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4p【春風のタクト】
しおりを挟む「凄いですね。この魔法みたいな移動手段はいつ実装されたんですか?」
「これは国が沢山できはじめてからよ。」
広い、そして氷の空間。氷というか水色ベースに黄色と桃色が入り混じったようなクリスタル系の家具一式で揃えられた寒い部屋。
「リキさん寒そうですね。ルナ、まずは装備から揃えてあげたらどうですか?」とAIシンカが言った。
「シン、悪いけど千翠を呼んできて頂戴。」とルナさんが金髪で背の高いAIシンに頼んだ。
ルナさんは近くの椅子に座った。
「えー…なんで僕ばっかり。」と気だるそうに返答してから「行ってくる。」と言って先程のように空間を裂いて移動するシン。
「シンがあぁなのは人数が増えすぎたギルドの管理がめんどくさくなって、ルナが 面倒だ ばかり言うようになったせいですよ。きっと。」とAIシンカ。
「う…。今はほら千翠がほとんどやってくれてるから。」
しばらくすると空間が裂けてAIシンと黒い髪を肩くらいまで伸ばしてあるエルフっぽい見た目で緑の高級そうな金の刺繍入りローブを着た男性が部屋に入ってきた。
「姫、また新人を拾ってきたそうですね。」
「千翠!!そうなの、今回の新入りは運営に加護を受けてる可能性が高いわ。うちで是非おさえておきたいの。」とウキウキしたような感じで話すルナさん。
「…なるほど、利用価値がありますね。」と少し口角を上げる千翠さん。
千翠さん…。この人も強そうだ。何より着ているローブには見覚えがあった。
「あの…もしかしてそのローブ、初心者村の近くにあるダンジョンの超地獄級クエストのクリア報酬ですか?」
「そうですよ。このギルドの創設時からいる人はだいたい持ってますね。おっと、自己紹介がまだでしたね。私は千翠と申します。このギルドの副長を務めております。」と言ってニコリと笑う千翠さん。
「あ、えっと、僕はリキです。今日復帰したばかりで…しかも、プレイしてた頃の記憶が曖昧で右も左もわかりませんが、よ、よろしくお願いします!」と言って頭を下げた。
「えぇ、此方こそ。早速ですが装備の方をまず整えましょうか。何系の武器を使っていましたか?」
「槍とかたまに魔法も。でも全然スキルとかは上がってません。」
「ふむ。つまり手に入れた武器を適当に扱っていたという事ですね。運営との繋がり。もしかすると…ふむ。姫、春風のタクト 余ってませんでしたか?」
「えー!!嫌よ!とるの苦労したのに!!やだやだやだ!!」とルナさんが先ほどの凜とした表情を崩してだだをこねる子供のように顔をふくらましてぷいっと顔をそらした。
すると千翠さんはAIシンカの目をみて顎でしゃくって指示をだした。するとAIシンカはコクリと頷く。
「ルナ、これは夢の為です。ルナにはいつもの傘や扇子があるし、リキさんが負けてしまったら元も子もないですよね?ルナ。自分も彼にはタクトが似合うと思いますし。」とAIシンカは優しくなだめるようにルナさんに囁いた。
「…う゛。」
「今日一日そばにいますから。」
「わかったわ。使い終わったら返してちょうだいね。」
ルナさんは渋々スマホをいじってポチポチと操作して、僕に春風のタクトという名前の武器をプレゼントしてくれた。
「コホンッ。その武器は別に返す必要はございませんので好きに扱って頂いて結構です。」と千翠さんが良い笑顔をして僕に言った。
「はぁ!?」とルナさんは怒り筋をたて、どこからかピンクのフサフサがついた扇子を取り出して千翠さんに氷柱入りの突風をあてた。
千翠さんは突風をいとも簡単に手をかるくふっただけで消し去った。
バトルをしなくとも、体力の減らない練習ができる。ちゃんとした練習場エリアにいけば体力は減るが死にはしない。たしかそうだったっけ。
でも、いったいどうやってあの氷柱を消し去ったんだろう?
「ん?何か?」じっとみつめてしまって千翠さんに気付かれた。
「すみません、どうやってあの氷柱と突風を消したんですか?」
「あぁ、武器は豊富でね。ごらんの通り、うちの姫様は何かと手を出す癖がありますので化学分解系の武器を常時装備してるのですよ。物理攻撃に弱すぎる難点を除けば優秀な武器ですよ。これは。」良く見ると千翠さんの手首に太極マークがついた数珠がついてそれが武器なのだと察する。
「ルナは氷属性みたいなもんですから、なんでも分解されちゃいますよね。唯一勝てない相手というか。」とAIシンカが説明してくれた。
「王には…ならないんですか?」と、つい言葉を発してしまい「あっ!!すみません!!失礼な事をっ!!」と直ぐに謝った。
「何を言ってるのですか?…これも戦略のうちですよ。」と千翠さんはうっすらと黒い笑みを浮かべた。
背筋が一瞬ゾクりとした。
「さて、あとの防具一式ですが、その前に春風のタクトは特殊武器。春を呼び風を呼び…まぁ、何が起こるかわからない武器で皆さん使う事を拒んでいるレア武器です。」と千翠さん。
え?この武器もしかしてゴミだったり。みんな使うのを拒むって。しかも、どうやって扱う武器なんだ??
「ともあれ武器の性質がわからないと防具は選べませんので、しばらく姫と練習をして使い方と性質を私に見せてください。」
「えっ!」
僕がバトル王と?まともに動けないぞ!?
「まぁまぁ、千翠さんと戦うよりマシなんで、練習ですし、適当に武器を使う練習をするといいですよ。」とAIシンカは僕の肩をポンポンと叩いた。
武器を装備してみると、とりあえず見た目は白くて特に何の絵柄もなく、ほんとにただの白い棒。なんか魔法使いがふるいそうな杖っぽいけどタクトっていうんだから…音楽を奏でるもの?
いやいや、指揮棒だから…指揮…棒?
試しに優しくそっとタクトを振ってみるとそよ風が吹いた。
風を操ったような気がした。
そう思っていると先ほど千翠さんに向けた氷柱と突風が僕の方に向けられて・・・ぐさぐざと氷柱がささって、酷い痛みがして「あ‶あ‶あ‶ああっ!!」と叫んでしまった。
「痛そう。」とルナさんが呟いた。
でもすぐに痛みはひいた。通常のじゃれあい程度の練習において痛みを感じる時間は3秒ほどだと聞いた事がある。それにしても痛くて怖かった。
「まだまだいくわよ。」とルナさんは次々と氷柱を混ぜた風を飛ばしてきた。
自分の顔面を目掛けてくる氷柱を咄嗟にタクトでふりはらおうとすれば、氷柱が溶けて水になった。
「え?・・・・あれ?」
「なんで私が春風のタクトを手放すのを渋ったかわかる?そこそこ使えるからよ。」とルナさん。
てことは、柱を溶かせる事を知っていたのか。教えてくれたら良いのに。
「今、教えてくれたら良いのにって思ったでしょ?そういうわけにはいかないのよ。その武器は特殊だから感じる事が大事。風は感じた?」
「あ、はい。そよ風を感じました。」
「その武器は最高ランクの最強武器。でも使ってる人は一人もいないわ。」
それは運営が発表したユーザーが使用している武器ランキング最下位の武器。現実の一ヶ月はこの世界にとって、気の遠くなるようなくらいの時間で、その時間の中で正式バトルに使用された回数は0。練習使用回数は少々。それは恐らく、この武器を使いこなそうとした私を含め少数のもの好きのみだからよ。」とルナさん。
「ふっ。自分で物好きって言ってるし。」とAIシンカはひそかに笑った。
「私は使い方を知っているけれども、多分そのうちの一つか二つしか知らない。だから正式バトルでは、同じ最高ランクのちゃんと扱える傘と扇子しか使ってないわ。」
「嘘つき。ここの王になった時は大きな・・・もごっ!!もごもごっ!!」AIシンカは話している途中でルナさんに口を防がれた。
「え?嘘?」
「昔は最高ランクの武器なんて1個しか持ってなくて今みたいに使いたい武器を自由に選べなかったの!あれは無し。」と慌てるルナさん。
「たまに負けそうになると使ってるじゃないですか。アレ。」千翠さんは真顔で言った。
「もお!!とにかく!そのタクトは生きてるようなもので!気持ちがあるの!AIみたいなものなの!正確に操作するなんて不可能に近いの!わかった?」とルナさん。
この武器…生きてるんだ…。
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