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第十九話【聖女の祈り】
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プレジャデス王子の一言で凍り付いた。
「今って…どうしてそう思ったの?」
聖女が沈黙を破って王子に問う。
「つい最近、父上に用があって玉座の間へ行ったんだ。そしたら、俺とそう背丈が変わらないジェイドがいて、内心かなり驚いたけれど、こっちもそれなりに大きな話をしに行っていたもんだからスルーしたよ。」
「なるほど、あのジェイド王子が育っちゃったのかぁ。」
聖女は呑気そうだった。
「あの、聖女様、新たな聖女様が降臨するのよ?不安ではないの?」とクレア。
「良いよ、別に。差別されたり、迫害されたりするのは慣れてるし。」
ニコニコしながら答える聖女に「えっ?」と困惑してしまうクレア。
あぁ、一緒だ。と思ってしまう。
「そんな顔しないで。私ね、聖女っていうより、神の使いなのかもって思ってる。この世界を作った人とお話できるの。だから、どんなに差別されても迫害されても、私は不幸にならない。」
「そんな凄い事できるの!?」と思わず聖女の手を握った。
「うん、だから、あの神託を本物にする事もできるよ。でも、それは流石の私でもダメな事だってわかってるからやらないけどね。人の心を操るって事だし。」
「ふーん、神託は偽物だったんだ。」とプレジャデス王子が気味の悪い笑みを浮かべる。
「あっ。」と聖女様は慌てて自分の口に手をあてる。
「嘘はいけないんだー。聖女様。」とプレジャデス王子は口角を上げたまま聖女様をギロリと睨んだ。
「え、えーっと。」と冷や汗をかく聖女様。
「少なくとも俺とサノアルには本物の神託を下してよ。」
「え!?何を言ってますの?」とサノアルが反応する。
「今のサノアルは俺なんかより十分頭も良いし、国だって回していける。俺が恋愛に盲目になってダメ人間になったとしてもね。神託下しちゃってよ。」
「いけませんわ!」
プレジャデス王子はサノアルの手を掴んだ。
「俺と一緒に堕ちて下さいませんか。お姫様。」
「は?えぇ!?」
いつもわりと冷静なサノアルだが、流石に赤面してオロオロとしてしまう。
「俺としては国がまともに回るならそれで良いっていうところもあるけれど、何より、もうこの方法しか君を守る事が難しいと思う。」
「どうして、そこまでして、私を守ろうとして下さるのです?」
「その答えは、もう何度も言ってるはずなんだけどな。」
「サノアルはプレジャデス王子の事好きじゃないの?」とクレア。
「そ、それは。嫌いではないですけど…。でも本当に恐くて。」
「なら、殺される確率がゼロなら結婚できる?」
「できますけど…。」
「サノアル、もう幸せになりなさいよ。脅えてばかりじゃ人生楽しくないでしょう?」
「クレア…。」
「なら、もういいかな?」とプレジャデス王子。
サノアルはコクリと頷いた。
「神託をお願いできますか?聖女様。」
「うん。ついでに第二シーズンについても聞いてみるね。」
聖女様は膝をついて祈った。
◇◇◇◇聖女視点◇◇◇◇
この世界を作った神様は真っ黒な髪の毛で赤い瞳をしていた。それはまるでギルクライムのようだ。
いつもは横になって本を読んでいるのに、今日は座って見知らぬ緑の髪の人とチェスをしていた。
緑の髪の人はとっても高貴なオーラを放っていた。布を適当に纏っている神様とは大違いだ。
「おや、お客様ですね。」と緑の髪の人がこっちをみて言った。
「どうした?何か願いでもあるのか?」と神様もこっちをみた。
「はい。サノアル・ハイドシュバルツとプレジャデス・スイートローズの縁結びをお願いしにきました。」
「またか。」と溜息まじりに言う神様。
「また?」
「その二人は生まれ変わる度にツガイになりたがる。」
「へぇ~。で、結んでくれるんですか?」
「そうだな。安産の祝福でも与えてやろう。」
「安産?」
「そうだ。その二人にはもう既に子が宿っておる。早うに結びの儀式でもせいと言うておけ。それが神託だ。」
「わ、わかりました。」
「神様、この方はどなたですか?」と緑の髪の人が神様に聞いた。
「俺の嫁。」
「よ、嫁ですか。初耳ですね。どういう馴れ初めで?」
「馴れ初めのぅ。こやつが過去か未来の現世に降りた儂と結ばれた。ただそれだけだのぅ。まぁ、今の儂にはその記憶がすっぽり抜けておってサッパリだがのぅ。」
二人はチェスを打ち始める。
「なるほど。なら奥様が帰られてからゆっくりと聞かせてもらうとしましょう。」
神様には私と結ばれた記憶がない。私も神様と結ばれた記憶なんかない。だけど、心で好きだと感じてしまう。ずっと側にいたと認識してしまう。神様は私と直面すると私と結ばれた記憶が無くなるらしい。私がいない間は私の事を覚えているみたい。だから私が願った事は基本的に素直に聞いてくれる。
「おい、聖女。分かっていると思うが、自分の恋愛もしっかりと進めねば聖女としての力を失う事になるぞ。心しておけ。」
「分かってまーす。」
神様は甘薔薇の中にいる。エンバート・ギルクライムがそうだ。
本物のエンバート・ギルクライムが家を出たいと願った。それを神が聞き入れて一時的にエンバートとなり替わったけど、不運な事に神である事を忘れエンバート・ギルクライムとして生きてしまっている。本物のエンバートはどこへ行ったのかというとこのクラリアス邸にいた。
フェリスと呼ばれる少年だ。どういう訳か最近まで歳を取らずにいたようだ。神の介入した事だ。何が起こっていても不思議ではない。
祈りを終えた。数分もかかっていなかった。神様がいた世界は過去でも未来でもない空間で時間という概念が無かった。
「神託を下します。サノアル・ハイドシュバルツ、プレジャデス・スイートローズ。早急に結婚なさい。」
本物の神託が下れば天命として聖属性を持つものと、印を持つ本人にしか見えない印が手の甲に現れる。プレジャデス王子とサノアルの手の甲には印が浮かび上がっていた。
「これは…。」
「どうやら本物のようだね。」
コンコンとドアをノックされる音がして扉を見ればゆっくりと開かれて、エンバートが見えた。
「お兄様!?」と驚くギャラクレア。
「ここにいたのか。」と心地の良い重低音が響いた。
「私、何があっても帰りませんわよ。」とクレアがキッとエンバートを睨んだ。
「連れ帰りはしない。今日連れ帰るのは我が婚約者ミカだ。」
「ミカ?」
「私の名前だよ。じゃあ、帰ろうかな。リア様、クレア様。神託が欲しくなったら、いつでもお手紙下さいね。」
「え、えぇ。」
「分かったわ。」
立ち上がってエンバートにエスコートされて部屋を去った。
「どうしてここへ?」とエンバート。
「クラリアス領に友達が集まってたから魔物退治してたの。」
「コホンッ、ミカに…。」
「ん?」
エンバートは未だに私の名前を口にすると顔を赤くして恥ずかしそうにする。不器用な神様。
「お前にちょっかいをかけていた者だが、皆天罰が下ったかのように死んでしまった。母上も長くはないだろう。」
「そっか。ごめんね。」
私がギルクライム邸を出た本当の理由は嫌がらせを受けたからだ。私は腐っても神に愛された聖女。嫌がらせをしようものなら天罰が下ってしまう。エンバートのお母さんに水をかけられて天罰を下してしまったのだ。いたたまれなくなって逃げてしまった。
「お前が謝る事ではない。むしろ、此方が謝らなければ。辛い思いをさせてしまった。王都に屋敷を買った。これからはそこで暮らす。」
「え?」
「もう誰も、お前を苦しめる者はいない。だから、俺の側から離れるな。」
不器用な人。自分の母親が死ぬかもしないというのに、顔を真っ赤にさせちゃって。
「今って…どうしてそう思ったの?」
聖女が沈黙を破って王子に問う。
「つい最近、父上に用があって玉座の間へ行ったんだ。そしたら、俺とそう背丈が変わらないジェイドがいて、内心かなり驚いたけれど、こっちもそれなりに大きな話をしに行っていたもんだからスルーしたよ。」
「なるほど、あのジェイド王子が育っちゃったのかぁ。」
聖女は呑気そうだった。
「あの、聖女様、新たな聖女様が降臨するのよ?不安ではないの?」とクレア。
「良いよ、別に。差別されたり、迫害されたりするのは慣れてるし。」
ニコニコしながら答える聖女に「えっ?」と困惑してしまうクレア。
あぁ、一緒だ。と思ってしまう。
「そんな顔しないで。私ね、聖女っていうより、神の使いなのかもって思ってる。この世界を作った人とお話できるの。だから、どんなに差別されても迫害されても、私は不幸にならない。」
「そんな凄い事できるの!?」と思わず聖女の手を握った。
「うん、だから、あの神託を本物にする事もできるよ。でも、それは流石の私でもダメな事だってわかってるからやらないけどね。人の心を操るって事だし。」
「ふーん、神託は偽物だったんだ。」とプレジャデス王子が気味の悪い笑みを浮かべる。
「あっ。」と聖女様は慌てて自分の口に手をあてる。
「嘘はいけないんだー。聖女様。」とプレジャデス王子は口角を上げたまま聖女様をギロリと睨んだ。
「え、えーっと。」と冷や汗をかく聖女様。
「少なくとも俺とサノアルには本物の神託を下してよ。」
「え!?何を言ってますの?」とサノアルが反応する。
「今のサノアルは俺なんかより十分頭も良いし、国だって回していける。俺が恋愛に盲目になってダメ人間になったとしてもね。神託下しちゃってよ。」
「いけませんわ!」
プレジャデス王子はサノアルの手を掴んだ。
「俺と一緒に堕ちて下さいませんか。お姫様。」
「は?えぇ!?」
いつもわりと冷静なサノアルだが、流石に赤面してオロオロとしてしまう。
「俺としては国がまともに回るならそれで良いっていうところもあるけれど、何より、もうこの方法しか君を守る事が難しいと思う。」
「どうして、そこまでして、私を守ろうとして下さるのです?」
「その答えは、もう何度も言ってるはずなんだけどな。」
「サノアルはプレジャデス王子の事好きじゃないの?」とクレア。
「そ、それは。嫌いではないですけど…。でも本当に恐くて。」
「なら、殺される確率がゼロなら結婚できる?」
「できますけど…。」
「サノアル、もう幸せになりなさいよ。脅えてばかりじゃ人生楽しくないでしょう?」
「クレア…。」
「なら、もういいかな?」とプレジャデス王子。
サノアルはコクリと頷いた。
「神託をお願いできますか?聖女様。」
「うん。ついでに第二シーズンについても聞いてみるね。」
聖女様は膝をついて祈った。
◇◇◇◇聖女視点◇◇◇◇
この世界を作った神様は真っ黒な髪の毛で赤い瞳をしていた。それはまるでギルクライムのようだ。
いつもは横になって本を読んでいるのに、今日は座って見知らぬ緑の髪の人とチェスをしていた。
緑の髪の人はとっても高貴なオーラを放っていた。布を適当に纏っている神様とは大違いだ。
「おや、お客様ですね。」と緑の髪の人がこっちをみて言った。
「どうした?何か願いでもあるのか?」と神様もこっちをみた。
「はい。サノアル・ハイドシュバルツとプレジャデス・スイートローズの縁結びをお願いしにきました。」
「またか。」と溜息まじりに言う神様。
「また?」
「その二人は生まれ変わる度にツガイになりたがる。」
「へぇ~。で、結んでくれるんですか?」
「そうだな。安産の祝福でも与えてやろう。」
「安産?」
「そうだ。その二人にはもう既に子が宿っておる。早うに結びの儀式でもせいと言うておけ。それが神託だ。」
「わ、わかりました。」
「神様、この方はどなたですか?」と緑の髪の人が神様に聞いた。
「俺の嫁。」
「よ、嫁ですか。初耳ですね。どういう馴れ初めで?」
「馴れ初めのぅ。こやつが過去か未来の現世に降りた儂と結ばれた。ただそれだけだのぅ。まぁ、今の儂にはその記憶がすっぽり抜けておってサッパリだがのぅ。」
二人はチェスを打ち始める。
「なるほど。なら奥様が帰られてからゆっくりと聞かせてもらうとしましょう。」
神様には私と結ばれた記憶がない。私も神様と結ばれた記憶なんかない。だけど、心で好きだと感じてしまう。ずっと側にいたと認識してしまう。神様は私と直面すると私と結ばれた記憶が無くなるらしい。私がいない間は私の事を覚えているみたい。だから私が願った事は基本的に素直に聞いてくれる。
「おい、聖女。分かっていると思うが、自分の恋愛もしっかりと進めねば聖女としての力を失う事になるぞ。心しておけ。」
「分かってまーす。」
神様は甘薔薇の中にいる。エンバート・ギルクライムがそうだ。
本物のエンバート・ギルクライムが家を出たいと願った。それを神が聞き入れて一時的にエンバートとなり替わったけど、不運な事に神である事を忘れエンバート・ギルクライムとして生きてしまっている。本物のエンバートはどこへ行ったのかというとこのクラリアス邸にいた。
フェリスと呼ばれる少年だ。どういう訳か最近まで歳を取らずにいたようだ。神の介入した事だ。何が起こっていても不思議ではない。
祈りを終えた。数分もかかっていなかった。神様がいた世界は過去でも未来でもない空間で時間という概念が無かった。
「神託を下します。サノアル・ハイドシュバルツ、プレジャデス・スイートローズ。早急に結婚なさい。」
本物の神託が下れば天命として聖属性を持つものと、印を持つ本人にしか見えない印が手の甲に現れる。プレジャデス王子とサノアルの手の甲には印が浮かび上がっていた。
「これは…。」
「どうやら本物のようだね。」
コンコンとドアをノックされる音がして扉を見ればゆっくりと開かれて、エンバートが見えた。
「お兄様!?」と驚くギャラクレア。
「ここにいたのか。」と心地の良い重低音が響いた。
「私、何があっても帰りませんわよ。」とクレアがキッとエンバートを睨んだ。
「連れ帰りはしない。今日連れ帰るのは我が婚約者ミカだ。」
「ミカ?」
「私の名前だよ。じゃあ、帰ろうかな。リア様、クレア様。神託が欲しくなったら、いつでもお手紙下さいね。」
「え、えぇ。」
「分かったわ。」
立ち上がってエンバートにエスコートされて部屋を去った。
「どうしてここへ?」とエンバート。
「クラリアス領に友達が集まってたから魔物退治してたの。」
「コホンッ、ミカに…。」
「ん?」
エンバートは未だに私の名前を口にすると顔を赤くして恥ずかしそうにする。不器用な神様。
「お前にちょっかいをかけていた者だが、皆天罰が下ったかのように死んでしまった。母上も長くはないだろう。」
「そっか。ごめんね。」
私がギルクライム邸を出た本当の理由は嫌がらせを受けたからだ。私は腐っても神に愛された聖女。嫌がらせをしようものなら天罰が下ってしまう。エンバートのお母さんに水をかけられて天罰を下してしまったのだ。いたたまれなくなって逃げてしまった。
「お前が謝る事ではない。むしろ、此方が謝らなければ。辛い思いをさせてしまった。王都に屋敷を買った。これからはそこで暮らす。」
「え?」
「もう誰も、お前を苦しめる者はいない。だから、俺の側から離れるな。」
不器用な人。自分の母親が死ぬかもしないというのに、顔を真っ赤にさせちゃって。
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