囚われの公爵と自由を求める花~マザコン公爵は改心して妻を溺愛する~

無月公主

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38.新聞記事が引き起こす波乱

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数日後の早朝、サクレティアはいつものように執務室に座り、新聞を手に取ってページをめくっていた。だが、あるページに目を落とすと、彼女の手が止まり、そのまま固まってしまった。



「な、なによこれ……!」サクレティアは驚きのあまり、新聞を震える手で持ち上げた。



新聞の見出しには、曖昧な表現で「ある高貴な家の子息が、母親の強制によって屈辱的な行為をさせられていた」という内容が書かれていた。さらに、そこには白黒写真が掲載されており、目元は隠されているが、あまりにもクレノースに似た人物が映っていた。



「嘘でしょ……まさか……クレノ!?」サクレティアは青ざめながら、新聞から目を離せなかった。



その様子を目にしたクレノースが、不安げに彼女に近づいた。「サクレティア様……どうなさいましたか?」彼の声は優しいが、すでに何かを感じ取っていたようだった。



サクレティアは震える声で言葉を紡ぎ出した。「クレノ……この新聞に……あなたの過去に関する記事が載ってるの……。名前は伏せられているけど、写真が……」



クレノースはその言葉を聞いた瞬間、彼の顔色が急激に青ざめ、目の奥に怯えと過去の痛みが浮かび上がった。震える手で新聞を手に取り、記事を読み進めるにつれ、彼の体がわずかに震え始めた。



「まさか……これが……世間に……」クレノースは、声がかすれ、過去の屈辱的な出来事が鮮明に蘇るのを感じた。彼の目には、恐怖と苦しみが広がっていく。彼の母、マリアベルの狂気によって支配された過去、そしてその中で行われた忌まわしい行為――すべてが彼を再び締め付けた。



「クレノ、大丈夫?何があったの?教えて……」サクレティアは、彼を落ち着かせようと手を差し伸べたが、クレノースはその場で立ち尽くし、震え続けた。



「僕は……ただ母上の言う通りにするしかなかった……あの時は、僕にはどうすることも……」クレノースの声が掠れ、彼の瞳には涙が滲んでいた。



サクレティアは、彼が抱えてきた重い苦しみを感じ取り、そっと彼の手を握りしめた。「クレノ、大丈夫よ。今はもう過去の君じゃないし、私がそばにいるから。一緒に乗り越えていこう。」





クレノースは目を見開き、パニックに陥りながら、震える声で叫んだ。「り、離婚だけは嫌です!どうか、それだけは……!」



サクレティアは一瞬呆れつつも、彼の必死な様子にため息をつきながら、優しく彼を見つめた。「誰も離婚なんて言ってないわよ、クレノ。落ち着いて、まずは冷静に考えましょう。」



クレノースは突然、子供のようにサクレティアに抱きつき、号泣し始めた。いつもの敬語ではなく、素の彼が溢れ出す。



「サクレティア…僕はダメだ…本当にダメなやつなんだ……離れないで…! 監禁とか…そ、そうだ、もし君が離れるなら……うう、何をしてでも……でも、いや、そんなことしたくないんだ……ただ、君が側にいてくれるだけでいいんだ!でも…でも、僕は君にふさわしくないんだ…でも愛してる!本当に愛してるんだ……君が僕を見捨てたら、生きていけない……!」



彼のネガティブさと不安、そして愛がごちゃごちゃになってしまい、言葉にならない感情が溢れ出していた。サクレティアは呆れつつも、彼の必死な様子に思わず苦笑しながら、頭を優しく撫でた。



「ちょっと、クレノ…泣きすぎだってば。大丈夫よ、離れるなんて言ってないでしょ。だから落ち着いて…ね?」



彼女は彼を抱きしめ返し、少しずつクレノースの震えを感じながらも、心の中で《本当に面倒な旦那ね…》と思いながらも、愛おしさを感じていた。





クレノースはソファーに座り、完全にまともではなくなったかのように、サクレティアを抱きしめたままブツブツと呟き続けていた。「僕はダメだ…サクレティア様はこんな僕を捨てるべきなんだ……でも捨てないで…絶対に離れないで……」と、彼の声は途切れ途切れで、まとまりがなかった。



サクレティアは、片手でよしよしとクレノースの頭を撫でながら、まるで子供をあやすように優しく接していた。その一方で、彼女の頭の中では別のことを考えていた。



目の前に座る執事のバルドに、サクレティアは真剣な目を向けた。「このままだとまずいわ。クレノースがこれ以上混乱しないように何か対策を考えなきゃ。まずは、あの新聞記事の情報源を探る必要があるわね。それに、過去のことを完全に覆い隠すのは無理かもしれないけど、どうにかして世間の目を逸らせる方法を考えないと。」



バルドも神妙な顔つきで頷き、「おっしゃる通りです、奥様。私も手を尽くして調査を進めます。それに、クレノース様の心のケアも同時に考えないといけませんね。彼は今、とても不安定な状態ですから……」



サクレティアはクレノースの背中を優しく撫でながら、深いため息をついた。彼の体は小さく震えており、普段の威厳ある姿からは想像もつかないほど、弱々しい姿をしていた。彼の精神的な不安定さが伝わってきて、彼女の心も重くなる。



《ほんとに、大変な旦那様を持ったわね……でも、私がしっかりしなくちゃ》



そんな彼女の気持ちなど知らないクレノースは、彼女の胸に顔を埋めながら、突然弱々しい声で呟いた。「ねぇ……バルドと浮気するの?」その声には、嫉妬と不安が入り混じっていた。



その言葉にサクレティアは、心の中で《だめだこりゃ……》と呆れつつも、彼の動揺が極度のストレスからきていることを理解していたため、静かに対応することにした。

「浮気なんてするわけないでしょ、クレノ。そんなこと言わないで。」彼女は笑顔を浮かべ、彼の頭を優しく撫でた。クレノースは、依然として不安げな目を彼女に向けたままだ。



「でも……僕がダメな時に、君はもっと頼りになる人を探すかもしれない……」彼の声は震えていて、完全に不安に支配されている様子だった。



「そんなこと、絶対にしないわ。私はあなたを支えるためにここにいるのよ。」

彼女はそう言いながら、もう一度彼を撫でたが、クレノースはその言葉でも完全には安心できないようだった。いつもの自信に満ちた姿はどこにもなく、彼はただ、傷つきやすい心を彼女に訴えかけるばかりだった。



サクレティアは《今日はもう無理ね》と思い、クレノースを一度休ませることが必要だと感じた。彼を立たせ、自室に連れて行こうとするが、クレノースはまるで小さな子供のようにしがみついて離れない。



「ねぇ……本当に大丈夫?サク、僕を見捨てたりしないよね?離婚とかしないよね……?」クレノースは、抱きついたまま不安そうに彼女を見上げている。



「しないしない。そんなことしないから。」サクレティアは優しく彼を宥めると、少しずつ彼をベッドに誘導して座らせた。「とりあえず、今日はゆっくりしよう。疲れたでしょ?ほら、ベッドに横になって。」彼女は、彼をベッドに寝かせるために声をかけた。



クレノースは一瞬躊躇したが、サクレティアが優しくトントンと背中を叩くと、彼はようやくベッドに身体を横たえた。彼女は、彼が完全にリラックスできるように、優しく声をかけ続けた。



「何があっても、私はここにいるから。安心して眠っていいのよ、クレノ。」その言葉に、彼は少しだけ安心したような表情を見せたが、彼の瞳にはまだ不安が残っていた。サクレティアは、その瞳を見つめながら、彼が安心できるように時間をかけてトントンと背中を叩き続けた。



「ありがとう、サクレティア様……」クレノースは、かすれた声で彼女に感謝の言葉を呟いた。



サクレティアは彼の姿を見ながら、《ほんとに、どうしてこんなに弱ってしまったのかしら……》と心の中で呟いた。彼がここまで精神的に追い詰められてしまったのは、彼の過去の苦しみが原因だろう。彼は、自分を責め続けてきたのだ。母親との異常な関係、そしてその結果としての自分の行動。それが彼の心を蝕み、今でも苦しめているのだと、彼女は強く感じていた。



しかし、彼女には分かっていた。彼が少しずつでも心の重荷を解き放つためには、時間がかかるということを。だからこそ、今は彼を焦らせず、彼のペースに合わせてゆっくりと支えていくしかない。彼女はそう決意し、そっと彼の髪を撫でた。



クレノースが眠りに落ちるまで、サクレティアは優しく彼を撫で続けた。彼の息が穏やかになり、深い眠りについたのを確認すると、彼女はようやく自分もベッドに座り込み、深いため息をついた。《ふぅ……やっと、少しは落ち着いたかしら》と彼女は胸を撫で下ろしたが、同時に《この先、どうやって彼を元に戻してあげればいいのかしら……》と、ふと考え込んだ。



彼女自身も、これからの道のりが険しいことは理解していたが、クレノースが少しずつでも立ち直れるように、彼女は精一杯の努力をするつもりだった。
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