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第五話【魔塔主ジグルドとの遭遇】

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錬金術を学びながら孤児を連れ帰ったりなんかして数週間経ち、裏の屋敷は子供たちの楽しそうな声が溢れ返っていた。
「先生!先程の授業ですが、俺にはやっぱり魔力の流れというものが分かりません。」と言って困ったような顔をする少年。この少年は私が最初に連れ帰った孤児だ。名前はフェリス。
フェリスは真っ黒な髪の毛に紅い目を持っている。それはギルクライム家を象徴する色で、ほぼ間違えなく血筋はギルクライムなのだ。それがどうして孤児になり、クラリアス領で餓死寸前になって倒れていたのか。フェリスに聞いても何も覚えていないという、それどころか名前すら無いと言っており、私がフェリスと名付けたのだ。フェリスは命が助かった恩と言わんばかりに一生懸命に動いてくれる。錬金術の勉強も普通の勉強も必死で頑張っていて、もう少し子供らしく遊んでくれても良いのにと思ってしまうほどだ。ギャラクレアに会う事があったらフェリスの事をさりげなく調べてもらおうかしら。
「じゃあ、先生と手を繋いで魔力の流れを確認してみましょう。」
そう言って、フェリスの小さな手をとって少量の魔力を流し込んだ。実はこの他人の体に魔力を流し込むという行為、本来なら とても難しく、できる人の方が少ないらしい。何故かたまたまできてしまったのだ。というのは嘘だ。錬金術の先生とギルバートに三日三晩手伝ってもらい、やっと習得したのだ。きっと誰もが金があるなら魔法を習った方が早いと思うかもしれないけど、地球での生活を体験していれば錬金術だけで十分なのだ。全ては錬金術で事が済むのだから。
頑なに魔法を学びたくない理由は他にもある。本来のエルヒリア・クラリアスは今頃魔塔主ジグルド・ウロボロスと出会い魔法を学んで近づきたいと願い魔法学校へ進学する。今進学すれば確実にギャラクレア嬢に怪しまれる。魔法学校へはいつでも入学できる。今じゃないってだけだ。
「その子に、錬金術は無理だと思うけど。」
どこかで聞き覚えた声が耳元で聞こえた。バッと声がした方に振り向くと、ピンク色の髪に金色とブルーのオッドアイを持つ少年。そして上質そうなローブに意味のわからないバッジの数。それを見た瞬間大きく目を見開いてしまった。
私は思わず「…ジグルド・ウロボロス。」と呟いてしまった。今丁度ジグルドの事を考えていたからである。
「ん?僕のフルネームを知っているなんて珍しい。流石公爵家とでも言ったところか。」と物珍しそうに私をみるジグルド。
「この子に錬金術が無理ってどういう事ですか?」
「この子はギルクライムの血筋じゃろ?ギルクライム家は魔力を…」
突如フェリスが私の手から離れて、手の平から禍々しい黒い剣を取り出してジグルドに斬りかかった。ジグルドは意図も簡単にそれを避ける、フェリスがとんでもない速さで再びジグルドに斬りかかればジグルドは堂々と地面に胡坐をかいて座り、フェリスの剣は見えない壁により防がれていた。
「おー恐いのぅ。」
「フェリス!何をしているの!?どういう事!?」と声をかければフェリスが持っていた剣は消え去り、気を失ってバタリと倒れてしまった。急いで駆け寄りフェリスを抱きかかえる。
「気を失っておるだけじゃ。放って置け。にしても、お前さんは過保護にされとるのぅ。」と面倒臭そうな顔をするジグルド。
「どういう意味ですか?」
「素人には分からんか。まぁよい。エルヒリアはお前で間違えないか?」
「はい。私で間違えありませんけど。」

「エルヒリアに何の用ですか?魔塔主、ジグルド・ウロボロス様。」と、エルヒリアを背に隠すように間に割って入ってきたのは金髪の髪が足元まであるジグルドと同じくらいの背丈の子供だった。だけど、すぐにその子供がジェイド・スイートローズである事に気付いた。
滅多に外へ出ない彼がいきなり目の前に現れて、もう何が何だかわけがわからない。魂が口から出てしまいそうだ。いったいどうなっているのだろうか。とりあえずフェリスを床に寝かせた。
「これはこれは、弱小国の第二王子ではないか。」とジグルドは少し煽り君に言った。
「じゃく…。」とジェイドが何か言いかけたところで「ストップ!!!」と大きな声で止めに入った。1日でも早く飲食店を開きたいというのに、大事な1日をイレギュラーなイベントで終わらせてたまるか!と強く思い声を出した。ジェイドとジグルドは大きく目を見開いて驚く。
「ジグルド様はどうして此方へ?何か用事があったのではないですか?」
「おぉ、そうじゃった。我が婚約者ギャラクレアが手紙を出したいと外に出たがってのぅ。じゃから儂が預かり届けにきてやったぞ。」とニコニコして手紙を差し出してくれた。
ジェイド王子を押しのけて手紙を受け取り「ありがとうございます。」と丁寧にお辞儀をしながら、お礼を言えば「貴族は堅苦しいのぅ。」と呟くジグルド。
「それとフェリスが錬金術を使えない件ですが、どういう事でしょうか?」
「まぁ、それは…」とジグルドが口を開くが、ジェイド王子を見れば少し目を大きく見開いた。
「何か?」と少し棘のある言い方と、ジグルドを睨み気味で見るジェイド王子。
「お主、何故もっと早く儂の元へこなんだ。」
「仰っている意味が分かりません。」と王族なのに敬語を使うジェイド王子。魔塔と王族の関係についても、さっぱり分からない。でも話方を察するに魔塔の主の方が力関係は上なのだろうか。
「ふむ。お主、先祖帰りしておるぞ。この国の王は一体何をしておるのだ。一刻を争う。儂はこれで失礼する。」と言ってジグルドは一瞬で姿を消した。人が目の前で一瞬にして姿が消えてしまう事のショックで目を大きく見開いてしまった。体の芯が少し震えてしまった。お化けを見てしまったかのような気分だ。小さい頃から何度か瞬間移動の類は見た事があるけれど、前世の記憶が入ってからは初めてなので、そのノリを引き継いで今を生きているせいか説明のつかないものを見ると恐いのだ。人は訳が分からない現象に遭遇すると異常なくらい恐いと感じてしまう。まさにそれだ。
「エルヒリア、大丈夫か?」とジェイド王子に肩を持たれてようやく我に返った。
「あ、はい。というか、ジェイド王子はどうして此方に?突然現れたらびっくりするじゃないですか。」
「コホンッ…えっと、ギルバートから、その、魔塔主が現れたと報告が来て、その、君が危ない目にあってるのではないかと心配で、クルスに頼んで召喚してもらったのだ。」と少し顔を赤らめて視線を逸らし気味に話すジェイド王子。自分を心配してきてくれるなんて、可愛い子供だ。
「ありがとうございます。私は大丈夫です。ジェイド様こそお体は大丈夫ですか?外に出て平気ですか?」
「あぁ、問題ない。」
「髪の毛、どうしてそんなに伸びてしまったのですか?最後に会ってから数日しか経ってませんのに。」
「わからない。昔から、どれだけ切っても、寝て起きたらこの長さになるんだ。」
「それは不便ですね。」
「不便?………ぷふっ!!あっはっはっはっはっ。僕のこれを不便か。確かに不便だな。邪魔だしな。」
「あれ?私何かおかしな事を言いましたか?」
「あぁ。普通の人は気味悪がったりするものだ。やっぱりエルヒリアは変わってるな。」と笑顔なジェイド王子。その笑顔がとても可愛く見えた。
「その、エルヒリアって名前、長いと思いますので、宜しければリアとお呼び下さい。」
「名前が長い?ははっ。次はそうきたか。なら僕も事もジェイドと呼び捨てでいいよ。」
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