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第二章 大罪人として
17.サキュバスの国の前に
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俺とエストはネロと別れた後、すぐにサキュバスの国に向かうことにした。
『トリカゴ』から脱出した時の様に、スカイダイビングのタンデム飛行の様に俺のタフムーラスの鎖で俺とエストを縛る。
ちょっときつかったのか、エストにあからさまに嫌な顔をされるが軽く謝るだけで済ませておく。
ネロのおかげで魔力が漲っているエストはその場から軽々と上昇した。
あまりの勢いについ、前世で乗った遊園地のジェットコースター的なヤツを思い出してしまう。
落ちるんじゃなくて上に引っ張られるヤツ。まだあるのかな。
マイナスGを感じるのも束の間、上昇した俺の視界にどこまでも続くと思える大森林が広がっていた。
どうでもいい事かもしれないがこの森の木々の全ては針葉樹らしく、上空から見ると針山の様に緑が広がっている。
時刻も夕暮れに差し掛かる頃なのかな、日が少し傾いてその針葉樹の先っぽを立体的に赤く染め始めている。
深く沈む緑色とそこに乗算された日の赤色、そして何かに反射して輝く日光の白色。人口的に作られたものではない、自然の造形美のコントラストがとても綺麗だ。
「ん?反射するモノって森の中になんかあるっけか・・・?」
絶景に少しうっとりしていた俺は、自分が思ったことを反芻する。
しかし、あるとしたら池とかくらいで、他に思いつかない。深い森の中だ。池があったとしても上空からは見えないはずだ。
そんなことを考えていたら日を反射している何かが急速に接近してくる。
「貴様!ぼーっとしてるな!!」
急にエストの怒声が鳴り、急旋回したのか、横Gに俺は驚く。
「見えているんだったら、あれくらい叩き落とせ!」
「えっ?」
俺はエストが躱した、下から飛んできたそれを見た。
勢いをなくし、放物線を描いて落下していくのは、見事な羽が付いた矢だった。
「あの天敵どもめっ!」
悪態をつき、エストが森の中を睨む。
それの返事を返してきたのか、今度は無数の矢がこちらをめがけて飛んでくる。
「まだ他にも天敵いるの!?敵作り過ぎじゃね?」
「うるさい!こちらは悪くない!あいつらが悪い!早く叩き落とせ!」
俺はマジックウインドウを開き、タフムーラスの鎖を選択する。
「おらよっと!」
俺の意のままに動く鎖はしなる鞭のように、次々と矢を叩き落とす。
矢はかなりのスピードで飛んでくるのだが、結構上空にいることもあり、大したことはない。楽勝だ。
俺の華麗な矢さばきを見てか、エストは更にスピードを上げて滑空する。
が、しかし。
ドォン!という突然の衝突音とともに見えない空気の壁に激突してしまった。
俺は後頭部を鈍器で殴られたような衝撃に意識を飛ばしそうになるが、なんとか保つ。
それよりも状況の方が深刻だ。
エストは思いっきり頭を打ったのか意識がないらしく、俺たちはものの見事に落下していく。
「まじでえええええ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やったな。」
高い木の枝に軽々と立つ男が口に出す。
「そのようだ。相変わらず頭が悪い。学習という言葉を知らないヤツラだからな。」
他の枝に立つ男が相槌を打つ。
「さあ、奴らの唯一の価値の羽をいただくとしよう。」
「くくっ。口が悪い。しかし、随分と人型に近いな。第3世代か。」
「そうだろうな。どちらにせよ。言葉は通じんだろうから、羽を切った後は使えるようなら奴隷にしてしまえ。使えないようなら殺してしまえ。」
「くくっ。そうしよう。」
獲物を射止めて上機嫌なのか、二人とも長い耳をピクピクと揺らしている。
二人の男は軽々と枝を渡り、エストが落下した地点に降り立った。
二人の眼前にはエストと俺が倒れて地に伏している。
「しかし、あの高さから落ちた割には無傷なようだが・・・。」
一人の男が近づきつつも、解いていた警戒を少しだけ引き締める。
俺はその瞬間に、起き上がり様に背中のネロの大剣を振り抜いた。
「おしかったな・・・。気絶したフリか。」
俺の剣先は鼻先だけを掠めて空を斬った。
男は血が滲んだ鼻を触り、したり顔で言葉を吐く。
「おあいにく様。最初っから気絶もしてないし、落下で傷も負ってない。
連れは気絶してるけど。」
俺はしっかりと立ち上がり、大剣を両手で構える。目の前には男が一人。
もう一人は警戒して距離を取り、木の枝の上から弓を構えている。
「そうか。矢を払っていた魔法の鎖だな?それを枝に絡めて落下の衝撃を防いだのか。」
「説明文をどうも。」
男は頭の回転が速いらしく、すぐに状況を察した。ただ者ならぬ相手だと思っていいはずだ。
「そして、貴様は人間か?
なぜそんな鷺の獣人などど行動を共にしている?言葉が通じるわけでもあるまいに。」
男は言葉を口にしながら、腰の短剣を抜いて身構える。
「言葉も通じるし、この人に助けてもらってたりもする。そんなふうに鷺の獣人を馬鹿にするのはやめてくれる?
それよりあんたたちは・・・。」
「ふはっ!それでは力を示して見返すがいい!」
俺が話し終わらないうちに、刃を向けて男が走り寄って来る。
俺の目の前に来るや否や、頭を低く屈める。
「うおっ!?」
ギィンッ!という金属音が響く。
男が屈んだ瞬間に後ろの男が放っていた矢が俺の目の前に現れていた。
辛くも大剣の背で弾くが、目の前の男への反応が遅れる。
男は少し回り込んで、俺の右脇へ刺突しようとする。
見事な連携だ。
だが、俺も体を大剣に隠すように捻ってその刺突を躱す。
「うぐ!」
次の瞬間に俺の右の太ももに裂傷が走った。
背後の男が放った矢がかすり、太ももを削っていったのだ。
力が入らなくなった右の太ももに重心がかかっていってしまうタイミングだったが、俺はそれを堪えようとはせず倒れこむようになりながら、一閃。
止めとばかりに短剣を返して襲い掛かろうとしていた男に大剣が横薙ぎに振られる。
肉を断ち、グチャリと骨が潰れる感触が俺の手に伝わるが、相手も手練れ。
左腕を切り落とされるが、短剣で受け止めて胴まで斬られるのを受け止めた。
俺の方はというと勢いあまってそのまま倒れこむ。
しかし、倒れこみながらもマジックウインドウを展開し、俺の周囲に発生した黒い穴からタフムーラスの鎖を射出する。
そして腕を斬られた男を鎖で絡めとった。
「これで勝負あり?」
起き上がった俺は鎖に巻き付かれて動けなくなった男の首に大剣を宛がう。
そして大きくため息をついた。
「・・・・・。参った。俺の負けだ。好きにしろ・・・。」
捕まっている方の男が降参する。同時に離れている男の方に逃げろと顎で指示する。
「いや、なし崩し的に交戦しちゃったけど、そもそも戦う理由はないし・・・。」
俺は逃げろと言われているのに、その場を動けないでいる男の方を一瞥した後、再度ため息をつき、タフムーラスの鎖を解除した。一瞬で鎖が透明になって消えていく。
「なっ!?貴様!情けを掛けるというのか!?」
プライドが高い男らしく、死の覚悟ができていたのだろう。
俺がとった解放するという行動が、気持ちを逆なでしてしまった。
急に解放されて狼狽えるというより、誇りを汚されたとばかりに憤慨している。
「そういうのめんどくさいからいいです。
それにあんたを殺したら、そこにいるもう一人に一生恨まれかねない。そういうのは勘弁願いたい。」
俺はそういうことになってしまった人物、エストをちらりと見る。
出来れば意思疎通の出来る人とこれ以上恨まれることのないようにしたいものだ。
俺はネロが持たせてくれた袋の中を漁る。
案の定、腕を縛れそうなタオルが入っていた。
「切った自分がやるのもなんだけど・・・。」
警戒しつつも目を丸くする男を尻目に、俺は流血し続ける男の左腕を縛る。
こんな時に女神がいればとも思うがそれは叶わない。
「あんたたち人間じゃないんでしょ?
切れた腕くっつけとけば治るとかそういうスキルないの?」
俺はいたって大真面目に男に聞いた。この男はサキュバスとかの仲間なのかななどとも思いつつ。
「ふっ、ふっ、ふははははは!
貴様は変わった人間のようだな!
我々の事も知らないようだし、今殺し合いをした相手を手当てするなどとは!」
大笑いと共に俺に対する男の敵意が薄れていく。
もちろん俺はこうなる事を見越しての行動だ。
よくある敵と仲良くなる行動パターンなんだけどね、と心の中でだけ思っておく。
成功するかは不安だったけども。
「手当てしていただいた事は感謝する。この後また不意打ちをするなどという事も絶対にしない。
我々の事を知らないようだが、我々は・・・・。」
男は俺から離れ、傍の木の幹に腰掛ける。
そして何やら呟いた。
すると男の体が薄ぼんやりと緑色に輝き始めた。
木からエネルギーを吸収しているのか、その光は切れた腕の切り口に集まっていく。
きっと治療の魔法とかそんな感じなのだろうが、木々が風に揺れてざわめき、大地から目に見えないエネルギーがその男に集まっていくような気がする。
なんとも大自然の癒しの様に思えてならない。
よくよく見るとその男はヒョロッとした軽そうな細い身体。
明るい茶色の長髪に先の尖った長い耳。
服装は動きやすい肩を出したシャツと膝丈のパンツ。上下ともにシルクの織物のような光沢のある生地に、丁寧に細かい刺繍が施されている。
そして、弦をくぐり身につけた、鮮やかな木目が業物だと主張する弓。
姿形を見ると、もうそうだとしか思えない。
「まっ、まさか・・・・。
あなたたちはもしかしてエルフってヤツ?!」
俺がまさかを口にした瞬間に、俺の右肩に激痛が走る。
真横から風を切り、矢が飛んできていたようだ。ライフルの様にスピンをかけて放たれていた矢は肩の筋肉を抉り、骨にヒビを入れる勢いだ。
「兄さま!ご無事ですか!?」
突然の出来事に唖然とした幹に座っていた男は声の方を向いた。
俺も痛みを堪えながら、その声の方を向く。
男と同じ様ないでたちの女性。
髪は男よりももっと明るい茶色というかグレーが混じっているようなアッシュグレージュ。
尖った耳を空に向けて、切れ長の目に黄金色の瞳が光を反射する。
ほっそりとした体つきに、大きくない胸。
まさに俺の中のエルフというイメージそのもの。
またキュンキュンしちゃう女性が登場したのかも。
でも肩がいたい・・・。
カオスゲージ
〔Law and Order +++[64]++++++ Chaos〕
『トリカゴ』から脱出した時の様に、スカイダイビングのタンデム飛行の様に俺のタフムーラスの鎖で俺とエストを縛る。
ちょっときつかったのか、エストにあからさまに嫌な顔をされるが軽く謝るだけで済ませておく。
ネロのおかげで魔力が漲っているエストはその場から軽々と上昇した。
あまりの勢いについ、前世で乗った遊園地のジェットコースター的なヤツを思い出してしまう。
落ちるんじゃなくて上に引っ張られるヤツ。まだあるのかな。
マイナスGを感じるのも束の間、上昇した俺の視界にどこまでも続くと思える大森林が広がっていた。
どうでもいい事かもしれないがこの森の木々の全ては針葉樹らしく、上空から見ると針山の様に緑が広がっている。
時刻も夕暮れに差し掛かる頃なのかな、日が少し傾いてその針葉樹の先っぽを立体的に赤く染め始めている。
深く沈む緑色とそこに乗算された日の赤色、そして何かに反射して輝く日光の白色。人口的に作られたものではない、自然の造形美のコントラストがとても綺麗だ。
「ん?反射するモノって森の中になんかあるっけか・・・?」
絶景に少しうっとりしていた俺は、自分が思ったことを反芻する。
しかし、あるとしたら池とかくらいで、他に思いつかない。深い森の中だ。池があったとしても上空からは見えないはずだ。
そんなことを考えていたら日を反射している何かが急速に接近してくる。
「貴様!ぼーっとしてるな!!」
急にエストの怒声が鳴り、急旋回したのか、横Gに俺は驚く。
「見えているんだったら、あれくらい叩き落とせ!」
「えっ?」
俺はエストが躱した、下から飛んできたそれを見た。
勢いをなくし、放物線を描いて落下していくのは、見事な羽が付いた矢だった。
「あの天敵どもめっ!」
悪態をつき、エストが森の中を睨む。
それの返事を返してきたのか、今度は無数の矢がこちらをめがけて飛んでくる。
「まだ他にも天敵いるの!?敵作り過ぎじゃね?」
「うるさい!こちらは悪くない!あいつらが悪い!早く叩き落とせ!」
俺はマジックウインドウを開き、タフムーラスの鎖を選択する。
「おらよっと!」
俺の意のままに動く鎖はしなる鞭のように、次々と矢を叩き落とす。
矢はかなりのスピードで飛んでくるのだが、結構上空にいることもあり、大したことはない。楽勝だ。
俺の華麗な矢さばきを見てか、エストは更にスピードを上げて滑空する。
が、しかし。
ドォン!という突然の衝突音とともに見えない空気の壁に激突してしまった。
俺は後頭部を鈍器で殴られたような衝撃に意識を飛ばしそうになるが、なんとか保つ。
それよりも状況の方が深刻だ。
エストは思いっきり頭を打ったのか意識がないらしく、俺たちはものの見事に落下していく。
「まじでえええええ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やったな。」
高い木の枝に軽々と立つ男が口に出す。
「そのようだ。相変わらず頭が悪い。学習という言葉を知らないヤツラだからな。」
他の枝に立つ男が相槌を打つ。
「さあ、奴らの唯一の価値の羽をいただくとしよう。」
「くくっ。口が悪い。しかし、随分と人型に近いな。第3世代か。」
「そうだろうな。どちらにせよ。言葉は通じんだろうから、羽を切った後は使えるようなら奴隷にしてしまえ。使えないようなら殺してしまえ。」
「くくっ。そうしよう。」
獲物を射止めて上機嫌なのか、二人とも長い耳をピクピクと揺らしている。
二人の男は軽々と枝を渡り、エストが落下した地点に降り立った。
二人の眼前にはエストと俺が倒れて地に伏している。
「しかし、あの高さから落ちた割には無傷なようだが・・・。」
一人の男が近づきつつも、解いていた警戒を少しだけ引き締める。
俺はその瞬間に、起き上がり様に背中のネロの大剣を振り抜いた。
「おしかったな・・・。気絶したフリか。」
俺の剣先は鼻先だけを掠めて空を斬った。
男は血が滲んだ鼻を触り、したり顔で言葉を吐く。
「おあいにく様。最初っから気絶もしてないし、落下で傷も負ってない。
連れは気絶してるけど。」
俺はしっかりと立ち上がり、大剣を両手で構える。目の前には男が一人。
もう一人は警戒して距離を取り、木の枝の上から弓を構えている。
「そうか。矢を払っていた魔法の鎖だな?それを枝に絡めて落下の衝撃を防いだのか。」
「説明文をどうも。」
男は頭の回転が速いらしく、すぐに状況を察した。ただ者ならぬ相手だと思っていいはずだ。
「そして、貴様は人間か?
なぜそんな鷺の獣人などど行動を共にしている?言葉が通じるわけでもあるまいに。」
男は言葉を口にしながら、腰の短剣を抜いて身構える。
「言葉も通じるし、この人に助けてもらってたりもする。そんなふうに鷺の獣人を馬鹿にするのはやめてくれる?
それよりあんたたちは・・・。」
「ふはっ!それでは力を示して見返すがいい!」
俺が話し終わらないうちに、刃を向けて男が走り寄って来る。
俺の目の前に来るや否や、頭を低く屈める。
「うおっ!?」
ギィンッ!という金属音が響く。
男が屈んだ瞬間に後ろの男が放っていた矢が俺の目の前に現れていた。
辛くも大剣の背で弾くが、目の前の男への反応が遅れる。
男は少し回り込んで、俺の右脇へ刺突しようとする。
見事な連携だ。
だが、俺も体を大剣に隠すように捻ってその刺突を躱す。
「うぐ!」
次の瞬間に俺の右の太ももに裂傷が走った。
背後の男が放った矢がかすり、太ももを削っていったのだ。
力が入らなくなった右の太ももに重心がかかっていってしまうタイミングだったが、俺はそれを堪えようとはせず倒れこむようになりながら、一閃。
止めとばかりに短剣を返して襲い掛かろうとしていた男に大剣が横薙ぎに振られる。
肉を断ち、グチャリと骨が潰れる感触が俺の手に伝わるが、相手も手練れ。
左腕を切り落とされるが、短剣で受け止めて胴まで斬られるのを受け止めた。
俺の方はというと勢いあまってそのまま倒れこむ。
しかし、倒れこみながらもマジックウインドウを展開し、俺の周囲に発生した黒い穴からタフムーラスの鎖を射出する。
そして腕を斬られた男を鎖で絡めとった。
「これで勝負あり?」
起き上がった俺は鎖に巻き付かれて動けなくなった男の首に大剣を宛がう。
そして大きくため息をついた。
「・・・・・。参った。俺の負けだ。好きにしろ・・・。」
捕まっている方の男が降参する。同時に離れている男の方に逃げろと顎で指示する。
「いや、なし崩し的に交戦しちゃったけど、そもそも戦う理由はないし・・・。」
俺は逃げろと言われているのに、その場を動けないでいる男の方を一瞥した後、再度ため息をつき、タフムーラスの鎖を解除した。一瞬で鎖が透明になって消えていく。
「なっ!?貴様!情けを掛けるというのか!?」
プライドが高い男らしく、死の覚悟ができていたのだろう。
俺がとった解放するという行動が、気持ちを逆なでしてしまった。
急に解放されて狼狽えるというより、誇りを汚されたとばかりに憤慨している。
「そういうのめんどくさいからいいです。
それにあんたを殺したら、そこにいるもう一人に一生恨まれかねない。そういうのは勘弁願いたい。」
俺はそういうことになってしまった人物、エストをちらりと見る。
出来れば意思疎通の出来る人とこれ以上恨まれることのないようにしたいものだ。
俺はネロが持たせてくれた袋の中を漁る。
案の定、腕を縛れそうなタオルが入っていた。
「切った自分がやるのもなんだけど・・・。」
警戒しつつも目を丸くする男を尻目に、俺は流血し続ける男の左腕を縛る。
こんな時に女神がいればとも思うがそれは叶わない。
「あんたたち人間じゃないんでしょ?
切れた腕くっつけとけば治るとかそういうスキルないの?」
俺はいたって大真面目に男に聞いた。この男はサキュバスとかの仲間なのかななどとも思いつつ。
「ふっ、ふっ、ふははははは!
貴様は変わった人間のようだな!
我々の事も知らないようだし、今殺し合いをした相手を手当てするなどとは!」
大笑いと共に俺に対する男の敵意が薄れていく。
もちろん俺はこうなる事を見越しての行動だ。
よくある敵と仲良くなる行動パターンなんだけどね、と心の中でだけ思っておく。
成功するかは不安だったけども。
「手当てしていただいた事は感謝する。この後また不意打ちをするなどという事も絶対にしない。
我々の事を知らないようだが、我々は・・・・。」
男は俺から離れ、傍の木の幹に腰掛ける。
そして何やら呟いた。
すると男の体が薄ぼんやりと緑色に輝き始めた。
木からエネルギーを吸収しているのか、その光は切れた腕の切り口に集まっていく。
きっと治療の魔法とかそんな感じなのだろうが、木々が風に揺れてざわめき、大地から目に見えないエネルギーがその男に集まっていくような気がする。
なんとも大自然の癒しの様に思えてならない。
よくよく見るとその男はヒョロッとした軽そうな細い身体。
明るい茶色の長髪に先の尖った長い耳。
服装は動きやすい肩を出したシャツと膝丈のパンツ。上下ともにシルクの織物のような光沢のある生地に、丁寧に細かい刺繍が施されている。
そして、弦をくぐり身につけた、鮮やかな木目が業物だと主張する弓。
姿形を見ると、もうそうだとしか思えない。
「まっ、まさか・・・・。
あなたたちはもしかしてエルフってヤツ?!」
俺がまさかを口にした瞬間に、俺の右肩に激痛が走る。
真横から風を切り、矢が飛んできていたようだ。ライフルの様にスピンをかけて放たれていた矢は肩の筋肉を抉り、骨にヒビを入れる勢いだ。
「兄さま!ご無事ですか!?」
突然の出来事に唖然とした幹に座っていた男は声の方を向いた。
俺も痛みを堪えながら、その声の方を向く。
男と同じ様ないでたちの女性。
髪は男よりももっと明るい茶色というかグレーが混じっているようなアッシュグレージュ。
尖った耳を空に向けて、切れ長の目に黄金色の瞳が光を反射する。
ほっそりとした体つきに、大きくない胸。
まさに俺の中のエルフというイメージそのもの。
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