上 下
44 / 92

44p【ログアウト】

しおりを挟む
「ルナ、終業式の準備へいきますよ。」と千翠さん。
「どうして千翠がくるのよ。」と、ズーンっと気持ちが沈んでいるのが分かるルナさん。
「ルナをこんなに泣かせた事、自分も怒ってます。」とシンカさんは鋭い目つきで千翠さんを睨んでいた。
「あー、うるさいですね。いいからつべこべ言わず来なさい。」と千翠さんはルナさんをひっぱる。
「いーやー!!ひっぱらないでっ!!」と抵抗するルナさん。
「シンカ、終業式の用意を。」と千翠さんが命令すれば、シンカさんは睨んだままルナさんをひっぱる。
「ルナ、シンカに命令しなさい。もっと、酷い事をしましょうか?」と千翠さんはルナさんを脅しながら、ルナさんの頬をつねる。
「いひゃい!!シ、シンカっ…やって!」と青ざめて半泣きになりながらシンカさんに命令する。
「ぐっ…千翠め…。」と言いながらシンカさんは急いで大広間の厨房へ向かう。

そして、席に着くころには22時30分。
大広間ではシンカさんの美しい料理が並んでいた。

「今期は1年と短い時間でしたが、みなさんお疲れ様でした。引き続きの方はよろしくお願いします。いつも通り幹部交代の時間ですので注意してください。」とルナさんの挨拶が終わった後、夜の幹部達はログアウト時間と次の日のログイン時間を告げていく。
千翠さんとルナさんはログアウト無しらしい。
いつもの晩餐と違い、みんながAI達に予定を言ったり、いない間の事を話して落ちていった。
(大多数の人が、ゲーム内ではログアウトの事を落ちるっていうのか。僕も落ちるって使わないと、変な人だと思われそうだ。)
そして、僕もログアウトしようとしたら、シンさんが近くに来た。
「いつもの終業式はもっと長いのに。寂しくなるよ。」
「あ、そうですよね。AIにとってはここから…。」
「うん、下手したら1年は会えない事になるし、時間の圧縮だけはどう動くか読めないからね。」
「そうですよね…。僕らは一瞬みたいなもんなんですが。色々教えてくれてありがとうございました。あ、そうだ。次は現実世界の写真、持ってきます。」
「楽しみにしてる。携帯の電源、絶対切るように。」
「はい。」

こうして僕は【リアル】からログアウトした。
現実世界で意識が覚醒すると、まず深呼吸をした。
あの世界は、ずっと着ぐるみを着てるような不思議な感覚だったから、呼吸がしたくなった。
それから僕はすぐに携帯の電源を切った。
いつもは携帯で目覚ましをかけていたけど、今日は久しぶりに目覚まし時計をひっぱりだしてセットする。
あれだけの事があったのに、たった3時間の出来事なのか。
自室をでて、シャワーを浴びた。
そして感じたのは【リアル】の薔薇風呂がとても気持ちよかったという事だ。
自然と右手をぎゅっと握りしめてしまった。
あ、そうか。タクトはないんだった。小人達に挨拶するの忘れてた。ダメだな僕。
シンさんも寂しそうな顔してた。僕も明日からはAIを持つことになるけど、彼女を、咲をあの世界においたままになんて事できるかな。
無理だったら強くなってバトル王になって、施設に入ろうかな?
シャワーを終えて、髪の毛をタオルで拭きながら、リビングへお水をとりにいくと、姉さんが丁度仕事から帰ってきていた。
「あれ?アンタがこんな時間にお風呂なんて珍しいわね。」
「姉さん。久しぶり…。」
「は?朝会ったばっかじゃん。頭大丈夫?」
ヤバイ!!これが【リアル】時差か!!
「あー…うん。大丈夫だよ。」
「アンタもしかして…【リアル】はじめたの?」
「え…?」
「え、じゃないわよ。会社でも良く、さっき会ったばっかりなのに「久しぶり」って声かけられんのよ。」
姉さんはリビングの椅子に腰かけた。
「へぇー…。」
「やってるわね。その顔は。」
「うん。」
「ほどほどにしときなさいよ~。あの会社嫌いなのよ。」
「あの会社ってムーンバミューダ?」
「そう。うちの会社もあの会社のいいなりで、色々大変なのよねー。」
僕と姉さんは10歳ほど歳が離れてて、父さんは時々帰ってくるけど、母さんは2年前に仕事へ行ってから帰ってこない。
でも、姉さんの銀行に月々の生活費が入ってるらしくて、失踪した母さんだけど、仕事をしてるのは間違いないらしい。
姉さんが基本的に僕の面倒と家事をしてくれている。僕ももちろん手伝ってるけど。
正直、母さんが消えてから2年間。色々と大変で、やっと僕も家事に慣れてきたところだった。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲む。
「風邪引かないようにねー。」と姉さんは自分の部屋へ入って行った。
施設に入ろうとかさっき考えてたけど、僕が施設に入ったら姉さんが一人になっちゃうし無理かな。
別の方法何か考えないといけないな。
髪の毛をドライヤーで乾かしてから部屋に戻り、ベッドにもぐりこむ。
家の有難さがわかる。最後はベッドも良くしたけど、あの埃っぽい部屋での生活ほんとにつらかった。
呼吸は自然としてたはずなのに、呼吸をするのも新鮮に感じる。
それから体が異様に重い気がする。【リアル】では素早さに応じて体が軽くなるし、筋肉だって現実世界よりもある気がする。僕って本当に頼りない体をしているんだなと痛感してしまう。

そんな事を考えていると僕はいつの間にか眠りに落ちていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...