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バイオリンの音色に誘われるように、ユリエラはバルコニーに出ようとすると、突然パピルスに手を止められました。彼は静かにユリエラの手を握り、優しい表情で彼女に微笑みかけました。

「ユリエラ、今夜はもう遅いですよ。外は危険かもしれません。」彼の声は心配そうでしたが、同時に優しいものでした。

ユリエラは彼の言葉を受け入れ、バルコニーに出ることを諦め、彼と共に部屋に戻りました。

バルコニーの外にいるネロフライトを悟られないように、パピルスは彼に睨みを送りました。彼は深い眼差しでネロフライトを観察し、周囲に気づかれないように慎重に振る舞いました。

パピルスは静かにネロフライトのバイオリンを観察し、その楽器が実はメーベルであることに気付きました。彼の目は鋭く、音色が魅了の効果を持つことも察知しました。パピルスは深く考え込んだ後、ネロフライトの目的や意図についてさらに探求することを決意しました。

一方で、執事がネロフライトの元へ姿を現しました。静かに報告すると、ネロフライトは少し不満げな表情を浮かべました。

「そうか。邪魔だなぁ。あの魔法士団長。」

ネロフライトの口調には苛立ちが感じられ、不満を滲ませています。彼はユリエラが就寝したことを知り、その後ろめたさや焦りがうかがえます。

「まあ、仕方ない。でも、僕の計画に影響が出るのは困るな。あの魔法士団長がうまく邪魔をしないことを祈るしかないか。」

執事はネロフライトの心情を察し、軽く頷きながら「私も彼の行動には注意を払います。ですが、あまり心配せずに、計画は着実に進行しています。」と慰めました。

ネロフライトは執事の言葉に少し安心したような表情を浮かべましたが、まだ不満が残っているようでした。

「そうだな。とにかく、僕たちの目的はユリエラの心を掴み取る事だ。そのためには、彼女の信頼を勝ち取ることが肝心だ。魔法士団長が邪魔をしても、僕たちはそれに対応していくしかない。」

執事はネロフライトの言葉に頷きながら、「ユリエラ様の信頼を勝ち取ること、それが最優先事項ですね。私もそのために全力を尽くします。」と答えました。

その後、執事とネロフライトは共に戦略を練り、ユリエラへの接近方法や次の行動を話し合いました。彼らはユリエラの信頼を得るために、様々な手段を考えていくことにしました。


数日が経ち、ユリエラはいつも通りパピルスに指導を受けながら魔法の練習に励んでいました。しかし、突然バイオリンの美しい音色が耳に響きました。その音色に魅了されたように、ユリエラは手を止めて部屋を出ようとします。

彼女の行動はまるで何者かに操られているかのようで、自分自身の意思とは異なる行動に戸惑いを感じながらも、その誘惑に抗えないように思えました。

パピルスがユリエラを止めようとする手を伸ばしたその瞬間、部屋の扉にドアをノックする音が響きました。ユリエラが無意識にドアを開けると、そこには執事が立っていました。

執事の姿を見て、パピルスは一瞬驚きの表情を浮かべましたが、すぐに冷静さを取り戻しました。しかし、その一瞬の隙間をユリエラは利用して、執事の存在を無視して外に出ようとしました。

「これはこれは、パピルス様、旦那様がお呼びでございます。」

「公爵様がですか?」

ユリエラがドアをくぐり抜けて走り去る間に、パピルスは執事に気付かれないように機転を利かせました。一瞬で魔法を発動し、ユリエラに盗聴魔法をかけました。その魔法は、ユリエラの行動や会話を遠くからでも聞くことができるものでした。

パピルスは執事に向かって礼儀正しく微笑んで、「では、私も急がせていただきます」と言い、素早く部屋を後にしました。

ユリエラは、心地よい音色に包まれながら、まるで夢の中にいるかのような感覚に浸っていました。その美しい音色に引き寄せられるように、彼女は自然と足を進めていました。気が付けば、彼女は屋敷の2階に位置する部屋の前に立っていました。その部屋からはバイオリンの音色が心地よく流れ出しており、彼女はそれに魅了されていました。

バイオリンの音が突然途切れ、静寂が訪れると同時に、ユリエラも夢から覚めました。意識が戻り、彼女は自分がどこにいるのかを理解し始めました。

ユリエラが「えっ…ここはどこ?」と呟くと、目の前のドアが静かに開きました。

「ユリエラ!どうしてこんなところに?」
「ネロ!?どうして…。」
「どうしてって、ここは僕の部屋だよ。」

ユリエラは心の中で「まずい、距離をとらないと…」と思いながら、後ずさりしました。

「ごめんなさい、道に迷ったみたいで…。」
「それは大変だったね。でも、丁度ユリエラに用事があって迎えに行こうと思っていたところなんだ。」
「え!?用事ですか?」
「僕達、同じ歳だし、気負わなくていいんだよ。それに、敬語もいらないよ。父上からユリエラを町へ案内するように言われたんだ。引きこもってばかりだと滅入るでしょ?買い物とか、どう?」 

ネロは優しく微笑むと同時に、彼の笑顔は紳士的な温かさを宿していました。
ユリエラは公爵の提案なら諦めるしかないと悟り、買い物に出かけることを決意しました。


ユリエラはネロにエスコートされて門の方へ歩いていくと、眩しい陽光が彼女たちを包み込みました。足元では石畳が煌めき、風にそよぐ木々の葉がさわやかな音を奏でます。ネロの傍らには高貴な雰囲気を纏い、しかし優しさが滲み出る姿がありました。

道を進むにつれて、庭園の美しい景色が次第に広がっていきます。色とりどりの花々が風に揺れ、小鳥たちのさえずりが耳をくすぐります。ユリエラはこの美しい景色を眺めながら、馬車が待つ門の近くまで歩みを進めていきます。門の近くには立派な馬車が用意され、華麗な装飾が施されていました。

「あ…敷地の外に出ても大丈夫なのかな?ダメだって言われてなかったっけ。」
「大丈夫。父上が言った事だよ?」
「そっか。」
「安心していいよ。」

ネロは優雅な仕草で馬車の扉を開け、ユリエラに手を差し伸べました。彼の手には穏やかな温もりが漂い、その姿はまるで王宮の騎士のような威厳さと気品を感じさせました。

ユリエラは優しくその手を受け取り、馬車に乗り込みます。馬車の中は贅沢に飾られ、柔らかなクッションが心地よい座り心地を提供しています。窓から差し込む陽光が室内を照らし、まるで幸せな夢の中にいるような雰囲気が漂っています。

ネロは馬車の外から優雅に乗り込み、ユリエラの隣に座ります。彼の視線は常に彼女を優しく見守っており、安心感と信頼感が溢れる空間が馬車の中に広がります。

馬車は軽やかに動き出し、静かな道を進んで町へと向かっていきました。
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