上 下
26 / 92
第一章 悪の拠点づくり

17.さあ、冒険に出かけよう

しおりを挟む
 俺はおとなしくネロから熊手を受け取った。
籠手の所にレバーが付いていて、ロックを解除してそのレバーを押し下げると爪が籠手に格納された。
大ぶりな爪は明らかに小さな籠手に収納できるサイズではないのだが、これがネロが言った、『柔らかい』の意味なのであろう。
 改めてすごいものを借りたと認識する。

「それじゃあ、行こうかねえ。」

 俺たちは町の入口まで徒歩で移動した。
道中、いろいろと話を聞く。
 この町の事や周りの町の事、さらには町の外の事。
ネロの事は、町一番の実力者だと誰しもが認めている。
なので町の警邏隊は何かあるとネロを頼る。
ネロはその依頼を快く受けているらしい。もちろん、無償ではないらしいが。
 町の外に馬が2頭繋がれている荷馬車が2台止めてあった。
これで目的地に向かうみたいだ。
俺と、ファラ、ネロを含めて10人。
ファラは危険があるかもしれないから、ついてこなくてもよかったが、本人が行きたいというので連れてきた。

 一時間後、馬車は俺が暴れた森にたどり着く。
一度、全員馬車の外に出る。
木片となったホラーな木々はそのままで、乱雑に散らかっている。
少し奥から強烈な腐臭が漂う。

「しくしくしく・・・。」

 腐臭が漂う、その方向から女性のすすり泣く声が聞こえる。
一番近くにいた俺はその声の方に近づいた。
近づくにつれ、腐臭はさらに強烈になっていく。
さらに一歩を進めたとき、木の影にその声の主らしきの背中が見えた。
しゃがみ込んでいる人らしきなのだが、意匠がだいぶ人と異なっている。
金色の短い髪に裸に近い格好。
辛うじて、生成りのままの麻の胸当てと同じく腰巻をしている。足元は革を巻き付けたようなブーツ。
身体の線からは女性だという事が想像できる。
 ここまでは普通の人間の説明なのだが、決定的に違うものが1つある。
背中だ。
背中に純白の大きな翼が生えているのだ。
 俺の気配に気づいたその女性は振り向きざまに立ち上がった。

「てっ天使!!?」

 俺は驚いて声を上げる。
まさに、いわゆる誰しもが想像する通りの天使だった。
しかもその女性の顔立ちは、俺の中学生の時の初恋の相手を思いださせる、美化されまくった理想の女性だった。
 透き通るような肌に金髪、そして碧眼。さらには丁寧に手入れされていると思われる純白の翼。
それに俺の場合は、顔立ちもまさに理想そのもの。どストライクというやつ。
これを天使と言わず、なんと言うのだろう。
一瞬にして心を奪われる。

「人間!!」

 天使な女性は一気に俺を警戒する。
待て待て、俺としてはこんな理想の女性と険悪になりたくない。

「待ってくれ!敵意はない!落ち着いてくれ!」

 俺は両手を上げて、弁明する。

「えっ!?人間が私たちの言葉がわかるの・・・?」

 女性は狼狽えた。
どうやら、女神のAnother Language acquisition異世界言語取得スキルが発動しているらしい。

「わかる。わかるから、警戒しないでくれ!」

 もう俺はこの女性を引き留めることに必死。街でナンパしようと必死な男性の気持ちが初めてわかった気がした。

「お、俺はキチク。近くの町からこの森の調査に来たんだ。
俺が魑魅魍魎をやっつけちゃったから、ゴブリンが暴れてるらしくて。
あなたはゴブリンにでも襲われたのか?大丈夫ですか?」

 俺はできる限りの説明をして、警戒を解いてもらうように心がけた。
だが、それがよくなかった。

「・・・・この惨劇を貴様がやった・・・・?」

 女性の身体がわなわなと震えている。
その女性の視線は目の前の肉塊に注がれている。
そう、俺が数日前に無意識で千切っては投げてしまった、今では腐りかけた肉塊。
肉塊と化している鳥頭の化け物だ。

「これは私の爺上だ・・・。よくもこんな目に!!」

 バサッ!!という風を切る大きな音と共に、女性は翼を大きく広げた。
翼を広げた女性は何倍も大きく見える。さらには翼の羽は、怒りに逆立っているようにも見える。
やばい。完全にアウトなやつだ。やっちまった・・・。
いやしかし、鳥頭の化け物がおじいちゃんって・・・。
 俺は女性の好意を引くどころか、完全に敵視されてしまった。

「キチク!どうした!?」

 突如、背後から声が聞こえる。ネロだ。
他にも警邏隊がわらわらと走り寄ってくる。
 天使な女性はブワッと風を起こし、俺の頭上に上昇した。

「くっ!今回は引く!だが、名は覚えた!必ず、必ず爺上の仇を討つ!」

 そう捨て台詞を残し飛び去ってしまった。
ああ、俺の初恋は違う人生でもかなわないのか・・・。
こういうときに効いてよCaptivate魅了 スキル・・・。

「大丈夫か、キチク?」

 呆けている俺にネロが話しかけてきた。

「あれは・・・鳥族のさぎの獣人だな。ほとんどがまだ野生のままで生きている。
言葉も通じないし、面倒なやつらだな。」

「鷺の獣人・・・。」

 俺は天使な女性がいなくなった後も空を見上げていた。

 仕方ない。とりあえず、埋葬だけはしておこう。
俺はそう思って、偶然馬車の中にあったスコップを借りて、鳥頭の肉塊をその場に埋めた。
天使な女性が後でわかるように、鳥頭の羽を数枚抜いて盛り上がった土に刺した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なんだって?じゃあ、この現状はキチクがやったってのかい?」

 今更ながら、俺がこのホラーな木を散乱させたことをみんなに説明した。
一人で暴れたにしては数が多すぎる。皆かなり驚いている。

「うん。さっき埋めたあの鳥頭も一緒に殺しちゃったんだけど、どうやら飛び去った女性の爺さんだったみたいだ。」

「それは参ったねえ。鳥族は怨恨が深いっていうからねえ。身内なんか殺されたら、どこまでも追ってくるよ。そんなだから、いつまでたっても野生のままなんだけどねえ。」

 マジか。
ネロはさらりと仲良くなるのは無理だという事実を突き付けてくる。

「ゴブリンだ!!」

 後方で突然声が上がった。
焦燥感に駆られる俺の目が鋭くなる。
この残念感を払拭するには、暴れるしかないでしょ。
ガチャン。
熊手のレバーを押し上げる。
ダマスカス鋼の木柄がヌメリと光ったような気がする。

「おらああ!」

俺は警戒している皆をよそに、誰よりも早くゴブリンの群れに飛びかかる。
 下腹部がぼっこりとでっぱた緑色の子鬼。小柄ながらもその身体は筋肉に覆われている。
だが熊手はいとも容易く、それを引き裂き、突き刺し。解体する。
周囲に、むせ返るような血生臭い匂いが立ち込める。

 やってやった。
ネロや警邏隊の見ている目の前で、俺はあっという間に20体はいたであろうゴブリンを、全て駆逐してやった。

「すごいねえ・・・。」

 ネロが感嘆の声を漏らす。
周りの警邏隊の男たちは、あまりの凄惨な場面に言葉を失っている。

「ネロ!この爪すごいよ!軽いし、切れ味も抜群だ!気に入った!」

 俺はまるで自分の手足の様に簡単に使いこなせた熊手に歓喜する。
さっきの陰鬱な雰囲気はどこ吹く風だ。
今の俺はゴブリンの返り血を浴びて、白かったカットソーは血で斑に染まっていた。
腕や、顔にも返り血は飛んでいる。
それなのに歓喜にはしゃぐ姿は狂気に駆られているようにも見える。
今の俺を子供が見たら、泣き叫び、悪魔が乗り移ったと罵るだろう。
事実、警邏隊の男たちは畏怖を込めた目で見ている。

「怪我はありませんか!?」

 女神が俺の元に駆け寄る。

「やばいです!とても興奮しました!
ああ!私、もしあんな風にバラバラにされたらどうしましょう!」

おいおい、女神。
せっかく前回でエロかわいいキャラで好感度アップしたんだから、変態キャラに戻るなよ・・・・。
俺はちょっとだけ冷静になり、プッと笑う。
ネロは大声を上げて笑い、つられて警邏隊の男たちにも笑いが起きる。
 殺伐とした雰囲気を壊せる人は中々いないよなあ、と呆れながらも俺は心の中で少しだけ女神の評価を上げる。

「大丈夫だよ。怪我はない。」

「よかったです。」

「ううぇあああああ!」

「キャー!!!」

 俺が無事なのを聞いてファラが安堵の声を出した瞬間、俺は手を大きく広げて大声で女神を脅かしてみた。今俺は血まみれ。結構な迫力がある。
 不意のドッキリで女神は涙目になった。

「なんですかー!いきなり!」

 ゲラゲラと笑う俺に、ファラは錫杖を出現させてポカポカ殴ってくる。
意外と・・・いや、かなり痛い。

「ちょっ・・・痛い!ファラまじで痛いからやめてぇぇぇ!」


 ゴブリン退治はオチのないドタバタ劇で終わりそうだ。
ああ、それにしても天使な女性かわいかったな・・・。



カオスゲージ
Law and order法と秩序 +++[73]++++++ Chaos混沌
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...