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第三話【ミアの気苦労】

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家に着くなり、お兄様は御者に馬車内を綺麗に掃除しておくように指示していた。
「お嬢様!?何をなさっているのですか!?」
専属メイドのミアは驚き青ざめた顔をしていた。
「ミア、私。この子を雇う事にしたの。」
「お嬢様、人間は猫や犬とは違うのですよ?」
「えぇ、でも、必要な事なの。」と真剣に真っ直ぐミアの目を見て言った。
しばらく見つめ合った後、私の本気度が伝わったようで、ミアは私から子供を取り上げた。
「畏まりました。まずはお風呂に入れましょう。それから…。」
ミアが少し言いにくそうな顔をする。
「医者を呼んであげて頂戴。」
ミアにとってエルヒリア以外の事で医者を呼ぶという行為は初めての事で困るのも仕方がない。
「畏まりました。」
ミアは急いで屋敷の中に入っていく。別のメイドが急いで私のところへきて、湯浴みの準備が整っておりますと言って頭を下げる。
「えぇ。ありがとう。」
ミアと子供は恐らく、使用人用の入浴場を使っているのだろう。私も酷い匂いなので、お風呂に入る事にした。
「お兄様、今日はお付き合い下さり、ありがとうございました。」
「全く、神託が下ってからお前は変わったな。」と言いながら呆れるような顔をして屋敷に入って行く お兄様。
変わらなければいけない。今世での私の行いは思い出すだけで前世の自分が嫉妬してしまう。
あれだけ辛い思いをしたのに…。今では貧乏で良かったとさえ思ってしまう。それもまた悲しい。

翌日、ミアの報告によると、子供は男の子で餓死寸前だったらしく、なんとか一命を取り留めたそうだ。ミアには目が覚めたら、オートミールをコンソメ入りの牛のミルクで煮たものを食べさせるように指示した。ミアは口をあけたままポカンとしていた。そんなレシピ誰にも聞いた事がないからだと直ぐに察した。この世界の舞台は中世だ。そもそも魔法や錬金術とかいう便利な物があるせいで発展が進んでいないのだ。魔法は誰でも使えるものではない。魔法学校というものが存在し、そこへ通い魔力を魔法に変える為の杖をもらわないと魔法は使えない。錬金術は錬金術の先生を捕まえるところから始まる。大体の錬金術師は自分の利益の為に逃げ回ったり、隠れたりして錬金術というものを伝授したがらないらしい。
先ずはラーメンがメインの飲食店を、このクラリアス公爵領に建てる必要がある。
食材も豊富と言うわけではないし、利益を出すにはコストが安くて、美味しくて新鮮な食材を探しださなければいけない。マンガみたいに簡単に建てます!次の日建ってます!等といった事にはならない。まずは前世を思い出す前の自分が大量に買い込んだ、無駄なドレス達を売り払おう。アクセサリーもいらないわね。ミアには苦労をかける事になるだろうから宝石をいくつか分けてあげないと。
大量の小麦もいるわ。幸い私の部屋がだだっ広いから全て押し込めるけど、絶対公爵令嬢がやる事じゃないわね。

コンコンと部屋をノックされて返事するとミアが手紙を加えた半透明のピンク色の鳥がのったオボンを持って入ってきた。
「ん?魔法の鳥?ピンク色って事は、ジェイド様から?」
「はい、ジェイド王子様からです。」
「相変わらず可愛い鳥ね。また急いで返事を書かないといけない内容かしら。」
ジェイド王子は必ず半透明に透けたピンク色の魔法の鳥を使い手紙を送ってくるのだ。
早速鳩から手紙を受け取って、開封して読んでみた。
・・・・・
エルヒリアへ
昨日話した話はくれぐれも内密で頼む。
僕の魔力に過剰に触れていた為、体を壊していないか心配だ。
兄上の婚約者殿に君が毎度壁の花になっていると聞いて、良心が痛んだ為出席したが、やはり僕は外に出ないほうが良いだろう。
君のように笑顔が似合う女性から笑顔を奪うわけにはいかない。
次から呼べと言ったが、体調を崩すならもう呼ばなくて良い。
久しぶりに人と話せて楽しかった。
そういえば沢山やる事があると言っていたな?
僕も力になれる事は協力しようと思う。神託が下ってしまったせいで、君を僕から解放してあげる事もできない。せめてもの償いだ。気軽に手紙を書くといい。その鳩は真っ直ぐ僕のところへ運んでくる。
ジェイドより
・・・・

「うーん。」
「何と書かれていたのですか?」
「力になってくれるみたい。悪いけど甘えちゃおっかなぁ。」
「何をですか?」
「錬金術の先生が欲しいなって思って。」
「錬金術の先生ですか?それはまた難しいですね。捕まえるだけでも、お貴族様から懸賞金が出されているほどですのに。」
「うん、王室の錬金術士をちょっと借りたくって。」
「またどうして錬金術を?」
「スープのレシピを隠すために、材料の見た目を石に変えてしまいたいの。」
「仰っていた飲食店経営の話ですか?」
「えぇ。レシピを盗まれでもされたら損しか生まれないわ。でも沢山店舗を持つ事にでもなったら全てを管理できるわけじゃないし、教えた子達がそれを売り飛ばしたりもしちゃう可能性もあるじゃない?だからスープの石を作りたいなと思って。」
「なるほど、神託が下ってからのお嬢様は日に日に凄い事を考えつきますね。錬金術でスープの石を作ろうだなんて、普通の人は宝石や鉱石を作ろうとするでしょうに。」
まぁ、正確には高熱で倒れたあの日からなんだけど。もともと、この国は神が治めていたって話だし、皆が盲目的に神を信仰していても何もおかしくない。実際聖女という存在もいる事だしね。
「錬金術の先生が捕まったら、次はもっと孤児を集める必要がでてくるわね。」
「はい?」
「30人くらいかしら。錬金術の先生から教わった事を教えて徹底的に教育して私の部下として頑張ってもらうの。そうと決まればお父様に相談して裏の使われてない屋敷を使わしてもらえないか相談しなくっちゃ。」と言って立ち上がって、早速お父様の部屋へ向かおうとドアノブに手を差しかける。
「お、お嬢様!?流石に怒られますって!」と青ざめた顔をするミア。
「確かにそうね。あ!良い事思いついたわ!!ジェイド様に手紙の返事を書かなくっちゃ!」

私はジェイド様に自分がやりたい事と目標と必要な物を事細かく書き記して手紙を出した。
「さぁ、今日はいらないドレスと宝石を売ってしまいましょう!!」

沢山のドレスと宝石を積んだ馬車に乗って市場へ行き、ドレスと宝石を売りはらった。
全て売ると馬車はお金だらけになってしまった。
「お嬢様、ほんとに宜しいのですか?いくつかはお気に入りのドレスだったはずですが。」
「えぇ。いいの。それにこれから流行りが変わるかもしれないから。あ!そうだ。ミアには無茶に付き合わせてしまってるからプレゼント。」
私は用意していた綺麗にラッピングした箱をミアに渡した。もちろん中身は宝石だ。
「お、お嬢様!?本当に私にですか?」
「えぇ、きっと私があれこれ動きまわる事が増えるからミアは苦労すると思うの。だから受け取って?」
「これを受け取らなかったら、お嬢様に大人しくしてて頂けるのでしょうか。」と幸の薄そうな笑みを浮かべるミア。
「ミーアー?」
私は笑顔で圧力をかけた。ミアは全てを諦めたかのように深いため息をついた。
「ありがたく頂戴いたします。しかし、これから先を考えると…涙が出そうです。専属の使用人を増やした方が宜しいかもしれませんね。」と遠い目をするミア。
確かにそれは思っていた。もともとのエルヒリアは人嫌いで使用人も最小限にしていたのだ。
「そうねぇ。男手が少しほしいわよね。助けた男の子じゃ、まだ即戦力にはなれないだろうし。うーん。」
悩みがまた一つ増えてしまった。自分に絶対服従してくれて、反抗しない人材なんているのだろうか。
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