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第二章 大罪人として
2.一年の計は元旦にありかな
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クリスマスも終わって、あっという間に新しい年になった。
この世界も暦が一緒らしいから、1月1日で新年。
やっぱり感覚的なものは一緒みたいで、新しい年を迎えられたことに感謝するのが慣例としてあるみたいだ。
このドンタナの町はあんまり女神信仰が強くないが、それでも元日には教会に参拝に行く人が多いらしい。その他の宗教や聖霊信仰などもあるらしいが、俺にはまだよくわからない。
神官とも顔見知りになっていたから、午前中に女神教会へ初詣には行ってきた。
横に本物の女神がいるのに、目の前の偶像に手を合わせる。
なんとも奇妙ではあるが、元旦はやっぱり気持ちが引き締まる思いがするのは間違いない。
まあ、気持ちとは裏腹に、食べ過ぎで身体の線が緩みまくるのはご愛嬌。
それも仕方ない。
クリスマスの数日後からかなりの大雪となった。
町は除雪をみんなでしたからいいものの、雪の壁に覆われてしまって町の外には出ることはできなくなっている。町自体が完全に外界から孤立しているのだ。
毎年そうなるらしいのだが、ネロの酒場も娼館も、客足が減って閑散とする。
故郷がある娼婦は雪が積もる前に里帰り。
なんとなく酒場を手伝ってた俺と女神も暇だから手伝わなくていいぞと放り出された。
そうなると寝て起きては食べ、風呂に入って疲れてないのに疲れを癒す。
そんな自堕落な生活を繰り返していた。
「しかし・・・ちょっと太ったんじゃないの?」
俺の寝台に我が物顔で寝そべる女神を俺は一瞥して眉根を寄せる。
あからさまに女神の体のラインが大きくなっている気がする。
そういえば、抱いた後も前よりも腕が疲れている気がする。
「な・・・なんて言いました・・・?」
寝そべりながらネロから借りた本を読んでいた女神が、瞳孔を見開いて俺を凝視する。
いつも柔和な眼差しの女神からは想像できない、初めての眼力だ。
「・・・ちょっと・・・いや、ほんのちょっとだけ肉付きがよくなったんじゃないかなあ・・なんて・・・。」
ははは、と乾いた笑いをしつつ、目を逸らす。もう俺は女神の目を見れない。
女神はしょっぱい顔をしている。
目も潤み始めていて、今にも泣きだしそうだったからだ。
「・・・わ、分かりました!キチクさんはこんなデブな女には興味がないという意味ですね!
やっぱりネロさんみたいに逞しいか、リンゼロッテさんみたいに腹筋が割れてないとダメなんですね!その挑戦、受けて立ちます!!」
言うが早いか、女神はキチクの部屋を一目散に飛び出す。
「い・・いや、そこまで言ってはいないのだが・・・・。」
女性に対しての一番の禁句は「太った?」
改めて認識した俺だった。皆さんも特にお正月明けの女性へは気を付けてください。つい言いたくなりますから。
女神はどこへ行ったのかと、俺は頭を巡らす。
そこへわかりやすい笑い声が響いてきた。
ネロの豪快な笑い声だ。
俺の部屋はネロの部屋からは2つ隣の部屋だから、でっかいネロの笑い声はたまに聞こえるのだ。
「ネロにどうしてもらうんだろうな?ダイエットのコツとか?
そんなもんあるんかいな。」
平和な世の中で豊かな世界なら痩せようとする人も多いだろうが、この世界はそうとは言えない。
そうなると、体が大きかったり、逞しかったりする方が好ましいと思われるのは世の常だ。
無理に細くなろうとする人は少ないだろう。
何をするのかとニヤニヤ考えていると、窓の外にネロと女神が外に出て来ているのが見えた。
雪はだいぶ積もっているから、湯殿に続く庭の道。
屋根がついた外の通路だ。
二人は手に木剣を持っている。
「えぇい!」
どうしようもなくしょぼい掛け声で女神が剣を振るう。
上段からまっすぐ振り下ろしているつもりなんだろうが、剣戟の慣性に負けてまっすぐ振り下ろせていない。
あちゃーっとネロも呆れて顔を隠している。
「まじでコント!へなちょこすぎる!というか素振りで痩せるのか!?」
窓の燦に手を掛けて二人を眺める俺。まあ無理だろうなと思っている。
しかし、女神は結構真剣だ。
「職業を女神剣士にするつもりか?女神は魔法で援護ってのがお決まりだろ。ププッ。」
尚も時間を費やし、素振りと型を練習する女神。
一向にへこたれる気配がない。ネロもその熱に当てられて、真剣にあれこれネロがアドバイスをしている。さらに指導と練習は続くが、
「とやっ!」
ブンッと振った木剣が女神の手から脱走する。
「ブハッ!」
だんだん握力がなくなってきたために、勢いで木剣は飛んでいき、近くの雪の山に刺さっていた。
「「・・・・」」
女神もネロも言葉を失って呆然と立ち尽くす。良い間だ。
2階の窓の外から見ている俺はもうコントを見ているようにしか思えない。
しかし、雪から木剣を取り出して尚も続ける女神。
あ、また飛んだ。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・まだやるのか。」
何度も雪に木剣を投げ飛ばしながらも続ける女神の事を見ているうちに、俺はなんだかそわそわした気分になっちゃった。すでに笑えなくなってる。
頑張ってる若い娘を見て、自分も頑張ろうと勇気もらっちゃうヤツだな。
「俺も・・・やろうかな・・・。」
斯くして、俺も外に出て修練に参加した。
一年の計は元旦にあり。
何か始めるにはいい機会だ。
3日坊主になりがちな俺だが、このときばかりはもう少し続いてた。
簡単にこなせてしまう俺を恨めしく見る女神をからかうのが楽しかったのもあるが。
頑張ったご褒美なのかな。
ネロから教えをだいぶ受けたからか。
しばらくして勝手に青白いウインドウが開いた。
『Skill Acquisition
Fencing of Nero:The third class』
もう第二章にもなるのに、文字数も20万文字になるのに初めてのスキル獲得。いまさら感がすごい。
まあでもこれって。この章は結構ファンタジー多めってことね。
だけど三級って・・・しょぼくない?
なんか思わせぶりな新章スタートだけど、結局どうせエロでまとまるんでしょ。
そうでしょ?それしかできないんでしょ?
こんないろいろとユルめな新年を迎えてる俺はまだ、歩み寄る危機を微塵にも意識していなかった・・・。
カオスゲージ
〔Law and Order +++[63]++++++ Chaos〕
この世界も暦が一緒らしいから、1月1日で新年。
やっぱり感覚的なものは一緒みたいで、新しい年を迎えられたことに感謝するのが慣例としてあるみたいだ。
このドンタナの町はあんまり女神信仰が強くないが、それでも元日には教会に参拝に行く人が多いらしい。その他の宗教や聖霊信仰などもあるらしいが、俺にはまだよくわからない。
神官とも顔見知りになっていたから、午前中に女神教会へ初詣には行ってきた。
横に本物の女神がいるのに、目の前の偶像に手を合わせる。
なんとも奇妙ではあるが、元旦はやっぱり気持ちが引き締まる思いがするのは間違いない。
まあ、気持ちとは裏腹に、食べ過ぎで身体の線が緩みまくるのはご愛嬌。
それも仕方ない。
クリスマスの数日後からかなりの大雪となった。
町は除雪をみんなでしたからいいものの、雪の壁に覆われてしまって町の外には出ることはできなくなっている。町自体が完全に外界から孤立しているのだ。
毎年そうなるらしいのだが、ネロの酒場も娼館も、客足が減って閑散とする。
故郷がある娼婦は雪が積もる前に里帰り。
なんとなく酒場を手伝ってた俺と女神も暇だから手伝わなくていいぞと放り出された。
そうなると寝て起きては食べ、風呂に入って疲れてないのに疲れを癒す。
そんな自堕落な生活を繰り返していた。
「しかし・・・ちょっと太ったんじゃないの?」
俺の寝台に我が物顔で寝そべる女神を俺は一瞥して眉根を寄せる。
あからさまに女神の体のラインが大きくなっている気がする。
そういえば、抱いた後も前よりも腕が疲れている気がする。
「な・・・なんて言いました・・・?」
寝そべりながらネロから借りた本を読んでいた女神が、瞳孔を見開いて俺を凝視する。
いつも柔和な眼差しの女神からは想像できない、初めての眼力だ。
「・・・ちょっと・・・いや、ほんのちょっとだけ肉付きがよくなったんじゃないかなあ・・なんて・・・。」
ははは、と乾いた笑いをしつつ、目を逸らす。もう俺は女神の目を見れない。
女神はしょっぱい顔をしている。
目も潤み始めていて、今にも泣きだしそうだったからだ。
「・・・わ、分かりました!キチクさんはこんなデブな女には興味がないという意味ですね!
やっぱりネロさんみたいに逞しいか、リンゼロッテさんみたいに腹筋が割れてないとダメなんですね!その挑戦、受けて立ちます!!」
言うが早いか、女神はキチクの部屋を一目散に飛び出す。
「い・・いや、そこまで言ってはいないのだが・・・・。」
女性に対しての一番の禁句は「太った?」
改めて認識した俺だった。皆さんも特にお正月明けの女性へは気を付けてください。つい言いたくなりますから。
女神はどこへ行ったのかと、俺は頭を巡らす。
そこへわかりやすい笑い声が響いてきた。
ネロの豪快な笑い声だ。
俺の部屋はネロの部屋からは2つ隣の部屋だから、でっかいネロの笑い声はたまに聞こえるのだ。
「ネロにどうしてもらうんだろうな?ダイエットのコツとか?
そんなもんあるんかいな。」
平和な世の中で豊かな世界なら痩せようとする人も多いだろうが、この世界はそうとは言えない。
そうなると、体が大きかったり、逞しかったりする方が好ましいと思われるのは世の常だ。
無理に細くなろうとする人は少ないだろう。
何をするのかとニヤニヤ考えていると、窓の外にネロと女神が外に出て来ているのが見えた。
雪はだいぶ積もっているから、湯殿に続く庭の道。
屋根がついた外の通路だ。
二人は手に木剣を持っている。
「えぇい!」
どうしようもなくしょぼい掛け声で女神が剣を振るう。
上段からまっすぐ振り下ろしているつもりなんだろうが、剣戟の慣性に負けてまっすぐ振り下ろせていない。
あちゃーっとネロも呆れて顔を隠している。
「まじでコント!へなちょこすぎる!というか素振りで痩せるのか!?」
窓の燦に手を掛けて二人を眺める俺。まあ無理だろうなと思っている。
しかし、女神は結構真剣だ。
「職業を女神剣士にするつもりか?女神は魔法で援護ってのがお決まりだろ。ププッ。」
尚も時間を費やし、素振りと型を練習する女神。
一向にへこたれる気配がない。ネロもその熱に当てられて、真剣にあれこれネロがアドバイスをしている。さらに指導と練習は続くが、
「とやっ!」
ブンッと振った木剣が女神の手から脱走する。
「ブハッ!」
だんだん握力がなくなってきたために、勢いで木剣は飛んでいき、近くの雪の山に刺さっていた。
「「・・・・」」
女神もネロも言葉を失って呆然と立ち尽くす。良い間だ。
2階の窓の外から見ている俺はもうコントを見ているようにしか思えない。
しかし、雪から木剣を取り出して尚も続ける女神。
あ、また飛んだ。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・まだやるのか。」
何度も雪に木剣を投げ飛ばしながらも続ける女神の事を見ているうちに、俺はなんだかそわそわした気分になっちゃった。すでに笑えなくなってる。
頑張ってる若い娘を見て、自分も頑張ろうと勇気もらっちゃうヤツだな。
「俺も・・・やろうかな・・・。」
斯くして、俺も外に出て修練に参加した。
一年の計は元旦にあり。
何か始めるにはいい機会だ。
3日坊主になりがちな俺だが、このときばかりはもう少し続いてた。
簡単にこなせてしまう俺を恨めしく見る女神をからかうのが楽しかったのもあるが。
頑張ったご褒美なのかな。
ネロから教えをだいぶ受けたからか。
しばらくして勝手に青白いウインドウが開いた。
『Skill Acquisition
Fencing of Nero:The third class』
もう第二章にもなるのに、文字数も20万文字になるのに初めてのスキル獲得。いまさら感がすごい。
まあでもこれって。この章は結構ファンタジー多めってことね。
だけど三級って・・・しょぼくない?
なんか思わせぶりな新章スタートだけど、結局どうせエロでまとまるんでしょ。
そうでしょ?それしかできないんでしょ?
こんないろいろとユルめな新年を迎えてる俺はまだ、歩み寄る危機を微塵にも意識していなかった・・・。
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