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二十五 呼び鈴
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画室高梨の呼び鈴は、今朝からずっと忙しい。かといって、扉を開け放しておくわけにもいかない。一番最近の被害者である、僕が中にいるからだ。
病み上がりなのだから休んでいろと言われたが、そうでなくとも、暴漢が来てしまったら役には立てないので、言われた通り大人しくしている。
英介さんが電話対応などで塞がっている時は、和美が対応してくれている。
また呼び鈴が鳴って、和美が玄関を開けた。
「よう、和美」
聞き慣れた声が聞こえる。
「兄貴――と八重さん」
無流さんと一緒に訪ねて来たのは、相棒の刑事ではなく、椎名八重だった。
「おはよ。坂上くんに猫の話、聞きに来た」
熱を出した日に見た猫の幻の話や、夢の話については既に電話でも話した。
小出の部屋で猫の毛と血液のついた手ぬぐいが見つかったらしく、一応警察でも、猫の事件との関連も調べてはいるらしい。
ただ、警察に夢の話だけで動いてもらうことはできない。
「お水どうぞ。良かったら、食卓へ」
電話が済んだ英介さんが二人に椅子をすすめたので、そのまま揃って食卓についた。
「無流さんですよね。高梨英介です。叔父からお話はうかがってます。あの人もああ見えて結構喧嘩は強いんですが――助かりました。私からもお礼を申し上げます」
「杖術は応用がききますから、有効ですよ。美術に関しては、俺もいい勉強になりました」
「ジョウジュツって何?柔術じゃなくて?」
八重さんがきくと、無流さんは出された水を飲みながら、手振りをした。
「杖で闘う武術だ。北原さんの杖は杖術のものよりは短いが、外国でも似た護身術はある――あれ、ここの水、うまいですね」
「ああ、さすが。和美くんともさっきその話をしました。もう一杯汲んできます」
この辺りは都心より緑が多い。この家は湧き水を引いているらしいが、水量が減っているので、最近建てた家とは水が違うらしい。
「うちの寺も湧き水だけど、この辺の湧き水もうまいよね。で?空き家はどうだった?」
和美がきくと、無流さんは渋い顔で首を振った。
「ひと通り調べたが、空振りだ。誰もいなかった。あんまり詳しいことは言えんが、傷害事件の証拠は何も無い。あったのは小出くんの絵と、被害者から取った型とは関係ない、布袋の作った石膏像だけだ。あの空き家で布袋が個人的に依頼して、絵を描かせていたようだ。布袋の住居に何日か滞在した痕跡があった。絵の具の乾き具合を見ても、少なくとも江角さんが見た金曜までは無事だったのは、ほぼ確実だな」
「江角先生が言ってた、パトロン説が有力ってことか」
江角先生は捜査車両の停車場所、アトリエ・エスの一番広い部屋を提供してくれたそうだ。
「相棒の瀬戸は、秘密の地下室があるんじゃないかって疑ってたが、残念だったな。他の物件の捜索次第だ。警部が何かしらつかんでくれるといいんだが――で、坂上くんが猫を見たって?」
「実際に見たわけではないんです。ただ、江角先生が窓から見たのと同じ頃の夢だったのと、一致することが多かったので気になって」
「俺の食べたいものが当てられるんだし、魂の色が見えるのとは別に、人の念みたいなものが見えてる可能性はあるよ。仕組みはよくわかんないけどさ」
僕が慌てて説明すると、和美がそう補足してくれる。
「あたしにとっては、お告げみたいな話でも価値あるし、刑事がいれば記者だけじゃ入れない所も入れるから、巻き込んでみたの。元々あたしたち、猫さらいの班だしね」
「もしできれば、眼帯を取って案内してもらうかな。そろそろ入っても大丈夫だろう」
英介さんを画室に残し、僕、和美、無流さんと八重さんの四人で、空き家に行くことになった。
病み上がりなのだから休んでいろと言われたが、そうでなくとも、暴漢が来てしまったら役には立てないので、言われた通り大人しくしている。
英介さんが電話対応などで塞がっている時は、和美が対応してくれている。
また呼び鈴が鳴って、和美が玄関を開けた。
「よう、和美」
聞き慣れた声が聞こえる。
「兄貴――と八重さん」
無流さんと一緒に訪ねて来たのは、相棒の刑事ではなく、椎名八重だった。
「おはよ。坂上くんに猫の話、聞きに来た」
熱を出した日に見た猫の幻の話や、夢の話については既に電話でも話した。
小出の部屋で猫の毛と血液のついた手ぬぐいが見つかったらしく、一応警察でも、猫の事件との関連も調べてはいるらしい。
ただ、警察に夢の話だけで動いてもらうことはできない。
「お水どうぞ。良かったら、食卓へ」
電話が済んだ英介さんが二人に椅子をすすめたので、そのまま揃って食卓についた。
「無流さんですよね。高梨英介です。叔父からお話はうかがってます。あの人もああ見えて結構喧嘩は強いんですが――助かりました。私からもお礼を申し上げます」
「杖術は応用がききますから、有効ですよ。美術に関しては、俺もいい勉強になりました」
「ジョウジュツって何?柔術じゃなくて?」
八重さんがきくと、無流さんは出された水を飲みながら、手振りをした。
「杖で闘う武術だ。北原さんの杖は杖術のものよりは短いが、外国でも似た護身術はある――あれ、ここの水、うまいですね」
「ああ、さすが。和美くんともさっきその話をしました。もう一杯汲んできます」
この辺りは都心より緑が多い。この家は湧き水を引いているらしいが、水量が減っているので、最近建てた家とは水が違うらしい。
「うちの寺も湧き水だけど、この辺の湧き水もうまいよね。で?空き家はどうだった?」
和美がきくと、無流さんは渋い顔で首を振った。
「ひと通り調べたが、空振りだ。誰もいなかった。あんまり詳しいことは言えんが、傷害事件の証拠は何も無い。あったのは小出くんの絵と、被害者から取った型とは関係ない、布袋の作った石膏像だけだ。あの空き家で布袋が個人的に依頼して、絵を描かせていたようだ。布袋の住居に何日か滞在した痕跡があった。絵の具の乾き具合を見ても、少なくとも江角さんが見た金曜までは無事だったのは、ほぼ確実だな」
「江角先生が言ってた、パトロン説が有力ってことか」
江角先生は捜査車両の停車場所、アトリエ・エスの一番広い部屋を提供してくれたそうだ。
「相棒の瀬戸は、秘密の地下室があるんじゃないかって疑ってたが、残念だったな。他の物件の捜索次第だ。警部が何かしらつかんでくれるといいんだが――で、坂上くんが猫を見たって?」
「実際に見たわけではないんです。ただ、江角先生が窓から見たのと同じ頃の夢だったのと、一致することが多かったので気になって」
「俺の食べたいものが当てられるんだし、魂の色が見えるのとは別に、人の念みたいなものが見えてる可能性はあるよ。仕組みはよくわかんないけどさ」
僕が慌てて説明すると、和美がそう補足してくれる。
「あたしにとっては、お告げみたいな話でも価値あるし、刑事がいれば記者だけじゃ入れない所も入れるから、巻き込んでみたの。元々あたしたち、猫さらいの班だしね」
「もしできれば、眼帯を取って案内してもらうかな。そろそろ入っても大丈夫だろう」
英介さんを画室に残し、僕、和美、無流さんと八重さんの四人で、空き家に行くことになった。
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