上 下
13 / 33

第十三話【失踪した第一王子。】

しおりを挟む
翌日には、ドーリッシュがいるであろう王室図書館へ向かった。
高校の体育館を10邸連ねても足りないくらいの広さの図書館。こんな広さでドーリッシュを見つける事ができるのだろうかと不安に思っていたが、ドーリッシュは入り口付近でヴァレン宰相と話していた。

「どうぞ。昨日渡された分は全て仕分けして、書き足しておきましたので。」と言ってヴァレン宰相に書類の束を渡す。
「君が書いた書籍はどれも興味深いというのに、それを読む暇すらない。それどころか、こうして仕事を押し付けてしまってすまない。」と、すまなさそうにドーリッシュから書類の束を受け取るヴァレン宰相。
「いえ、こうしてここで働けるのは全てベル様のおかげですので、これくらい構いません。」と言って、ニコリと微笑むドーリッシュの顔はとても可愛くて、ヴァレン宰相は思わず抱きしめてしまうほどだった。とても声を掛けずらい。
そう思っているドーリッシュが此方を見つけてしまい「り、リア様!?」と焦るドーリッシュ。
ヴァレン宰相は惜しみながらドーリッシュから離れ「それでは、また夜に。」と言って図書館から出て行ってしまった。
「すみません。」と少し乱れた髪を手櫛で整えるドーリッシュ。
「ごめんなさい。邪魔をするつもりはなかったの。」
「いえ、あの。それよりもサノアルが行方不明なの。」と不安そうな顔をするドーリッシュ。
私はドーリッシュに近寄って「サノアルはうちで保護してるわ。」と耳打ちする。
「そんなっ、あの!でしたら、待ってください。ここでは誰が聞いているかわかりません。私の部屋へ行きましょう。」

ドーリッシュに案内された部屋は図書館内にあった。どうやら図書館に住み込んでいるようだ。
部屋の中は綺麗に整頓されているが本棚がいっぱいで机の上も書類がドッサリ積まれていた。それだけでなかった。机が2つにソファーに置かれている服はドーリッシュのものではなかった。
ドーリッシュもそれを見つけて急いで拾い、別のところにしまう。
「ドーリッシュ、もしかして、ヴァレン宰相と同棲でもしてるの?」
「ひっ。あっ、えっと、分かります?」と顔を赤らめながら恥ずかしそうにするドーリッシュ。
「なんとなく…。」
「とりあえず、どうぞ、座って下さい。」
ドーリッシュはハーブティーを煎れてくれた。最近ハーブティーが流行っているのだろうか。

「あの、プレジャデス王子の事なのですが、私も最初はサノアルを罰しようとしているのではと思っていたのですが、どうやらそれは誤解だったんです。」
「そうなの?」
「はい、プレジャデス王子の親友であるベル様の話によると、かなり溺愛しているらしく、最初は適当に冤罪をかけて地下の秘密部屋に閉じ込めてしまおうとしていたらしいのですが、どうやらサノアルを抱いてしまったらしく、それがメイド達の間で噂になって、公に王城という檻に閉じ込める方向に変えていたみたいなのです。」
「ちょ、ちょっと待って。とんでもない話な気がするのだけれど。」
「はい、とんでもない話ですが、プレジャデス王子はサノアルを愛しているのは間違いないようです。」
「でもどうして…悪役令嬢に恋する話なんて1ミリもでてこなかったじゃない。」
「ヴァレン宰相ルートを進めた事はありますか?」
「あるけれど、課金の追加ルートまでは進めてないわ。」
「追加ルートでは王子の結婚式に出席する事になるのです。そして、その結婚相手はサノアル・ハイドシュバルツ。」
「え!?クレアじゃないの?」
「はい。基本的には魔力を持たない特殊なギルクライムの血を王家は受け入れませんから。」
なるほど。それで魔法の名門ハイドシュバルツなわけだ。クラリアスは氷魔法に特化してるし、本来のドーリッシュはマナーがなっていないせいで、公爵令嬢であっても王家向きではない。でも、溺愛しているなら聖女が割り込まない限りサノアルで決まっていたのだろうか?
「じゃあ、サノアルは殺されると勘違いしてるって事?」
「はい、間違えありません。この度の王子の失踪もサノアルが行方不明と知って、居ても立っても居られなくなって単独で探しに出られた可能性が高いです。」
「そうなのね。帰ったら誤解を解いてみるわ。」
「それと、今から話す事は、ごく一部の方と、王族の方々しか知らない秘密の話になります。実はプレジャデス王子殿下の髪の毛の色は黒色で瞳は赤色です。」
「え、えぇ!?」
「やはり知りませんでしたか。これは私が前世で死ぬ前に得た裏情報です。いわゆるリーク情報というやつです。」
「新たに追加された課金ルートか何かかしら。
「追加される前に私は事故で死んでしまったので分かりません。ですが、私のチート能力は絶対です。一度目にした文字や文章や物語は全て一言一句間違えずに書き写す事ができます。」
「なるほど、一言一句…。待って、話を変えるけれど、建築関係の本を読んだ事はある?」
「もちろんです。何年も図書司書をしていましたので、ほとんどの本の内容を完璧に書き出す事ができますよ。」
「神様…。」
私は思わず祈りを捧げるかのようなポーズをとった。そしてドーリッシュ神へと感謝の祈りを捧げる。
「え、えぇーっと。」と流石に困った顔をするドーリッシュ。
「ラーメンがメインの飲食店を開くのに、どうしても建築方法が分からなくて困ってるの。」
「飲食店用のって事ですか。わかりました。設計図を書きましょうか?」
「そんな事ができるの!?」
「はい。可能ですよ。」
やはりドーリッシュは神様なのだろうか。

さらに翌日になると第一王子の事など、すっかり頭から抜けてルンルンでお父様とクラリアス邸へと帰還した。

ドーリッシュも元気だったし、建築図面も書いてもらえたし、もう王都なんてとっととおさらばよ。
「ん?門の前に人が倒れているな。」とお父様が呟いたので、孤児かと思い馬車の窓を覗くと黒髪の高身長の男性らしき人が倒れていた。
馬車が地面について門前で停まったので降りて一応生きているか確認しに近寄ってみた。
「エルヒリア。不用意に怪しい者に近づいてはいけない。」と、お父様が厳しい口調で私に注意する。
男性は薄っすらを目を開けたが、すぐに気を失ってしまった。
その時、ドーリッシュの言葉が頭に響いた。

-ごく一部の方と、王族の方々しか知らない秘密の話になります。実はプレジャデス王子殿下の髪の毛の色は黒色で瞳は赤色です。-

や、ヤバイかも。一瞬だけど薄っすらと開いた瞳は赤かった。
「お、お父様。知り合いでございますわ。」
「またか。」と片手でヤレヤレと頭を抱えるお父様。
「すみません。ご迷惑をおかけして。」
「いや、いい。王家からお前を支援してやるように厳しく言われている。」
ジェイド王子のおかげね?ナイスです。後々死んでしまうのが本当に勿体ない。でも、まぁジグルド様の話だと死なない可能性もあるのかな。
とにかく今は、この王子らしき怪しい人物を手当しないといけない。
「ミア、ギルバートを呼んできて頂戴。」
「畏まりました。」

しばらくしてギルバートがやってきて黒髪の男性を客室に運んでくれた。すぐに医師を呼んで治療もしてもらった。次から次へと、どうしてこうも事件がうちで起きるのか。
まずは念の為、ジェイド王子に手紙を書くところから始めよう。
王子らしき男性の事はギルバートではなく、ミアに頼んで、私は自室でジェイド王子に長い長い手紙を書いた。
しおりを挟む

処理中です...