人族と竜人族の相互理解のために来たんであって生贄ではないはず

ささかm

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相互理解の場

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人族代表となり交流と相互理解のために竜人族のもとへ行ってもらいたい。
そう話を聞いた時は当然断りたかったけれど、あれだけ散々ぶっちゃけ話を聞かせてしまっては不敬罪の3文字が脳裏をチラついて。
すでに決定事項のように話を進めることからして拒否権はないんだろうとため息をついた。

あの日一緒にいた同僚も巻き添えで獣人族へ送り出されることになったらしく、本当に申し訳ないなという気持ちと同時に俺もそっちが良かったと羨ましくも思う。
平常時は人族とそう変わらない竜人族とちがって、受け継いだ動物の名残が耳や尾にあらわれる獣人族は見てる分にはほっこりする。同じ恐怖対象なら多少なりとも和む要素があったほうがいい。そう思ってダメ元で交代を打診してみれば、おっそろしく怖い顔で二度とそんな事は口にするなと怒鳴られた。まぁ不敬罪で処分されるところを温情を与えられた身で贅沢言うなって話だよな。

そうして初めて足を踏み入れた竜人族が暮らす国。
一括りに竜人族と言ってるけど、水龍種や翼種と棲み分けが必要とされているから天・地・海と3つのエリアに分かれている。その中で向かう先は地エリア。他の2つじゃ環境が違い過ぎるだろうという配慮からだ。違い過ぎるもなにもうっかりで命を落としそうな場所は勘弁してもらいたい。

転移魔法でついた先は王宮の一室。
出来れば街中を眺めながら来たかったけど、あんまり人族がぞろぞろと集団で来ることがないので国民に不安を与えない為に直通コースにしたらしい。
戦力的にどちらかといえば不安を覚えるのはこちらなんだけど。
まぁ普段3種族の交流の場は人族の暮らす国がメインだから仕方ないか。

待っていた竜人族と何やら話をしているのを横目に、緊張していた体からほんの少し力を抜く。人族代表なんて言われたものだからてっきり単身乗りこめという意味かと思っていたけれど、周囲をぐるりと囲まれたことで人族代表団の一員という意味だったかと胸を撫でおろした。考えればすぐ分かることだ。不敬罪間違いなしな発言を繰り返す馬鹿を単身で送り込むわけがない。謝罪の為の同行か。だったら謝罪後の込み入った話になったら空気になっていればいいか。


そう楽観視して向かった先には会議用というよりダイニングに置かれていそうな少人数用のテーブルが一つ。
こちらだけで7~8人いるのに人数の割にテーブルが小さすぎないか。
人族をか弱いハムスターと思ってとは言ったけど体積的にもそんな認識でいて欲しいとは言ってない。
見える範囲でおいてある椅子も一つだけ。
代表者が座って残りは背後に立つ感じだろうか。

「待たせたね、魔力酔いは大丈夫?」

周りをぐるりと囲まれているせいでろくに姿は追えなかったけど、若そうな声色のわりにナチュラルに上からな物の言いようは竜人族あるあるだから驚きはしない。
見た目より遥かに年を重ねているのもそうだけど、人族に対しては対等というより保護してるという認識だから仕方ない。
周りと同じように頭を下げつつ、謝罪のタイミングを計っていればふいに視界が広がった。
前方に立っていた二人が道を開けるようにサイドに移動したのだ。
同じように動くべきだろうかと思うも左右に陣取る二人が微動だにしないせいで、何でか俺が人族代表ですよという立ち位置になってしまう。
えっ、なに、これどうすればいいの。
そう慌てふためく姿がおかしかったのか、笑い声が聞こえてそこでようやく声の主へと視線を向けたのだけれど。

高そうな刺繍の入ったノースリーブシャツからむき出しになった褐色肌の二の腕は程よく筋肉がついていて、少しくすんだ青みがかった緑の長い髪が笑いを堪えて体が揺れるたびに右へ左へと流れている。
見た感じ20代後半といったところだけどそこに竜人族というワードが加わると途端に年齢不詳になるから難しいところ。
なお顔面については祝福されし竜人族といえばお分かりだろう。
顔だけはいいんだよ顔だけは。



「どうぞ、座って話そうか」

その声に後ろから押されるように前に進むけれど、用意された椅子は一つだけ。
追加される様子もないしやはり代表者用なんだろう。
そう思って横にずれようにも相変わらず岩のように頑として譲ってくれないし、前に立っていた二人は椅子を引いて無言で見つめてくる。
再度、座ってという声が掛かって顔を上げればその視線はまっすぐに俺に向けられていて。え、俺?なんで?そう思いつつ前方の代表メンバーに視線を向ければ声を出さないまま「す・わ・れ」と訴えてくるものだから何で俺がとか場違いじゃないかと思いつつ座るしかない。
左右と背後からの見えない圧力を感じつつ恐る恐る視線を上げた先では、竜人族の美丈夫がその蜂蜜色の瞳をゆるりと細めて笑っている。少し垂れ目がちなものだから少し笑っただけでとんでもなく幸せそうに見えるから不思議。いつぞや森で見かけたフクロウみたいなかんじ。
なんてとても口に出来ない失礼な感想を抱いた所で「それでは失礼いたします」という声と同時に立ち去る足音が。
慌てて立ち上がろうとしたところで名前を呼ばれた。

「シリアン」
「えっ」
「ダメだよ。お話しようって言っただろう?」
「でも、」
「シリアン」

こちらを見る瞳の瞳孔が絞られたのを見てしまえば従うほかない。
いわゆるプチおこ状態。そこまでいかなくても不機嫌とかそういう状態で、これ以上刺激して不敬罪を引っ張り出して処分されてはかなわない。
何より名乗ってもないのに名前を知られているっていうのはちょっと怖いし。
喉元まで出かかった悲鳴を飲み込んで大人しく椅子に座りなおせば、満足したのか瞳孔がもとに戻ってホッとする。
他種族の地雷ってどこにあるか分からなくてほんと怖いわ。

「怖がらせてごめんね。まだ何も話せていないのに帰っちゃうと思ったらつい、ね」
「は、はい」

つい、で不敬罪引っ張り出されるのも、っていうかそうだった。

「あ、あの」
「うん、なぁに?」
「先日はその、失礼なことを、」
「そのことなら気にしてないよ。むしろ指摘されたとおり見つけた番を誰にも取られないよう自分の懐に入れるのに必死でどう思われるかなんて考えてもいなかったからね」
「はぁ」

穏やかな表情と口調なんだけど言ってる内容がやっぱ物騒なんだよな。
やっと見つけた番なんだろうからそりゃテンション上がるのはわからないでもないけど、真っ先にするのが懐に仕舞っちゃおうだもん。気持ちを伝えるとか親しくなるとかそういった順序をすっ飛ばすのは人族にとっては恐怖でしかないと思うんだけど。

「ずっと議題になっていた通り、番を見つけ出すのも一苦労だけど見つけた後のほうがもっと大変というか悲惨というか」
「はぁ」

でしょうね、という言葉はぐっと飲みこむ。
口は災いの元だと痛いほどに学んだ。今後はちゃんと頭を通して言葉を発するので、どうか無事に帰れますように。

「だからね、君の言う相互理解が問題解決の鍵になるんじゃないかと思って来てもらったんだ」
「なるほど」

問題解決の鍵になるかも、は理解していただけて何より。
ただ、それで何で俺が呼ばれたかってことなんだけど。
番関係や番をなくした末の発狂問題はずっとお偉いさんたちで話したってきた事なんだし、引き続きその方向でいくべきでは?
なるほどと言いつつ疑問が表情に出たのか、クスリと笑って手を伸ばしたと思ったら空中で不自然に止まる。止まって、ぎこちなく引き戻したかと思えば何事もなかったようににこっと微笑んだ。

「僕が竜人族のことを教えるから、君も人族のことを教えてほしいんだ」
「え、いや、でももっと他に」
「君がいいんだ」
「でも、」
「シリアン」

また瞳孔がキュッとするけど勢いで引き受けるわけにはいかないのだ。
こちとら王宮で掃除するだけの平民だぞ。言葉遣いだとか言っていいこと悪いことの判断とか自信がない。今でさえ脳みそを通してから言葉を発しろだのなんだの言われてるのに。喋りだして10分で不敬罪を突き付けられる自信しかない。
そのあたりを眼光に怯えてしどろもどろになりつつ説明するも、気にしなくていい、不敬罪には問わない、言って悪い事は悪い事と知らなかったのだから問題ない、と返されれば断る理由はない。
なんせ会議後の資料を幾度となく読んだせいで、竜人族や獣人族の生態に興味はあるのだ。ただ一歩間違えれば命の危機があるという恐ろしさがストッパーになっていただけで。知りたいことを人族の所感混じりの文章で知るよりも、竜人族本人に聞けるチャンスがあるなら手にすべきでは。
そろりと視線を上げれば次はどんな理由をつけて渋るのかなと言うように余裕たっぷりの浮かべている。穏やかで優しそうなんだけどやっぱりちょっと一癖ありそう。

「あの」
「うん」
「一つだけ……あの、貴方は「ジェイド」えっとあなt「ジェイド」……ジェイド様「様はいらないかな」………………ジェイドさん」

呼び捨てなんて本人が良くても周りが不敬罪を突き付けてくるに決まってる。
長い無言の後、どうにかさん付けで受け入れてくれたけど。

「あの、ジェイドさんは番は?」
「……まだいないよ」
「あぁ、それなら大丈夫かな」

割と番のいるいないはデリケートな問題なので質問するのは気が引けるけど、わが身を守るためには聞いておかねば。
長く生きてるだけあって温厚なんだけど、そんな彼らでも番がかかわると途端に心が狭いというか地雷だらけになるから怖い。

「それじゃあ俺でよければお願いします」

握手の為に差し出した手をジェイドさんの手が触れようとして、寸前でまた不自然に止まったと思ったら引き戻される。

「えっと、握手の習慣はなかったんでしたっけ」
「いや、そうじゃないんだけど。その前に人族の腕力がどの程度が試させてもらっても?」

そういえば人族はか弱いハムスターだと思えとか何とか言っちゃったな。
さすがにあれは大げさだったけどジェイドさんは不安になったんだろう。
差し出された手を力いっぱい握ってくれと言われたので、遠慮なく渾身の力で握りしめた。フンッ。

「………」
「………」
「………?」
「うん?いいよ、握ってくれて」
「えっ」
「え?」

いや、もう握ったんですけど。
思ったより力があるねとかそんな反応が何もないからジェイドさんを見たら、同じように不思議そうに見つめられていた。
二人してどうしたんだろうと首を傾げた直後の爆弾発言。
は?いいよ握ってくれてってどういうこと??

「いや、さっき思いっきり握ったじゃないですか」
「え?」
「え?」
「いや……ごめんね、ちょっとボーっとしてたかも。3・2・1、の後に思いっきり力を込めてくれるかな?」
「わかりました」
「3」
「2」
「1」

ふんっ、とさっき以上に力を込めて手を握る。
ボーっとしてたから気づきませんでした、なんて馬鹿げた言い訳を口に出来ないように。
それなのに。

「えっ」
「えっ?」

表情をストンと落としたジェイドさんがジッと握ったままの手を見つめている。
マジマジと信じがたいものを見るような目で。

「力、いれた?」
「い、いれました」
「3・2・1の後?」
「はい」

俺の返答を聞いて片手で顔を覆ったジェイドさんの「マジかぁ。人族やべぇな」という声に、この人の素ってこっちかだとか黙っていれば良家の優しいお兄さんで素でしゃべるとチャラいお兄さんだなだとか考えつつ、この先大丈夫なんだろうかと今更ながら不安に襲われた。
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