だって魔王の子孫なので

深海めだか

文字の大きさ
上 下
36 / 38
宝探しは君の手で

第三十五話

しおりを挟む
 頭を撫で回すだけでは飽き足らず、ついには体ごと引き寄せ始めた感覚に何のつもりだと薄目を開ける。確かに目を閉じはしたが、そこまで許した覚えはない。

「……おい、いい加減離れろ。いつまで触ってんだ」
「ああごめん。光が大人しく触らせてくれる機会なんて滅多にないから」

 嬉しくて。続く言葉はもちろん無視をし、胸元に手をつき体を逸らす。
 特に抵抗することもなく離れていったが、聞き分けの良さが逆に怖いなんて思うのも、普段の行いがあまりにストーカーじみているせいだ。いつもこうなら少しは鬱陶しさもマシなのに。

「宝箱拾って、とりあえず出口に行くぞ」
「そうだね。歩けそう? おんぶしようか」

 さも当然のような口ぶりに、げんなりとして眉根を寄せる。こいつは俺のことを幼児か何かだと思っているのか。
 確かにさっきは助けられたが、そこまで見くびられるほど弱くはないつもりだし、道中の移動は魔力感知に集中するため仕方なくだ。

 それに、誰が歩くと言った。黙って翼を広げれば、そこでようやく察したらしい。

 暗い道を照らしながら進んで行くことしばらく。直線のさほど深さもない洞窟だったから、転がっていた宝箱を見つけるにも、見覚えのある景色に辿り着くにも、そう時間はかからなかった。

「……で、この中をどうやって帰るか…………だな」

 ザァァァァア

 天気が変わりやすいのであれば、晴れとまではいなくても雨足が弱まるくらいはあり得るはず。そんな期待はものの見事に打ち砕かれ、目の前では轟々と勢いを増した雨風たちが渦巻いていた。

 まあ、あの看板に「雨風の洞窟」と書かれていた時点で薄々勘付いてはいた部分はある。
 魔術か自然によるものかは知らないが、多分ここはそういうタイプの洞窟なのだ。
 気温・天候に関係なく、この洞窟の周囲にだけ常に雨風が吹き荒れる最悪の立地。そもそも見つけにくいということもあり、なるほど宝を隠すにはもってこいの場所だろう。

「うわぁ、俺が降りてきた時よりもさらに酷くなってるね。……これは流石に素で登るのは厳しそうだ」
「お前の場合、そもそも身体強化だけで降りてこられたのが異常なんだろうが」
「あははっ、光に褒められるなんて嬉しいな」
「別に褒めてない」

 数メートル先は晴れているのに目の前は土砂降りの雨だなんて、まったくめちゃくちゃな天候だ。

 当然ではあるが、こうしている間にもタイムリミットは刻一刻と迫っている。
 時計にスマホ。時間を正確に測れるものがないからこそ、焦りはどんどん肥大していった。せっかく宝を手に入れたのに、時間切れなんて冗談じゃない。

「…………ん? あれ?」
(どうする。探せば反対側に入り口があるか)
「ねえ光、ちょっと見て」
(でも見た感じ行き止まりだったし、それにあの魔獣がいるんじゃどっちにしろ危険──)

 腕の中の箱を握りしめ、ざらついた表面を指でなぞる。
 なんとか打開策を考えないと。焦りのままに無理やり思考を巡らせていれば、いきなり強い力で顎を掴まれ、そのままぐいと持ち上げられた。

 ぱちり 瞬きをひとつする間に、土と箱ばかりの視界は一転し、夕陽が溶け出たオレンジ色へと変わっていく。
 それは、空と海との境目すらをも曖昧に感じさせるほど、遠く、どこまでも澄みきった景色。あんなにうるさかった雨音は、気づけばとうに消え失せていた。

「は……──え? はれ、晴れ…………なんで?」
「さぁ? 理由はわからないけれど、見る限り雨は止んだみたいだね」
「んだそれ、意味不明すぎるだろ」

 顎を掴まれていることも忘れ、驚きから率直な感想が滑り落ちる。
 きっと今、鏡を差し出されでもしたら口を半開きにした間抜けな顔が写っていることだろう。
 もちろん嬉しい気持ちがないわけではない。あまりに急なものだから、驚きと疑問が瞬間的に勝ってしまっているだけだ。

「とりあえず雨が止んだなら光は飛んで帰れるよね」
「まあ、それはそうだな」
「うん。じゃあそれぞれ別々に動こうか。宝箱も見つかったことだし、俺が背負って走るより飛んだ方が早いだろう?」

 するりと回されていた腕が離れていき、振り向いた先で、天勝は笑って肩をすくめた。もちろん、その提案に異論はない。
 そもそも雨さえ降っていなければ、この洞窟から出ていくのなんて容易なのだ。
 宝は既に見つけているし、ふらふら寄り道をして他生徒に見つかる心配もない。真っ直ぐ本部に行くだけでいいのなら、二人で森を抜けるよりも飛んだ方が断然早いのは明らかだろう。

 ……ただし、それはこいつが普段となんら変わりなく、万全の状態であるならの話。

「で、お前はどうするんだよ」
「俺は後から追いつくよ。いつもと同じようにね」
「ふーん。足、怪我してんのに?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

過保護な不良に狙われた俺

ぽぽ
BL
強面不良×平凡 異能力者が集まる学園に通う平凡な俺が何故か校内一悪評高い獄堂啓吾に呼び出され「付き合え」と壁ドンされた。 頼む、俺に拒否権を下さい!! ━━━━━━━━━━━━━━━ 王道学園に近い世界観です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

天使様はいつも不機嫌です

白鳩 唯斗
BL
 兎に角口が悪い主人公。

処理中です...