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◇四話◇
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あとからやってきたオデットも騎士団長から説明を受けた。
作戦は三日後、準備を整えておくようにと。
(ランヴァルド様、許可してくださったのですね)
本来なら伯爵夫人が戦場に立つなんておかしな話だが、
オデットにとってはうれしい話だった。
(お役にたってみせます)
妻としては足りないかもしれないが、魔術師としてならきちんとランヴァルドの役にたてる。
そうオデット自身思っていたので、
今回の作戦に投入してくれたことは、信頼されているようでうれしかった。
「よ。オデット、次の掃討戦はきっつそうだぜ?」
「あら、ユーグ」
廊下を歩いているとちょうどユーグがやってきたので礼をする。
「俺もでるんだよ、よろしくな」
「まあ、ケガをしないよう気をつけて。あなたたちは最前線ですからね」
「おまえもだろ」
「それでも、接近戦をするわけではありませんから」
ふふっ、と笑って首を傾げるオデットの、その首筋を見てユーグは片眉をあげた。
「……へぇ」
「? どうしました、ユーグ」
どこか不機嫌そうな彼の声に、オデットはぱちぱちとまばたきをする。
「いいや、おまえの旦那は独占欲が強いなと思っただけさ」
「はい?」
「なんでもない、それより――、あれ」
ユーグが窓の外に視線を移す。
つられてオデットもそちらを見ると……。
「――あ」
アンネリースとランヴァルドの姿があった。
二人の距離はただの友人とは思えないほど近い。
二人はなにか会話をしているようで、ランヴァルドはオデットと話すときよりよほど表情豊かに見えた。
「……っ、それではユーグ、私はこれで」
顔をそむけて、歩き出すオデットの手をユーグが掴む。
「なぁオデット、おまえは副団長のことが好きなのか?」
「なにを言っているんです、きゅうに」
好きではあるのだ、ただ……。
(ねえさんのことが好きなのではないか、とか……。
私はねえさんのかわりでしかないのではとか、考えてしまうだけで)
うつむいたオデットの耳元に唇をよせてユーグが言う。
「むりやり抱かれても?」
「っ、な」
ユーグの指先が制服に隠れるか隠れないかくらいの首筋をなでる。
その行為で、そこになにがあるのか分かってしまった。
「なぁオデット、副団長と別れたいなら手伝ってやるぜ?
不貞があっては、さすがにあの人も止められないだろ」
「け、結構です! ユーグ、冗談も休み休み言ってください!」
「俺は本気なんだがね」
ふ、と耳に息をふきかけられて、オデットの身体がびくりとはねる。
あわてて距離をとり、オデットは礼をすると駆けだした。
「なんの用だい? アンネリース」
ランヴァルドはあきれたような表情で彼女に問う。
「まぁ、つれないのですね。せっかくお友達が会いにきましたのに」
ふふっと微笑んで首を傾げているが、隙あらば凶器のようなピンヒールでランヴァルドの足を踏みつける気だ。
アンネリースはすっと距離をつめ、ランヴァルドにだけ聞こえるくらいの声で言う。
「あなた、まさかオデットに手をだしていないでしょうね」
「なぜ気にするんだい?」
「あなたなんかの手あかをつけられたら! 次の結婚のあしかせになるでしょう⁉」
「……私は彼女と離縁するつもりなどないよ」
さすがに苛立って、声のトーンが低くなる。
オデットをほかの男になど譲ってやるつもりはない。
「だいたいきみはどうしてそこまで私とオデットをひきはなそうとするんだい?」
「あらまぁお聞きになりたいの? ご自分の胸に聞いたほうがはやいのではなくて?」
「どういう意味だい」
不機嫌を隠さずに問うと、アンネリースはフンッと鼻をならした。
「わたくしに惚れてオデットを妹扱いしていたくせに、あとになってあのこを好きになったなんて軽い男、
わたくしが信用すると思って? あなたの無神経な行いがどれほどあのこを傷つけてきたことか」
「それならきみの行いも同じだけ傷つけているはずだ」
オデットはランヴァルドがアンネリースを好いていると思っている。
それなのにこうして堂々と会いに来るとは……、と、そこまで考えて、
ランヴァルドはこの女性の目的にきづいてしまった。
「まさかきみ、オデットの勘違いを悪化させることが目的かい?」
「そうよ、一時的にはひどく傷つけることになるけど。
オデットにはあなたのことあきらめてもらうわ」
「っ、なぜそこまで……
「あのこがどれほど傷ついてきたか、誰より一番間近で見てきたのはこのわたくしよ、当然でしょう」
アンネリースは扇で口元を隠し、二階廊下を一瞥した。
それを見て、ランヴァルドもそちらへ視線をうつしたのだが――。
ユーグとオデットの姿がある。
彼はオデットの耳元に唇をよせ、なにかささやく。
そしてオデットは頬を真っ赤にそめて、その場から立ち去った。
「……、アンネリース、私はオデットと離縁するつもりはない。
たとえ彼女がどんなことをしたとしても、だ」
「あらあら、あなたはそうでも周囲はどうかしらね!」
ほほっと笑って、アンネリースは身をひるがえす。
作戦は三日後、準備を整えておくようにと。
(ランヴァルド様、許可してくださったのですね)
本来なら伯爵夫人が戦場に立つなんておかしな話だが、
オデットにとってはうれしい話だった。
(お役にたってみせます)
妻としては足りないかもしれないが、魔術師としてならきちんとランヴァルドの役にたてる。
そうオデット自身思っていたので、
今回の作戦に投入してくれたことは、信頼されているようでうれしかった。
「よ。オデット、次の掃討戦はきっつそうだぜ?」
「あら、ユーグ」
廊下を歩いているとちょうどユーグがやってきたので礼をする。
「俺もでるんだよ、よろしくな」
「まあ、ケガをしないよう気をつけて。あなたたちは最前線ですからね」
「おまえもだろ」
「それでも、接近戦をするわけではありませんから」
ふふっ、と笑って首を傾げるオデットの、その首筋を見てユーグは片眉をあげた。
「……へぇ」
「? どうしました、ユーグ」
どこか不機嫌そうな彼の声に、オデットはぱちぱちとまばたきをする。
「いいや、おまえの旦那は独占欲が強いなと思っただけさ」
「はい?」
「なんでもない、それより――、あれ」
ユーグが窓の外に視線を移す。
つられてオデットもそちらを見ると……。
「――あ」
アンネリースとランヴァルドの姿があった。
二人の距離はただの友人とは思えないほど近い。
二人はなにか会話をしているようで、ランヴァルドはオデットと話すときよりよほど表情豊かに見えた。
「……っ、それではユーグ、私はこれで」
顔をそむけて、歩き出すオデットの手をユーグが掴む。
「なぁオデット、おまえは副団長のことが好きなのか?」
「なにを言っているんです、きゅうに」
好きではあるのだ、ただ……。
(ねえさんのことが好きなのではないか、とか……。
私はねえさんのかわりでしかないのではとか、考えてしまうだけで)
うつむいたオデットの耳元に唇をよせてユーグが言う。
「むりやり抱かれても?」
「っ、な」
ユーグの指先が制服に隠れるか隠れないかくらいの首筋をなでる。
その行為で、そこになにがあるのか分かってしまった。
「なぁオデット、副団長と別れたいなら手伝ってやるぜ?
不貞があっては、さすがにあの人も止められないだろ」
「け、結構です! ユーグ、冗談も休み休み言ってください!」
「俺は本気なんだがね」
ふ、と耳に息をふきかけられて、オデットの身体がびくりとはねる。
あわてて距離をとり、オデットは礼をすると駆けだした。
「なんの用だい? アンネリース」
ランヴァルドはあきれたような表情で彼女に問う。
「まぁ、つれないのですね。せっかくお友達が会いにきましたのに」
ふふっと微笑んで首を傾げているが、隙あらば凶器のようなピンヒールでランヴァルドの足を踏みつける気だ。
アンネリースはすっと距離をつめ、ランヴァルドにだけ聞こえるくらいの声で言う。
「あなた、まさかオデットに手をだしていないでしょうね」
「なぜ気にするんだい?」
「あなたなんかの手あかをつけられたら! 次の結婚のあしかせになるでしょう⁉」
「……私は彼女と離縁するつもりなどないよ」
さすがに苛立って、声のトーンが低くなる。
オデットをほかの男になど譲ってやるつもりはない。
「だいたいきみはどうしてそこまで私とオデットをひきはなそうとするんだい?」
「あらまぁお聞きになりたいの? ご自分の胸に聞いたほうがはやいのではなくて?」
「どういう意味だい」
不機嫌を隠さずに問うと、アンネリースはフンッと鼻をならした。
「わたくしに惚れてオデットを妹扱いしていたくせに、あとになってあのこを好きになったなんて軽い男、
わたくしが信用すると思って? あなたの無神経な行いがどれほどあのこを傷つけてきたことか」
「それならきみの行いも同じだけ傷つけているはずだ」
オデットはランヴァルドがアンネリースを好いていると思っている。
それなのにこうして堂々と会いに来るとは……、と、そこまで考えて、
ランヴァルドはこの女性の目的にきづいてしまった。
「まさかきみ、オデットの勘違いを悪化させることが目的かい?」
「そうよ、一時的にはひどく傷つけることになるけど。
オデットにはあなたのことあきらめてもらうわ」
「っ、なぜそこまで……
「あのこがどれほど傷ついてきたか、誰より一番間近で見てきたのはこのわたくしよ、当然でしょう」
アンネリースは扇で口元を隠し、二階廊下を一瞥した。
それを見て、ランヴァルドもそちらへ視線をうつしたのだが――。
ユーグとオデットの姿がある。
彼はオデットの耳元に唇をよせ、なにかささやく。
そしてオデットは頬を真っ赤にそめて、その場から立ち去った。
「……、アンネリース、私はオデットと離縁するつもりはない。
たとえ彼女がどんなことをしたとしても、だ」
「あらあら、あなたはそうでも周囲はどうかしらね!」
ほほっと笑って、アンネリースは身をひるがえす。
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