにはうるさい種族なんだろうか。
新情報を心の中に書き止めた後、俺の匂いになったと満足そうに笑うジェイドさんを見てセクハラとはなんぞ、という説明をするべきか頭を悩ませた。
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