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8p【ドラゴン現る】
しおりを挟む僕は思わず「ウォール!!」と叫んでしまった。
「問題無い、受け止めただけのこと。それより、魔力の減りが早い。」とウォールは傘を白刃取りして止めていた。
その横をハクが斬りつけようとしたが…傘がひとりでにウォールの手から抜けて、急に開いて、ハクの攻撃を自動防御されてしまった。
強い…というより、戦闘慣れしてる感じがする。
そして、ルナさんが空に浮いて傘を槍にして僕をめがけ突進してきて、それをウォールが受け止める。
「どういう仕組みなのかしら。まさか本当にその武器を使いこなしちゃうなんてね。」と挑戦的な笑みを浮かべるルナさん。
「今なら無防備だ!ハク!ハナビ!最大をいけ!!」とエイボンが裂けんだ。
「まかせろ!」ハクはルナさんに斬りかかった。
ハナビはエイボンの本よりは薄い本を宙に浮かせ開いて魔法を放った。
「ぐっ!!!」
それが命中するとルナさんの体力が減った。しかし、全身の高額装備を削り切る事はできない。
「やるじゃない…。魔法に物理、しかも…傘は何かに抑えつけられてるようね。」と冷静に今の状況を分析するルナさん。
ハナビも攻撃に加わる事でルナさんの体力をじわじわと確実に減らしていく事に成功した。
【勝てる】と…そう確信したその時!!!!
突如目の前に…。
いや、突如ルナさんが大きな大きな…この練習場でないと建物が破壊されていたかもしれないレベルのドラゴンになった。
「は…?」エイボンは目を大きく見開いて膝をついた。
AIの情報処理がおいついてない!?
「っ!!これは!!」
その大きなドラゴンの頭の上にはルナさんの表記がでていて、ルナさんがドラゴンになったという事がわかった。
ドラゴンの大きな爪で僕はひっかかれて大量の血飛沫と共に体力が3分の1になった。
こんなの…こんな…。脳裏には【勝てない】という文字が浮かんだ。
ドラゴンはトドメと言わんばかりに今度は火を吹いてきた。熱くて熱くて…火傷なんてレベルの痛さじゃなかった。
もう痛みすら感じない。ひどい激痛を通り越した。
体力が1になって練習試合は終了したがルナさんは未だに暴れていた。
「シンカ、止めてこい。」千翠さんはため息まじりにAIに命令した。
「面倒くさいなぁ。」シンカさんもため息をつきながら宙を浮いてドラゴンのもとへいって、ドラゴンに触れた。
するとドラゴンは段々と小さくなって、元通りのルナさんの姿に戻り、倒れてしまった。
「痛いか?」と千翠さんは這いつくばってる僕の前にしゃがんで話しかけてきた。
「痛い…です。汗が…止まらない…気がします。涙も。」
「ゲームですよ。錯覚にすぎない。ゆっくり深く呼吸しなさい。悪い夢を見ているのと変わらない。」そう千翠さんに言われてゆっくり深く呼吸をすれば痛みが…おさまった。
そもそも痛みは引いていたのかもしれない…心に傷をおった気がした。
練習試合が終了して僕の体力と魔力は元通り満タンになっていた。
シンカさんがルナさんをお姫様抱っこして此方に戻ってきた。
「お見苦しいものをお見せしてしまってすみません。ルナは体力が残り10%を切るとドラゴンになってしまうレア装備の所持者なので。」とシンカさんが軽く頭を下げた。
「さすが最強クラスといわれてる春風のタクトですね。ルナを暴走状態まで追い込める奴は中々にいないですよ。まぁ実際には課金回復薬を飲んでの試合になりますからルナがああなる事は滅多にないでしょうけど。」千翠さんは良い笑みを浮かべていた。
「ドラゴンは強いですけど、意識の喪失と暴走 どうにかなりませんかね。体力も魔力も膨れ上がって際限なく暴れるし。」とシンカはやれやれといった表情をする。
「それをどうやって解除させたんですか?」
「AIは現実世界の携帯とリンクしているのをご存知ですか?というか、今存じてください。一瞬だけゲームとの接続を切って元に戻すんですよ。」
「え?AIが勝手にそんな事…可能…なんですか?」
「まぁ…色々あるんですよ。奥の手ってやつです。」
「AIシステムが実装される前はどうしてたんですか?」
「私が現実世界で接続を切っていましたよ。しかし、私が此方に帰ってきた時には3日ほど時間が過ぎていて…不便でなりませんでしたね。」と千翠さんは少しげんなりとした顔をして見せた。
「じゃあ、一緒に住んでるんですか?」
「いえ…今は。その話はまた今度にしよう。とにかく、アナタの実力が良くわかりましたので正式試合の相手も考え易くなりました。」
正式試合の相手?もしかして丁度良い人と対戦させてくれるか?
「ルナー、起きてください、ルナー。」とシンカさんが自分の腕の中にいるルナさんを軽く揺さぶって起こす。
「ん…。」
「姫、試合の方は終わっていますよ。」と千翠さんはルナさんの頭をポンっと優しく叩く。
なんだか…本当に姫っぽいなルナさん。サークルの姫的な?
「あ、ごめんなさい。私…。」と言って目を覚ますルナさん。
でも、そうか。ルナさんはドラゴンになってしまうから、この広い練習場でないといけなかったのか。
「じゃあ自分はルナを休ませに部屋へ戻りますので。」とシンカさん。
「あぁ、頼んだ。」と千翠さん。
ルナさんがホログラム画面を引っ張り出す動作をして、ポチポチと何かを押せば空間が裂けた。
シンカさんはルナさんを抱っこしたまま裂け目に入っていった。
「凄いですね。AIなのに主を連れてワープしたりとか。」
「AIを持つとわかる事ですが、色々とそういった設定ができます。さて、試合前にいくつかクエストをこなして基礎体力と魔力の底上げをした方が良いでしょうね。」と千翠さんがアドバイスをくれた。
「わかりました。」
「メニューを開けばオススメクエストやデイリークエストが見られますよ。近頃激しくアップデートが繰り返されていますからね。覚える事が多いでしょうけど頑張って下さい。」
「はい!」
デイリークエストって…確か、毎日繰り返しできるクエストの事だったっけ。
実際にメニューを開いて見るとそれが見つかった。
「クエスト中に試合ができるかもしれません。本来なら100万円以上するであろう防具一式をお渡ししてありますから、負けはほとんど無いに等しいですがね?」
「はい。頑張ります。」
千翠さんはふっと少し微笑むと練習場を出ていった。
とりあえず…デイリークエストだけやってみようと思った瞬間お腹がぐるるるとなってしまった。
これは先に昼ごはんかな。
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