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10 何か違う

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ピンク頭さんからスタコラサッサと逃げ出した僕はカゴのお礼をしにルシル君の部屋を訪れた。ルシル君は僕よりちょっと位の高い下級貴族だから寮の部屋も二階の小さな部屋だ。ベッドと机を置いただけの簡素な部屋でルシル君はレポートをやっていたらしい。邪魔とは言われなかったけど部屋に招き入れるのに一瞬躊躇されたのが地味にショックだった。

勉強机の椅子を勧められてベッドに座るルシルくんと対面になる。僕の部屋と違って装飾はないけど勉強家のルシル君らしく床にまで勉強の資料が積まれていて狭さが増している。

「それでフィルはレポート終わりそうなのか?あと二日以内に提出だろ」

「それは頑張るとしか言いようがないね」

実際何をどうすればいいのやら、フィールドワークするには時間が足りないし図書館で資料を漁って適当にまとめるしかないんじゃないかと思ってる。

「手伝ってやろうか?」

そう言ってルシル君はにんまりと笑った。何かを企んでるような顔だ。

「ルシル君自分のレポートは?」

「僕のはもう清書の段階だから。君のテーマが決まってるなら参考資料すぐに出してやるよ。少しくらいなら構成も手伝ってやる」

「え、親切!!」

「そ、の、か、わ、り」

「あ、これ法外な要求されちゃう感じ?」

「それは君の受け取り方による」

「すごく怖いけど教えて下さい」

「金貨」

「うわー払えないわけじゃないけどどうしよう」

「お友達価格だよ」

「うぅぅ」

お友達って言葉に揺さぶられた僕……ちょろいね。善は急げということで金貨を払ってレポートを手伝ってもらうことになりました。
早速資料を持って僕の部屋に行くことに。

(何故かルシルくんが必死に勉強室に行こうと言ってたけど僕の部屋なら夜遅くまでかかっても大丈夫だし。なんせ広いしって押し切った)

ミカが部屋に帰ってきて僕らを見てびっくりしてた。「友達がレポートを手伝ってくれるんだ」って言ったらなにか言いたそうな視線を投げてきたけど何も言わず彼の私室にしてる隣の小部屋へ入っていった。結局夜中までかかったけど八割がた仕上げることが出来た。

「ありがとう友よアミーゴ!」

そう言って抱きついたらばりっと音がしそうなほどの勢いで剥がされて部屋から出ていかれちゃった。
友達だと思ったけどルシル君、深夜テンションは駄目だったみたい。

※※※

昨日の夜遅くまで頑張ってたせいで朝起きれなくてご飯を食べそびれた僕はお礼も兼ねてルシル君をさそっていつもより豪華なお昼ごはんをご馳走しようと思ってたんだけど、サイラー様が怖い顔してやってきて、ギロリって教室中を睨みつけてひょいって僕をひっぱって連行されてあれよあれよという間にほわほわしながらご飯を食べてしまった。今日も当たり前みたいにアーノルト様にアーンと撫で撫でされてさ、ほんと僕あんな綺麗な人に優しくされると困っちゃうんだけどなぁ。
僕が顔を見れなくてもじもじしてたら旋毛つむじにちゅってされたんだよ。ひゃぁってびっくりしたら「フィルは旋毛もかわいいね。全部かわいい。私のかわいいフィル」
って笑うんだよ。僕目が潰れるかと思った。なんか、なんかとても甘さが増してる気がするんだけどな。

「何でだろう」

そう呟いた僕に部屋に居たミカが反応した。

「何がだよ」

「ひょっとしてアーノルト様って僕のことを……好きだったりするのかな?」

「はーやっと気づいたのか?お前相当鈍いな」

否定されない……だと?

「ど、ど、どうしてそう思うの?」

「毎日あんだけイチャイチャして好きじゃないわけ無いだろう」

「だってだってペットを可愛がる様な感じ?じゃないのかな、とか。前はもうちょっと違う態度だったと思うんだけど」

「ほだされたんじゃね?それか取られそうで焦ったとか?」

「え?そんな、誰に取られるっていうんだよ」

「夜遅くまで一緒に過ごしたりする相手じゃね」

言われた言葉を反芻して理解するのに時間がかかってしまった。
昨日夜遅くまで過ごした相手がそういえばいた。

「え?ルシル君?ルシル君は友達だし、僕たち男同士だよ」

そう言ったらすっごく呆れた顔された。

(あ、そうか僕とアーノルト様も男同士だった!おぉ多様性!)

「でもでもでも、だってアーノルト様は好きって言わないよ」

「当たり前だろ王族の周りにいるのは言葉尻とらえて閨に乗り込んでくるような女ばかりだ。あわよくば王家と縁続きになりたいって学園に来てる奴らばかりだぞ」

あれ?なんか……

「ミカ今日親切だね」

「お前が最近お人好しすぎてヤバイんだよ。気を付けろ」

そう言うのフラグっていうよね。そしてそのフラグは次の日回収されるとはまだ僕は知らないのでした。
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