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15.本懐の幕開け

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雲の上にそびえ立つ立派な宮殿は、まるで天空の世界に浮かぶ要塞のように荘厳だった。その宮殿の前には、朱塗りの巨大な鳥居が鎮座しており、空に向かってそびえ立っている。鳥居の向こうには美しい庭園が広がり、緑の木々と色とりどりの花々が静かに揺れていた。霧のような雲が宮殿の基部を優しく包み込み、神秘的な雰囲気を醸し出している。遠くからは、微かに和楽器の音色が風に乗って響き、まるでこの神聖な場所が祝福を受けているかのようだった。

古美華と祝詞の二人はかなり迷子になりながら、ようやくその場所に到着した。雲の上にそびえ立つ立派な宮殿を前にして、祝詞は深いため息をついた。

「やっと着いた…。」

「大変だったわ…。」

古美華も肩をすくめながら言った。彼女の髪は少し乱れていて、服にも道中の苦労が表れていた。

「し、仕方ないじゃない。出雲は雲の動きにあわせて移動してる場所なんだから!」
古美華は不機嫌そうに言い訳をした。

「お二人さん、迷ってきはったん?」と聞き慣れた声が、後ろからかけられた。振り返ると、神化した鈴流が立っていた。

鈴流は灰色の髪を持ち、横上に向かって玉のようなものが揺れている。薄緑の着物を纏った彼は、その雰囲気に合う爽やかな微笑みを浮かべていた。その後ろには、祝詞と同じく黒衣を纏った男がいた。おそらく、クラスメイトの春だ。

「…別に。」
古美華はクールに返事をした。

鈴流は微笑みを崩さず、「今は雨雲レーダーいうのが見れるやろ?」と指摘した。

その瞬間、祝詞と古美華は雷を浴びたかのような衝撃を受けた。どうしてその発想がなかったのか、二人は互いに顔を見合わせ、頬を染めて苦笑した。

――そ、そういうのもあったのか…。

「ま、次からは活用するとええで。」鈴流は軽く肩をすくめながら言った。

「さすが、風の神ね…。考えが柔軟で驚いたわ。」
古美華は悔しさを押し隠しつつも、どこか納得した様子で答えた。

二人は少しボロッとした姿のまま、その場に立ち尽くしながら、これから始まる神々の宴に備えて気持ちを整えていった。


鳥居をくぐり、祝詞と古美華は宴会会場へと移動した。木々の間を抜け、重厚な扉を開けて座敷に足を踏み入れると、既に八柱の神々が席についていた。広い座敷には神々の威圧感が漂い、その隣にはそれぞれ黒衣をまとったプレイヤーたちが控えていた。金髪の女神の両隣には二人のプレイヤーが控えており、少し不思議に思いながらも、祝詞は古美華の隣に着席した。

「ほぅ?氷の神は今代は女か。」と、ツンツン頭の金髪の男神が興味深そうに古美華をじろりと見た。

古美華は一瞥を返し、「私たちに性別は関係ないだろう?雷の神。」と冷ややかに応じた。

その言葉に続いて、茶髪で眼鏡をかけた神が眼鏡を直しながら、「いや、数百年前の本懐では、ちょうど女の神が本懐を遂げていたからな。ざわつくのも無理ない。」と静かに話した。

「たまたまでしょ。うちが本懐を遂げたのは平安時代の1度きりよ。」

「それ以降、毎年男だっただろう、貴様は。」と赤い髪をした男神が不満げに言った。

祝詞は目の前の神々のやり取りに困惑していた。誰が何の神なのか、まださっぱりわからなかったが、その中で彼は不思議な緊張感と期待を感じていた。まるで自分が異世界に紛れ込んだような気分だ。

すると、上座の簾が上がり、黒い長い髪を持ち、赤い目をした黒い着物の男性が姿を現した。彼の存在感は圧倒的で、祝詞はその姿に息を飲んだ。男性は高座椅子に座り、頬杖をついていた。その目には古くからの知恵と権威が宿っているようだった。

「皆、よく集まってくれた。」

彼の声は酷く低く、まるで地の底から響いてくるような響きがあり、背筋が凍りつくような異質感があった。

九神たちは一斉に頭を下げた。祝詞も周囲の動きに合わせて頭を下げたが、その心は緊張と好奇心で満ちていた。

「楽にしてよい。今宵も、本懐の始まりを祝う宴としよう。」

男性の言葉にはどこか不思議な魔力があり、場の空気を一瞬にして支配した。

「さあ、存分に楽しんでくれ」と男性は続け、指を軽く鳴らした。

その瞬間、宴会のスタートを告げるように、会場の中央に豪華な料理が次々と運ばれてきた。緊張感が解けたように、九神たちは再びそれぞれの席で落ち着いた様子を見せ始めた。

祝詞は隣にいる古美華と目を合わせ、微笑みながら深呼吸をした。彼の心臓は未だに高鳴っていたが、その一瞬の交わした視線が彼に少しの安堵を与えてくれた。

古美華は祝詞にそっと耳打ちした。「祝詞君、上座にいるのが魔の神。本懐の主よ。」

祝詞は上座に座る魔の神を見つめた。彼の存在感は圧倒的で、凄まじいオーラと不気味さを放っている。目を合わせるだけで体が強張りそうな感覚に襲われ、祝詞は改めてその力の強大さを実感した。

「それで、赤い髪の神は火の神、青い髪は水の神、灰色は風の神、茶色は地の神、緑は草木の神よ」と古美華は続けた。

祝詞はその言葉を聞きながら、各神の特徴を確認した。それぞれが異なる雰囲気を持っており、見た目からも彼らの持つ力が伺えた。

「ツンツンの金髪は雷の神、もう一人の金髪の神は光よ。そして、紫がかった黒髪の神は闇の神」と古美華は指差しながら一人ずつ紹介した。

祝詞は各神を一つずつ確認していった。雷の神は特に目を引く存在で、彼の金髪はまるで稲妻のように鋭く尖っている。光の神は優雅であり、彼の表情には柔らかさと力強さが同居していた。最後に、闇の神の紫がかった黒髪が闇夜のように美しく、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。

祝詞はふと、光の神の隣に二人の黒衣の従者が控えていることに気づき、不思議に思った。「どうして光の神は、二人従えてるんだ?」

古美華は静かに説明した。「一卵性双生児は二人で一人とされているの。恐らく双子なのよ。」

祝詞は双子の存在が本懐にどんな影響を与えるのか興味を持った。「双子有利過ぎないか?」と率直な疑問を口にした。

「そうね。でも、戦える双子なんて滅多にいないわ。」古美華はそう言って微笑み、祝詞の肩に手を置いた。「二人の連携は強力だけど、それが必ずしも有利になるとは限らないわよ。お互いに依存しすぎて、逆に弱点になることもあるから。」

祝詞はその言葉を聞いて、納得したように頷いた。双子だからといって万能ではない。どんな力にも長所と短所があるのだ。

その時、魔の神が口を開いた。

「さて、初戦が見たい…。」

場の空気が一瞬にして凍りついた。神々もプレイヤーたちもその視線を魔の神に向け、緊張が漂う。祝詞は喉が詰まりそうな感覚を覚え、周囲の動きを注意深く見守った。

「それでしたら、うちの子と氷の子で戦わせませんか?」と鈴流が小さく手を上げて提案した。彼の言葉にはどこか挑戦的な響きがあり、会場の注目を集めた。

「ほぅ?最下位争いの二人か。いいだろう。初戦にしては面白い組み合わせだな。」

魔の神は興味深そうに頷いた。
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