成り損ないの異世界譚

深海めだか

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二人の勇者?

一話

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「さすがレイ、日に日に剣さばきが上手くなっていくな」
「そんなことないよ。全部アキのおかげ」

 剣についた血を払い、レイリア──この世界の主役は振り返る。つい先ほどまで戦っていたとは思えないほど、藍鼠あいねず色の瞳は穏やかだ。

「いやいや、俺なんて後ろで応援してるだけだろ。最近は怪我だってほとんどしないしさ」
「だーかーらー、怪我が少ないのはアキのおかげなんだって。自分のスキル忘れたの?」
「いでででで」

 大きな猫目を瞬かせ、レイは俺の頬に手を伸ばす。そのままムニュリと引っ張られれば、痛みに生理的な涙が滲んだ。この馬鹿、力加減ってものを知らないのか。

「わひゃった、わひゃったから」

 ひとまず先に離してくれと、伸ばされたままの腕をバシバシ叩く。
 全くもってダメージには繋がっていないのだが、そこはもう演出だから仕方ない。……というか、俺に感謝しているというのなら、もう少し丁寧に扱え。

「今日はこの辺で切り上げるか?」
「そうだね。特に大きな魔力反応も見当たらないし、これでしばらくは大丈夫じゃないかな」
「よーし、労働終わり」

 レイが頷いたのを確認し、重たいリュックをおろして伸びをする。
 この摩訶不思議な世界──今風に言えば「異世界」に連れてこられてからというもの、俺ともう一人の被召喚者であるレイは日夜魔物を退治しながら回っている。
 もちろん善意のボランティアなどではなく、王様から半強制的に依頼されたクエストだ。

「ここから町までまた歩きか……、面倒だな」 
「別に俺は野宿でもいいよ。ひと通り魔物は倒したから危険はないだろうしね」
「まあ魔物が出てもレイがいるなら大丈夫だろ。なんてったって勇者サマなんだから」
「違うよ。アキと合わせて二人で勇者なんだって」
「ははっ……、レイは本当に優しいな」

 同じ時期にそれぞれ別世界から召喚された二人の勇者。もとい異世界からのスケットガチャ。
 普通は一人だけが呼ばれて無双するものだと思うのだけど、この世界では何かあった際の保険として、同時期に二人呼ぶのがセオリーらしい。
 つまりは優秀な方を勇者に、劣っている方を予備とサポートに回すってことだ。

 鑑定士によれば、レイのスキルは「剣聖」と「魔力操作」俺のスキルは「能力強化」と「魅了」らしい。

 わざわざ比較するまでもなくレイの方が戦闘向きだし、俺のスキル「魅了」にいたっては使い方すらわからない。
 デフォルトで好感度が上がる仕様なのかとも考えたけど、レイの圧倒的なカリスマ性に押し負けるのか、町や城では常におまけのような扱いだ。
 それでいて魔物を状態異常にできるわけでもないのだから、本当に無駄なスキルといえる。

「アキ~、もしかして具合悪い? それとも怪我した?」

 ふと思いを馳せていれば、目の前で藍鼠色の髪がさらりと揺れる。人懐っこい猫目は心配そうに瞬いていた。

「や、なんでもない。すぐご飯作るな」

 慌ててぎこちないながらも笑顔をつくり、リュックから必要なものを取り出していく。

 見てわかる通りレイは物凄くいいやつだ。いきなり知らない世界に呼ばれ、魔物退治だなんて物騒な役目を押しつけられ。もし一人だったら間違いなく心が折れていたと思う。

 戦闘向きではない俺がここまで生きてこられたのも、ホームシックに枕を濡らしながら頑張ってみようと思えたのも、全部こいつが隣にいてくれたからだ。
 もちろんムカつくこともあるにはあるが、もともと別世界の人間だし、そこは完璧にわかり合う方が無理だと割り切っている。

「…………レイはさ、もとの世界に帰ったら何したい?」
「えぇ? どうしたの、いきなり」

 無意識のうちに口から漏れ出ていた言葉。ホームシックにでもなったのかと、きゃらきゃら軽い声があがる。

「あー……、や、別に。この調子なら思ったよりも早く帰れそうだしさ」

 ぽちゃっ

 水を張った鍋に、干し肉を削って投げ入れる。広がっていく波紋に合わせて、不安げな顔が揺れていた。
 ──帰りたい。その気持ち自体はずっと変わっていないはずなのに、最近はふと思ってしまう。元の世界に帰ってしまえば、もう二度とレイとは顔を合わせることはないのだと。

「もしかして遠回しに急かされてる?」
「ちげーよ、馬鹿。なんとなく聞いただけだって」
「んー、でもアキってたまに回りくどい言い方するからさぁ」
「まぁ捻くれてた性格ってのは否定しないけどな」

 器に常備しているパンを入れ、出来立てのスープを並々注ぐ。歯が折れるほど硬いパンでも、スープに浸せばマシになる。これは旅の道中で経た、最高に使い勝手のいいライフハックだ。

「ほい、お待たせ」
「やったぁ。アキのご飯って美味しいんだよね」
「別にこんなの誰でも作れるだろ」
「もー、またそれ。なんでアキってそんなに自己肯定感が低いのかなぁ」

 何やら不満げなレイを横目に、熱々のスープを口に運ぶ。けれど、舌が火傷しそうなほどの熱さにやられ涙目になって器を置いた。これはもう少し、冷ましてから飲むことにしよう。

「もとの世界に帰ったら何がしたい……だったっけ」

 レイがふと、隣で静かに呟いた。

「今はまだ無理だけど、好きなものを思いっきり食べたいかな」
「なんだよ。結局俺の飯よりそっちの方がいいってことだろ」
「あ~アキが拗ねてる。珍しい」
「は? 別に拗ねてねぇし」

 聞いたのは自分だけれど、その答えにムカついて無意識に口を尖らせる。つい先ほどまで美味しいと言っていたのに、舌の根も乾かないうちになんて奴だ。

「よーしよし、アキのご飯が一番だからねぇ」
「ッああもうわかったから! 撫でるな! 抱きしめるな!」
 
 何故だか嬉しそうな顔で抱きついてくる男。もといレイリアを思いっきり押しのけながら、スープが冷めるまでの間、しばらく無駄な攻防を続けていた。
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