人族と竜人族の相互理解のために来たんであって生贄ではないはず

ささかm

文字の大きさ
上 下
3 / 3

ふれあい方を学ぼう

しおりを挟む
「これくらいは?」
「もう少し強くてもいいかも」
「こう?」
「あっ、いい感じです」

想定していたよりもずっと弱い生き物だと認識したジェイドさん相手に人間とのふれあい方をレクチャーする。
最初は握手を試すも手を握っているというよりは宛がってるだけで、恐々触れようとしているのが分かって微笑ましい。脳内イメージは手の平におさまるハムスターに恐る恐る指を近づけるゴリラだ。竜人に比べると儚い命なのでその慎重さは大事にしてほしい。

「覚えるの早いですね」
「大事な番に苦痛を与えたくないからな。一度芽生えた恐怖心なんて早々消えない、だろう?」
「ばっちり聞かれてしっかり覚えられてる……」

ジェイドさん曰く、普段は竜人間の調整みたいな仕事をしているそう。
雑用係みたいなものだと笑うけど、竜人を代表してこの場にいるようなものだし本当かどうか疑わしい。
けれど人代表で来ているのは平民の掃除係なので満更嘘じゃないのかも。
畏まるような相手じゃないので普段どおりの口調でいいですよと伝えたところ、あっさりフレンドリーな態度に変わってホッとする。後々ジェイドさんがお偉いさんだと分かった時、あんな丁重に扱われたのかと思ったら生きた心地がしないんだもの。


「これぐらいの力か。なぁ、次は抱きしめても?」
「はい」

握手と抱擁じゃ感覚も違うもんな。
両腕を広げて立つジェイドさんに近づいて抱きしめれば、驚いたようにビクッと体が震えた。
何を驚くことがあるのか。
人とのふれあい方をレクチャーするのと同時に竜人について知る時間でもあるんだから有効活用しなければ。
そう思いながら回した手で背中に触れる。おぉ、割と体温が低め。獣人ほどガチムチじゃないけど筋肉の付き方がヤバいな。腰回りもがっちりしてて羨ましい。そっと胸元に耳を寄せれば、ドッドッドッとえげつない速さの鼓動が聞こえる。平常時がこれって大丈夫だろうかと心配になる鼓動にそっとジェイドさんを伺えば真顔で見つめられていた。

「……ジェイドさん?」

瞳孔が開ききってなきゃ綺麗だなって呑気に眺めていられるんだけど。
どういう心理状態だっけと思い出しながら背中にまわしていた腕をおろし、ゆっくりと距離を取ろうとしたところでジェイドさんの腕が伸ばされた。
一切触れてないから抱擁というより長い腕に囲い込まれた状況に戸惑っていれば頭上から大きなため息が聞こえた。

「悪い、怖がらせたか?」
「す、少し。何かマズイところ触りましたか?」
「いや大丈夫だ。警戒心のなさに少し、な」
「呆れました?」
「心配になった」

心配という顔じゃなかったけど。
けど不機嫌さが滲む眼差しに賢い俺は言葉を飲み込む。

「……人は、割と誰にでもこういう事をするのか?」
「誰にでもって事はないですけど、親しい相手とかならその場のノリでわりとするかも」

今頃獣人に囲まれているだろう同僚とかも嬉しい事があったり、テンションがあった時には抱き合うこともある。
そりゃ恋人同士みたいなじっくり抱擁を交わすようなものじゃないけど。

「だからこんなにも色んな匂いが纏わりついてるんだな」

言外に臭いと言われてるようで慌てて確認するも特に気になる匂いはない。
そりゃそうだ。
失礼がないようにと念入りに入浴させられたし服だって新しいものを支給されている。
不愉快にさせるような匂いがあれば出発前に何かしら対処されていただろうし、誰も何も言わなかったということは嗅覚においても人の何倍も優れているということか。
だとすれば猶更近づかない方がいいんじゃないだろうか。
そっと胸を押して距離を取ろうとすれば、ムッとした表情をされるけど臭いと言ったのはそっちだろ。

「どうして離れようとするんだ」
「いや、だって臭いっていうから」
「臭いわけじゃない。不愉快なだけだ」
「同じじゃないですか」

不愉快な匂いイコール臭い、で合ってると思うんだけど。
百歩譲って臭いわけじゃなくても不愉快なら距離は取るべきだと思う。
そう主張すれば上書きするから問題ない、とのこと。

「上書きって、ぉわッ!」

囲っていた腕がそっと背中と腰に回って引き寄せられる。
じわじわと強くなる力を受け入れながら丁度いい加減のところで背中をタップ。
苦しくないか?と心配そうに声がかかるけど、それって多分握手に比べて力が入ってるからだろう。
握手はともかく抱擁って番が相手と考えればこれくらいギュッと抱きしめられた方がいい気がする。
大丈夫と返すも相手がよわよわ人族という認識のせいでしつこく本当に?と確認するあたり本当に番大好き種族だなと思う。

「本当に大丈夫ですって。恋人……番相手ならこれくらい強く抱きしめたほうが、んー、なんていうか安心する?ずっとこうしてたいくらい心地良いです」

まぁそれもある程度好感を持たれているという前提なのだけど。
そんな言葉もとろけるような笑顔で喜ばれれば空気を読める俺は飲み込むほかない。

「……ジェイドさん?」

頭に何か摺り寄せられてるような感覚。
勢いあまってぐらりと頭が揺れた一回目を除いて、控えめに押し付けられる何か。

「あの、何して……」
「上書き」

なるほど猫ちゃん的なマーキング行為か。
嫉妬で国を滅ぼしちゃう竜人だけど猫ちゃんと思えば可愛い……いや可愛いくはないな???
離してと背中を叩いて訴えるもののまだ他の雄の匂いがすると止めてくれない。
他の雄の匂いがするのが何だ。竜人って番じゃなくても匂いにはうるさい種族なんだろうか。
新情報を心の中に書き止めた後、俺の匂いになったと満足そうに笑うジェイドさんを見てセクハラとはなんぞ、という説明をするべきか頭を悩ませた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...