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翌日、ユリエラはキルエルとの、幸せな瞬間を思い出してはぼーっとしていた。 その幸せとは、彼との初めてのキスをした瞬間だった。
何をするのも心ここにあらずなユリエラを見て、パピルスは溜息をついて、ゆっくりと彼女のそばに歩み寄った。 しばらくの間、静かに彼女の横に立ち、やがて穏やかな声で問いかけた。
「ユリエラ、辺境伯と何かありましたか?」
「えっ!?いや…何も…。うん、何も…。」
パピルスはユリエラにかけられている魔法をチラリと見て、分析を始めた。 魂に刻まれた魔法の刻印は、ただの防衛魔法ではなかった。 それはキルエル自身の時間を切り取り、分け与えるという呪いに近い、究極の束縛魔法であることを、彼は理解した。
そして、パピルスは確信した。 これでは誰もユリエラに寄り付けないだろう。
学校が終わり、寮へ戻ると、部屋の前には見知らぬ男性と女性の二人が立っていた。
一人は、緑の軍服を身にまとい、紺色の長い髪をなびかせる女性だった。 彼女の目は鋭く、自信に満ちているように見えた。 風に舞う髪は、その背後に横たわる夕陽によって照らし出され、彼女を一層優美な姿に見せていた。
もう一人は、銀髪をなびかせ、堂々とした姿勢で立つ騎士だった。 彼の身に纏われた鎧は、光を反射し、彼の姿をいっそう重厚にしていた。 その目は鋭く、決然とした意志を感じさせる。
彼らの存在は、寮の空気を緊張させていた。
「これは、これは、魔法士団長殿!」
銀髪の騎士が驚きを隠せず声を上げる。
「は? 騎士団長!? どうしてこちらへ?」
パピルスが首をかしげる。
「我々二人は王の命令で、ユリエラ様を護衛するために来たのです」
緑の軍服を身にまとった女性が静かに語った。
ユリエラはキルエルの要請した護衛があまりにも優れていることに、驚きと不安を隠せない表情を浮かべた。 彼女の顔は引きつり、眉間には薄く皺が寄っていた。
「えっと…よろしくお願いします。ユリエラ・ホルマックスです。」
「私はメロウト王国騎士団長、ヴェルンツ・ハイドシュバルツと申します。」
「私はメロウト王国軍の中尉、ミケル・オズマンと申します。」
ユリエラは「ハイドシュバルツ」という名前を聞いて、心の中でひらめきを感じた。 同じクラスのセトラ・ハイドシュバルツのお父さんではないかと思った。 彼らの顔も髪色も、そっくりだった。
「セトラ君のお父さん!?」
ユリエラが驚きの声を上げると、ヴェルンツは微笑みながら、深い頷きを交わした。 その目には、暖かな光が宿っていた。
意外な形でセトラとの接点を持てて、ユリエラの顔には微かな喜びの表情が浮かんだ。
「やっぱり!そっくりだもの。」
「そう…ですか。あ、いや、騎士団の仕事が忙しく、息子と会う機会がないもので…。」
ユリエラは良い考えが浮かんだ。セトラとヴェルンツの親子関係を深める絶好の機会と感じた彼女は、自分の剣術の練習にセトラを誘うことを決意した。
翌日、ユリエラは剣術訓練室にセトラを呼び寄せた。
「話とはなんだ?」
「セトラ様、お越しいただきありがとうございます。実は、王宮の騎士団長様が私の護衛を引き受けてくださることになり、それに伴い剣術も学ぶ機会をいただくことになりました。セトラ様も、ぜひ一緒に参加されませんか?」
その言葉にセトラは少し溜息をついた。そして、チラリと父であるヴェルンツを見た。
「余計な気は回さなくていい。だが、今回は参加させてもらおう。」
本来ならセトラは絶対に断っていた。しかし、ラティー王子やネルドロイド公爵家との親交を持つユリエラの姿を見て、ハイドシュバルツ公爵家がそれに劣るような焦りを感じていた。そのため、断ることはできなかった。自分も彼女から何かを得なければならないという気持ちに囚われていた。
「よし、ユリエラ、セトラ、まずは基本から復習しよう」と、ヴェルンツは威厳に満ちた声で指示を出した。
ユリエラとセトラは真剣な表情でそれに従った。ヴェルンツは丁寧に、彼らに構えから始まる基本の動きを教えた。
ヴェルンツは息子のセトラと向き合い、共に剣を交える。彼の心は喜びで満たされ、父としての義務を果たし、かつ自らの趣味でもある剣術を息子に伝えることができることに感謝していた。
セトラもまた、父との時間を大切にし、父の技を学びながら成長していく姿勢を示していた。彼らの間には、父子の絆と師弟の情が強く交錯し、訓練場は幸せで満ちた雰囲気に包まれていた。
夜が静かに近づくにつれて、訓練は徐々に終わりを迎えていた。
「それでは、今日の訓練はここまでだ」と、ヴェルンツは静かな声で告げた。
ユリエラとセトラは疲れたが、満足そうな表情を浮かべ、ヴェルンツに礼を述べた。
寮へ戻ると、ヴェルンツはユリエラに感謝の意を述べた。
「ユリエラ様、息子との時間を作ってくれてありがとう。本当に感謝しています」と、ヴェルンツは心からの言葉を述べた。
ユリエラは微笑みながら、頭を軽く下げた。
「いいえ、ヴェルンツ騎士団長。セトラと一緒に訓練できる機会を提供できて嬉しいです。彼はとても真剣に取り組んでいますし、私も彼から多くを学んでいます。」
ヴェルンツは彼女の言葉に感謝の意を込めて微笑み、再び頭を下げた。
ユリエラは少し複雑な気持ちになっていた。実は、自分がセトラとの訓練を提案したのは、彼の好感度を上げるためだけだったからだ。なんとも言えない気持ちになりながら、ユリエラは部屋へと戻っていった。
翌日の魔法の授業では、ネロがメーベルを三段階まで進化させることに成功した。教室のみんなが驚きと感嘆の声を上げた。
ネロは緊張した表情でメーベルをかざし、集中力を高めながら魔法を発動させた。彼の手元には、幻想的な光が踊り、媒体が変化していく様子が見て取れた。ネロの素のメーベルは、なんとフルートだった。そこから一段階はバイオリンになり、二段階はホルンになり、そして三段階目はハープが出現した。
教室の生徒たちは、その変化を目の当たりにして驚きと興奮を隠せなかった。先生も感心した表情を浮かべ、ネロの才能に賛辞を送った。
しかし、ネロは全く嬉しそうにしておらず、むしろ影を落としていた。
彼の表情は深刻で、喜びや興奮の跡が見当たらない。周囲の驚きや先生の賛辞にも、彼の心には何か重いものがあるようだった。
ネロは授業が終わると、静かに席を立ち、一人で教室を後にした。
ユリエラは心配になり、ネロの後を追いかけた。
教室を出ると、ユリエラはネロの姿を見つけた。彼が一人で静かに歩いていく姿に、彼女の心は不安に包まれた。彼の様子からは明らかに何かが彼を苦しめていることが伝わってきた。
「ネロ、待って!」
ネロは驚いたように振り返り、ユリエラの姿に目を向けた。彼の表情には深い悩みが刻まれており、その姿を見たユリエラの心はますます不安になった。
「どうしたの?何か悩んでるの?」ユリエラは優しく尋ねた。
ネロはしばらく沈黙し、そしてゆっくりと口を開いた。
「あれから…図書館に籠って、異世界に関する書物を読み漁ったんだ。そしたら、神の国に異世界への門があるって記してあった。僕はそれを目指す事にした。」
「異世界へ行くって事?」
「君のいた世界に僕は行きたいと思ってる。ただ、それには強力な魔力が必要だ。メーベルを最低でも五段階まで解放できないといけない。」
「五段階って…可能なの!?不老じゃない限り厳しいって聞いたような気がするけど。」
すると、二人を見守っていたパピルスが前に出た。
「可能ではありますよ。魔力を溜めればいいだけの話ですから。ただ、問題は本当に本物のユリエラ様の魂があちらの世界にあるかどうか…ですね。」
パピルスの言葉にとても驚くネロ。
彼の口から出た言葉は、予想外のものであり、ネロはその言葉に固まったように立ち尽くしてしまった。驚きと混乱が彼の表情に滲み、まるで心の奥底から何かが揺れ動いているかのようだった。
何をするのも心ここにあらずなユリエラを見て、パピルスは溜息をついて、ゆっくりと彼女のそばに歩み寄った。 しばらくの間、静かに彼女の横に立ち、やがて穏やかな声で問いかけた。
「ユリエラ、辺境伯と何かありましたか?」
「えっ!?いや…何も…。うん、何も…。」
パピルスはユリエラにかけられている魔法をチラリと見て、分析を始めた。 魂に刻まれた魔法の刻印は、ただの防衛魔法ではなかった。 それはキルエル自身の時間を切り取り、分け与えるという呪いに近い、究極の束縛魔法であることを、彼は理解した。
そして、パピルスは確信した。 これでは誰もユリエラに寄り付けないだろう。
学校が終わり、寮へ戻ると、部屋の前には見知らぬ男性と女性の二人が立っていた。
一人は、緑の軍服を身にまとい、紺色の長い髪をなびかせる女性だった。 彼女の目は鋭く、自信に満ちているように見えた。 風に舞う髪は、その背後に横たわる夕陽によって照らし出され、彼女を一層優美な姿に見せていた。
もう一人は、銀髪をなびかせ、堂々とした姿勢で立つ騎士だった。 彼の身に纏われた鎧は、光を反射し、彼の姿をいっそう重厚にしていた。 その目は鋭く、決然とした意志を感じさせる。
彼らの存在は、寮の空気を緊張させていた。
「これは、これは、魔法士団長殿!」
銀髪の騎士が驚きを隠せず声を上げる。
「は? 騎士団長!? どうしてこちらへ?」
パピルスが首をかしげる。
「我々二人は王の命令で、ユリエラ様を護衛するために来たのです」
緑の軍服を身にまとった女性が静かに語った。
ユリエラはキルエルの要請した護衛があまりにも優れていることに、驚きと不安を隠せない表情を浮かべた。 彼女の顔は引きつり、眉間には薄く皺が寄っていた。
「えっと…よろしくお願いします。ユリエラ・ホルマックスです。」
「私はメロウト王国騎士団長、ヴェルンツ・ハイドシュバルツと申します。」
「私はメロウト王国軍の中尉、ミケル・オズマンと申します。」
ユリエラは「ハイドシュバルツ」という名前を聞いて、心の中でひらめきを感じた。 同じクラスのセトラ・ハイドシュバルツのお父さんではないかと思った。 彼らの顔も髪色も、そっくりだった。
「セトラ君のお父さん!?」
ユリエラが驚きの声を上げると、ヴェルンツは微笑みながら、深い頷きを交わした。 その目には、暖かな光が宿っていた。
意外な形でセトラとの接点を持てて、ユリエラの顔には微かな喜びの表情が浮かんだ。
「やっぱり!そっくりだもの。」
「そう…ですか。あ、いや、騎士団の仕事が忙しく、息子と会う機会がないもので…。」
ユリエラは良い考えが浮かんだ。セトラとヴェルンツの親子関係を深める絶好の機会と感じた彼女は、自分の剣術の練習にセトラを誘うことを決意した。
翌日、ユリエラは剣術訓練室にセトラを呼び寄せた。
「話とはなんだ?」
「セトラ様、お越しいただきありがとうございます。実は、王宮の騎士団長様が私の護衛を引き受けてくださることになり、それに伴い剣術も学ぶ機会をいただくことになりました。セトラ様も、ぜひ一緒に参加されませんか?」
その言葉にセトラは少し溜息をついた。そして、チラリと父であるヴェルンツを見た。
「余計な気は回さなくていい。だが、今回は参加させてもらおう。」
本来ならセトラは絶対に断っていた。しかし、ラティー王子やネルドロイド公爵家との親交を持つユリエラの姿を見て、ハイドシュバルツ公爵家がそれに劣るような焦りを感じていた。そのため、断ることはできなかった。自分も彼女から何かを得なければならないという気持ちに囚われていた。
「よし、ユリエラ、セトラ、まずは基本から復習しよう」と、ヴェルンツは威厳に満ちた声で指示を出した。
ユリエラとセトラは真剣な表情でそれに従った。ヴェルンツは丁寧に、彼らに構えから始まる基本の動きを教えた。
ヴェルンツは息子のセトラと向き合い、共に剣を交える。彼の心は喜びで満たされ、父としての義務を果たし、かつ自らの趣味でもある剣術を息子に伝えることができることに感謝していた。
セトラもまた、父との時間を大切にし、父の技を学びながら成長していく姿勢を示していた。彼らの間には、父子の絆と師弟の情が強く交錯し、訓練場は幸せで満ちた雰囲気に包まれていた。
夜が静かに近づくにつれて、訓練は徐々に終わりを迎えていた。
「それでは、今日の訓練はここまでだ」と、ヴェルンツは静かな声で告げた。
ユリエラとセトラは疲れたが、満足そうな表情を浮かべ、ヴェルンツに礼を述べた。
寮へ戻ると、ヴェルンツはユリエラに感謝の意を述べた。
「ユリエラ様、息子との時間を作ってくれてありがとう。本当に感謝しています」と、ヴェルンツは心からの言葉を述べた。
ユリエラは微笑みながら、頭を軽く下げた。
「いいえ、ヴェルンツ騎士団長。セトラと一緒に訓練できる機会を提供できて嬉しいです。彼はとても真剣に取り組んでいますし、私も彼から多くを学んでいます。」
ヴェルンツは彼女の言葉に感謝の意を込めて微笑み、再び頭を下げた。
ユリエラは少し複雑な気持ちになっていた。実は、自分がセトラとの訓練を提案したのは、彼の好感度を上げるためだけだったからだ。なんとも言えない気持ちになりながら、ユリエラは部屋へと戻っていった。
翌日の魔法の授業では、ネロがメーベルを三段階まで進化させることに成功した。教室のみんなが驚きと感嘆の声を上げた。
ネロは緊張した表情でメーベルをかざし、集中力を高めながら魔法を発動させた。彼の手元には、幻想的な光が踊り、媒体が変化していく様子が見て取れた。ネロの素のメーベルは、なんとフルートだった。そこから一段階はバイオリンになり、二段階はホルンになり、そして三段階目はハープが出現した。
教室の生徒たちは、その変化を目の当たりにして驚きと興奮を隠せなかった。先生も感心した表情を浮かべ、ネロの才能に賛辞を送った。
しかし、ネロは全く嬉しそうにしておらず、むしろ影を落としていた。
彼の表情は深刻で、喜びや興奮の跡が見当たらない。周囲の驚きや先生の賛辞にも、彼の心には何か重いものがあるようだった。
ネロは授業が終わると、静かに席を立ち、一人で教室を後にした。
ユリエラは心配になり、ネロの後を追いかけた。
教室を出ると、ユリエラはネロの姿を見つけた。彼が一人で静かに歩いていく姿に、彼女の心は不安に包まれた。彼の様子からは明らかに何かが彼を苦しめていることが伝わってきた。
「ネロ、待って!」
ネロは驚いたように振り返り、ユリエラの姿に目を向けた。彼の表情には深い悩みが刻まれており、その姿を見たユリエラの心はますます不安になった。
「どうしたの?何か悩んでるの?」ユリエラは優しく尋ねた。
ネロはしばらく沈黙し、そしてゆっくりと口を開いた。
「あれから…図書館に籠って、異世界に関する書物を読み漁ったんだ。そしたら、神の国に異世界への門があるって記してあった。僕はそれを目指す事にした。」
「異世界へ行くって事?」
「君のいた世界に僕は行きたいと思ってる。ただ、それには強力な魔力が必要だ。メーベルを最低でも五段階まで解放できないといけない。」
「五段階って…可能なの!?不老じゃない限り厳しいって聞いたような気がするけど。」
すると、二人を見守っていたパピルスが前に出た。
「可能ではありますよ。魔力を溜めればいいだけの話ですから。ただ、問題は本当に本物のユリエラ様の魂があちらの世界にあるかどうか…ですね。」
パピルスの言葉にとても驚くネロ。
彼の口から出た言葉は、予想外のものであり、ネロはその言葉に固まったように立ち尽くしてしまった。驚きと混乱が彼の表情に滲み、まるで心の奥底から何かが揺れ動いているかのようだった。
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