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11 5年経ってもやっぱり好きだ

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一目惚れと言う言葉があるけれど。今日の僕は何度目惚れになるんだろう。

シオンがいる。ただそれだけで僕の細胞の一つ一つが歓喜に震えた。

(この同じ空間に君がいる)

異能バトル会場になるアリーナでリングの上に選手たちが姿を表したのを目にした瞬間、ただそのことだけで僕の心はいっぱいになってしまった。シオンの姿だけフォーカスしたようにクリアに見える。ショーンがなにか言っていたが上の空で聞き流していたら膝の上に広がる温かい体温。腕は自然といつものように抱き抱えるけれど目線はシオンから離せない。

僕が知っていた頃の彼よりも少し大人になった姿は街にあふれる広告物などで見かけていたけれど。

(実物はもっと、すごく……かっこいい……)

人を引き付ける天性の輝きに大人の男としての魅力が重ねられて女性人気が高いのも頷ける。リング衣装が肌を露出しているせいでセクシーさもある。そんなシオンが観客席に向けていくつか投げキッスを飛ばすとキッスの飛ばされた方角から大興奮の叫びが上がった。

(反則……でしょ、なにそれ)

女性ファンの黄色い声援もむべなるかなとしか言いようがない。僕とは違う世界で輝くシオン。彼が動くたびにキラキラと輝いているようなエフェクトが見える。僕が恋い焦がれても届かない場所で。同じ空間にいるのに届かない手、届かない想い。なのに惹きつけられて僕の全てが君を求める。

(ほんとにかっこよすぎるよ)

夢の中でシオンと結ばれた日のことやそれ以前のエッチなあれこれがシオンの色気に当てられて急に思い出される。同時にあれが夢だったんだって思い知らされる。

(遠いなぁ……)

鐘の音がなった。

試合開始の合図でリング上で動き始めた彼の姿に目が離せない。不敵な笑み。相手を挑発する仕草。素早い身のこなしで相手の攻撃を避け得意の突きを急所に叩き込む。肌の見える衣装のせいで胸の上を流れ落ちる汗がライトを返す。

それは夢の中僕がすがったシオンの胸よりもずっとたくましくて。

(あぁシオンに……)

むせ返るようなシオンの香りに包まれて結ばれた夢の中での出来事を思い起こす。もしも今のシオンとそんなことが起きたなら……そんなことを考えるだけで体の奥に封じ込められた願望が蠢き出す。熱い体の奥をこじ開けて砕いてもらえたなら。

(僕は……)

***

ざわざわと周囲が騒がしくなり気がつけば試合が終わっていた。ぼんやりと熱の引いていく会場を眺めていた僕は皆が席を立ち始めてやっと正気に戻った。
ふわふわとした気持ちがやっと薄れて隣にいるはずのショーンを見る。

「すごかったねぇ」

かけた言葉に返事はない。
姿もない。

(居ない!)

僕はあわてて立ち上がる。試合終了でまばらになりつつある客席のどこにもショーンの姿は見当たらない。

観客席から外へつながる通路へと転がるように駆けてトイレ、自販機のあるスペースまで来てもショーンの姿はない。でもあの子が一人で勝手に外に向かうとは思えない。だっていつも言いつけを守る子だ。僕が席にいると思ってトイレに行ったとしても勝手に外へ出て家に向かうことは絶対にない。

(まさか誘拐?)

背中にじっくりと嫌な汗をかく。

(異能持ちの子供をさらうグループが異能探知の能力者を使っていたら?そんな奴がショーンを見たら……)

嫌な想像に血の気が引いていく。

(僕はばかだ!)

吐き気に襲われ壁に手をつきよろけそうな身体を支える。

(誰に助けを求める?警察?でも前みたいに犯人と裏でつながってたら?足りない。僕だけじゃ。助けられない。あの子を探れる能力者が必要だ。居場所さえわかれば助けられる。遠くに連れて行かれる前に。考えろ考えろ!!人脈があって裏切らない……)

(シオンなら?そうだ、シオンなら!!まだここにいるはず!)

名前も知らない街角でポケットの中の家の鍵を確かめて安心するようにシオンの名をつぶやく。

(幼馴染だっていったらきっと助けてくれる!)

今すぐバックヤードの控室を訪ねなければと周りを見る僕の視界の端に黒い何かが映った。

『ママ!!』

「ショーン?ショーン!!」

暗い廊下の奥から僕を呼ぶその小さな影に泣きそうなほど安堵して僕は駆け寄った。

『ママ!こっちこっち!良いもの見つけちゃったの!』

「まって、どこ行くの!!」

小さな影が廊下の先をひょいと曲がり見えなくなる。僕の不安が戻って来て恐怖にも近い気持ちで駆ける。

『ママこっちだよ』

先に角を曲がったショーンが声を上げるけれど角にたった僕には、廊下の先が暗すぎてどこにいるか見えない。

『こっち』

「どこ?ショーン?」

声を頼りにほぼ暗闇になった廊下を進む。バックヤードに当たる部分だから省エネのために電気を消してあるんだろうけど非常灯さえ見えないなんて建築基準法違反では?

「ショーン、ふざけてないでお家に帰ろう。こういうところは関係者以外立ち入り禁止なんだよ」

『ここなの、早くママ!』

少し先でドアが開く音がし部屋の中から明かりが廊下へと伸びる。
その光にホッとしつつ僕は後を追った。

「見つかったら怒られちゃうよ」

そろりとドアの影から部屋を覗く。10畳ほどの部屋に台車や乱雑に積まれた箱がそこここにおいてあり、一部大人の背丈ほどの箱もあるがショーンの姿が見えない。

「かくれんぼしないで出ておいで」

子供にとっては隠れたくなる部屋ではあるなと僕は部屋に入る。

「遊びたいなら公園で遊んであげるから」

『じゃあいっぱいあそぶ?』

声の聞こえた箱の影を覗き込む。

『たくさん、あそびましょうね』

箱の影から僕を見てニタリと笑ったのは陰気な目をした中年男。

『久しぶり、ケイくん』

ショーンの声が僕をそう呼んだ。
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