非力だった少年はチートで生まれ変わる。

無月公主

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9p【シュガー】

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氷のようなクリスタルでできた大きなお城のギルドハウスを出てみれば、踏んでも足跡がつかない雪の道が広がっていた。
空には太陽が昇っていて雲がちらほらと並んでいた。家や店は氷っぽい何かで覆われていてキラキラと輝いていて幻想的な空間を作り出していた。

「おやおや?噂の新人君かぁ?」真後ろから男性の声がして驚いて「うわっ」と声がでてしまった。
「すまんすまん。驚かせちまったなぁ。同じギルドのシュガーだ。」
シュガーと名のった男性は金髪の短髪でガタイの良い、若干肌の黒いおじさんに見えた。
ボディービルダーとかしてそうだ。
「は、はじめまして、リキです。えっと、日本人です。」
「ほう、日本人か気が合うな!俺も日本人だ!はははっ!」
「え…てっきりアバターがあまりにも普通だったんで外国人かと…。」
日本人は突拍子もないアバターにする人が多い…対して外国人はなるべく自分とそっくりに作る事が多かった。
「シュガーって名前だけど、現実が佐藤だからシュガーってだけで姫さんには佐藤さんって呼ばれてらぁ。」
「そのシュガーだったんですね。えっと、ルナさんとは仲が良いんですか?」
「古くからの友人だ。立ち話はここまでにして一緒に昼飯いこうぜ。空腹バフがついてんぜ。」と言ってシュガーさんは肩を組んできた。
「あ、はい。僕まだこの国の事何もわからなくって。」
「そうか、んなら行こうぜ!安くてうまい。良い店がある。」

シュガーさんに連れられてきたお店の中に入ると中はボロボロな感じの店で、なんとカウンター席にはAIシンさんが座って食事をとっていた。
「は?佐藤さんと…リキさん?」とシンさんは驚いていてフォークに差していたウィンナーがポトっと皿に落ちた。
「よぉ!シン!ちゃんと食ってるか?」
「見ればわかりますよね。」とシンさんは少し不機嫌そうな顔をして此方を見ずに食事を続けていた。
「AIも食事って必要なんですか?」
「この世界ではなぁ。バトル可能なAIは俺たちユーザーと何らかわらねぇ。なんならスマホだってある。飯食わねぇと空腹のデバフだってつく。…さて、あっちの席にしようや、リキ。シン、邪魔して悪いな。」
「別に。」と素っ気ない返事をするシンさん。

僕はシュガーさんと奥のテーブル席に座った。
美しい女性店員さんに注文を聞かれて、シュガーさんが僕のぶんも適当に注文してくれた。
「さっきの試合見てたぜ。すげぇな。春風のタクト使いこなしてんだろ?」
「えっと…はい。使いこなしてるっていうより…力を貸してもらってるというか。」
「遠すぎてログは拾えなかったが、遠距離中距離近距離はいけるって感じか?」
「えっと…ログってなんですか?」
「あー…復帰って初心者より何もしらねぇんだなぁ。スマホに[動作履歴]ってボタンがあるから押してみ?」
言われた通り押してみると…いろんな動作の履歴がホログラム画面に表示された。
料理スキル使用・薬草スキル使用…これは料理を作ってる店員さんの動作ログかな?
「こんなのがあったんですね。」
「まぁ、今の初心者はチュートリアル学校ってのに入学させられて最短ゲーム内時間1年は通う事になってんだ。だいたいの事は理解できる仕組みになってる。」
「僕の時は…そういうのなかったですね。」
「だろうな…。学校は単位制で修学旅行ってのもあって…チュートリアル中は全MAPを見て歩ける。リキ、MAPはどうなってる?」
「穴ぼこ…です。」とMAPをホログラム画面に映し出してシュガーさんにも見えるように設定した。
「ま。手が空いてたら手伝ってやるから頑張ろうや。俺も昔からのプレイヤーだからなぁ。MAPの穴ぼこ埋めんの苦労したぜ。」
「ありがとうございます。復帰も学校通えれば良いのに…。」
「だよなぁ。だけどよぉ。昨日の夜は俺らのグループはお前の話で持ち切りだったんだぜ?」
「え…?」
「右も左もわかんねー復帰者の新人が入ったってな!ルナから指令がくだってんだ。お前がAIゲットするまでサポートしてやれってな。AIなんて現実世界で寝る前にゲットできるぜ?」
「寝る前に!?ほ…本当ですか!?」
「俺らミルフィオレをなめんなよ?時間も余ると思うぜ?」
「そういえば…シュガーさんもAIって持ってるんですか?」
「あ、あぁ。持ってはいるが…ちょっと失敗しちまってなぁ。見せれねぇんだ。」
「え?AIを作るのに失敗とかってあるんですか?」
「あるよ。人間を育てるのと・・・変わらないから。」とAIシンさんがいつのまにか食事がのったオボンを持って僕の隣に座った。
「…。」シュガーさんはばつの悪そうな顔をしていた。
「えっと、失敗ってどういうものなんですか?」
「簡単に言えば性格が破綻したAI。人の心を傷つけてしまう性格だとかワガママだったり。」
シンさんは説明をしながらも淡々と食事をとっていた。
「AIって思ってたより複雑なんですね。」
「人型を選ばなければそんな複雑じゃあないんだ。動物や生き物のAIは従順で良く言う事をきく。」とシュガーさんは目を合わしてはくれなかった。
「運がよければ擬人化もするし便利だよね動物は。」とシンさん。
恐らくだけど、シュガーさんのAIは人格が破綻してしまったのか?
「君、今、佐藤さんのAIは人格が破綻してるって思ったでしょ。違うから。この人のAI、ルナそっくりになっちゃっただけだから。」とシンさんに言われて飲もうとしていた水を吹き出したシュガーさん。
「だぁぁぁ~~~~~バラすなよぉ。重要機密なんだぞぉ~?一応。」
シュガーさんの顔が真っ赤になった。
「え?どうして重要機密なんですか?」
「影武者として使われてるからね。」AIシンさんは淡々と答えた。
「お前さぁ~~~そんなベラベラ新人に喋っていいのか?別ギルドのスパイとかだったらどーすんだよ。」
「…分かってると思うけど、個別設定でりきには最重要以外の機密は喋っていい事になってるから喋ってるだけで。最初を知ってるからスパイじゃないのもわかってる。」
…最重要機密…なんてものがあるんだ。それに個別設定って…細かすぎる…このゲーム。
「ちなみにどうしてそっくりになっちゃったんですか?」
「ヒト型AIは細かい設定をいくつもいくつも積み重ねてやっと完成するもので、メスを選んでルナならこう答えるだとか、これを選ぶを入力しちゃうと…ルナになっちゃうってわけ。」とAIシンさんは飽きれ口調で語ってくれた。
「…シュガーさんはルナさんが好きなんですね。」
「そーだよ!!悪いかよ!!//」シュガーさんは顔を赤くした。
「大丈夫ですよ。うちには山ほどルナもどきがいますし。」とAIシンさんは捻くれたような笑顔でいった。
「……えっと…ルナさんはみんなから好かれているんですね。ルナさんは好きな人とかいるんですかね?」
「ふっ。それ聞いちゃう~?」AIシンさんは怪しい笑みを浮かべる。
注文していた料理が運ばれてきた。
「はぁ…気が重い。」と言いながらシュガーさんは運ばれた食事を食べ始めた。
「ルナはシンカにゾッコンだよ。」AIシンさんは少し困ったような…寂し気な顔をした。
「え…シンカさんってAI…ですよね?」
「そ。君らの世界では…なんて言うのが正解なのかな…二次元に恋をする的な?」
二次元に恋…それは…痛いほど気持ちがわかる…僕はそのためにこの世界に来たようなものだから。
「そうなんですね。じゃあ僕と一緒だ。」
「んっ!?おまっ…今なんて?」シュガーさんが食事の手を止めて酷く驚いた顔をしてきいてきた。
「僕も花屋さんのAIに一目惚れしちゃいまして、この世界で一緒に生きるために復帰したんです。」

「はぁ~~~~お前……はぁ~~~~~!!」シュガーさんがあちゃーみたいな顔をしていた。
「僕らAIにとっては、嬉しい事だけどね。さてと…僕はこれで失礼しますね。」
AIシンさんは食器の乗ったオボンを返却口へ戻して店をでていった。
「シンの野郎、いらん事言いよってからに。」
「なんか、シンさん少し寂しそうでしたね。」
「まぁな。設定上はシンカもシンも恋人設定にされてるだろうから、シンにとっては目の前で浮気されてるような気分なんだろうな。」
「それは複雑ですね。」
「……そうだな。俺は…ルナの最初の恋人だっただけにより複雑だ。」
「え…。」
それは複雑だ。てっきり千翠さんとルナさんがデキてるのかと…。
情報量が多すぎて、食事を味わえず終えてしまった。
小さなホログラム画面に[体力+3 魔力+1]と表示された。
食事効果…?

店を出ると…シュガーさんは酷く落ち込んでいて「俺…ちょっとギルドハウスで休むわ。」と言って帰ってしまった。
二次元に負けるって相当なダメージ…なのかな。


僕は観光を兼ねて、しばらく町を歩いた。
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