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13.裏切りと愛の力

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学校の昼休み、祝詞と春はベンチに座って弁当を広げていた。祝詞の弁当は氷床ノ宮家が用意してくれた山菜弁当で、色とりどりの野菜が詰められている。一方、春はコンビニで買った惣菜パンを手にしていた。春は気軽にパンをかじりながら、「また山菜かよ、大変だな」と冗談混じりに言った。祝詞は微笑みながらも、「まあ、慣れれば美味しいよ」と答えた。

「なぁ、祝詞、手相占いって信じてるか?」

「は?…まぁ、別にそこまで信じてないけど、当たってそうな時はあるよな。」

「俺さ、足占いできんだよな。」

「足?そんな話聞いたことない。流石にネタ過ぎるだろ。」

「いいから見せてみ?」

祝詞はまぁ、足くらいならと靴と靴下を脱いで右足を見せた。

「両方だよ!」

「両方!?」

祝詞は驚きながらも、仕方なく両足を出した。

すると、春はまじまじと祝詞の両足を観察してから、突然こちょばした。

「冗談だよ。ばーか。」

祝詞はびっくりして飛び上がり、「おい、やめろよ!」と笑いながら抗議した。

「だって、マジで信じてたのかよ。足占いなんてあるわけないだろ。」春は大笑いしながら言った。

祝詞もつられて笑い出し、「本当にお前ってやつは…」と靴下を履き直した。

二人はその後も笑い合いながら、穏やかな昼休みの時間を過ごした。

祝詞と春はまるで幼馴染のようにあっという間に仲良くなり、常に二人でいるようになった。教室でも休み時間でも、二人の姿はいつも一緒だった。昼休みには並んで弁当を食べ、放課後には一緒に帰ることが日常となった。互いの冗談を交わし合い、時には真剣な話もする。そんな日々の中で、祝詞は少しずつ心の重荷を軽くしていった。春の無邪気さと明るさが、祝詞にとって大きな支えとなっていた。


夜、痛み慣れの練習を終えた祝詞。疲労が全身に広がる中、理人先生が声をかけてきた。

「祝詞君。ちょっといいかい?」

「はい。」

「今の君は当時の私より強いと言える。参考までに、どうしてそこまで強くなれるのか聞いてもいいかな?」

祝詞は一瞬考え込み、「俺は…」と答えを探しながら、目の前に浮かぶ神楽の姿と、笑顔の古美華の顔を思い浮かべた。

あっという間に日々が過ぎ去って、もうすぐ冬休みがくる。転校生が来て以来、古美華とは話せていないままだった。代わりに理人先生に相談にのってもらっていた。前の時も風の神は接近してきたと理人先生は言っていた。警戒が必要だった。古美華が祝詞を避けているのも、それが理由ではないかと理人先生は言った。――俺も気を付けとかないとな。

春が声をかけてきた。

「祝詞!次、移動教室だぞ。」

「あぁ、うん。トイレ行ってから行くわ。」

「え?なら俺も。」

「女子かよ。」

祝詞は笑いながら答えた。二人は笑い合いながらトイレへ向かった。

用を足していると、春が何故かじっと祝詞を覗いてきた。

「おい!みんなよ!」

春はじーっと見つめ続け、「おい!って!」祝詞は困惑しながらも、何か意図があるのかと思い始めた。その視線に少し戸惑いながらも、春の行動にはどこか悪戯心が感じられた。

「何なんだよ、春。変なことするなよ。」

春はニヤリと笑って、「ただの冗談だって。まったく、祝詞の反応が面白いんだよな。」と笑いながら言った。

祝詞は呆れつつも、春の無邪気な悪戯に少しほっとした。彼の友達としての存在が、どこか安心感を与えてくれているのだと感じた。

「ほんとにもう、勘弁してくれよ。」祝詞は苦笑いを浮かべながら言った。

二人はトイレを出て、次の授業に向かうために歩き出した。廊下を歩きながら、祝詞は何気なく春と他愛のない会話を続けていた。

階段の手前に差し掛かったとき、突然の出来事が起こった。祝詞が階段を降りようと一歩を踏み出した瞬間、春が背後から強い力で彼を突き落とした。

「何っ…!?」

祝詞は驚きと混乱の中で、体が無防備に階段を転がり落ちた。痛みとともに、彼の脳裏に浮かんだのは春の笑顔と、突然の裏切りだった。階段の角に打ち付けられながら、祝詞は必死に体勢を整えようとしたが、勢いに逆らうことはできなかった。

階段の下に辿り着いた祝詞は、息を切らしながら起き上がろうとしたが、体が動かなかった。痛みが全身を襲い、頭の中で春の行動を理解しようとするが、混乱が増すばかりだった。

「春…、なんで…?」

上から降りてきた春の姿を見上げると、彼の表情には先ほどまでの無邪気さは消え、冷たい視線が祝詞を貫いた。

「ごめんな、祝詞。でも、これも俺の役目なんだ。」

その言葉に祝詞はさらに混乱した。春の行動の意味を理解する前に、彼は再び意識を失いかけた。視界がぼやける中、春の冷酷な表情が最後に目に映った。

祝詞はその場で力尽き、痛みと裏切りの中で意識を失った。

――7今思い返せば、春はずっと俺の体を探っているかのようだった気がする。氷床ノ宮の家紋を探していたのか…。せっかく、友達になれたと思ったのに。友達だったのに。

祝詞は物理的な痛みよりも心の痛みのほうが強かった。

目を閉じながら、その思いに浸っていたとき、ひんやりと冷たい手が自分の手を握ってくれている感覚がした。その感覚に反応して、祝詞はゆっくりと目を開けた。

古美華が泣いていた。神様も泣くのかと思った祝詞。

「古美華…?」

「祝詞君!!祝詞君!!」

古美華は涙を流しながら祝詞を抱きしめ、声を上げて大泣きしていた。

祝詞は体を動かすと痛みが走ったが、左手は無事なようで、古美華を抱きしめて優しく背中をポンポンと叩いた。

「古美華。泣くなよ…。」

古美華の涙が祝詞の肩に滴り落ちる。その冷たさと同時に、彼女の温かい感情が伝わってきた。祝詞はその感覚に、心が少しずつ癒されていくのを感じた。

「ごめんね、祝詞君、私が嫉妬して、祝詞君から離れたせいで…。」

「そんなこと…え?嫉妬?」

「妹さんのことで強くなっていく祝詞君を見て、妹さんに嫉妬しちゃったの…。でも、そのせいで祝詞君…。」古美華はまた大泣きしながら言葉を続けた。

祝詞は彼女の言葉に驚きと戸惑いを感じつつも、彼女の涙に心を打たれた。彼は古美華をしっかりと抱きしめ、彼女の背中を優しくポンポンと叩いた。

――どういう状況だ?なんでそれで古美華が嫉妬するんだ?

「ん?…古美華、俺のこと好きなの?」

すると、古美華は突然顔を真っ赤にして「好きよ!馬鹿!」と盛大なビンタを食らわせた。

祝詞は頬を押さえながら「えー…。」と呟いた。何でビンタされたのかわからず、彼の頭の中は混乱していた。

――神様に好かれた?俺…。

祝詞はそのままの姿勢で呆然としながら、古美華の強烈な感情を感じ取った。彼女の瞳には涙が光っていたが、その中には確かな愛情が宿っていた。

――恋の力って凄いな。俺、友達に裏切られたばっかりなのに、どうでもよくなってきた。

祝詞は左腕で古美華をしっかりと抱きしめた。

「俺さ、強くなったんだよ。」

「知ってるわよ。」

「なんでだと思う?」

「神楽ちゃんの為でしょ。」

「うん、それもある。でも、古美華の笑った顔も見たかったんだ。」

古美華の目には再び涙が浮かんだが、今度はそれは喜びの涙だった。
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