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小学校ー幼馴染と親友ー
五話
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まず目に入ったのは白い天井。傍には、ベッドに突っ伏して寝ている母さんの姿があった。
……戻ってきたんだ。
安心感から涙腺が緩んで、馬鹿みたいに大泣きしてしまったことを今でも良く覚えている。急斜面を転がり落ちたことによる全身打撲と骨折――全治約三ヶ月。
「虎徹がちゃんと守ったから、朔斗君は軽い捻挫と打撲だけですって。…本当に、よく頑張ったね」
元々、通報を受けた警察が動き出してはいたのだが、すっかり陽が落ちていたこともあって、捜査は難航していたらしい。
もし二人とも気絶していたら。もし足を滑らせた先が岩場だったら。もし警察の捜査網が届いていなかったら。
何か一つでも違っていれば、俺はこの場にいなかったのかもしれない。そんな恐ろしい想像を、頭から追いやりたくて、優しい母の胸に擦り寄ることしか出来なかった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▽
「こーちゃんどこ行くの?」
「あー、トイレ」
「僕も行く」
「……わざわざついて来なくてもいいんだぞ」
「僕も行きたい、ダメなの?」
大きな目で下から覗き込むように言われて、ウッと言葉を詰まらせる。正直俺は、この顔に弱かった。
あの事件があってから、さっちゃんはより一層、俺にべったりになった。元々仲良しではあったけど、最近ではお風呂やトイレにすら着いてこようとするのだ。
母さんは「ヒヨコの刷り込みみたいで可愛いじゃない」なんて難しいことを言っていたけど、四六時中付き纏われるこっちの身にもなってくれ。
さっちゃんのことは相変わらず大好きだったけど、嫌いになりたくないからこそ、今は距離を置きたかった。
――四月、新しい学年、新しいクラス。
少しくたびれたランドセルを背負って、期待に胸を膨らませながら教室に向かった。前と同じクラスの子も何人かいたけど、さっちゃんとは別のクラスだ。
(ラッキー)
そんな邪な考えを抱きながら、黒板に貼られた紙を眺めて決められた通りに着席する。
先生が来るまでの間、教室には期待と不安が入り混じったようなそわそわとした空気が漂っていた。
ランドセルから筆箱やノートを取り出している間、左隣の席から妙に視線を感じたので、思い切って話しかけてみる。
「なぁ、名前なんて言うの? 俺は虎徹! よろしくな」
「あ……俺は木之原翔太。その、よろしく」
少々面食らった様子の少年は、それでも笑顔を返してくれた。ご丁寧にフルネームで名乗ってくれるものだから、なんだか良いやつそうだなってのが第一印象。
しばらくしてその印象は確信に代わり、俺たちは驚くほどのスピードで仲良くなった。
中休みの十五分すらも校庭に走り、力の限り遊びまくって、また教室にダッシュする。たまに間に合わなくて怒られたけど、翔太と一緒ならそれすらも楽しかった。
「それで翔太がさぁ――」
「うんうん」
いつもの帰り道。俺の話を聞いて、嬉しそうに相槌を打つ姿を横目で眺める。噂で聞いた話だが、さっちゃんは早速クラスの人気者になっているらしい。
確かに喋り方――というか全体の雰囲気が、昔よりも随分明るくなったような気がするし、俺が知らないような友達に、声をかけられる事も増えた。
やっぱり、距離を置くという選択肢は間違っていなかったのだ。
「なぁ。今日からさ、朔斗って呼んでもいい?」
「え……なんで? 僕のこと嫌いになった?」
「違う違う、そんなんじゃなくてさ。もう四年生だし、さっちゃん呼びは恥ずかしいだろ」
「別に、恥ずかしくなんてないよ」
「や~、これは俺の問題っていうか……。あ、じゃあさ。朔だったら特別っぽくて良いだろ! な?」
なぁなぁにして誤魔化してはみたけれど、正直に言うとそろそろ周りの目が痛いのである。
こいつ何言ってんだ、というか、自分は特別アピールか、みたいな冷たい視線。他人に言われるまでは気づかなかったけど、そろそろやめるべきなんだろう。
「…………わかった」
「よっしゃぁ!! 俺のことも、好きに呼んでいいからな」
「なら僕はこーちゃんって呼ぶ」
「……? それ、変わってなくないか?」
「ううん。これが気に入ってるからいいの」
「ふーん……、ならいいけど」
……戻ってきたんだ。
安心感から涙腺が緩んで、馬鹿みたいに大泣きしてしまったことを今でも良く覚えている。急斜面を転がり落ちたことによる全身打撲と骨折――全治約三ヶ月。
「虎徹がちゃんと守ったから、朔斗君は軽い捻挫と打撲だけですって。…本当に、よく頑張ったね」
元々、通報を受けた警察が動き出してはいたのだが、すっかり陽が落ちていたこともあって、捜査は難航していたらしい。
もし二人とも気絶していたら。もし足を滑らせた先が岩場だったら。もし警察の捜査網が届いていなかったら。
何か一つでも違っていれば、俺はこの場にいなかったのかもしれない。そんな恐ろしい想像を、頭から追いやりたくて、優しい母の胸に擦り寄ることしか出来なかった。
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「こーちゃんどこ行くの?」
「あー、トイレ」
「僕も行く」
「……わざわざついて来なくてもいいんだぞ」
「僕も行きたい、ダメなの?」
大きな目で下から覗き込むように言われて、ウッと言葉を詰まらせる。正直俺は、この顔に弱かった。
あの事件があってから、さっちゃんはより一層、俺にべったりになった。元々仲良しではあったけど、最近ではお風呂やトイレにすら着いてこようとするのだ。
母さんは「ヒヨコの刷り込みみたいで可愛いじゃない」なんて難しいことを言っていたけど、四六時中付き纏われるこっちの身にもなってくれ。
さっちゃんのことは相変わらず大好きだったけど、嫌いになりたくないからこそ、今は距離を置きたかった。
――四月、新しい学年、新しいクラス。
少しくたびれたランドセルを背負って、期待に胸を膨らませながら教室に向かった。前と同じクラスの子も何人かいたけど、さっちゃんとは別のクラスだ。
(ラッキー)
そんな邪な考えを抱きながら、黒板に貼られた紙を眺めて決められた通りに着席する。
先生が来るまでの間、教室には期待と不安が入り混じったようなそわそわとした空気が漂っていた。
ランドセルから筆箱やノートを取り出している間、左隣の席から妙に視線を感じたので、思い切って話しかけてみる。
「なぁ、名前なんて言うの? 俺は虎徹! よろしくな」
「あ……俺は木之原翔太。その、よろしく」
少々面食らった様子の少年は、それでも笑顔を返してくれた。ご丁寧にフルネームで名乗ってくれるものだから、なんだか良いやつそうだなってのが第一印象。
しばらくしてその印象は確信に代わり、俺たちは驚くほどのスピードで仲良くなった。
中休みの十五分すらも校庭に走り、力の限り遊びまくって、また教室にダッシュする。たまに間に合わなくて怒られたけど、翔太と一緒ならそれすらも楽しかった。
「それで翔太がさぁ――」
「うんうん」
いつもの帰り道。俺の話を聞いて、嬉しそうに相槌を打つ姿を横目で眺める。噂で聞いた話だが、さっちゃんは早速クラスの人気者になっているらしい。
確かに喋り方――というか全体の雰囲気が、昔よりも随分明るくなったような気がするし、俺が知らないような友達に、声をかけられる事も増えた。
やっぱり、距離を置くという選択肢は間違っていなかったのだ。
「なぁ。今日からさ、朔斗って呼んでもいい?」
「え……なんで? 僕のこと嫌いになった?」
「違う違う、そんなんじゃなくてさ。もう四年生だし、さっちゃん呼びは恥ずかしいだろ」
「別に、恥ずかしくなんてないよ」
「や~、これは俺の問題っていうか……。あ、じゃあさ。朔だったら特別っぽくて良いだろ! な?」
なぁなぁにして誤魔化してはみたけれど、正直に言うとそろそろ周りの目が痛いのである。
こいつ何言ってんだ、というか、自分は特別アピールか、みたいな冷たい視線。他人に言われるまでは気づかなかったけど、そろそろやめるべきなんだろう。
「…………わかった」
「よっしゃぁ!! 俺のことも、好きに呼んでいいからな」
「なら僕はこーちゃんって呼ぶ」
「……? それ、変わってなくないか?」
「ううん。これが気に入ってるからいいの」
「ふーん……、ならいいけど」
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