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第一章 悪の拠点づくり
40.ついにこの時が来てしまいました
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ゲフッ。
ひとしきり騎士を食べたタフムーラスの下半身の馬は気持ち悪いゲップをする。
巻き散らかさせてる、むせかえるほどの血の匂いに交じって周囲に生臭い匂いが広がった。
いやー。マジでホラー・・・。口が裂けたイカれた目の馬が人間様を食っちゃったよ。
B級ホラーの題材にもなんないくらい下手うった感じのホラーだよ・・・。
なんか騎士さんたちごめんなさい。皆殺しとまでは思ってませんでした。
《チッ・・・。もう終わりか・・・。》
タフムーラスが小さく舌打ちする。
いつの間にか俺の腕の熊手に絡みついていた鎖はなくなり、馬になった足元がブラックホールみたいな穴に吸い込まれ始めている。
《キチクよ。礼をいう。久方ぶりの娑婆は楽しかったぞ。またどんどん呼んでくれ。》
そう言い残して、タフムーラスは穴に沈み、その穴も完全に消滅した。
どうやら召喚にはタイムリミットがあるみたいだ。
タフムーラス、ありがとう。でも、怖いんでもう二度と召喚しないけどね・・・。
「今のがタフムーラス・・・・。召喚するなんて・・・。一体どういうことなんだ・・・?」
逃げた人達以外の唯一の生き残り、魔法使いのブラフだ。
かたかた震えてはいるが、動揺を口にするくらいまでは回復したらしい。
俺はその疑問にわざわざ答える必要もない。
さっさとここから出て、ドンタナに帰ろう。
「ま、待ってくれ!俺も一緒に行かせてはもらえないか?!」
そのまま入口の方に足を向けていた俺にブラフが叫ぶ。
だが、俺は進める足を止めない。
「マーカラといい、タフムーラスといい、お前はとんでもない力を持っている!
俺は魔法の探求をすることが生涯の目的なんだ!
本来は騎士なんかとは関係ない!
もちろん、もう歯向かったりはしない!どうか頼む!」
無視無視。なんかこの人得体が知れないし。とんがり帽子の先が曲がってるし。
「頼む!―――」
俺の背中に懇願するブラフの声がむなしく響く。
しかし、俺は無視して入口の扉を開いて外に出た。
入口の横の綱木にはまだ俺たちの馬が繋いであったままだ。
「良かった・・・。」
俺が気を失ってからどれだけ時間がたったかもわからなかったし、もしかしたら馬を取られているかもと心配していた。ほっと胸をなでおろす俺。
「あれ・・・?」
急に思い立った俺は再度ギルドの扉を開ける。
中には呆然としていてそのまま立ち尽くすブラフがいた。
「いいよ。一緒に行こう。」
「いいのか!?ここはすんなりOKもらえるところなのに、そうじゃないから固まっちゃったよ!
随分もったいぶるんだなあ!」
俺のまさかの出戻りに沸き立つブラフ。
「・・・・」
黙る俺。本当は連れて行きたくない。
でも、でもさ。俺は一人で馬に乗れないんだったよ・・・。
気を失っているリンゼロッテをどうやって連れて帰るのさ・・・。いた仕方ない・・・。
「ひゃっほーう!これは今後の生活が楽しみだぜえ!」
ひゃっほーうって・・・。お前は魔法使いじゃないのか。はしゃぐなよ・・・。
ああ、なんかため息しか出ない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから魔法使いブラフに馬を操ってもらって、俺たちはドンタナを目指す。
ブラフにリンゼロッテを前に抱えてもらって、馬を操ってもらっている。
俺はまた馬に紐をつけてもらっていてただ乗っているだけだった。
なんかいいなあ。女の子を前に乗せて馬に乗るなんて。うらやましい。
おい、ブラフ。リンゼロッテの腰さわってんじゃねえよ。
そんなこんなで俺のテンションがだだ下がりの中、無事何事もなく王都を脱出できた。
王都を出て数時間後ののち、ドンタナの町に入った。既に日は落ち、暗くなっている。
「こんな普通の町が、王国の精鋭の騎士団を返り討ちにしたのか。すごいな・・・。」
町の入り口で、大した防壁もないのを見たブラフ。
実は何かすごい仕掛けを隠し持っているんじゃないかと疑って町の中をキョロキョロとしていたが、ドンタナのあまりに普通の田舎町っぷりを見て、観念したかのように呆れる。
「いや、返り討ちはマーカラがやったから。」
「それは知っている。でもそれは夜の話なんだろう?
夜しかマーカラが現れないのは有名な話だ。きっと夜しか出てこれないとかなんだろう?」
「むむむ・・・するどい・・・。」
「俺が言っているのは昼間だ。昼間にも戦いがあったんだろ?それを自警団だけで防衛したらしいじゃないか。」
「そこも話が伝わっているのか。そうだよ、この町の住民は強いぞ。」
「らしいな!なんでもすげえかっこいい獣人がいるとか!!」
「ああ、ネロの事を言っているのか。着いたら紹介するよ。今俺はその獣人のネロの館に世話になっているんだ。ああ、その角を曲がって。」
「頼むよ!楽しみだ!」と目をキラキラさせているブラフ。本当に好奇心の塊だな。女神といい勝負。
そうこうしていると馬はネロの館まで到着した。
酒場が盛り上がっているのか、笑い声が館から漏れてくる。
「キチクさん!」
入口の横の暗がりから女神が出てきた。よく見るとそばに椅子が置いてある。
「ただいま。戻ったよ。・・・もしかして外で待ってた?」
「はい。1日で戻ると言ってたのに帰ってこないので心配になって・・・。夕方からずっと待っていました。」
なんと健気なことか・・・。ちょっと感動。
「誰だい?このかわい子ちゃんは?」
馬上から前のめりにブラフが聞いてくる。かわい子ちゃんって!古い!
「この女性はファラ。俺の所有物。手を出すなよ。
ファラ、こっちはブラフ。王都の小汚い魔法使い。なんかついてきちゃった。」
「いやいや、その紹介は適当すぎないか!?
初めまして。俺はブラフ。32歳独身です。趣味は魔法です。指圧の魔法とか得意です。気持ちよくさせてあげれますよ~。」
なにその合コンの自己紹介みたいなやつ・・・。キモいな。
でも指圧頼もうかな。
「いやいや、キチク!そんな目で見ても男には指圧やらないから!かわい子ちゃんにしかやらないから~笑」
目を見開いて期待の目を向けた俺を察して、ブラフはおどける。これも合コンのネタなのか?語尾に笑とかつけてんじゃねえ。
「フフフ。面白い方ですね。初めまして。ファラと申します。
年齢は多分2000歳くらいです。数えるのはやめました。趣味は妄想です。笑」
「ブァハハハ!面白いかわい子ちゃんだなあ!
シュールな冗談もいいね!好きになっちゃうよ~!」
・・・。
・・・女神のいうことは冗談ではないのだが。まあいいか。しかし、女神も乗って笑をつけてんじゃねえ。
「・・・とにかく、ちょうどよかった。
ファラ。リンゼロッテの手当してくれないか?」
すっかり忘れられている、ブラフの前に抱えられたままのリンゼロッテ。いまだ気を失ったままだ。
俺は自分の馬を降りて、ブラフから受け取ってそろーりと丁寧に彼女を腕に抱える。
「女神の癒し・・・。」
女神の錫杖に浮く魔法陣が青白く光る。その光に反応して、少しだけ見える肌艶がみるみるよくなる。身体も顔も包帯でグルグル巻きだから見えないが、傷も完治しているはずだ。
「う・・・うん・・・。」
「おっ?気づいたみたいだな。」
目を覚ましたリンゼロッテ。リンゼロッテは目を開けると優しく見下ろす俺の顔が目に映る。
「キチク!!」
俺の腕に抱かれたまま、リンゼロッテは上体を逸らして俺に抱き着いてきた。
決して離すまいと力強く抱きしめるリンゼロッテ。俺の首筋に当たる彼女の頬が心なしか震えている。まるで怯える子供のように。
俺も彼女を抱く手に少しだけ力を入れて、大丈夫だよと囁く。
素直に甘える普段の騎士とのギャップに、またリンゼロッテをかわいいと思ってしまう。
「おーおー、お熱いねえ。リヒテンシュタイナー卿とそんな仲だった「うるさい。」のか。」
予想通りの野次に、俺のツッコみは被せ気味にしておく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
外でも何だから一度部屋に戻ろうと思っていたら、なんとそこにリンゼロッテの家の執事が来た。なんでも準備ができたからと呼びに来た。俺たちが捕まっていたことを知らなかったらしい。
何の準備?と思ったら、なんとネロの館の隣の二階建ての建物を買い上げて、リンゼロッテの住処を整えてしまったらしい。
そしてさらには、この執事もリンゼロッテ専属で仕えることを任命されているとの事。
金持ちの手際の良さにちょっと呆れたが、今はとりあえず精神的にも疲れ切っているだろうリンゼロッテをその家に運び込んで休ませた。
そして、ひと段落した後、俺たちは酒場で食事を取る。
「プハアアアア!うまい!!」
「いつもより豪快だねえ、キチク!」
うまそうにエールを飲む俺の顔を見て笑顔を作る獣人ネロ。
その獣人ネロをニヤニヤしながら見つめるブラフ。
こいつは本当に女好きだな。キケンだ。
「いやあ、まさか噂のドンタナの守護者の獣人がまさか女性だとは~。」
あからさまなアゲアゲだ。両手もスリスリ、ゴマを擂っている。
「おいおい、キチク。こいつはなんなんだ?キチクの周りは変態ばかりなのかい?
人間な癖に俺を卑猥な目で見てくるんだよねえ。」
「やだなあ、ネロさん!俺は魔法使いですよ?種族の偏見なんてありませんよお。
ましてや、ネロさんみたいな美人にはどうしたってエロ視線になりますってばあ!笑」
「そっそういうものなのか!?やめとくれ!なんだか恥ずかしいよ!」
慣れない誉め言葉になんだか照れているネロ。ぷいっと目を逸らす。・・・なんだこれ。
「ブラフさんは明るくて面白い方ですね。魔法使いはみんなそういう感じなんですか?」
「いいえ、ファラさん。
俺は特別ですかねっ。こんななんでよく合コンに呼ばれます。さんざん盛り上げて、俺だけ帰りが一人っていうお決まりのパターンですけどね!!」
「うおぁははは!」「フフフ。」
「それにこんな綺麗な2人と一緒にお酒楽しめるなんて、テンション上がりMAX~!」
女神もうまくおだてられて、まんざらでもない感じ。チョロイな女神・・・。
ネロも女神もすっかり気を許して、盛り上がってる。
でも俺はブラフの古めかしいベタなしゃべりに辟易。
「ちょっと、トイレ。」
そう言ってその場を抜け出してトイレに行った。
いろいろあって大変だったから、エールが進んだ俺。
小便が止まらない。気持ちいい。
目を閉じて気持ちよく身震いする。
「ふあ~~。」
気の抜けた情けない声と尿を出し切った後、目を開けた。
「あれ!?」
「マジで!?」
眼前に広がっていたのはトイレの小便器ではなく、ご立派な祭壇のある部屋。
長方形の室内。壇上から数段の階段を伝い、金縁の赤い絨毯が俺の方まで長く伸びている。
壁際には多数の燭台が灯り、蝋燭の炎がユラユラと怪しく揺れる。
壁は冷たそうな石壁で曲線のアーチの窓がついている。
そこから見える空は水面が空に浮いているかのように、ゆらゆらと青白く煌めく。
「ああ、これってマーカラさんのお城・・・。」
どうやら俺は強制的に転移させられたみたいだ。とりあえず、出しっぱなしの下半身をしまう。
先を見上げると、祭壇には大きな棺が置かれている。
「本当にベタだね、これは・・・。」
ぶつくさ呟きながら俺は祭壇に近づく。
祭壇には天井から輝きのある黒い天幕が掛かっていて、荘厳な雰囲気を醸し出している。
そして、祭壇上には豪華な金装が施された膝くらいの高さの台が置かれている。
さらにその上には棺が置かれている。
棺は大きく、縦も2m以上あるし、横幅も1m以上ある。
ご想像通り、金縁の真っ黒な棺は同じく金色の十字架が刻まれている。
ガタッ。
突然棺の蓋が外れ、横にスライドし始める。
恐怖の登場シーンに目を逸らしたいが、見入ってしまった。
棺の中が次第に見えてくる。
真っ赤なビロードのようなクッションで覆われた棺の内部。
それの中心で横たわるのはもちろん、あの人。
「マーカラさん・・・。」
深い紫色のスリップドレスのままで横たえる吸血鬼マーカラ。
本当に死んでいるかのような青白い肌だが、目を閉じたその美しい顔と肢体はまさに芸術そのものだ。
「こうしてみると綺麗だなあ・・・。うわっ!」
目に見えない力によって、不意に身体が引っ張られる。
引っ張られた先はその棺の中。
俺は棺の中で、マーカラに覆い被さってしまった。
マーカラがゆっくりと目を開ける。狼のように縦に長細い瞳孔と赤い瞳が光を纏う。
そして、一度口の端で笑みを浮かべた後、口を開く。
「キチクよ・・・。
手助けしたのに、いまだ何も礼をしに来ないとはどういうことなのだ?ん?ん?」
顔と顔がくっつきそうな距離で、マーカラは挑発するかのように顎を上げる。その口元は笑っていて、すでに楽しそうだ。
「・・・・・すみません、遅くなりました。ご奉仕させていただきます。」
いやが応もなく、完全に言わされました・・・。オス奴隷タイム始まりです。
カオスゲージ
〔Law and order +++[63]++++++ Chaos〕
ひとしきり騎士を食べたタフムーラスの下半身の馬は気持ち悪いゲップをする。
巻き散らかさせてる、むせかえるほどの血の匂いに交じって周囲に生臭い匂いが広がった。
いやー。マジでホラー・・・。口が裂けたイカれた目の馬が人間様を食っちゃったよ。
B級ホラーの題材にもなんないくらい下手うった感じのホラーだよ・・・。
なんか騎士さんたちごめんなさい。皆殺しとまでは思ってませんでした。
《チッ・・・。もう終わりか・・・。》
タフムーラスが小さく舌打ちする。
いつの間にか俺の腕の熊手に絡みついていた鎖はなくなり、馬になった足元がブラックホールみたいな穴に吸い込まれ始めている。
《キチクよ。礼をいう。久方ぶりの娑婆は楽しかったぞ。またどんどん呼んでくれ。》
そう言い残して、タフムーラスは穴に沈み、その穴も完全に消滅した。
どうやら召喚にはタイムリミットがあるみたいだ。
タフムーラス、ありがとう。でも、怖いんでもう二度と召喚しないけどね・・・。
「今のがタフムーラス・・・・。召喚するなんて・・・。一体どういうことなんだ・・・?」
逃げた人達以外の唯一の生き残り、魔法使いのブラフだ。
かたかた震えてはいるが、動揺を口にするくらいまでは回復したらしい。
俺はその疑問にわざわざ答える必要もない。
さっさとここから出て、ドンタナに帰ろう。
「ま、待ってくれ!俺も一緒に行かせてはもらえないか?!」
そのまま入口の方に足を向けていた俺にブラフが叫ぶ。
だが、俺は進める足を止めない。
「マーカラといい、タフムーラスといい、お前はとんでもない力を持っている!
俺は魔法の探求をすることが生涯の目的なんだ!
本来は騎士なんかとは関係ない!
もちろん、もう歯向かったりはしない!どうか頼む!」
無視無視。なんかこの人得体が知れないし。とんがり帽子の先が曲がってるし。
「頼む!―――」
俺の背中に懇願するブラフの声がむなしく響く。
しかし、俺は無視して入口の扉を開いて外に出た。
入口の横の綱木にはまだ俺たちの馬が繋いであったままだ。
「良かった・・・。」
俺が気を失ってからどれだけ時間がたったかもわからなかったし、もしかしたら馬を取られているかもと心配していた。ほっと胸をなでおろす俺。
「あれ・・・?」
急に思い立った俺は再度ギルドの扉を開ける。
中には呆然としていてそのまま立ち尽くすブラフがいた。
「いいよ。一緒に行こう。」
「いいのか!?ここはすんなりOKもらえるところなのに、そうじゃないから固まっちゃったよ!
随分もったいぶるんだなあ!」
俺のまさかの出戻りに沸き立つブラフ。
「・・・・」
黙る俺。本当は連れて行きたくない。
でも、でもさ。俺は一人で馬に乗れないんだったよ・・・。
気を失っているリンゼロッテをどうやって連れて帰るのさ・・・。いた仕方ない・・・。
「ひゃっほーう!これは今後の生活が楽しみだぜえ!」
ひゃっほーうって・・・。お前は魔法使いじゃないのか。はしゃぐなよ・・・。
ああ、なんかため息しか出ない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから魔法使いブラフに馬を操ってもらって、俺たちはドンタナを目指す。
ブラフにリンゼロッテを前に抱えてもらって、馬を操ってもらっている。
俺はまた馬に紐をつけてもらっていてただ乗っているだけだった。
なんかいいなあ。女の子を前に乗せて馬に乗るなんて。うらやましい。
おい、ブラフ。リンゼロッテの腰さわってんじゃねえよ。
そんなこんなで俺のテンションがだだ下がりの中、無事何事もなく王都を脱出できた。
王都を出て数時間後ののち、ドンタナの町に入った。既に日は落ち、暗くなっている。
「こんな普通の町が、王国の精鋭の騎士団を返り討ちにしたのか。すごいな・・・。」
町の入り口で、大した防壁もないのを見たブラフ。
実は何かすごい仕掛けを隠し持っているんじゃないかと疑って町の中をキョロキョロとしていたが、ドンタナのあまりに普通の田舎町っぷりを見て、観念したかのように呆れる。
「いや、返り討ちはマーカラがやったから。」
「それは知っている。でもそれは夜の話なんだろう?
夜しかマーカラが現れないのは有名な話だ。きっと夜しか出てこれないとかなんだろう?」
「むむむ・・・するどい・・・。」
「俺が言っているのは昼間だ。昼間にも戦いがあったんだろ?それを自警団だけで防衛したらしいじゃないか。」
「そこも話が伝わっているのか。そうだよ、この町の住民は強いぞ。」
「らしいな!なんでもすげえかっこいい獣人がいるとか!!」
「ああ、ネロの事を言っているのか。着いたら紹介するよ。今俺はその獣人のネロの館に世話になっているんだ。ああ、その角を曲がって。」
「頼むよ!楽しみだ!」と目をキラキラさせているブラフ。本当に好奇心の塊だな。女神といい勝負。
そうこうしていると馬はネロの館まで到着した。
酒場が盛り上がっているのか、笑い声が館から漏れてくる。
「キチクさん!」
入口の横の暗がりから女神が出てきた。よく見るとそばに椅子が置いてある。
「ただいま。戻ったよ。・・・もしかして外で待ってた?」
「はい。1日で戻ると言ってたのに帰ってこないので心配になって・・・。夕方からずっと待っていました。」
なんと健気なことか・・・。ちょっと感動。
「誰だい?このかわい子ちゃんは?」
馬上から前のめりにブラフが聞いてくる。かわい子ちゃんって!古い!
「この女性はファラ。俺の所有物。手を出すなよ。
ファラ、こっちはブラフ。王都の小汚い魔法使い。なんかついてきちゃった。」
「いやいや、その紹介は適当すぎないか!?
初めまして。俺はブラフ。32歳独身です。趣味は魔法です。指圧の魔法とか得意です。気持ちよくさせてあげれますよ~。」
なにその合コンの自己紹介みたいなやつ・・・。キモいな。
でも指圧頼もうかな。
「いやいや、キチク!そんな目で見ても男には指圧やらないから!かわい子ちゃんにしかやらないから~笑」
目を見開いて期待の目を向けた俺を察して、ブラフはおどける。これも合コンのネタなのか?語尾に笑とかつけてんじゃねえ。
「フフフ。面白い方ですね。初めまして。ファラと申します。
年齢は多分2000歳くらいです。数えるのはやめました。趣味は妄想です。笑」
「ブァハハハ!面白いかわい子ちゃんだなあ!
シュールな冗談もいいね!好きになっちゃうよ~!」
・・・。
・・・女神のいうことは冗談ではないのだが。まあいいか。しかし、女神も乗って笑をつけてんじゃねえ。
「・・・とにかく、ちょうどよかった。
ファラ。リンゼロッテの手当してくれないか?」
すっかり忘れられている、ブラフの前に抱えられたままのリンゼロッテ。いまだ気を失ったままだ。
俺は自分の馬を降りて、ブラフから受け取ってそろーりと丁寧に彼女を腕に抱える。
「女神の癒し・・・。」
女神の錫杖に浮く魔法陣が青白く光る。その光に反応して、少しだけ見える肌艶がみるみるよくなる。身体も顔も包帯でグルグル巻きだから見えないが、傷も完治しているはずだ。
「う・・・うん・・・。」
「おっ?気づいたみたいだな。」
目を覚ましたリンゼロッテ。リンゼロッテは目を開けると優しく見下ろす俺の顔が目に映る。
「キチク!!」
俺の腕に抱かれたまま、リンゼロッテは上体を逸らして俺に抱き着いてきた。
決して離すまいと力強く抱きしめるリンゼロッテ。俺の首筋に当たる彼女の頬が心なしか震えている。まるで怯える子供のように。
俺も彼女を抱く手に少しだけ力を入れて、大丈夫だよと囁く。
素直に甘える普段の騎士とのギャップに、またリンゼロッテをかわいいと思ってしまう。
「おーおー、お熱いねえ。リヒテンシュタイナー卿とそんな仲だった「うるさい。」のか。」
予想通りの野次に、俺のツッコみは被せ気味にしておく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
外でも何だから一度部屋に戻ろうと思っていたら、なんとそこにリンゼロッテの家の執事が来た。なんでも準備ができたからと呼びに来た。俺たちが捕まっていたことを知らなかったらしい。
何の準備?と思ったら、なんとネロの館の隣の二階建ての建物を買い上げて、リンゼロッテの住処を整えてしまったらしい。
そしてさらには、この執事もリンゼロッテ専属で仕えることを任命されているとの事。
金持ちの手際の良さにちょっと呆れたが、今はとりあえず精神的にも疲れ切っているだろうリンゼロッテをその家に運び込んで休ませた。
そして、ひと段落した後、俺たちは酒場で食事を取る。
「プハアアアア!うまい!!」
「いつもより豪快だねえ、キチク!」
うまそうにエールを飲む俺の顔を見て笑顔を作る獣人ネロ。
その獣人ネロをニヤニヤしながら見つめるブラフ。
こいつは本当に女好きだな。キケンだ。
「いやあ、まさか噂のドンタナの守護者の獣人がまさか女性だとは~。」
あからさまなアゲアゲだ。両手もスリスリ、ゴマを擂っている。
「おいおい、キチク。こいつはなんなんだ?キチクの周りは変態ばかりなのかい?
人間な癖に俺を卑猥な目で見てくるんだよねえ。」
「やだなあ、ネロさん!俺は魔法使いですよ?種族の偏見なんてありませんよお。
ましてや、ネロさんみたいな美人にはどうしたってエロ視線になりますってばあ!笑」
「そっそういうものなのか!?やめとくれ!なんだか恥ずかしいよ!」
慣れない誉め言葉になんだか照れているネロ。ぷいっと目を逸らす。・・・なんだこれ。
「ブラフさんは明るくて面白い方ですね。魔法使いはみんなそういう感じなんですか?」
「いいえ、ファラさん。
俺は特別ですかねっ。こんななんでよく合コンに呼ばれます。さんざん盛り上げて、俺だけ帰りが一人っていうお決まりのパターンですけどね!!」
「うおぁははは!」「フフフ。」
「それにこんな綺麗な2人と一緒にお酒楽しめるなんて、テンション上がりMAX~!」
女神もうまくおだてられて、まんざらでもない感じ。チョロイな女神・・・。
ネロも女神もすっかり気を許して、盛り上がってる。
でも俺はブラフの古めかしいベタなしゃべりに辟易。
「ちょっと、トイレ。」
そう言ってその場を抜け出してトイレに行った。
いろいろあって大変だったから、エールが進んだ俺。
小便が止まらない。気持ちいい。
目を閉じて気持ちよく身震いする。
「ふあ~~。」
気の抜けた情けない声と尿を出し切った後、目を開けた。
「あれ!?」
「マジで!?」
眼前に広がっていたのはトイレの小便器ではなく、ご立派な祭壇のある部屋。
長方形の室内。壇上から数段の階段を伝い、金縁の赤い絨毯が俺の方まで長く伸びている。
壁際には多数の燭台が灯り、蝋燭の炎がユラユラと怪しく揺れる。
壁は冷たそうな石壁で曲線のアーチの窓がついている。
そこから見える空は水面が空に浮いているかのように、ゆらゆらと青白く煌めく。
「ああ、これってマーカラさんのお城・・・。」
どうやら俺は強制的に転移させられたみたいだ。とりあえず、出しっぱなしの下半身をしまう。
先を見上げると、祭壇には大きな棺が置かれている。
「本当にベタだね、これは・・・。」
ぶつくさ呟きながら俺は祭壇に近づく。
祭壇には天井から輝きのある黒い天幕が掛かっていて、荘厳な雰囲気を醸し出している。
そして、祭壇上には豪華な金装が施された膝くらいの高さの台が置かれている。
さらにその上には棺が置かれている。
棺は大きく、縦も2m以上あるし、横幅も1m以上ある。
ご想像通り、金縁の真っ黒な棺は同じく金色の十字架が刻まれている。
ガタッ。
突然棺の蓋が外れ、横にスライドし始める。
恐怖の登場シーンに目を逸らしたいが、見入ってしまった。
棺の中が次第に見えてくる。
真っ赤なビロードのようなクッションで覆われた棺の内部。
それの中心で横たわるのはもちろん、あの人。
「マーカラさん・・・。」
深い紫色のスリップドレスのままで横たえる吸血鬼マーカラ。
本当に死んでいるかのような青白い肌だが、目を閉じたその美しい顔と肢体はまさに芸術そのものだ。
「こうしてみると綺麗だなあ・・・。うわっ!」
目に見えない力によって、不意に身体が引っ張られる。
引っ張られた先はその棺の中。
俺は棺の中で、マーカラに覆い被さってしまった。
マーカラがゆっくりと目を開ける。狼のように縦に長細い瞳孔と赤い瞳が光を纏う。
そして、一度口の端で笑みを浮かべた後、口を開く。
「キチクよ・・・。
手助けしたのに、いまだ何も礼をしに来ないとはどういうことなのだ?ん?ん?」
顔と顔がくっつきそうな距離で、マーカラは挑発するかのように顎を上げる。その口元は笑っていて、すでに楽しそうだ。
「・・・・・すみません、遅くなりました。ご奉仕させていただきます。」
いやが応もなく、完全に言わされました・・・。オス奴隷タイム始まりです。
カオスゲージ
〔Law and order +++[63]++++++ Chaos〕
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