上 下
3 / 11

3 アルファたちはキラキラ

しおりを挟む
(もしもサクちゃんが大きくなってたらあんな風にキラキラしてアルファの世界で生きてたのだろうか?)



会場中央に集まる人達に目を向ける。

この会場内には天井から飾られたシャンデリアよりも輝くキラキラとしたオーラが溢れている人がたくさんだ。たまに普通の人が紛れているのが会場外の世界と比率が逆転していて面白い。



(アルファだなぁ)



高身長に色気漂うイケメンというモデルのような男性。その横には自分の美しさを理解しているのが振る舞いからわかる高身長ど迫力の美人。アルファというのはたいてい見目も良く振る舞いも堂々としている。男も女も押し出しが強い。対してオメガというのは男だというのに『かわいらしい』『小動物』『守ってあげたい』と言う形容詞が似合う体躯のものが多い。まあ僕のように地味でパットせずしかも身長だけはひょろひょろと伸びてしまった例外もいるわけだけども。



概してオメガは庇護欲、性欲を掻き立てる外見のものが多いのだ。



(そう、あんな風に)



僕の視線の先には色素の薄い黄金糖みたいな髪をした色白の少年がいた。婚活パーティに来ているのだから未成年ということはないだろうけど彼はとても幼く見えた。西洋のルネッサンス期に描かれた天使のようなふんわり柔らかなカールした髪が包む小さな顔。会場の熱気のせいかほんのりと赤い頬がかわいらしい。回りのアルファと思われる人達もどうみても年若なオメガである彼に興味津々といった体だ。



だいたいアルファなんてほっておいても結婚相手の見つかる勝ち組層が多いのだ政府主催の婚活パーティにくるような人は自分で探すのがめんどくさいという人物かそれか……



(それか二号さんを求めているのか)



婚活パーティとは言うけれど少子化に業を煮やした政府はアルファの相手がオメガの場合に限り重婚も許している。アルファやベータの正妻が跡取りとなる子供を産めない場合にオメガの第二夫人が迎え入れられるってこともよくある話だ。今回のパーティの参加者にそういった既婚者が紛れ込んでいる可能性は高い。



(跡取りを産んだあとに第二夫人が放り出されたなんて話もよく聞くけども)



暗い想像が僕の脳裏をよぎった。やや固さのみえる笑顔でまわりと話している彼、それと周りを改めて見比べた。なんだか彼は周りのキラキラオーラの人よりもっとキラキラと輝いて見える。愛されオメガのオーラだろうか。不思議と目が離せない。



(彼には二号さんは似合わないな。隣りにいる彼はかっこいいけど気が多そうだし。向かいの女性は気が強すぎて彼を萎縮させそう。あそこの彼は年が釣り合わない。もっと彼が自然と笑顔になるような相手がいいな)



初めて見たはずの彼なのにどうしても幸せになって欲しいなと思う。長く見すぎたのだろうか彼がこちらを見た。僕は慌ててよそを見た。



視線をそらしていた僕はその時彼の口元が弧を描いたのを見なかった。



司会者が上手の壇上で始まりの挨拶をしている。

30分ほど雑談タイムを設けているので自由に飲食しながら交流を深めてください。とのことだが僕みたいなのには苦行でしかない。話しかけられないようにせいぜいビュッフェの食事にがっつくことにした。



とりあえず会場に来たことは受け付けで名前を告げたことで証明できる。出会いがあろうがなかろうが義務は果たした。あとは家に帰ってご飯を食べる必要がないように務めるのみだ。



30分後壇上ではじまったビンゴ大会を眺めながら僕はぼけっとしていた。

雑談タイムをひたすら飲み食いで乗り切った僕のお腹はもうパンパンだ。

話しかけないでオーラを出していたのに何人かには話しかけられてビールを注がれた。ビールはあんまり好きじゃないから少しだけ頂いたけど。



(そういえば話しかけてきたのはベータのおじさんというかおじいさんばかりだったな)



水分も存分に入った僕のお腹からは動くたびにチャポンチャポンと音がする。



(まあアルファらしいアルファにモテる外見ではないからあの人達も気を使ってくれたんだろうけど)



だまって壇上をみていると眠気が襲ってきた。

ハイテーブルに肘を置いて体を支える。重たいまぶたを必死に持ち上げて見渡した会場内ではきらきらしいアルファと可愛らしいオメガがきゃいきゃいとビンゴゲームに興じている。さっき見かけた可愛らしい彼は紙を真剣に見つめている。



僕の視線に気づいたのかこちらを見てにこりと会釈をくれた。僕も嬉しくなって会釈を返した。人見知りの僕には珍しくスムーズなコミュニケーションがとれたと思う。



そんな彼にとなりのアルファらしき男性が話しかける。二人でクスクスと笑いあっている。



(楽しそうだなぁ)



世の中には何でもできる才能の塊みたいなアルファがいる。

オメガって第二の性に生まれついただけで優秀な人だってたくさんいる。

そんな人は抑制剤を飲めば発情期も働けるようになって、ベータの人からの認識はオメガは得体の知れないものから身近な同僚になって昔ほどオメガ差別はなくなってきた。

皆違って皆いい。ダイバーシティってそういうものだよね?



そして僕みたいに何にも出来ないオメガがいる。



抑制剤の効きが悪い体質ってものに生まれついた僕は、発情期になるとどうしようもなくて。

周りに迷惑を掛けてしまう。今度こそ大丈夫だって思った職場に限って急に発情期になってしまって大惨事を引き起こしかける。



(人に迷惑しかかけられない僕が唯一役に立てると思ったのに……)



眠気に負けて目を閉じた僕の瞼の裏にはあの日僕の失敗を告げた文言が浮かんだ。



『検索対象に合致する結果はありません』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】運命の相手は報われない恋に恋してる

grotta
BL
オメガの僕には交際中の「運命の番」がいる。僕は彼に夢中だけど、彼は運命に逆らうようにいつも新しい恋を探している。 ◆ アルファの俺には愛してやまない「運命の番」がいる。ただ愛するだけでは不安で、彼の気持ちを確かめたくて、他の誰かに気があるふりをするのをやめられない。 【溺愛拗らせ攻め×自信がない平凡受け】 未熟で多感な時期に運命の番に出会ってしまった二人の歪んだ相思相愛の話。 久藤冬樹(21歳)…平凡なオメガ 神林豪(21歳)…絵に描いたようなアルファ(中身はメンヘラ) ※番外編も完結しました。ゼミの後輩が頑張るおまけのifルートとなります

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

【完結】トルーマン男爵家の四兄弟

谷絵 ちぐり
BL
コラソン王国屈指の貧乏男爵家四兄弟のお話。 全四話+後日談 登場人物全てハッピーエンド保証。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

オメガな王子は孕みたい。

紫藤なゆ
BL
産む性オメガであるクリス王子は王家の一員として期待されず、離宮で明るく愉快に暮らしている。 ほとんど同居の獣人ヴィーは護衛と言いつついい仲で、今日も寝起きから一緒である。 王子らしからぬ彼の仕事は町の案内。今回も満足して帰ってもらえるよう全力を尽くすクリス王子だが、急なヒートを妻帯者のアルファに気づかれてしまった。まあそれはそれでしょうがないので抑制剤を飲み、ヴィーには気づかれないよう仕事を続けるクリス王子である。

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

王の運命は後宮で王妃候補の護衛をしていました。

カヅキハルカ
BL
騎士候補生内での事件により、苦労して切り開いてきた初のΩの騎士という道を閉ざされてしまったエヴァン。 王妃候補が後宮に上がるのをきっかけに、後宮の護衛を任じられる事になった。 三人の王妃候補達は皆同じΩという事もあるのかエヴァンと気軽に接してくれ、護衛であるはずなのに何故か定例お茶会に毎回招待されてしまう日々が続いていた。 ある日、王が長い間運命を探しているという話が出て────。 王(α)×後宮護衛官(Ω) ファンタジー世界のオメガバース。 最後までお付き合い下さると嬉しいです。 お気に入り・感想等頂けましたら、今後の励みになります。 よろしくお願い致します。

正婿ルートはお断りいたしますっ!

深凪雪花
BL
 ユーラント国王ジェイラスの四番目の側婿として後宮入りし、一年後には正婿の座を掴むヒロイン♂『ノア・アルバーン』に転生した俺こと柚原晴輝。  男に抱かれるなんて冗談じゃない! というわけで、溺愛フラグを叩き折っていき、他の側婿に正婿の座を押し付けようとするが、何故か溺愛され、正婿ルートに突入してしまう。  なんとしても正婿ルートを外れるぞ、と日々奮闘する俺だけど……? ※★は性描写ありです。

処理中です...