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第三十三話【終焉】
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聖女ミカは全てを思い出した。
「アキト君。」
聖女ミカがそう呟くと大きく目を見開くエンバートと同時にエンバートの髪の毛が伸びて地に着きそうなほどの長さになった。
「ミカ。」
「思い出した?」
「あぁ。俺は神だったんだな。」
「うん。それで、どうしたらみんなを救える?」
「知っての通り、俺は神だが、何もできない神だ。一度神の城へ戻る必要がある。」
「あの時の私は何の力もなかったけど、今の私はアキト君に力を分けれるよ。」
「何?」
ミカは眩い光を放ち、両手の中に美しい輝きを放つ光の玉を作り出して、それをエンバートだった神に押し入れた。
「聖なる力は万能・・・でしょ。」といって、大量の汗を流し力なく笑うミカ。
神は馬を降りて、ぐったりとするミカを抱き上げた。
「あまり無茶をするな。」
「えへへ。皆が幸せになる世界を見よう?」
「あぁ。そうだな。」
神は優しく微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇
エルヒリアの美しい淡い水色の長い髪はくすんで、服も砂埃だらけ。それは隣にいるジェイド王子も同じだった。二人はボロボロな姿で神の国らしき場所へ辿り着いていた。
しかし、二人の目の前には金色の刺繍が施された煌びやかな白い制服を着た兵士が立っていた。
「すみませんが王の許可なくここを通すわけにいきません。」
「僕はスイートローズ王国第二王子のジェイドです。どうか、この国の王様に…。」
ジェイド王子が王への面会を求めようとすると背後に何者かの気配を感じてエルヒリアと二人同時に後ろを振り向いた。
「聖女様!!!と、隣はエンバート様?」
大きく目を見開いて驚いてしまう。それはそうだ。エンバートの髪は地につくほど長く、腕の中にいるミカは随分と顔色が悪く、ぐったりとしていた。
「や、やほー。」
「こ、これはこれはアキト様のご友人でしたか!」と敬礼する兵士。
「すまんが急ぎ俺の宮殿へと帰りたい。サルバトーレ家で一度に4人ワープさせられる人間はいないか。」
「一度に4人ですか?そんな化け物みたいな事ができるのは、今のサルバトーレ家には一人しかいませんよ。今も昔もエルメロイ様一人です。」
「そうか。ならエルメロイを呼んでもらえるか?」
「エルメロイ様は執務で忙しいお方です。変わりにクラリアス家の人を呼びましょう。あの方なら一度に四人くらい余裕でしょう。」
「クラリアスって?私と同じ家名?」
「もともと、クラリアスはここの出身だ。お前が錬金術を使いこなせているのも神の国出身の祖先がいるからだな。」
「エンバート様はなんでそんなに詳しいの。」
「リア、この人はね。本当はエンバートじゃないんだ。この世界の創成者、皆が神様って呼ぶ人。」
「えぇ!?」
「なっ!?」
流石のジェイドも驚きを隠せなかった。
「お待たせしてしまいましたか?皆さん。」
大きな門から出て来たのは見覚えのある水色の髪をした男の人だった。
「え、私の家にいた人!?確かクロエル・クラリアス。」
「覚えていたか。そうとも我が子孫。そして久しいね。神様。」
「懐かしんでいる場合ではない。ごちゃごちゃした説明は後だ。俺の家へワープを頼む。」
「はいはいっと。」
クロエルがパチンと指を鳴らせば一瞬チカッとしてビリッとしたような痛みが走った。
だが次の瞬間にはもう宮殿とやらに到着しているようだった。
神がずかずかと急ぎ足で宮殿に入った。
「どうも。随分とお早いお帰りですね。」
エルヒリア達の前に立っていたのはエメラルドグリーン色のおかっぱ頭の成人男性だった。
いかにも王族です、王様ですと言わんばかりの服装と装飾品をつけていた。男性はニコリと微笑む。
「すまないが、聖女の祈りを解除してくれ。」
「また聖女が悪さでもしたんですか?」
「そうだな。神の嫁を酷く疲れさせた罪とでも言っておくか。」
「ん?そういえばクラリアスの血を引く子がいますね。」
男性は興味津々と言った感じにエルヒリアをじろじろと見る。サッとジェイドが前に出てエルヒリアを庇った。
「お前は…なるほど。」
男性がパチンと指を鳴らせばボロボロだったジェイドとエルヒリアが貴族らしい身なりへと変身した。
「アキトさん。解除をしておきました。」
「あ。天命が消えてる。」
ジェイドの手の甲にあった天命が消え去った。
「さて、馬鹿げた茶番を終わらせてあげましょう。」
「どうした?突然。」と驚く神。
「わかりませんか?そこにいるクラリアスの子孫は自分の子孫でもありますから、助けるのは当然です。どうもヒスイと申します。」
「なるほどな。」
「なるほどな。じゃないわよ!子孫ってどういう事!?ご先祖様なんですか?」
「はい。そして、そこのアナタは自分の弟の子孫ですね。」
「はい!?」
「この国の外の人間の原点はこの国から始まっている。こんな風に身近な人間と繋がりがあるのは当たり前の事だ。そんな事よりもだ。地球から来た聖女の魂を送り返すぞ。ヒスイ、力を貸してくれ。」
「仕方がないですね。可愛い子孫達の為にひと肌脱ぎますか。」
「頼む。」
ヒスイは手の平から七色の球体を作り出して神であるアキトに渡した。受け取ったアキトはその球体を自身の体の中へと入れた。
「よし。一時的だが本来の神の力を取り戻した。ハッピーエンドとやらを始めようか。」
◇◇◇◇◇
そこからは全てがあっという間に終わった。セカンドシーズンで降臨していた聖女やその他令嬢の魂は地球へ送り返されて、人々は何事もなかったかのように再びミカを聖女だと称えはじめた。
ミカは神様と一緒に神殿へ残ると言った。
私エルヒリアはラーメン屋が軌道に乗って全ての孤児たちを救う事に成功した。
その後、ジェイドと結婚し子宝にも恵まれた。
◇◇◇
「こうしてまたお茶会を開けるなんて夢みたいですね。」
サノアル・スイートローズは自分の子供を膝の上に乗せて紅茶を啜る。
青空の下、王宮の庭園でテーブルを囲む5人の令嬢とその子供達。少し離れたところに5人の紳士達が立って、その様子を見守っていた。
「そうだね!エルヒリアが魔法を覚えて色んな事ができるようになったおかげだね!」
お腹を大きくした聖女ミカがニッコリと笑って答えた。
「本当に良かったです。皆さんとこうして平和に暮らせるようになるなんて…。」
ドーリッシュ・ヴァレンは涙ぐみながら膝の上に乗せている褐色肌の娘の頭を撫でる。
「本当にね。私もこんなに幸せになれるなんて思ってもみなかったわ。」
ギャラクレア・リュウドは自分の足元で二人の子供が草弄りしているのを愛おしそうに眺めている。
「ミカの子供はまだ生まれないの?」
エルヒリア・スイートローズは生まれたばかりの子供を抱っこしていた。
「うん、神様の子供だからかな?普通の人より時間がかかるみたい。」
「そっかぁ。赤ちゃんの期間も長いのかな?」
「長いかもしれないけど、私もアキト君も永遠の時を生きる事になるから短いかもしれないね。」
「私!ミカさんの為に沢山本を書きます!!ミカさんが飽きないくらい沢山本を用意しますね!」
「ありがとう、ドーリッシュ。」
「私もラーメン屋を耐えさせない努力だけはするわ!」
「ありがとう、リア。」
「私も長い時を生きる事になりそうだから、いつでも服を作ってあげる。」
「ありがとう、クレア。」
「私は何の力になれそうにありませんね。」
「ううん。サノアルはこうして私をお茶会に呼んでくれるじゃん!私年下だし世間知らずだし、すっごく色々助かってるんだから!聖女なのに仲間として見てくれてありがとう。みんな大好き!!」
ミカは満面の笑みを浮かべた。その笑顔につられて自然と笑みがこぼれた。
「アキト君。」
聖女ミカがそう呟くと大きく目を見開くエンバートと同時にエンバートの髪の毛が伸びて地に着きそうなほどの長さになった。
「ミカ。」
「思い出した?」
「あぁ。俺は神だったんだな。」
「うん。それで、どうしたらみんなを救える?」
「知っての通り、俺は神だが、何もできない神だ。一度神の城へ戻る必要がある。」
「あの時の私は何の力もなかったけど、今の私はアキト君に力を分けれるよ。」
「何?」
ミカは眩い光を放ち、両手の中に美しい輝きを放つ光の玉を作り出して、それをエンバートだった神に押し入れた。
「聖なる力は万能・・・でしょ。」といって、大量の汗を流し力なく笑うミカ。
神は馬を降りて、ぐったりとするミカを抱き上げた。
「あまり無茶をするな。」
「えへへ。皆が幸せになる世界を見よう?」
「あぁ。そうだな。」
神は優しく微笑んだ。
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エルヒリアの美しい淡い水色の長い髪はくすんで、服も砂埃だらけ。それは隣にいるジェイド王子も同じだった。二人はボロボロな姿で神の国らしき場所へ辿り着いていた。
しかし、二人の目の前には金色の刺繍が施された煌びやかな白い制服を着た兵士が立っていた。
「すみませんが王の許可なくここを通すわけにいきません。」
「僕はスイートローズ王国第二王子のジェイドです。どうか、この国の王様に…。」
ジェイド王子が王への面会を求めようとすると背後に何者かの気配を感じてエルヒリアと二人同時に後ろを振り向いた。
「聖女様!!!と、隣はエンバート様?」
大きく目を見開いて驚いてしまう。それはそうだ。エンバートの髪は地につくほど長く、腕の中にいるミカは随分と顔色が悪く、ぐったりとしていた。
「や、やほー。」
「こ、これはこれはアキト様のご友人でしたか!」と敬礼する兵士。
「すまんが急ぎ俺の宮殿へと帰りたい。サルバトーレ家で一度に4人ワープさせられる人間はいないか。」
「一度に4人ですか?そんな化け物みたいな事ができるのは、今のサルバトーレ家には一人しかいませんよ。今も昔もエルメロイ様一人です。」
「そうか。ならエルメロイを呼んでもらえるか?」
「エルメロイ様は執務で忙しいお方です。変わりにクラリアス家の人を呼びましょう。あの方なら一度に四人くらい余裕でしょう。」
「クラリアスって?私と同じ家名?」
「もともと、クラリアスはここの出身だ。お前が錬金術を使いこなせているのも神の国出身の祖先がいるからだな。」
「エンバート様はなんでそんなに詳しいの。」
「リア、この人はね。本当はエンバートじゃないんだ。この世界の創成者、皆が神様って呼ぶ人。」
「えぇ!?」
「なっ!?」
流石のジェイドも驚きを隠せなかった。
「お待たせしてしまいましたか?皆さん。」
大きな門から出て来たのは見覚えのある水色の髪をした男の人だった。
「え、私の家にいた人!?確かクロエル・クラリアス。」
「覚えていたか。そうとも我が子孫。そして久しいね。神様。」
「懐かしんでいる場合ではない。ごちゃごちゃした説明は後だ。俺の家へワープを頼む。」
「はいはいっと。」
クロエルがパチンと指を鳴らせば一瞬チカッとしてビリッとしたような痛みが走った。
だが次の瞬間にはもう宮殿とやらに到着しているようだった。
神がずかずかと急ぎ足で宮殿に入った。
「どうも。随分とお早いお帰りですね。」
エルヒリア達の前に立っていたのはエメラルドグリーン色のおかっぱ頭の成人男性だった。
いかにも王族です、王様ですと言わんばかりの服装と装飾品をつけていた。男性はニコリと微笑む。
「すまないが、聖女の祈りを解除してくれ。」
「また聖女が悪さでもしたんですか?」
「そうだな。神の嫁を酷く疲れさせた罪とでも言っておくか。」
「ん?そういえばクラリアスの血を引く子がいますね。」
男性は興味津々と言った感じにエルヒリアをじろじろと見る。サッとジェイドが前に出てエルヒリアを庇った。
「お前は…なるほど。」
男性がパチンと指を鳴らせばボロボロだったジェイドとエルヒリアが貴族らしい身なりへと変身した。
「アキトさん。解除をしておきました。」
「あ。天命が消えてる。」
ジェイドの手の甲にあった天命が消え去った。
「さて、馬鹿げた茶番を終わらせてあげましょう。」
「どうした?突然。」と驚く神。
「わかりませんか?そこにいるクラリアスの子孫は自分の子孫でもありますから、助けるのは当然です。どうもヒスイと申します。」
「なるほどな。」
「なるほどな。じゃないわよ!子孫ってどういう事!?ご先祖様なんですか?」
「はい。そして、そこのアナタは自分の弟の子孫ですね。」
「はい!?」
「この国の外の人間の原点はこの国から始まっている。こんな風に身近な人間と繋がりがあるのは当たり前の事だ。そんな事よりもだ。地球から来た聖女の魂を送り返すぞ。ヒスイ、力を貸してくれ。」
「仕方がないですね。可愛い子孫達の為にひと肌脱ぎますか。」
「頼む。」
ヒスイは手の平から七色の球体を作り出して神であるアキトに渡した。受け取ったアキトはその球体を自身の体の中へと入れた。
「よし。一時的だが本来の神の力を取り戻した。ハッピーエンドとやらを始めようか。」
◇◇◇◇◇
そこからは全てがあっという間に終わった。セカンドシーズンで降臨していた聖女やその他令嬢の魂は地球へ送り返されて、人々は何事もなかったかのように再びミカを聖女だと称えはじめた。
ミカは神様と一緒に神殿へ残ると言った。
私エルヒリアはラーメン屋が軌道に乗って全ての孤児たちを救う事に成功した。
その後、ジェイドと結婚し子宝にも恵まれた。
◇◇◇
「こうしてまたお茶会を開けるなんて夢みたいですね。」
サノアル・スイートローズは自分の子供を膝の上に乗せて紅茶を啜る。
青空の下、王宮の庭園でテーブルを囲む5人の令嬢とその子供達。少し離れたところに5人の紳士達が立って、その様子を見守っていた。
「そうだね!エルヒリアが魔法を覚えて色んな事ができるようになったおかげだね!」
お腹を大きくした聖女ミカがニッコリと笑って答えた。
「本当に良かったです。皆さんとこうして平和に暮らせるようになるなんて…。」
ドーリッシュ・ヴァレンは涙ぐみながら膝の上に乗せている褐色肌の娘の頭を撫でる。
「本当にね。私もこんなに幸せになれるなんて思ってもみなかったわ。」
ギャラクレア・リュウドは自分の足元で二人の子供が草弄りしているのを愛おしそうに眺めている。
「ミカの子供はまだ生まれないの?」
エルヒリア・スイートローズは生まれたばかりの子供を抱っこしていた。
「うん、神様の子供だからかな?普通の人より時間がかかるみたい。」
「そっかぁ。赤ちゃんの期間も長いのかな?」
「長いかもしれないけど、私もアキト君も永遠の時を生きる事になるから短いかもしれないね。」
「私!ミカさんの為に沢山本を書きます!!ミカさんが飽きないくらい沢山本を用意しますね!」
「ありがとう、ドーリッシュ。」
「私もラーメン屋を耐えさせない努力だけはするわ!」
「ありがとう、リア。」
「私も長い時を生きる事になりそうだから、いつでも服を作ってあげる。」
「ありがとう、クレア。」
「私は何の力になれそうにありませんね。」
「ううん。サノアルはこうして私をお茶会に呼んでくれるじゃん!私年下だし世間知らずだし、すっごく色々助かってるんだから!聖女なのに仲間として見てくれてありがとう。みんな大好き!!」
ミカは満面の笑みを浮かべた。その笑顔につられて自然と笑みがこぼれた。
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