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第六話【初登校ですわ!】

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朝食を終え、ヤードに抱かれて外に出ると、そこには用意された馬車が待っていました。しかし、その馬車はいつもと違っていました。ハイドシュバルツ公爵家の馬車ではありませんでした。

「ん?ワタクシの家の馬車ではないようね?」
「はい。お嬢様の婚約者様が通学にと、この馬車を。」そう言ってニコリと微笑むヤード。

馬車をよく見ると、王家の紋章が入っており、金がふんだんに使われ、まるである種の痛車のように豪華で、宝石がたっぷりとはめられていることがわかりました。

「い、嫌すぎる!!!恥ずかしいわ!!こんなの乗っていくだなんて!!」
「え!?そうですか!?」と聞き覚えのある声がして、ペルシカが御者の顔を見ると、そこには王城で門番をしていたエリアルが立っていました。
「エリアルさん!?どうしてここに?」
「あはは。王子様がどうしてもお嬢様の事が心配だからと顔見知りの僕にお嬢様をお運びする命を下されたんです。未来の王妃様の為、一生懸命勤めさせて頂きます!」とビシッと敬礼をするエリアル。
「そうでしたの!宜しくお願い致しますわ。」と微笑むペルシカにエリアルは少し顔を赤くさせる。
「お嬢様、そろそろ出発致しましょう。」
「えぇ。」

ヤードは優雅な仕草で馬車に乗り込み、ペルシカの向かい側に座った。彼の姿勢は常に完璧で、執事としての風格を備えている。

「本当についてくるの?」
「当然でございます。門の前までお送り致します。」

ペルシカは口を開こうとしたが、その瞬間、彼女の心の中で諦めの念が湧き上がった。彼女は何かを言おうと思いつつも、この男がいつものように何かやらかすのは目に見えていた。そんな彼の行動を予測することは容易だった。そう悟った彼女は、小さな溜息をついて、何も言わずにそのまま静かに頭を下げた。

馬車の揺れを感じながら、ペルシカは向かいに座るヤードをぼんやりと眺めた。彼は足を組み、窓際に肘をついて頬杖をする姿勢をとっていた。その仕草は一般的な執事のものとは異なり、ペルシカは不思議に思わざるを得なかった。

「ヤード、嫌じゃないの?」
「何がでございますか?」
「この馬車。王子様が私の為に用意してくれた特別な馬車でしょう?他の男性からの贈り物を使ってるのって嫌じゃないのかなって。」
「嫌ですよ。虫唾が走ります。ですが…第一王子は特別です。」
「ふーん。」
(第一王子に何か深い恩でもあるのかしら。何年も一緒にいるのに私ったら何もヤードの事知らないのかもしれない。)
「ねぇ。ヤードってどこの誰なの?」
「おや?やっと私奴わたくしめに興味を持って頂けましたか?」
「帝国での権力が王族の次だと言われるハイドシュバルツ家を掌握してるって事は王族の関係者か、もしくは…どこぞの王子様かと思っているのだけれど。」
私奴わたくしめは…どうしようもなく愚かでダメな人間でございます。お嬢様に拾って頂かなければ何もできないほどに。そうですね。王族の関係者ではあるのかもしれませんね。」
「拾うって…気がついたら勝手にいたじゃない。」
「いいえ。お嬢様が知らないところで、私奴わたくしめはお嬢様に拾われたのです。」
「隣国の王子…とかなのかな?滅びちゃって、私のところで保護されてるとか?」
「クスッ。滅びた…は正解でございますね。」
「やっぱり!メイドさん達が私の前で失敗したりした時のヤードの顔って人一人殺せそうだもんね!あれが王族の威厳ってやつなのかな。」
「…っ。私奴わたくしめはそのように顔に出ておりましたか?」
「うん。」
「仕方ありませんね。ハイドジュバルツ家は小さなミスも許されませんから。」
「うちって厳しいのね。」

馬車が進むにつれて、遠くに学校の建物が見えてきた。その姿を見て、ペルシカの心は少し高鳴り始めた。

「お嬢様、何度も言いますがお言葉使いにお気をつけ下さいませ。」
「えぇ。気を付けるわ。」

ヤードが馬車から先に降りて、優雅に手を差し伸べてペルシカをエスコートした。彼の紳士的な態度は、周囲の人々の注目を集めていた。

「ではお気をつけ下さい。何か御用がございましたら、いつでも魔法のベルを鳴らして下さい。」
「…便利なベルね。ヤードにしか聞こえないのでしょう?」
「はい。私奴わたくしめにしか聞こえません。」
「どんな音なの?」
「今日はとても私奴わたくしめに興味を持って頂けますね。私奴わたくしめは死んでしまうのでしょうか?」
ペルシカはヤードを少し睨みつけながら、「何を言ってますの?不吉なことを言わないでください。散々私を甘やかして放置するなんて、絶対に許しませんわ。」と言った。
「そうでございますね。では、行ってらっしゃいませ。」と笑顔で送りだしてくれるヤード。
「・・・・。」

ペルシカは気になったベルの音に耐えかねて、カバンからベルを取り出し、激しく揺らして鳴らしてみた。その光景を見て目の前のヤードが笑顔で、少し青筋を立てながら、「お嬢様?」と声をかけ、ペルシカがベルを鳴らしていた手を掴んで止めた。その様子にペルシカは笑いが込み上げ、思わず笑ってしまった。

「あっはっはっはっ!!おっかしーの。」
「お嬢様!お言葉使いに気を付けください!」
「はーい。いってくるわ。」と言ってヒラヒラと手をふるペルシカ。
ヤードは微笑みながら小さく手を振り返す。その優雅な仕草に、彼がかつての滅んだ国の王族であることを改めて感じる。

王城のような校舎に足を踏み入れると、正面には大きなエレベーターが2基そびえ立っていた。
1年生は4階、2年生は3階、3年生は2階、そして特別生は1階に割り当てられる、という厳格な規定が存在している。

ペルシカは特別生として、エレベーターを使わずに右へと進んだ。教室のドアに名前が書かれた紙が貼られており、自分の名前が記された教室を探し始めた。

「あ、あった!」と思わず声に出てしまい、パッと自分で口を押さえた。
(しまった。言葉使いに気を付けないと…。)

ペルシカは未だに前世で身についた言葉使いを直すことができない。

「どけ。」

後ろからドスの効いた声が聞こえ、ペルシカはびっくりして振り返った。そこには自分よりも頭二つ分も背の高い藍色の髪をした男性が立っていた。彼のギロリとした視線に怯え、ペルシカはサッと後ろに退いて頭を下げた。

(やっちゃったーーー。ハイドシュバルツ家の令嬢なのに頭下げちゃったー!!)

男性は、学校指定のタキシードに燕尾服の要素を取り入れた制服を身にまとっていた。

(って…私、一緒のクラスじゃん。やだぁ…。)


教室に足を踏み入れた瞬間、ペルシカはひとたび、部屋の中に落ち着いた雰囲気を感じた。ほとんどの生徒が既に着席しており、自分の席を見つけるために周囲をキョロキョロと見回す。

(こんな高級そうな造りの学校なのに、どうして教室の中は中学校や高校レベルなわけ…?大学みたいな作りじゃないの…。)

廊下で、カランカランとベルを鳴らしながら、生徒たちに声をかける先生の声が響く。「

時間ですよー!教室に入るようにー!」

(昭和か!!)と思わずツッコミを入れてしまうペルシカ。

ペルシカは担任らしき先生が教室に入ってくるのを見て、かけより声をかけた。

「おはようございます、先生。ワタクシ、ペルシカ・ハイドシュバルツと申します。席はどちらでしょうか?」
「え。あぁ!君が稀代の天才児ペルシカ様ですか!昨日は残念でしたね。登校途中に事故にあわれたとか…。」

先生がペルシカの名前を呼び出すと、教室内がざわめき始めた。

「は?…事故…。昨日?」
「あぁ、すみません。ショックのあまり記憶が曖昧だと王子殿下から伺っております。ペルシカ様の席はあちらでございます。」と先生は一番後ろの先程の藍色の髪の男の隣の左隣の席を指差した。
(うわっ。まじか。)
「ありがとうございます。」と丁寧にお礼をして渋々席に座った。
(待って、もしかして…昨日学校あったの?)

先生は手を伸ばし、一番後ろの、先ほどの藍色の髪の男の隣の左隣の席を指し示した。
ホームルームが終わると、ペルシカは早速、もう一方の隣に座っている白髪の男性に声をかけてみた。

「あの、もしかして昨日登校日でしたの?」
「え?はい。そうですよ。昨日は入学式でした。ペルシカ様は残念でございましたね。成績も主席でスピーチ等もありましたのに。ですが、流石は婚約者様ですね。」
「はい?」
「事故にあわれて登校できないペルシカ様に代わって帝国の第一王子殿下が臨時で来られて、変わりにスピーチして下さったんですよ!滅多にお目にかかれない方なので僕はもう感動しました!」
「へ、へぇ~…流石ですわ・・・ね。ホホホ。」

(こっちは昨日が入学式だなんて聞いてないし、スピーチがあった事も全く知らないし!!事故って何!?ある意味昨日は事故みたいなもんだったけれど!!いったいどうなってるのぉ~~~!?)
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