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第十六話【傷ついた騎士を追え】
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ペルシカは夢を見た。
荒廃した戦場の中、セリナは優しく戦火に焼かれた騎士の傷を癒していく。彼女の手は慈愛に満ち、傷ついた騎士の心にも平穏をもたらすかのように感じられた。その騎士、ドグマーチル・ジェルマンディー公爵は、傷ついた身体と共に、心にも深い傷を抱えていた。しかし、セリナの存在が彼の心を安らかにし、希望を与えているように思えた。
夢の中のシーンは、何気なくも美しいものだった。しかし、その意味はペルシカにとって重大であった。なぜなら、その騎士の名前がドグマーチル・ジェルマンディー公爵であったからだ。
つまり、ファディールの父親だ。
ペルシカは深い眠りから突然引き戻された。いつもならば、ヤードのノックにも気付かずに眠り続けるが、今日は異なった。不吉な夢が彼女の眠りを妨げ、目を覚ますことになった。
ヤードの驚いた顔が、部屋の入り口に現れた。彼は礼儀正しく、「入ってもよろしいでしょうか。」と尋ねた。
ペルシカは夢の余韻がまだ心を揺さぶっている中、少し戸惑いながらも、頷いて部屋への入室を許可した。ヤードは驚いたような表情で部屋に入り、静かにドアを閉めた。
ペルシカは静かにベッドから身を起こし、足元のカーペットを踏みしめながら鏡台の前に歩み寄った。その鏡台は部屋の一角を飾るように置かれ、美しい装飾で彩られていた。
椅子に座りながら、彼女は鏡の前で自分の姿をじっと見つめた。鏡の中のペルシカは、眠りの余韻がまだ残る彼女の顔を映し出していた。
「お嬢様、今日はどうされたのです?」
ヤードは静かにクローゼットに向かい、そこからペルシカの制服を取り出した。その制服はきちんと畳まれ、ひときわ鮮やかな色彩を放っていた。ヤードの手は慎重に制服を扱い、決して乱さずに持ち上げた。
「別に。ヤード、この国は戦争中なの?」
「いいえ?あぁ。ですが、ダークジュエル王国という世間では闇の国と呼ばれている王国がございまして、ドラゴンを使役し、やたらと我が国にちょっかいをかけてきていますね。」
ペルシカはヤードから受け取った制服を手に取り、しっかりと身にまとう。制服を着替え終えた彼女は、再び椅子に座ると、ヤードが優しく手に取った櫛の音が聞こえた。ペルシカは鏡の前に座り、静かに目を閉じた。
ヤードの手は慎重でありながらも優しく、彼女のキラキラと輝く髪を解かしていく。
「ドグマーチル・ジェルマンディー公爵は今どこに配置されてるかわかる?」
「ドグマーチル様でございますか?彼は極秘の特別任務中でございます。」
「極秘の特別任務?ヤード、内容を教えて。」
「お嬢様、極秘で特別でございますよ?王族のみが知る事ができる任務という事です。」
「えぇ、それでも、ヤードなら分かるのではなくて?」
「買い被りすぎでございます。私奴はただの執事でございますから。」
「そう。」
ペルシカは心の中で深くため息をつきながら、ヤードが何も語ろうとしないことに確信を抱いた。彼女はもう一度質問を繰り返すことをあきらめ、自らの計画を練り始めた。
頭の中で、彼女は再び脱出するための計画を練り始めた。この場所での情報収集は期待薄と悟った彼女は、王族に直接聞くことが唯一の道と確信した。そのためには、クインシールの元へ行かねばならない。
ペルシカは椅子から立ち上がり、鏡台の前で深く深呼吸をした。彼女は決意を固め、冷静にならなければならないと自分に言い聞かせた。そして、自分の目的を果たすために、今日こそは行動を起こす覚悟を決めた。
ヤードが彼女の隣に立ち、不安げな視線を送ってきたが、ペルシカはその視線を無視し、自分の心に従うことを決意した。
ペルシカはヤードにむすーっとした態度で振り向きもせず、適当な言葉で彼をあしらった。そのまま彼女は学校へと向かい、すぐにファディールを見つけることを決意した。
ファディールを見つけた彼女は、周囲に気付かれないように静かに彼の手を取り、屋上を目指した。静かな足音で階段を上り、誰にも気付かれないように慎重に行動する。
屋上に到着すると、ペルシカは周囲を警戒しながら、ファディールに対して囁くように話しかけた。「ファディール、ここで話さなければならないことがある。誰にも見つからないように注意してくれる?」
ファディールは彼女の緊張感に気付き、静かに頷いた。彼も同じくらいの緊張感を抱えながら、ペルシカの言葉を待った。
「ファディール。私の事好き?」
ファディールはペルシカの予想外の要求に驚き、青ざめた顔で彼女を見つめた。
「へっ!?ま、まさか、俺に惚れたのか?」
彼は驚きと戸惑いを込めて声を上げ、顔を赤らめるのではなく、逆に青ざめてしまった。
「違うわよ。そうじゃなくて、友達としてよ。」
ペルシカは彼の言葉に驚きつつも、彼の誤解に呆れるような笑顔を浮かべた。「
「え?友達として?コホンッ。失礼致しました。もちろん好きですよ。」
ファディールはペルシカの要求に驚き、顔を青ざめさせたが、すぐに自信に満ちた笑顔を浮かべた。
その自信に満ちた笑顔は、彼の顔立ちをより一層際立たせ、まるで彼が周囲の女性たちを魅了するような魅力を放っていた。
「ファディール、今から学校を抜け出して王城へ一緒に向かってくれない?」
「は?本気か?」
「えぇ。本気よ。お願いよ。ヤードに見つからないように、どうしても王城へ行かないといけないの。」
「それは難題だな。あの方に見つからないように…か。まぁ、俺に課せられた任務はペルシカの手足となる事だからな。良いだろう。」
「ごめんなさいね。巻き込んでしまって。」
「かまわない。」
ペルシカとファディールは一階へと移動し、外に出る準備を整えた。ファディールはどこからか黒いフード付きのマントを取り出し、ペルシカの肩に優しく被せた。そのマントは彼女の姿を覆い隠し、彼女を身元不明の旅人に変えることができた。
そして、彼は、静かにピューッと指を加えて笛を吹いた。
その笛の音が響くと、遠くから音のする方向に向かって、黒い影が迅速に近づいてきた。そして、その影が近づくにつれて、美しい馬の姿が明らかになった。それはファディールの愛馬であり、忠実な相棒であるフィッヌだった。
フィッヌはペルシカの呼び声に応え、華麗に走り出し、目の前でピタリと止まった。
「失礼する。」と言いながら、ファディールはペルシカを優しく抱き上げ、彼女を馬の背に乗せた。そして、華麗なジャンプでフィッヌの背に身を乗り出したファディールは、見事なバランス感覚で馬に乗り移った。
「凄いわね。」と、驚きの表情を浮かべて目を点にしたペルシカが、ファディールの器用な乗りこなしに感嘆の声を漏らす。
ファディールは自信に満ちた笑顔を浮かべ、手綱を引くと同時に「はっ!」と声を上げた。その一声と共に、フィッヌは勢いよく駆け出し、颯爽とした姿勢で道を切り拓いていく。
フィッヌがファディールの手綱を引かれると、瞬時に速度を増していく。風が髪を乱し、耳に耳鳴りが走り、彼女は何とか視界を保とうとしたが、フィッヌの驚異的なスピードによって、一瞬だけ白目を向いてしまいそうになった。
(私の時はこんなスピードでなかったのに…。本当に女である事がもったいないわね。こんなにもカッコイイのに。)
風を切りながら、フィッヌは驚異的なスピードで道を駆け抜け、あっという間に王城の門前に到着した。
ファディールとペルシカは、王城の壮大な門の前で停止し、馬を静かに立ち止まらせた。
「随分と早く着くのね。」
「俺のフィッヌは世界一速いといっても過言ではない。」
「門番さん、通っても宜しいかしら。」ペルシカは礼儀正しく、自信を持って門番に声をかけた。
門番は彼女の姿を見て微笑み、手を振りながら応えた。「どうぞ!」
ペルシカは門番の許可を得て、王城の門をくぐる。
門番の親切な言葉と手振りに感謝しながら、ペルシカはファディールとともに王城内へと歩を進めた。
「凄い・・・流石ペルシカだ。やはり婚約者ともなれば顔パスなのだな。」
「そんなわけないでしょ。ワタクシの婚約者様が異常者なせいよ。」
「は?」
ファディールの頭の中は、ハテナでいっぱいだった。彼は完全には理解していなかったが、それでも彼女を支え、彼女と共に王城へと足を踏み入れた。
「あ…、え…。これは?」
ファディールは王城に入るなり、驚きの声を漏らした。彼の目に映る光景は予想外のものだった。王城内には、様々な場所にペルシカの肖像画が増えていた。彼は驚きと困惑の表情を浮かべながら、周囲を見回した。
ペルシカの肖像画は通常のものだけでなく、海辺を歩くペルシカや海に浸かるペルシカなど、さまざまな場面を描いた絵画が追加されていた。彼女と一緒に海へ行ったのはヤードなはずだが、なぜか海へ行った時の肖像画が増えている光景にペルシカの心は混乱した。
「これを現王は許したっていうのかしら。」
「と、とても愛されていらっしゃるのですね。」
「ファディール、口調が変よ。とにかくクインシール様を探さないと。」
ペルシカが周囲をキョロキョロと見回していると、突然肩にポンと手がのせられ、振り返るとそこにはクインシールが立っていた。彼の存在に驚いたペルシカは、一瞬息をのんでしまった。
クインシールの目は彼女を優しく見つめ、微笑みを浮かべた。彼の姿は王城の中で一際輝いて見え、彼女の心には安らぎが広がった。
「俺が何か?」
「丁度良いところに!あ、いえ。丁度お会いしたいと思っておりましたの。」
「今、ちょっと素がでてなかった?まぁいいや。門番から連絡を受けて急いで駆け付けたんだ。」
「あら、そうでしたの。クインシール様に聞きたい事がございまして。」
「ん?なに?」
「ドグマーチル・ジェルマンディー公爵の任務内容を聞きたいの。」
「聞いてどうするの?」
「大怪我をなさるかもしれないの。」
「何だって!?」
クインシールとファディールは、ペルシカの言葉に驚きを隠せなかった。彼らの表情は同時に疑問と興味に満ちており、彼らは一瞬互いを見つめ合った。
「ワタクシしか治せなさそうですので、早めにどこへ行かれたか知りたいの。クインシール様なら、ワタクシの実力、ご理解頂けてるでしょう?」
「ドグマーチルは、ダークジュエル王国へ偵察に行ってるんだ。だから、国を出るとなると危険だ。俺が兄上に怒られてしまう。」
「確かに、俺も怒られてしまいますね。」
「いいわ。今からワタクシ一人で行って参ります。」
ペルシカが言った途端、突然背後から布があてられたような感覚が彼女を襲った。彼女は驚いて振り返り、何が起こったのかを理解しようとしたが、その瞬間、急激な睡魔が彼女を襲い始めた。
彼女のまぶたは重くなり、眠気が彼女の意識を覆い始めた。彼女はなんとか目を覚まそうと努力したが、睡魔の力は強く、彼女を押し潰すかのように襲ってきた。
「いけませんねぇ…。そのようにお育てした覚えはございませんのに。」
ヤードの声が聞こえた気がしたが、ペルシカは最後の力を振り絞り、立ち上がろうとした。しかし、その試みは体が重くてうまくいかなかった。
「ヤード...」彼女はかすかに呟いたが、その声は微かで、部屋の中に消えてしまった。
彼女の意識は次第に薄れ、眠りの中へと沈んでいった。
荒廃した戦場の中、セリナは優しく戦火に焼かれた騎士の傷を癒していく。彼女の手は慈愛に満ち、傷ついた騎士の心にも平穏をもたらすかのように感じられた。その騎士、ドグマーチル・ジェルマンディー公爵は、傷ついた身体と共に、心にも深い傷を抱えていた。しかし、セリナの存在が彼の心を安らかにし、希望を与えているように思えた。
夢の中のシーンは、何気なくも美しいものだった。しかし、その意味はペルシカにとって重大であった。なぜなら、その騎士の名前がドグマーチル・ジェルマンディー公爵であったからだ。
つまり、ファディールの父親だ。
ペルシカは深い眠りから突然引き戻された。いつもならば、ヤードのノックにも気付かずに眠り続けるが、今日は異なった。不吉な夢が彼女の眠りを妨げ、目を覚ますことになった。
ヤードの驚いた顔が、部屋の入り口に現れた。彼は礼儀正しく、「入ってもよろしいでしょうか。」と尋ねた。
ペルシカは夢の余韻がまだ心を揺さぶっている中、少し戸惑いながらも、頷いて部屋への入室を許可した。ヤードは驚いたような表情で部屋に入り、静かにドアを閉めた。
ペルシカは静かにベッドから身を起こし、足元のカーペットを踏みしめながら鏡台の前に歩み寄った。その鏡台は部屋の一角を飾るように置かれ、美しい装飾で彩られていた。
椅子に座りながら、彼女は鏡の前で自分の姿をじっと見つめた。鏡の中のペルシカは、眠りの余韻がまだ残る彼女の顔を映し出していた。
「お嬢様、今日はどうされたのです?」
ヤードは静かにクローゼットに向かい、そこからペルシカの制服を取り出した。その制服はきちんと畳まれ、ひときわ鮮やかな色彩を放っていた。ヤードの手は慎重に制服を扱い、決して乱さずに持ち上げた。
「別に。ヤード、この国は戦争中なの?」
「いいえ?あぁ。ですが、ダークジュエル王国という世間では闇の国と呼ばれている王国がございまして、ドラゴンを使役し、やたらと我が国にちょっかいをかけてきていますね。」
ペルシカはヤードから受け取った制服を手に取り、しっかりと身にまとう。制服を着替え終えた彼女は、再び椅子に座ると、ヤードが優しく手に取った櫛の音が聞こえた。ペルシカは鏡の前に座り、静かに目を閉じた。
ヤードの手は慎重でありながらも優しく、彼女のキラキラと輝く髪を解かしていく。
「ドグマーチル・ジェルマンディー公爵は今どこに配置されてるかわかる?」
「ドグマーチル様でございますか?彼は極秘の特別任務中でございます。」
「極秘の特別任務?ヤード、内容を教えて。」
「お嬢様、極秘で特別でございますよ?王族のみが知る事ができる任務という事です。」
「えぇ、それでも、ヤードなら分かるのではなくて?」
「買い被りすぎでございます。私奴はただの執事でございますから。」
「そう。」
ペルシカは心の中で深くため息をつきながら、ヤードが何も語ろうとしないことに確信を抱いた。彼女はもう一度質問を繰り返すことをあきらめ、自らの計画を練り始めた。
頭の中で、彼女は再び脱出するための計画を練り始めた。この場所での情報収集は期待薄と悟った彼女は、王族に直接聞くことが唯一の道と確信した。そのためには、クインシールの元へ行かねばならない。
ペルシカは椅子から立ち上がり、鏡台の前で深く深呼吸をした。彼女は決意を固め、冷静にならなければならないと自分に言い聞かせた。そして、自分の目的を果たすために、今日こそは行動を起こす覚悟を決めた。
ヤードが彼女の隣に立ち、不安げな視線を送ってきたが、ペルシカはその視線を無視し、自分の心に従うことを決意した。
ペルシカはヤードにむすーっとした態度で振り向きもせず、適当な言葉で彼をあしらった。そのまま彼女は学校へと向かい、すぐにファディールを見つけることを決意した。
ファディールを見つけた彼女は、周囲に気付かれないように静かに彼の手を取り、屋上を目指した。静かな足音で階段を上り、誰にも気付かれないように慎重に行動する。
屋上に到着すると、ペルシカは周囲を警戒しながら、ファディールに対して囁くように話しかけた。「ファディール、ここで話さなければならないことがある。誰にも見つからないように注意してくれる?」
ファディールは彼女の緊張感に気付き、静かに頷いた。彼も同じくらいの緊張感を抱えながら、ペルシカの言葉を待った。
「ファディール。私の事好き?」
ファディールはペルシカの予想外の要求に驚き、青ざめた顔で彼女を見つめた。
「へっ!?ま、まさか、俺に惚れたのか?」
彼は驚きと戸惑いを込めて声を上げ、顔を赤らめるのではなく、逆に青ざめてしまった。
「違うわよ。そうじゃなくて、友達としてよ。」
ペルシカは彼の言葉に驚きつつも、彼の誤解に呆れるような笑顔を浮かべた。「
「え?友達として?コホンッ。失礼致しました。もちろん好きですよ。」
ファディールはペルシカの要求に驚き、顔を青ざめさせたが、すぐに自信に満ちた笑顔を浮かべた。
その自信に満ちた笑顔は、彼の顔立ちをより一層際立たせ、まるで彼が周囲の女性たちを魅了するような魅力を放っていた。
「ファディール、今から学校を抜け出して王城へ一緒に向かってくれない?」
「は?本気か?」
「えぇ。本気よ。お願いよ。ヤードに見つからないように、どうしても王城へ行かないといけないの。」
「それは難題だな。あの方に見つからないように…か。まぁ、俺に課せられた任務はペルシカの手足となる事だからな。良いだろう。」
「ごめんなさいね。巻き込んでしまって。」
「かまわない。」
ペルシカとファディールは一階へと移動し、外に出る準備を整えた。ファディールはどこからか黒いフード付きのマントを取り出し、ペルシカの肩に優しく被せた。そのマントは彼女の姿を覆い隠し、彼女を身元不明の旅人に変えることができた。
そして、彼は、静かにピューッと指を加えて笛を吹いた。
その笛の音が響くと、遠くから音のする方向に向かって、黒い影が迅速に近づいてきた。そして、その影が近づくにつれて、美しい馬の姿が明らかになった。それはファディールの愛馬であり、忠実な相棒であるフィッヌだった。
フィッヌはペルシカの呼び声に応え、華麗に走り出し、目の前でピタリと止まった。
「失礼する。」と言いながら、ファディールはペルシカを優しく抱き上げ、彼女を馬の背に乗せた。そして、華麗なジャンプでフィッヌの背に身を乗り出したファディールは、見事なバランス感覚で馬に乗り移った。
「凄いわね。」と、驚きの表情を浮かべて目を点にしたペルシカが、ファディールの器用な乗りこなしに感嘆の声を漏らす。
ファディールは自信に満ちた笑顔を浮かべ、手綱を引くと同時に「はっ!」と声を上げた。その一声と共に、フィッヌは勢いよく駆け出し、颯爽とした姿勢で道を切り拓いていく。
フィッヌがファディールの手綱を引かれると、瞬時に速度を増していく。風が髪を乱し、耳に耳鳴りが走り、彼女は何とか視界を保とうとしたが、フィッヌの驚異的なスピードによって、一瞬だけ白目を向いてしまいそうになった。
(私の時はこんなスピードでなかったのに…。本当に女である事がもったいないわね。こんなにもカッコイイのに。)
風を切りながら、フィッヌは驚異的なスピードで道を駆け抜け、あっという間に王城の門前に到着した。
ファディールとペルシカは、王城の壮大な門の前で停止し、馬を静かに立ち止まらせた。
「随分と早く着くのね。」
「俺のフィッヌは世界一速いといっても過言ではない。」
「門番さん、通っても宜しいかしら。」ペルシカは礼儀正しく、自信を持って門番に声をかけた。
門番は彼女の姿を見て微笑み、手を振りながら応えた。「どうぞ!」
ペルシカは門番の許可を得て、王城の門をくぐる。
門番の親切な言葉と手振りに感謝しながら、ペルシカはファディールとともに王城内へと歩を進めた。
「凄い・・・流石ペルシカだ。やはり婚約者ともなれば顔パスなのだな。」
「そんなわけないでしょ。ワタクシの婚約者様が異常者なせいよ。」
「は?」
ファディールの頭の中は、ハテナでいっぱいだった。彼は完全には理解していなかったが、それでも彼女を支え、彼女と共に王城へと足を踏み入れた。
「あ…、え…。これは?」
ファディールは王城に入るなり、驚きの声を漏らした。彼の目に映る光景は予想外のものだった。王城内には、様々な場所にペルシカの肖像画が増えていた。彼は驚きと困惑の表情を浮かべながら、周囲を見回した。
ペルシカの肖像画は通常のものだけでなく、海辺を歩くペルシカや海に浸かるペルシカなど、さまざまな場面を描いた絵画が追加されていた。彼女と一緒に海へ行ったのはヤードなはずだが、なぜか海へ行った時の肖像画が増えている光景にペルシカの心は混乱した。
「これを現王は許したっていうのかしら。」
「と、とても愛されていらっしゃるのですね。」
「ファディール、口調が変よ。とにかくクインシール様を探さないと。」
ペルシカが周囲をキョロキョロと見回していると、突然肩にポンと手がのせられ、振り返るとそこにはクインシールが立っていた。彼の存在に驚いたペルシカは、一瞬息をのんでしまった。
クインシールの目は彼女を優しく見つめ、微笑みを浮かべた。彼の姿は王城の中で一際輝いて見え、彼女の心には安らぎが広がった。
「俺が何か?」
「丁度良いところに!あ、いえ。丁度お会いしたいと思っておりましたの。」
「今、ちょっと素がでてなかった?まぁいいや。門番から連絡を受けて急いで駆け付けたんだ。」
「あら、そうでしたの。クインシール様に聞きたい事がございまして。」
「ん?なに?」
「ドグマーチル・ジェルマンディー公爵の任務内容を聞きたいの。」
「聞いてどうするの?」
「大怪我をなさるかもしれないの。」
「何だって!?」
クインシールとファディールは、ペルシカの言葉に驚きを隠せなかった。彼らの表情は同時に疑問と興味に満ちており、彼らは一瞬互いを見つめ合った。
「ワタクシしか治せなさそうですので、早めにどこへ行かれたか知りたいの。クインシール様なら、ワタクシの実力、ご理解頂けてるでしょう?」
「ドグマーチルは、ダークジュエル王国へ偵察に行ってるんだ。だから、国を出るとなると危険だ。俺が兄上に怒られてしまう。」
「確かに、俺も怒られてしまいますね。」
「いいわ。今からワタクシ一人で行って参ります。」
ペルシカが言った途端、突然背後から布があてられたような感覚が彼女を襲った。彼女は驚いて振り返り、何が起こったのかを理解しようとしたが、その瞬間、急激な睡魔が彼女を襲い始めた。
彼女のまぶたは重くなり、眠気が彼女の意識を覆い始めた。彼女はなんとか目を覚まそうと努力したが、睡魔の力は強く、彼女を押し潰すかのように襲ってきた。
「いけませんねぇ…。そのようにお育てした覚えはございませんのに。」
ヤードの声が聞こえた気がしたが、ペルシカは最後の力を振り絞り、立ち上がろうとした。しかし、その試みは体が重くてうまくいかなかった。
「ヤード...」彼女はかすかに呟いたが、その声は微かで、部屋の中に消えてしまった。
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