成り損ないの異世界譚

深海めだか

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君は俺の

九話

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「おい、お前大丈夫かよ! この国の人? っ、何でこんなに血出てるんだよ。ここら辺は魔物出ないはずだろうが!」
「っ、ぅ、……」
「とりあえず薬草……ってこれどうやって使うんだっけ。生のままでいける? 傷口に塗ればいいのか? いやいやいや、傷口広げだら駄目だろ」

 わけもわからないまま放り出された世界の先で、自分はこのまま死んでしまうのだと思っていた。
 目を焼くような鮮烈な赤が緑に変わり、石畳が柔らかな土に変わっていたのだとしても。今から死にゆく人間には何の関わりもない話。怒号が聞こえなくなっただけ、まだマシだと言うべきだろうか。

「えーっと、なんだっけ。確かすり潰して……包帯、包帯もいるよな。っうわ、マジで酷いなこれ」

 無遠慮に触れてくる手が腹立たしい。けれど振り払う気力もなく、辿々しい手つきを受け入れた。どこからどう見ても助からないであろう人間に、なんて無駄なことをするのだ。

「ごめんな、俺の治療なんかじゃ役に立たないだろうけど」
「…………」
「がんばれ、まだ死ぬなよ。……何があったのか知らないけど、とりあえずわけわかんないまま死ぬのは駄目だ」

 血が足りなくなってきたのだろうか。今にも落ちてしまいそうな意識のなか、延々と呟かれるその声だけは、やたらはっきり聞こえていた。
 温かいぬるま湯に全身を浸されているような心地よさ。不思議と体の痛みが治まっていくようにも感じて、声の主を一目見たいと薄目を開けた。
 ぼやけている上、フードに隠れてよくは見えなかったが、俺の目を見て声の主はほっと小さな息を吐く。

「よかった、少しはマシになったか? ……綺麗な色してるんだな」

 前髪を払われ、ほんの一瞬だけ目線が交わる。
 けれど彼は助けを呼んでくるからと慌てたように声を上げ、いつの間にやらどこかへ消えてしまっていた。

 ……きっとあれは天使なのだ。もし、もし次に会えたのなら、逃げられないよう羽を切って大切にしよう。
 そんなことを思いながら目を閉じた先の暗闇は、いつもよりほんの少しだけ眩しく光っているように思えた。
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