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思い違いと嫉妬の熱
※八話
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「っんでお前が泣いてんだよ」
「ごめん」
「は、……っ、だいたいさ、おれの話も、……すこしは、ふっ、聞けっての」
「だってアキが俺のこと捨てるっていうから」
「ちが……っ、そんなこと言って─~~ぅぁ"!」
思わず振り返ろうとした途端、ぎっちり詰まったレイのものが、腹の中で角度を変える。驚いて反射的に締め付けてしまい、肉壁を擦るビリビリとした感覚に、喉をそらして声を上げた。
「と……っ、りあえず~~っ、ふ、これ抜けよ……!」
「でも、」
「でもじゃ、ねぇよ、……っ、この馬鹿、ん……き、らいに、っ、なるぞ!」
しばらくの沈黙を経て、ずるりと、中のものが抜け出ていく。その妙な感覚に肌を震わせながら、ぐしゃぐしゃに汚れたシーツの上、体をくたりと横たえさせた。指の爪一本すら動かないほど体が重い。……重いけど、
「レイリア」
「……はい」
「正座」
「セイザ?」
「あー……とりあえず一番真面目な座り方しろ」
レイは小首を傾げると、ベッドから降りて片膝をつき、俺の顔を覗き込んだ。傍目から見れば忠義に厚い騎士のようだが、肝心の主(もとい俺)はこいつのせいでボロボロになり、死にかけでベッドに横たわっているのを忘れてはならない。
「レイ、お前あの子との会話聞いてたか?」
「……最後の方だけ」
「じゃあ俺のスキルが魅了じゃなく好感っていうのは?」
「そこは聞いた」
いやいや、おかしいだろ。じゃあなんで『捨てられる』なんて勘違いをしてるんだ。
そう言ってしまいたいのを飲み込んで、部屋の隅へと視線を巡らす。こちらを真っ直ぐに見つめてくる素直さが、今はどうしようもなく嫌だった。こんなこと、二度も三度も言うものではない。
「お前は俺のスキルで洗脳状態にあるんだよ。……だから『好き』とかいうその感情も、今だけだ。離れたら治る」
「あり得ない。だって俺アキに……アキカゲに一目惚れしてから、ずっとずっとず~っと狙ってたんだよ」
「…………は?」
「さっきも言ったのに覚えてないの?」
レイは不満気に頬を膨らましながら、こちらに顔を近づけてくる。視線を逸らそうにも、不思議と目が離せなかった。
「フードで顔は隠してたけど、あの時……俺が死にかけてた時に助けてくれたのアキカゲだろ。貴重な薬草馬鹿みたいに使ってさ、何回も『頑張れ、死ぬなよ』って。……俺の、俺だけの天使さま。王さまに引き合わされた時、その声ですぐにアキだって気づいたよ」
ふわりと微笑むその顔に、その声に、何故だか目頭が熱くなる。
気づかれていないと思っていた。
レイと出会ったあの日のこと、鮮烈すぎて忘れられない日のことだ。俺は戦闘に関して役立たずだから、せめてもう一人の被召喚者を待つ間にと、書庫で漁った薬草の採取ポイントを地道に毎日回っていた。まさかその先で、同じ被召喚者──しかも死にかけに合うとは思わなかったけど。
「ほ、本当に……俺のこと、す、す、好き……なのかよ」
「うん。好きだよ、だーい好き、高い塔に閉じ込めて独り占めしちゃいたいくらいに好き」
「ふっ……いや、普通に重すぎるわ」
思わず笑ってしまって、レイがぱっと目を輝かす。そのまま飛びついて来そうなのを手で制し、意図的に冷たい声を投げやった。すれ違いだったのは承知の上だが、なんにしろ、合意のない性行為は犯罪だ。
「じゃあ三日間は接触禁止な。……あ、でも指一本動けないから世話する時だけ触っていいぞ。変なことしたらそれこそお前置いて逃げるけど」
「あ、あき~!!」
しょぼんと垂れる犬耳が見えて、奥歯で笑いを噛み殺す。決して楽しいとは言えない異世界だけど、こいつと一緒ならもう少しだけ頑張れそうだ。
「ごめん」
「は、……っ、だいたいさ、おれの話も、……すこしは、ふっ、聞けっての」
「だってアキが俺のこと捨てるっていうから」
「ちが……っ、そんなこと言って─~~ぅぁ"!」
思わず振り返ろうとした途端、ぎっちり詰まったレイのものが、腹の中で角度を変える。驚いて反射的に締め付けてしまい、肉壁を擦るビリビリとした感覚に、喉をそらして声を上げた。
「と……っ、りあえず~~っ、ふ、これ抜けよ……!」
「でも、」
「でもじゃ、ねぇよ、……っ、この馬鹿、ん……き、らいに、っ、なるぞ!」
しばらくの沈黙を経て、ずるりと、中のものが抜け出ていく。その妙な感覚に肌を震わせながら、ぐしゃぐしゃに汚れたシーツの上、体をくたりと横たえさせた。指の爪一本すら動かないほど体が重い。……重いけど、
「レイリア」
「……はい」
「正座」
「セイザ?」
「あー……とりあえず一番真面目な座り方しろ」
レイは小首を傾げると、ベッドから降りて片膝をつき、俺の顔を覗き込んだ。傍目から見れば忠義に厚い騎士のようだが、肝心の主(もとい俺)はこいつのせいでボロボロになり、死にかけでベッドに横たわっているのを忘れてはならない。
「レイ、お前あの子との会話聞いてたか?」
「……最後の方だけ」
「じゃあ俺のスキルが魅了じゃなく好感っていうのは?」
「そこは聞いた」
いやいや、おかしいだろ。じゃあなんで『捨てられる』なんて勘違いをしてるんだ。
そう言ってしまいたいのを飲み込んで、部屋の隅へと視線を巡らす。こちらを真っ直ぐに見つめてくる素直さが、今はどうしようもなく嫌だった。こんなこと、二度も三度も言うものではない。
「お前は俺のスキルで洗脳状態にあるんだよ。……だから『好き』とかいうその感情も、今だけだ。離れたら治る」
「あり得ない。だって俺アキに……アキカゲに一目惚れしてから、ずっとずっとず~っと狙ってたんだよ」
「…………は?」
「さっきも言ったのに覚えてないの?」
レイは不満気に頬を膨らましながら、こちらに顔を近づけてくる。視線を逸らそうにも、不思議と目が離せなかった。
「フードで顔は隠してたけど、あの時……俺が死にかけてた時に助けてくれたのアキカゲだろ。貴重な薬草馬鹿みたいに使ってさ、何回も『頑張れ、死ぬなよ』って。……俺の、俺だけの天使さま。王さまに引き合わされた時、その声ですぐにアキだって気づいたよ」
ふわりと微笑むその顔に、その声に、何故だか目頭が熱くなる。
気づかれていないと思っていた。
レイと出会ったあの日のこと、鮮烈すぎて忘れられない日のことだ。俺は戦闘に関して役立たずだから、せめてもう一人の被召喚者を待つ間にと、書庫で漁った薬草の採取ポイントを地道に毎日回っていた。まさかその先で、同じ被召喚者──しかも死にかけに合うとは思わなかったけど。
「ほ、本当に……俺のこと、す、す、好き……なのかよ」
「うん。好きだよ、だーい好き、高い塔に閉じ込めて独り占めしちゃいたいくらいに好き」
「ふっ……いや、普通に重すぎるわ」
思わず笑ってしまって、レイがぱっと目を輝かす。そのまま飛びついて来そうなのを手で制し、意図的に冷たい声を投げやった。すれ違いだったのは承知の上だが、なんにしろ、合意のない性行為は犯罪だ。
「じゃあ三日間は接触禁止な。……あ、でも指一本動けないから世話する時だけ触っていいぞ。変なことしたらそれこそお前置いて逃げるけど」
「あ、あき~!!」
しょぼんと垂れる犬耳が見えて、奥歯で笑いを噛み殺す。決して楽しいとは言えない異世界だけど、こいつと一緒ならもう少しだけ頑張れそうだ。
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